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閑話 観察者と殺し屋

 今日は日曜日。 僕は昼餉を買いにやって来ていた。


「いらっしゃいませー」


 カランカランと軽快な音を立て、可愛らしい意匠の施されたドアをくぐる。


「あ、三上さん! いらっしゃい!」


 そう笑顔で出迎えてくれたのはこの店の看板娘、「八坂 花袋(かたい)」ちゃん。

 彼女とは昔ひょんなことから知り合って、それ以降仲良くさせてもらっている。

 彼女は花柄のエプロンを身に纏い、三角巾を被り、彼女の長い髪は後ろで緩くひとつに束ねられている。 両手には鍋掴みをはめ、焼きたてと思しきパンの乗ったトレーを抱えている。


「丁度今新しいのが焼けたところなんですよ。 おひとついかがです?」


 じゃあ、と指を一本立てて個数を提示、他にもいくつか注文する。


「今日はどうされます? 店内で食べていかれますか?」


 彼女はここ、『パン屋 若人』で四月からアルバイトをしている。 四月から、とは言ってもまだ数週間程度なのでやっと店に慣れてきたくらいではなかろうか。


 稼いだお金は日々の生活の足しにしているらしい。 なんでも女子高生はお金がたくさん必要なのだそうで。


 愛想が良く笑った顔が良いと客に大受けしたらしく、まだ一か月にして去年の四半期売上の半分を叩き出したらしい。


「んー今日()家で食べるよ」


 そんな愛想が良く笑顔の眩しい彼女と親しく話せば、周囲から鋭い視線を貰うことになる。

 なのでいつもお持ち帰り一択、と言いたいのだが―――――


「あ、『今日も』お持ち帰り、ですか……」


 しゅん、と表情に陰りが浮かぶ。 それと同時、周囲の視線が一層強くなる。


「あ、あー……今日は時間あるし、中で食べてくかなぁ……?」

「本当ですかっ?」


 パァッと表情が華やぐ。

 だのに周囲の視線はなお一層厳しくなった。


 ……いや、ちょっと知り合いってだけじゃん、それに僕以外でもみんなに同じ反応示すじゃないですか……。


 ここにいる男全員が今のと全く同じくだりをしているはずである。 僕一人が特別って訳じゃないんだから、そんな睨まないでほしいものだ。



 何はともあれ、こうして僕は『今日も』店内で食べていくことになった。




 座ったのは南側の窓に一番近い席。

 ひとつ食べ終わった辺りで一旦手を止め、ぼーっと彼女の様子を伺う。

 せっせと働く彼女は真面目そのものである。 しかし決して笑顔を絶やすことはない。

 あっちこっち行ったり来たり。 もうこの店にとって彼女は欠かせない存在になりつつあるのだろう。


 そこで、新たな来客があった。


「いらっしゃいませー! ―――――はい、これとこれ、ふたつずつですね! 食べていかれますか?」


『あ、持ち帰りで……』

「あっ……そう、ですか……」


『い、いや、時間はあるしやっぱり食べていこうかなー。 花袋(かたい)ちゃんも頑張ってる事だし、俺も奮発しちゃおうかなー!』


 そう言って男性客は再びパンを物色し始める。


「っありがとうございますっ!」


 若干オーバー気味に頭を下げる。

 最終的にその男性客は新たに三つのパンを買って席に着いた。 すさまじい購買促進力である。



 彼女もまたこの町に住む一人の学生である。

 通うは「金華雪代女学院」なる場所で、僕の通う「銀礼高校」と並ぶこの町の有名高校だ。

 このふたつは町の東に隣接するように拠を構えている。

 なので普段は登下校くらいでしか会うことは無いのだろうが、こうしてバイトをしていたりするとその例から漏れることになる。


 さっきの客の後、もう三人あのくだりを終えたあたりで買った分を全て食べ終わった。

 せっかくだからもう少しゆっくりしていきたい。 まだ席に余裕はあるから大丈夫だろう。


「ふぅ……」


 日差しが暖かい。

 なんとなしに外の風景を眺める。

 道路の対面には、店しか並んでいない(、、、、、、、、、)


 この町には大きく分けて三つのエリアに分れている。

 商業エリア、居住エリア、そして学校エリアである。 いわゆる学園都市であることを想定し設計された町だ。


 この店があるのは商業エリアと居住エリアの境あたり。


 商業エリアというのはその名の通り、多くの店が肩を並べる地区である。 生活日用品や食料などの必需品が買える場所に限らず、この店のような外食の出来る場所、更にはゲームセンターなどの娯楽など、お金を使う施設が中心となって形成されている。 病院もここに含まれる。


 というか、本当に店しかない。


 交番の類すらなく、そのあたりは商業地区自警団を建てて代わりをしている。


 居住エリアは少しばかり特殊である。 というのも、この町の外縁部をぐるりと囲むように家々が建っているのである。 つまりこの居住エリアというのは、意図的に郊外化させている、もしくは衛星都市を形成している地区ということだ。

 マンション、アパートなど、学生向けの物件が多く占めているが、一戸建ても少なからず存在する。

 因みにここには交番が設置されている。



 そしてこの町の売りである学校エリア。

 このエリアは学校が集まるからついた名前ではない。 銀礼高校と雪代女学院があるがために設けられたエリアである。近くに他の学校は数件ある程度。 大きさは二大校には及ばない。

 学校数が少ない理由として、この二つは規模が大きすぎて他に学校を建てることが出来なかったというのがひとつらしい。


 結果、二つの高校のために計画されたこの町は、二つの高校名から取って「礼代町」と呼ばれている―――――。



 はい、思いに耽るの終わり。



 三十分くらい居ただろうか。 そろそろ帰ることにする。

 席を立ち、出口へと歩を進めると―――――


「あっ、三上さん! ちょっといいですか」

「ん?」


「ちょっと相談事がありまして……この後よろしいですか?」

「仕事は大丈夫? 別の日とかが良ければ空けとくけど」


「いえ、今日がいいんです」


 なんだろう、緊急の事なのだろうか。

 とりあえずそれを断る理由は特に無かった。


「ん、分かった。 じゃ、また後で」


 ――――――

 ―――――――――


 ズビビビッ、ズシャッ! ズガガガガ……


「……」


 ドドドド……シュッドォォォン……


「………」


 バラララララ!! ボンッジュワッ!!


「…………」

「……あれっ三上さんやらないんですかっ?」


 僕と花袋(かたい)ちゃんは今ゲームセンターに来ていた。 丁度今始めたのが、ゾンビを銃で殲滅していくよくあるシューティングゲームだ。 最大四人まで同時プレイが可能で、彼女の誘いで僕もその一人として参加していた。 因みに彼女は一人で二人分を操作している。


「相談事って、これですか……」


 てっきり学校でのトラブルだとかそういうのだとばかり思っていた。


「いえ、この筐体最近入荷されたんですけど、どうしても一人でゲームセンターはハードルが高くて」


 そういえば昔からゲームが好きだと聞かされた事がある。 先ほどから会話はすれど、目は一切画面から離さない。


「ほら、やりましょう!」


 折角なので僕もそこから参加することにする。


 しかし、なんて楽しそうな表情だろう。 見てるこっちまで元気になる。

 ただ、その手には無骨なライフル銃が握られている訳だが。


 しばらく眺めている内にゲームが終わる。


「ふー面白かったー! ほら、次行きましょう!」

「あ、ちょっと……!」


 結果も見ずに彼女は僕の手を引いた。


 ---------------------------------------------------


 二人がゲームをしているまさにその時、筐体の周りには人だかりが出来ていた。


「おい、見ろよ、なんだあれ……!」

「あの女の子、一切(ゾンビ)を寄せ付けてない……!?」


「それだけじゃない、あの男の方!」

「なっ? まさか……! 画面を見ていない!? ずっと彼女の方見てるぞアイツ!?」


 そうこうしている内にゲームが終了する。


『ふー面白かったー! ほら、次行きましょう!』

『あ、ちょっと……!』


 二人はそのまま別のゲームへ興味を移していった。

 人だかりは結果画面(リザルト)に視線を移すと――――――


「「「なん、だと……!?」」」


 Player.1 35520pt〈NO DAMAGE!!〉S

 Player.2 29400pt〈NO DAMAGE!!〉S

 Player.3 5080pt 〈NO DAMAGE!!〉D


「さんまんごせっ……!? あんな点取れるのか!?」

「合計70000、これって四人プレイでも取れるか微妙な記録だぞ……!」

「男の方上手いのか下手なのか分からんな」

「でも一度も画面見てなかったよな?」

「この記録ランキング一位なんじゃないか?」

「……どちらにしても、とんでもない二人だったなぁ……!」


 この日、二人に「観察者(チェッカー)()殺し屋(キラー)」の通り名が付けられた。


 ----------


 あの後店内を散々連れまわされ、今は自販機でジュースを買い休憩中。

 ベンチに二人で腰掛け、息を抜く。


「「あぁー疲れたぁー」」


 息が合う。 僕らはそろって笑顔である。 連れまわされたと言いつつも、僕も大概楽しんでいた訳だ。


「……今日はありがとうございます。 最近こうしてストレスを発散する機会があまり無かったので、助かりました」

「楽しめたのなら良かったよ。 それにしても僕じゃなくて学校の友達とか誘えばいいのに……。 時間はあるでしょ?」


「……一緒にゾンビ狩りに行こう、ですか?」

「あぁー……」


 彼女の苦笑いに僕も苦笑いでしか返せない。 確かに知り合ったばかりの子からシューティングゲームを、しかもあのレベルの誘いはちょっと厳しいかもしれない。


「それに、私まだ上手く学校に馴染めてなくて……友達はできたんですけどね」

「まあ、それは焦らず、ゆっくりでいいんじゃない? きっと趣味の合う友達ができるよ。 それにそういうことなら、言ってくれれば僕もまたこういうの付き合うから」


「そう言ってもらえると凄く助かります! また次を期待してますね」

「ん、それじゃあこのへんで――――――」


「次の店、行きましょうか!」


 今の流れ、解散する雰囲気だったじゃないですか……。


「……まぁ、いいか」


 そうして彼女の溜まったストレスを発散しつくすまで、しばらくゲーセンに籠ったのだった。



 ―――――――――

 ――――――――――――――




 次の日の朝。 突き抜けるような快晴である。

 僕は入学式の時のことを反省して、最近は少し余裕をもって登校することを心がけていた。


 家を出て、カギをかけようと―――――――


 バチッ


「いって! ……静電気?」


 この時期に?

 珍しいこともあるもんだなぁ……


 手に走った感覚に不快感を覚えつつも、取り敢えずカギをかける。

 それ以降は特に疑問も感じずにエレベーターへ向かおうと振り返ると、


「……え? 何コレ、誰の?」


 家先にはフルーツの詰め合わせみたいなカゴが置いてあった。


『茂上たすくへ』


 ……なんとなく、なんとなくだが、誰が送り主か分かった気がした。


 なんというか、素直じゃないんだなぁ……。


 一番上に置かれていたカードには短く、数人しか知らない僕の偽名が書かれていた。


 でも思ったより悪い人じゃないのかもしれないな。


 そっとカゴを持ち、保存方法を考えながら閉めたばかりのカギを開けるのだった。

正直この話ここじゃなかった気がします

作者の都合で後ろにずれるかもです

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