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マッドソックス ~美脚のデスモード~ 1

 ショートパンツに白タイツ、ハンチングを被ったその美少年は、クイーンのそばにいることを許された特権階級だった。

 クイーンの脚にガーターリングを嵌める端からシャッターを切り、パシャリと美脚を写し取る。『ロスアンレッグス』に集う男たちに潤いを与えるための、公式報道カメラマンが、この少年なのだ。

 こいつの名前は、『ショーター・キッド』ってんだ! BANG!


 キッドが撮影しているのは、最新モード(流行)に彩られた、噂に違わぬクイーンの美脚。

 左右半分に白黒二色でバッツリ別れたウェディングドレスと、ガーターストッキングの荘厳な姿に、リングがひとつ嵌められるたびにクイーンは、熱にうかされ舞い踊った。


「ああ素敵。好き。結婚して下さい。いいえ結婚した。しました。子供は何人ほしい? 子供は生まれないわ。女同士だもの。それでも方法はあるわ。好き。六百六十五番目の奥さんになって。何ですかその脚、このワタクシより綺麗なんじゃない? 許せないわ!! 結婚しましょう。いいえ結婚した」


 跳んで回ってよろめきながら、脚を振るえばガータートスが、ぎゅんぎゅん空を切って飛ぶ。

 ガーター円月輪チャクラムを受け続けた巨大サーカステントは、丸ノコで幾度も切りつけられたようにして無残に千切られ、屋台骨を失い、テントの中で逃げ惑う非力な男どもや突然変異体ミュータント猛獣の首もついでにはねられた。

 血染めで潰れたサーカステントを見て、クイーン曰く。


「……いらっしゃらないわ。このワタクシの求婚せしめあそばせた相手がいなくて、蛇足以下の肉塊程度しかいないじゃあないですかあ!!」

「クイーン、そう取り乱さないでくださいよ」

「マリッジブルー中です、話しかけないで!!」


 なだめるショーター・キッドに八つ当たりの回し蹴りを見舞うクイーン。しかしこの脚刀あしがたなをキッドは、まだ幼く短くも美しい白タイツ脚で「キン」と食い止めた。


「……すみません、このワタクシとしたことが取り乱しましたね。視野を広く持たなければいけません」


 落ち着きを取り戻した、ブロンドヘアーに白黒二色花嫁衣装のこの女。

 こいつの名前は、『ソックスシンボル・クイーン・マッドンナ』ってんだ! BANG! BANG! BANG!


「クイーンが求婚した相手は、ボクが撮影してあります。手配書を撒きますか?」

「お手数をかけますね。よろしくお願いします、キッド」


 クイーンに頭を下げられたショーター・キッドは、撮った写真をすぐさま転送。すると街中に鳴り響いたのは、騒々しい駆動音だった。

 『ロスアンレッグス』の各地に設けられた大型ビジョンに光が灯り、『あしの灰』で昼なお暗いこの土地にも、明かりと活気がもたらされる。画面に写っているのは砂嵐であり、今にも消えかけそうな僅かな光しかまだ、放っていない。

 労働者としての栄誉を与えられた屈強な男たちが、大型ビジョンの直下で立ち上がった。柱から放射状に伸びた棒のひとつを掴んで、彼らは時計回りにぐるぐる回る。

 いいやこれは棒ではない。タイツを履かせたレッグトルソー、すなわちマネキンの脚部である。柱を回すために脚が生えているのである。

 この人力が次に動かしたのは、やはりタイツを履かせたレッグトルソーをぐるりと繋げた、奇妙な歯車であった。回り続ける美脚の動輪につながった、連結棒たるまた美脚。上下左右に艶めかしく動き、新たな力を生む美脚。

 世にも美しき美脚のシステムが噛みあうことで力はいや増し、大型ビジョンの動力源となる。見たいのは砂嵐ではない。もっと映せと。男たちは気合を入れ、歓声を上げた。

 やがて画面に映し出されるのは、マッドソックス・クイーン・マッドンナのきらびやかな美脚だ。それに這い寄り集まってくる、有象無象の卑小な男の視線が更に脚力を増大。動力源の回し車やギアや連結棒の美脚トルソーを見つめて、なお拡大。

 美脚の円環が眠っていた街を揺り起こす。実に豊かなタイツ類ストッキング類でぴたりと覆われた脚の組み合うこのシステム。世はまさに『スキニー・パンク』!


 さて本題である。ロスアンレッグスの男たちを総動員して街の各地のビジョンを稼働させたのには、わけがある。定期的にクイーンの美脚CMを流してこいつらに潤いを与えるという目的もありはするが、今回の最重要事項はそれではない。

 画面に映るは、赤毛のおさげのそばかすビキニカウガール。隣に並んだ黒髪ベリーショートにメガネの女研究者。何故かタイツは脱ぎかけだ。

 二人の女の写真に脚文字で大書される、WANTEDの一言。最初のガータートスの直後に、ショーター・キッドが撮影していた写真を使っての、結婚相手手配書である。


「このワタクシの結婚相手が、これで迷わずこのクイーンにまでたどり着いてくれることでしょう。好き。また会いたい。結婚しましょう。いや結婚した」

「それにしてもどこに逃げたんでしょうね? クイーンの結婚相手に選ばれて、ロスに逃げられる場所もないと思うんだけどなー」


 首を傾げるショーター・キッド。同じく不思議な様子で頭を抱えていたのは、逃亡した当のバンシー・ナンシーである。

 このカウガールは、地下道にいた。傍らには歯牙しが礼賛らいさんも伴って、二人で逃げおおせることには成功している。

 どうして頭を抱えているのかといえば、逃げることが出来た理由がよくわからないからだ。

 突然現れて「こっちだ!」と地下に向かって手を引いてくれた者がいたのは分かったし、『ロスアンレッグス』でクイーンに目をつけられるよりは、不審者を信じてでも逃げたほうがいいのは明白だ。

 問題は、手を引いてくれた相手である。

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