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マッドソックス ~美脚のデスモード~ 2

「オジサン……? ねえあんた、なんで生きてるの?」

「プロテクターってやつを下に着込んでてね。このふざけた時代には必須の装備さ。なにせハイヒールを銃にする奴もいるんだからな?」


 笑うアゴヒゲ野郎は、冒頭にてナンシーに土手っ腹を撃ちぬかれた、バットの男である。

 アヒルピエロに斬り折られた金属バットを持ち、「勝手に使って折りやがって……」と渋い顔をしている。


「あたしの銃……なにげにノー・キルじゃない? ピエロにもマムにも効いてなくない?? ロスに近づくと銃が効かない奴が増えるってわけ? アーハー?」

「そこで美脚の刀よナンシー!」

「しつこいな! タイツを脱ぐな! あたしは履かないから!!」

「しっ、声がでかいぞナンシー。お前、クイーンに見初められたんだろ? おそらく地上では手配書が出てるはずだ、静かに声を潜めて逃げないと」

「あのねえオジサン、急なことだったから一緒に逃げたけど、あんたのことなんかこれっぽっちも信用してないから? ハムの手下でしょ? いっそここで殺す? こめかみにはプロテクターは無いよね?」

「ま、待った待った! 俺は確かにビッグ・ハムの下で働いてたが、あれはビジネスだ。この時代で生きていくためには仕方ないことだ。それに俺はマムの子じゃない。俺は、お前の味方だナンシー」

「んなの信用できるか!」

「理由もあるんだ! 俺は……お前に惚れちまったんだ」

「……オーマイガ」


 への字に口を曲げて嫌悪するナンシーと、眼鏡を輝かせてホクホクする礼賛。


「色仕掛けに一瞬でハマったオジサンの言葉なんか、もっと信用出来ないわ。何度それであたしが泣かされたことか!」

「聞かせて欲しいんだけど、オジサン。わたし、歯牙しが礼賛らいさんって言います。ナンシーのことが本当に好きなの?」

「余計な話はいいから早くタイツを履きな礼賛! この男と逆の方向に逃げるよ! もしくはあんたも置いて三方向に別れる! シット!」

「俺は命をかけてナンシーを守る。その覚悟だ」


 真面目極まるバット男の言いぶりに、ナンシーは思わずハイヒール銃を一発放つところであった。

 腹立ち混じりにドブまみれの脚を蹴り出すと、地下水道に詰まった泥が、モーセの海割りのごとくぶった切られる。


「オジサンって惚れっぽい方なのかしら? 美脚とか好きですか?」

「そんなことはないぞ、礼賛。現にあんたの脱ぎかけタイツの脚は、そうだな……せいぜいクイーン程度にしか忠誠心を感じないさ」

「忠誠心じゃなくって下心よそれ、アーハー?」

「……わかったわ、オジサン。わたしはあなたに付いて行くわ。逃げる場所のあてがありそうだし。ナンシー、あなたも来るわよね?」

「なんであんたが主導権握ってんのよ、礼賛??」

「だってナンシー、わたしが救世主なんでしょう? 『この狂った世界をぶった斬るサムライ救世主』。わざわざマムのサーカスに捕まってまで会いに来てくれたのよね。ここで別れてもいいの? 本当に?」

「……目が据わってる。そんな目もするのね、礼賛」

「これは研究者の目よ。わたしはこのオジサンの話が聞きたい。ナンシー、あなたの話はもっと聞きたい。でも逃げなきゃいけない。逃げるあてはない。だったら……行きましょ、ナンシー」


 こうして手を取り二人の女は、逃避行を開始した。道案内のバット男を置き去りにして。


「お、おいおい! 置いてくなよ! 行くのは俺の住処だぞ! 場所わかんねえだろ! あとお前ら、俺はオジサンじゃないんだ! ヒゲをそったら全然若いんだぞ?」


 一方その頃、クイーンもキッドも去り、ガータートスの被害者しかいなくなった、サーカステントの跡地では。

 トレーラーのバック走で頭を打って、またもや気絶し寝込んでいたアヒルピエロが、今更目を覚ましたのである。

 ロスアンレッグスの街はいつの間にか美脚ライトスタンドの明かりが灯り、広告ビジョンには全て、先ほど戦ったカウガールと履きかけ研究者の顔が映っていた。


「目が覚めたかい、ペキン・ダック……。まったく、学校に遅れるってママは言ったじゃないか……」


 アヒルピエロに話しかけたのは、クイーンのガータートスで半身はんみに斬られた、ビッグ・ハムである。


「ガァ!! マム、どうしたの? 平気なの!?」

「もちろんだわよ……マムは平気さ。でもねダック、あんたと話す時間はもうあんまり無いかもしれないね……」

「マム!? マム!!」

「いいかい、ようくお聞き。オークションで売りつけようと思ってた商品は、先にクイーンに目をつけられちまった……。裏で売り飛ばす前に手配されたらもう、クイーンのものだ。世知辛い話だよ……」

「ねえマム! みんなは? 『マザー・コンプレックス・サーカス』の兄弟たちはどうしたの!?」

「役立たずの男たちも、ペットのターくんも、全員……学校に行っちまった。まぁいいさ、あんたはあいつらと違って有能だからね。なんとか一人で生きていきな。マムのへそくりをあげるからねぇ……!」


 ビッグ・ハムは、胃袋を吹き出しそうな勢いで口中から体液を吐き、二足の履物を「べちゃっ」と地に落とした。


「ダック、あんたなら履ける。その『ストテク(ロスト・テクノロジー)』なら、クイーンにすら匹敵するよ」

「これを履いたらダックはどうすればいいの? わからないよ、ガァ!」

「じゃあねぇ、ダック。学校から帰ったら、また……会おうねぇ……」

「マム!! マァァアム!!」


 ――暗さが再び支配し始める、ロスアンレッグスの広大な空き地の、只中で。

 潰れたサーカステントの脇に、もう動かない肉塊。ひとしきり泣いた後のアヒル口。

 チャイナ服のスリットから伸びる美脚に、アヒルピエロは新たな履物を装着し、決意のもとに立ち上がった。

 次回、剣脚ショウダウン!

 ネクストサムライ、ニーソチャイナ服アヒルピエロ。

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