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爆弾発言

 啓のノート~真面目じゃない科学編~


 とりあえずネムい


 電気 すごい

 痛い シビレル 

  V=IR

 静電気~~~~~――――――――


  (睡眠中)


「ヒマなので隣の様子チェック」


 三上

 クソ真面目にべんきょー中

 さっきまたまちがえた


 大石

 どっか見てる。黒板?……ではない


 ⇒二宮だった


 ―――――――

 ――――――――――――


 九条さんの一件から数日。

 科学の時間が終わり昼休みに突入。

 そして僕はいつものように啓と他愛もない雑談を繰り広げていた。


「あ、そうだ。 啓、次の授業って何?」


 なんとなしに聞いてみる。 決して自分で調べるのが面倒だったとかじゃない。

 丁度教科書を啓が取り出したところだったからである。

 ちょっと教科書の表紙を見せてもらうくらいのつもりで訊いた。


 しかし、返ってきた反応はむしろずっと面倒だった。


「ばっか、忘れてんじゃあねぇよ! 次と言ったら――――――」


 手元の教科書をぐっと僕に見せつけるように押し出す。



「魔法だろうがっ!」



 やたらとテンションを上げる啓は科学の時と正反対である。


 ああ……そういえばコイツ魔法に対して気合い入ってるもんなぁ……。

 やっぱできない事を恨むよりも、憧れてるんだろうなぁ。


 既に啓は席を立ち上がり、さらにテンションを上げて魔法がどんなに素晴らしいか饒舌に語りだす。


「お前、分かってねぇな! 魔法があれば大抵の事はなんだってできるんだぞ!? 情報端末やネットの比じゃねぇ! 火を起こす、なんてのは序の序の序の更に序の口だ!!」


 ジョノジョノうるさいな。

 しかし、しまったな、啓の変なスイッチ押してしまった……。


「火を起こすみたいな生成系、物質を変容させる錬金術、概念を変える矛盾化(パラドクス)……!! 他にもいくつも分類ジャンルがある! まさに夢は無限大!! ……ああぁいはぁぶぁどぅりぃぃぃむ!!!」


 発狂し始める友人に視線が集まる。


 あぁ、啓がぶっ壊れた……皆奇妙な生物を見るような目してるよ……。

 しょうがない、誤解が無いよう声を大にして皆に伝えてあげよう。


「だからあんなにヤクは止めろって言ったのに……」

「おいコラてめぇ勝手に捏造してんじゃねぇ!! てめぇは美穂か!!」

「うるさい!一緒にいる僕まで変なヤツって思われるだろっ!!」



『『いや、変だろ』』



「聞こえないっ」


 様子を見ていた皆からの声に対し、僕は全力で耳を塞ぐ。


 ちくしょー! 大体僕が初めて学校来た時には既に変なヤツ認定されてたじゃないか! それもこれも全部啓と美穂がわけ分からん噂流した所為だ!!


「まあまあ、話を戻すとだな」


 続くのか!


 ――――――その後延々と如何に魔法が素晴らしいかの講義を聞かされ続けた。

 要約するとこうだ。


 ・魔法は今まで不可能とされてきた事が可能になる

 ・エネルギーの損失が少なく、ほぼ100%利用することができる

 ・今でさえ十分に有能であるのに、まだほんの一部でこれからもっと伸びる

 ・人が一度に行使できる魔法は大体二つまで。魔法の規模や個人差で変わる

 ・魔導演算処理装置の実用化において課題となるのがうんたらかんたら……


 今の啓、筆記やらせたら一番とってくるんじゃないか?


 友人のトンデモ予備知識に驚愕しつつ辟易していると、終盤、急に静かになったと思えば、席に座り顔を寄せてきた。

 僕にしか聞こえないように声を潜める。



「(それで、だ。 三上よ。 ここまで有能な魔法があって、男なら、やっぱり思うところがあるよな?)」

「え、何?」


「(よく考えろ! 例えば一枚壁を隔てた向こう側でキャッキャウフフしている女子を、透視魔法が実現すれば拝めるんだぞ?)」

「ほう」


「(そんじょそこらの布切れ程度造作もない……かもしれないだろ!?)」

「流石に対策されるんじゃないかな」


「(ならやはり温泉しかないな! あれは壁しかないもんな!)」

「壁って布以上に対策しやすそうだよね」


「(そうか、やっとお前の言いたいことが分かったよ……つまり正面から堂々と行けって事だな、つまり迷彩魔法(インビジブル)……!)」

「いや違うからね?」


 信じられないものを目にしたような顔の啓。 その後バッと勢いよく立ちあがり声を大にする。


「じゃあ何か!? お前はこのことに関して何も思わないってのか!? もし魔法で透視が実現すればあんなことや、こんなことも叶うっていうのに!? いい子ぶりやがって!! やっぱお前は男子の敵だ!!」


 バンッ!!


「分かってない!!」

「っ!?」


 机をぶっ叩き立ち上がる。


 分かってない! お前は本質が何にも分かってない!


「見えていないからこそいいんだろ!? 見えない中に夢を抱くからいいんだろ!? 人はそこ(女の子)に無限の可能性があるから求めるんだろ!?」


「「―――――――ッ!!」」


 様子を窺っていた他の男子も皆、息を飲む。


「たしかにお前の掲げる理想は男子の夢だ! エロいに決まっている! きっとその場に居合わせれば抗うことは困難を極めるだろう……! でもッ! 腕の無い女神像はそこにいろんな腕を想像するから美しいんだ! 女の子はその身に可能性を秘めているから輝くんだ……!! 見えちゃったら、」




「もう夢じゃないだろう!?」



「っ三上……! お前ってヤツは……!」




 一様にうなずき納得する男子たちに対し。


 やっぱ男子コイツらバカだ、クラスの女子全員が同じ思いを抱いていた。


 ―――――――


 ~今日の時間割~


 1.数学

 2.現代文

 3.歴史

 4.科学(理科科目複合)


 昼休憩


 5.魔法理論基礎

 6.魔法基礎

 7.シルバータイム


 ――――――――――


「このシルバータイムってなんなんだろうね?」

「さあ? この時間になると大体のヤツは帰るか部活行っちまうからな」


 時間割の7のところに書かれた謎の「シルバータイム」。

 ゴールデンならまだしも、シルバーとか言われてもさっぱり分からない。

 ほぼ毎日設けられているようなのだが、特別何かしている訳でもなし、普通の放課後である。


 今はもうその放課後になって、ぼちぼち帰り始めている者や入口付近で固まって談笑する者たちなどそれぞれが思い思いの事をしている。


「まぁどうでも―――――――」




 バンッ!




「茂上祐はおりますのっ!?」




 勢いよく扉が開けられる。

 突如殴り込みのように現れたのは――――――――


「えぇ……」


 いつぞやの九条さんであった。


「なんですのココは! こんなにもうるさくてやかましくて騒々しい所でよく生活を保てますわね! まあいいですわ! 茂上祐ですっ! 茂上祐! おりませんの!?」


 近くにいる生徒に手当たり次第に連呼していく。


((な、なんか面倒くさそうなのが来た……!))


 皆、心は同じである。


「……呼ばれてるぞ」

「……」


 九条さんはきょろきょろとあたりを探している。

 そして――――――


「っ! 見つけましたわ!!」


 早足でまっすぐこちらへ近づいてくる。

 僕の前までくると、


「茂上祐!!」


 腰に手を当て、カッコいいポーズで、ビシィッと僕を指さす。








 静寂が訪れる。







 その間、九条さんはずっとポーズをとったままだった。








「人違いです」


 五拍ほど遅れて僕が反応する。


「なっ! そのような言い逃れができるとでも!?」


 驚愕に目を開き、しかしすぐに思い直したように視線を鋭くする。

 しょうがない、説明しよう。


「いえそもそも僕は茂上ではなくてですね、彼は僕と瓜二つの赤の他人ですので」


 いや信じないだろ、そんなクラスメイトの視線を全身に浴びる。


 他に思いつかなかったんだよ。


「えっ……? あら、そうでしたの……」


((信じるのか!))


 さして疑問も持たず、あまりにもすんなりと信じてしまう九条さんはいかがなものか。


 ――――――その時、トッ、タタ……ともつれるような足音とともに新たに教室を訪れる者がいた。


「ちょっと、はぁ、待って、よ、はぁ、はぁ……」


 息を切らしながら倒れこむようにしてこちらまでやってくる。

 遅れてやってきたのはこれまたいつぞやの早乙女さん。

 どうやらまた全力で走って来たらしい。


「くじょ……は、速いよ、はぁ、はぁ……あ、茂上、はぁ、く、はぁ……・」

「落ち着いて」

「うん、ありが」


 ガッ! ゴンびたんっ! ガシャガシャ……・


 思いっきりコケた。


「だ、大丈夫……?」

「ちょ詩織さん? 大丈夫ですの?」

「うわぁ……」


 早乙女さんは倒れた机と落下した際に散乱した筆記用具に埋もれたまま、


「はぁ、大、丈夫……はぁ」


 そんな状態で言われても……


 ―――

 ――――――


 本気で彼女を心配しだしたころ。


「も、もう、大丈夫」


 全然大丈夫そうに見えない彼女は机に手をつき立ちあがる。


 やっぱり体の形状的に走るのには向いていないんだろうなぁ。

 美穂は素早いんだけどなぁ……。


 起き上がった早乙女さんに対し九条さんが説明をする。


「彼は茂上祐のそっくりさんだそうですわ。 今はどうやら居ないみたいですの」

「えっ? いやでも彼は――――――」


 ちらりと僕に視線を投げかけてくる。

 不信というか疑心というか、僕の真意を測りかねている様子。

 目線で早乙女さんに訴える。


『言わないで!』

『なんで?』


 すぐに目線で返される。 嘘をつく必要があるのか疑問に感じているようだ。

 もしかしたら嘘をつくのはあまり好きじゃないのかな。

 『茂上』の事も彼女には言っておいた方がいいかもしれない。


『いや、なんか面倒事に巻き込まれそうな気が』

『あー……まぁ』


 あと一押し、誠心誠意目線でお願いする。


『だからお願い!』

『んー……じゃあさ、今度私のお願い聞いてくれる?』

『え? まあ、無理のない程度なら……』


 突然の提案に若干戸惑う。 まぁ等価交換だと思えば、


『ギリギリ、かな?』


 利子が付きそうだった。


『う……善処します……』


 この間約十秒の出来事である。



「……なにしてますの?」

「えっ!? ああ、いや何でもないよ……はは」


 はぁーよかった、なんとかごまかしてくれそうだ。


 僕は安堵していた。

 これで帰ってくれれば万事OKである。



 ――――――しかしそれだけでは終わらなかったのだ。



 そう、この場にいる中で最も面倒くさい一人を忘れていたのである。


「なあ、なあなあ、他人に名前を偽るのはよくないよなぁ? ……そう思うよな「茂上」?」

「な!? おま、何を!?」


 啓は心底面白そうにニヨニヨしている。

 しかも敢えて三上じゃなくて「茂上」で呼んできたのは。


 僕が訂正出来ないから……!! 助かるけど有り難くねぇ!!


 もちろん彼女が聞き逃すはずもなく、


「榊原啓! 今なんとおっしゃったのです!? 茂上!?」


 早乙女さんはあちゃーと天を仰いでいる。


「やはりあなたがそうでしたのね! それに私をたばかるとはずいぶんと肝が据わっているのねあなた!」


 め、面倒な予感しかしない……!!


「茂上祐!!」


 魔法科での一件。 口論する形で出会った僕と九条さん。

 その後の早乙女さんのフォローや、朝見かけた品から、もう僕らは互いに和解出来たものだと思っていた。


 しかし、まだまだこの人(くじょー)とは何かありそうである。


 ビッシィッ!! と再び僕を指さして――――――――







「決闘ですわ――――――――――――!!」





 ここ最近では一番の爆弾発言を受けたのだった。

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