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白タイツショタジジイコスプレイヤー老師の葛藤 1

 バンシー・ナンシーと歯牙しが礼賛らいさんが目を覚まし、目を見合わせる。だがお互いの顔は全く向き合っておらず、どちらもあさっての方向を向いていた。

 どこまで顔を背けても視線が噛みあう、幾つもの顔と顔と顔。鏡面に多重に映し出された、二人の女の顔の交わり。


「お目覚めかなー。男の方は薬のせいで、まだ倒れてるみたいだけど。ここはミラーハウスだよ」


 響いた声はショーター・キッドの、ボーイソプラノだ。ショートパンツに白タイツの伸びやかな脚を、これまた鏡面に映していくつも増幅している。

 が、見えているのは脚だけだ。


「この、腰巾着……。あたしたちをどうするつもりだ! スクープとしてクイーンに売りさばくのか?」

「落ち着いてナンシー! わたし見たのよ、キッドがあなたの傷を癒やしてくれていたことを。お腹の怪我、治ってるでしょ?」

「アーハー……ほんとだ。何これあのガキ。キモッ」

「子供じゃない、のかもしれないのよ……。この癒やしの力、もしかして古の知識を受け継ぐカタナ・マスターは、あなた? 老師オールド・プリーストは、あなたなんですか、キッド!」

「……そんなふうに呼ばれた時代もあったね。長らくこの姿でいたから、忘れかけていたよ。ボクの神がかり的な治癒の力も、今ではどこかに消えちゃって……生傷程度ならふさげても、致命傷はどうすることも出来ない体たらくさ」


 そう言うとショーター・キッドは、白タイツ脚に幾つものトップスバリエーションを加えて、報道少年の仮面を脱ぎ捨てる。

 鏡に写る白タイツナース、白タイツ巫女、白タイツ甘ロリ、白タイツ幼女、白タイツ道着……。


「労働者の代表としてクイーンのそばにいるには、男の姿のほうが都合が良かったんでね。ボクは男のふりをしてるけど、本当は女の子。さっきの男の娘とは逆だね。皮肉なもんさ……」

「えっ、でも、老師オールド・プリーストは戦前からの生き字引だって言うし、女の子なんて年齢じゃないんじゃ……」

「うるさい。殺すお」


 舌っ足らずの言葉とともに、殺意を持ってにゅっと伸びてきた白脚を、ナンシーは右手のヒールガンで迎撃。しかしこれは鏡に写ったフェイク。

 本当の白脚の方をナマ脚で蹴っ飛ばすも、こっちも鏡に写ったフェイク。

 真の白脚は礼賛の顔面に迫っていた。左手を伸ばして礼賛の脱ぎかけタイツ脚を引っ張り、なんとかキッドの斬撃を跳ね返すナンシー。


「アハハ! 実力は申し分なさそうだね? ナンシーに、礼賛」

「何笑ってんのよ! 正体を表わせ! シット!」

「正体を表すっていうのは、ボクには難しいことなんだ。ボクは知識を継承する傍観者。後継者を育てていくのが、役目なんでね」

「あ、あのっ、きゃくシェルターにわたしの一族を逃がしてくれたのも、あなただと聞いています! 老師! その節はありがとうございました!」

「キミは……だいぶまっすぐに、そしてだいぶ頼りなく育ったんだね。歯牙礼賛……。失敗したクイーンとは大違いだ」

「アーハー? 失敗したクイーン??」


 問いかけながらも闘う意志を貫くナンシーは、今度は最初から鏡を狙ってヒールガンを左右撃ち分け、写り込んだ白脚を消していく。

 消去法で残った脚を、大上段から振りかぶったナマ脚美脚で一刀両断。天地を分かつほどの凄絶さで放たれた踵落としは、しかし白タイツのあしゆび二本でピタリと食い止められた。


「オーマイガ! 何よこいつ、ブドー・マスターでもあるワケ!?」

「白タイツ真剣白履(しらは)取りだよ。すごいね、その戦闘意欲とナマ脚の切れ味。ナンシー、礼賛、キミたち二人が組めばもしや……。そう思ってボクは、真実を話すんだ」


 戦いを一旦終えて、本格的な話に移ろうとするキッド。しかしナンシーは納得せず、しつこく銃と脚を繰り出し、食って掛かった。

 これを白履(しらは)取りで一々たしなめながら、白タイツショタジジイ……いやロリババア? とにかくコスプレイヤー老師は語り始める。


「美脚にぴったりとしたものを履くと得られる力。これに漠然と気づいて目を奪われていた者は、昔から少なからずいたんだ。“あれは魅力的すぎる、何かおかしいんじゃないか”、ってね。しかしそれが本当に武力を持ち、エネルギーとして転化できると解明されてからは……世界のありようは大いに変わったよ」

「いわゆる『ストテク(ロスト・テクノロジー)』のことですか?」

「今ではそう呼ばれているね。だがその『ストテク(ロスト・テクノロジー)』が現役だった当時はね、美脚の力で成り上がった女が世界を支配し、オスの力を奪う脚兵器きゃくへいきを開発。極端な性差別の結果、世界は終末に……。今では『あしの灰』で、動植物の交配すらも絶えつつある」

「それを危惧して、わたしは脚兵器きゃくへいき研究を元に、フェロモンアンプルを作成したんです。ナンシーの美脚に吸い寄せられる男といい、まだこの世界には、男女の愛を蘇らせる希望は眠っているはず……ですよね……?」


 キッドと礼賛が話しあう中、ナンシーはしつこく攻撃を繰り返している。絵的には映えるが、大事な話の途中なので、ぶっちゃけ少し邪魔であった。

 MVのバックで少ない布地で踊っている、エロい女みたいである。とりあえず話は続く。


「礼賛はそうした知識を追いすぎて、危険因子としてシェルターから引っ張り出されたところがあるね」

「わたしがですか?? 老師??」

「今の時代、重要な知識はボクとクイーンの一括管理にしていたんだ。何故なら『ストテク(ロスト・テクノロジー)』の真実が世界にまた広まれば、安易な兵力として女が使われて、人が大勢死ぬ。『あしの灰』で弱くなったオスも、今はこのままにしておかないと……復権した男と武器になる女との間で、余計な争いが起こる……」

「ガッデム!! そうやって知識を独り占めして、あんたとクイーンでお山の大将気取ってたのね?」


 怒りのナンシー、銃撃弾幕からの回転蹴りをかました。

 キッドはすさまじい速度の白タイツ脚で銃弾を跳ね返し、ナマ脚も受け止めて、すね迫り合いにてカウガールの正面から告げる。


「そうでもしなければ、今この『ロスアンレッグス』にいる連中すら救えないほどに、世界は荒廃していた……。美脚が力を持ちそうな女を見つけ次第に結婚して隠蔽し、クイーンの美脚一本のみが特別な美しさだと思わせ、男たちに一抹の希望を与えた。カリスマが牽引し、この町がかろうじて活動しているからこそ、辺境ぐらしのキミにも物資が届いたんだよ、ナンシー」

「でも結局、破綻してる!! これが正しい社会だと思ってんの、あんたは??」

「……思えないよ。クイーンは……ソックスシンボルを望んだクイーンは、勝ち得た権力のせいか責務のせいか、おかしくなってしまった。だからボクは極秘情報をリークして、キミらを呼んでみたんだ」

「アーハー? 誰があんたに呼ばれたってんだ、ガキ!」

「『反撃の狼煙、昇りゆく太陽。これより六日目の昼に、偉大なる母の胎内にそのカタナは宿る』。あれは、知識を受け継ぐ者が売りに出されるって聞いて、ボクが流したネタなんだ」

「ジーザス……! あんたが仕組んだ予言なの?」

「そうだよ。そして予言につられて、本当にロスに現れたんだ。救世主になるかもしれない、キミたち二人がね」

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