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絶対領域黙示録 2

「ブハッ!! 逃げな礼賛! プールの中でアヒルピエロがあたし達を狙っ……モガッ」


 再び水の中に引きずり込まれるナンシー。チャイナピエロのニーソ脚にナマ脚を絡めとられ、身動きができない。

 方や、アヒルの足ヒレの如きフィンをつけたペキン・ダックは、水中ニーソで自在に天地逆転。足を取られて動けないナンシーの体に向かって、砕けてギザギザの中華包丁を振るい続けている。

 ヒールガンで対抗するも、チャイナ服から覗くニーソ脚の『絶対領域』がバリヤーを張って、これも容易に防いでしまう。

 美脚の概念を力に変える『ストテク(ロスト・テクノロジー)』まったく恐るべし!


「ちょっ……ナンシー! どうしようわたし、何か……何か助けないと」


 水中戦をビニールボートの上から気にかける、歯牙しが礼賛らいさん。しかしここから支援の方法はなく、黒タイツ脱ぎかけの脚を、ちゃぽちゃぽと水に突っ込む程度しか出来ない。

 ましてや泳ぐなどもってのほか。水が貴重なこの時代に、水泳技術を会得しているものはいやしない。敵の待ち構える水中に潜るなど自殺行為だ。ナンシーが躊躇なく飛び込んだのは、『絶対領域』の誘引力と、彼女が幾分バカだったのでノリでやってしまったというだけの話。

 ところがバカは他にもいやがった!


「俺が助けるぞナンシー!」


 折れたバットを両手に握ってプールサイドから飛び込む代打、トゥエンティーフォー。

 美脚にタイツ類を履いて戦う剣脚けんきゃくどもに、バット一本でかなうはずなどない。ましてや場所は水中、全力で振るうバットもスローモーション。殺傷力など一切期待出来ない。

 だが、あまりに考えなしの水中ダイブは、奇襲としては充分に功を奏した。自分の背後にドブンと飛び込みバットを振るう存在に驚き、ペキン・ダックはニーソの脚でこれを迎撃。

 おかげでナンシーのナマ脚への束縛が、解かれた!


「ナンシー、こっちよ!」

「ガハッ……! シット……!」


 水から顔出しゲホゲホと荒く息を吸い、手を伸ばす礼賛の方へとナマ脚バタ足で近づく、バンシー・ナンシー。

 だが、しかして。この女同士の仲を裂くようにして、水中から飛び出したニーソの一本足が横切り、邪魔をする。

 サメの背びれの如き趣だが、勿論これはシンクロナイズド水中ニーソの、ペキン・ダックの足ヒレだ。

 縦横無尽に駆ける逆立ち足ヒレは、礼賛が乗るビニールボートに一撃、破壊。脚の刃は礼賛の白衣や眼鏡すら寸断したかに思えたが、脱ぎかけ黒タイツの脚でこれをなんとか、「ガキン」と寸前で食い止めた。

 とはいえボートは壊れた。足場はない。ブクブク水中に沈み、『絶対領域』の中へと礼賛も引きずり込まれる。

 そしてこの時、黒タイツ脱ぎかけ研究者が持ち合わせていた特殊なフェロモンアンプルも、試験管をブチ割られてプールにバラ撒かれていたのである。


「アー……。アー、ハー……!!」


 腹の傷を押さえて辛そうに、陸へ戻ろうとする牛柄ビキニカウガール。

 ニーソジョーズの妨害を受けて、即座にバタ足を方向転換し、ビニールボートからプールサイドへと、逃げ場を変えていた。

 まずは水中を出て体制を立て直したほうが良い。沈んだ礼賛やトゥエンティーフォーの心配は、その後だ。そう思って、濡れた体をぐぬぬと地上に持ち上げるナンシー。

 両手でプールからよじ登り、やたらに重い右脚を水中から引っこ抜くと、そこにしがみついていたのはトゥエンティーフォーだった。

 バットの代わりに夢中でナンシーのナマ脚に捕まっている。


「ナンシー、愛してるぜ……!」

「おまっ……! 何やってんだ、0点野郎!! ガッデム!!」


 ナンシーの怒りの声も彼には届かない。

 何故ならこれは、礼賛が研究していたフェロモンアンプルの効果であり、この時代に失われつつあるオスとしての本能を猛烈に奮い立たせた末の、熱狂なのだ。

 元より規格外の美脚で男を虜にするナンシーのナマ脚に、礼賛が研究する秘薬が加わり、今や『絶対領域』の力すら凌ぐほどの引力を誇っている。女と脚の力、改めて脅威。ミサイル兵器になるはずである!

 事情を知らないナンシーは、トゥエンティーフォーにあらゆる罵倒を浴びせつつ、続いて左脚を水中から上げる。

 するとなんとこちらには、ニーソチャイナ服アヒルピエロがしがみついていた。


「ハー……? アーハー……??」


 驚きはしたが、千載一遇のチャンスは逃さなかった、百戦錬磨のカウガール。

 そのまま左脚を全力で天へ振り抜き、水しぶきを伴っての大開脚、セクシー・ズブヌレ・ショウダウン!

 びしょびしょの刀は切れ味こそ悪かったが、美脚脚力で振り上げられたペキン・ダックはその勢いで、高々と宙を舞った。空飛ぶ標的にヒールガン二丁を構え、GUNGUN(ガンガン)と二発ぶっ放すナンシー。

 かくしてダックは落下して、プールサイドのビーチボールに背中を激突。「ガァッ!!」と鳴いて身動き取れなくなるところは、まるでサーカス対決の再放送のようだったのだが。

 大きく異なるところは、斬撃が刀傷をダックに与え、衣服も切り取ったこと。

 あらわになったチャイナ服の胸元、実に貧乳。いいやこれは無乳。つるつるぺったんこってんだ!

 刀で乳房が切り取られたわけではない。最初からそこには胸など、なかったのだ。


「嘘でしょまさかあんた……男……?」

「ア、アヒルちゃんの隠し事……! バレちゃったよマムゥ……! ガァ……!」


 割れたアヒル面から覗く顔は実に端正であり、華奢な体つきや、痛みにのたうち回るニーソの脚の艶かしさなど、とても男のそれとは思えない。無乳っぷりも場合によってはありうるレベルの、つるつるぺったんこなのかもしれない。

 だけれど言い逃れが出来ない事実がある。オスの本能を極限まで高めて理性を失わせるフェロモンアンプルに、ペキン・ダックは反応し、ナマ脚で一本釣りをされたのだから。


「ガァ……! こんな時代、男として生きていくのは損ばっかり……。子供のうちならショーター・キッドの配下になる手もあるけれど、成人したらお払い箱さ……。だからアヒルちゃんは……女の子のフリをしたんだぁ~……っ!」

「……オーマイガ。女の格好をしたきゃ、そりゃ勝手にすりゃ良いけどさ。女のフリをしなきゃいけないほどに、男どもが虐げられてるってのは……やっぱクソだわ。クソ社会よ、こんなの」

「え~ん、え~ん……。マムの仇を取るためにクイーンの配下になってぇ~……プールにおびき寄せたのにぃっ……! 負けちゃったよぉ、マムゥ……」


 ナンシーは銃を構えつつ、哀れなダックにその引き金を引いて楽にしてやるべきかどうか、迷っていた。

 逡巡の後に鳴り響いたのは、銃声ではない。シャッター音である。

 カメラ片手にプールサイドに現れた、ハンチングに半ズボンの美少年の影。


「おっとー。『スキニー・ランド』に賊が侵入かと思えば、クイーンの婚約相手! 何々、男の娘までいるの? こいつはスクープだなー」

「お前……ショーター・キッド! いつの間に! シット!」

「『脚光』!!」


 少年らしい細身の脚に履かれた、純粋無垢な白タイツ。

 これが『脚光』の叫びとともに注目を浴び、光を放ち、カメラのフラッシュの数十倍にも及ぶ閃光となって視界を奪った。

 撃ち返したヒールガンの狙いも外れて、キッドに命中せず。

 一瞬にして、それこそ一瞬ひとまたたきの間に、白タイツ報道マン美少年はナンシーの背後に回り込んでいた。


「待ってよーお姉ちゃん。ボクは話がしたいんだ」

「アーハー? 女の背後を取って、棒っきれみたいな刀を向けて、お話って何よ。ピロートーク? マセてんなキッドのくせに」

「そうツンケンしないでって。お腹が痛くて気が立ってるのかな?」


 ビキニから晒されたナンシーの腹部には、ダックとの戦いによる生傷があり、未だに血が溢れている。

 これをキッドが優しく弄り、セクシー・オネショタ・ショウダウン。なんと傷口が塞がっていくではないか。


「アハッン……! 何すんのよこのガキ……!」

「失血で意識が飛びそうなんじゃない? 寝ていいよ、お姉ちゃん」


 その頃であった。泳げぬ水の中より命からがら抜けだして、嫌というほど飲んだ水を吐く、歯牙礼賛。

 朦朧とした意識でプールサイドに視線をやると、そこには今まさに倒れるナンシーと、彼女を介護するショーター・キッドの姿があった。

 キッドは被っていたハンチングを脱ぎ、帽子をナース帽に取り替えて、カウガールの傷を癒やしているように見えた。


「何……何あれは……。まさか、あれは……。伝説のカタナ・マスター? 変幻自在のコスプレ老師オールド・プリースト……?? あの子供がそうだっていうの……??」


 次回、剣脚ショウダウン!

 ネクストサムライ、白タイツショタジジイコスプレイヤー老師。

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