駄肉は網タイツに縛られる 2
開いたままのコンテナを積んだトレーラーの、牽引車運転席に、いつのまにやら目を覚まして乗り込んでいるアヒルピエロ。
割れたお面から垣間見えるは、これみよがしのアヒル口。チャイナドレスから伸びる脚には、破けきったタイツが張り付き、ほぼほぼ素足でペダルを踏んでいる。
こいつの名前は、『ペキン・ダック』ってんだ! BANG!
「そうだよダック! バック走でこいつら轢き潰しちまえばいーだわよ!!」
「このまま轢いたら商品がダメになっちゃうなぁ~。でもマムは怒ってるし、マムに逆らったらこっちが潰されちゃうし。従うしかないよね。ガァ、ガァ!」
バックを始めたトレーラーに危険を感じたナンシーは、頬肉揺らして指示を与えるビッグ・ハムをまずは黙らせようと、ハイヒール銃を連射する。
だがこの銃弾は、分厚い鉄板に当たったかのようにして、全て跳ね返されてしまった。
「無駄よナンシー! ビッグ・ハムが着込んでいるのは、『ストテク』による強化合金編み込み網タイツよ。しかもあれ、おそらくボディストッキングだわ。全身に着込んでるのよ!」
「強化合金編み込み網タイツ!? オーマイガ、意味分かんない! ていうか解説はいいからとっとと履いて立ち上がんな礼賛! あんたが逃げられないからあたしが食い止めてんだよ!」
「車来た! ナンシー、蹴っ飛ばして! あなたなら止められる!」
「礼賛がそのタイツ脚でやればいいでしょ!」
「わたしはそんなに美脚じゃないから!!」
気をつけよう、車は急には止まらないし、トレーラーはもっと止まらない。ましてやそもそも犠牲者を轢き殺すまで、このバック走は止まる気がない。
女同士の揉め事は激突の瞬間まで収まらず、仕方なしにナンシーは渾身の力でナマ脚美脚を蹴り出した。
美脚と車がぶつかり合えば、物理法則に則った結果、ごしゃっという音でトレーラーの尻がひしゃげるのは自明の理。
しかしこの衝撃でハマっていた尻が抜けたのが、ピンクタイツのビッグ・ハムだ。ここぞとばかりにその手に握ったムチをしならせ、空中ブランコに投げつける。
賢明な諸氏であればお気づきだろうか、このムチも『ストテク』の産物であり、よく見れば伸縮性の抜群に高いニットタイツである。
タイツの力で巨体を飛び上がらせて、空中ブランコにしがみつくビッグ・ハム。
ブランコのロープは自重で引きちぎれ、高みより一気に落下。網タイツに包まれた芳醇なモモ肉を両手で掴み、M字開脚のレッグプレスにてお肉を全て直下にご贈答である。
「ママの特製お肉だわよぉっ! 残さずいただきなさぁいっ!!」
「あたしの脚、これ……っ! 折れたんじゃない? いったいなあ、ガッデム!!」
切れ味鋭いその美脚で、トレーラーの動きはなんとか止めたナンシーだったが、ナマ脚はやはり諸刃の剣。晒した刀身の破壊力は、フィードバックも大きかった。
痺れて腫れたナマ脚美脚を、このままでは振るえない。ビッグ・ハムに撃ち込み続ける銃弾も梨の礫。
傍らにはタイツ脱ぎかけで転んだまま、研究書類だけはかき集めようとしているベリーショートの黒髪メガネ。
バンシー・ナンシー、ここで運を天に任せた。機転を利かせたと言ったほうが正しいかもしれないが、確実性のなさと行動の奇抜さからすれば、運頼みと言っておかしくないだろう。
果たして何をしたかといえば、銃を捨て、すっ転んだ歯牙礼賛をひっくり返して両脚抱え、その股間に顔面を突っ込んだのだ。
そう、つまり、そばかすまみれのその顔使ってナンシーは、礼賛に黒タイツを強引に履かせたのである。
セクシー・アバズレ・ショウダウン! しかも女同士!!
行き過ぎた悪ふざけにしか見えない光景。だがしかして、タイトスカートから伸びた歯牙礼賛の黒タイツにパンプスの脚は、この完成形を持ってして二本の鋭い槍の威力を得たのだった。
タイツ履いたら、充分美脚! ましてや逆立ちにて、黒脚全体丸出しだ。
「うぎゃあああっっ!!」
超硬度の網タイツにて超体重のレッグアタックを仕掛けたビッグ・ハム、いと哀れ。
ピンクタイツの隙間を貫く黒タイツ脚にて串刺し、いささか自爆にも見える大ダメージで、M字開脚のまま噴血の敗北であった。
「や、やだやだやだっ……! ナンシー顔どけて! どこに顔突っ込んでるの!?」
「しょうがないでしょ緊急事態だったんだから! あたしだって女の股ぐらに顔を突っ込む趣味はないよ」
「だったら早く……どいてよ……!」
「どきたいのはヤマヤマ! あのねえ、刺さったハムがのしかかってきて、あたしも動けないわけ? ていうかアーハー、このままだとハムのお尻と礼賛のおマタで圧死するんだけどあたし……オーマイガ」
両脚に突き刺さった網タイツデブサーカス団長を、ひっくり返ったままどうにか抜こうとあがく礼賛。しかしその動きに合わせ、むしろ巨体は深く刺さって、ナンシーの頭部を押し潰す。
最悪の形での救世主死亡で終りを迎えるかと思ったこのショウに、割って入ったのは一輪の円月輪だ。
切れ味鋭き輪っかがひとつ投げ込まれ、ビッグ・ハムの体を寸断。重みが半減した隙にナンシーは転げ出し、礼賛も脚を脂肪から引きぬくことに成功した。
「た、たす、助かったぁ! ジーザス! イエッス! アーハーハー!」
「誰が……助けてくれたの? それにこれは、どこから投げ込まれたの?」
眼鏡のズレを直しつつ、疑問を浮かべる究明者、歯牙礼賛。
放り込まれた円月輪は、ママの巨体をぶった切ってなお回転し続けていたが、やがて動きが止まってみればそれは、円月輪ではない。
ガーターリングである。
一体どこからこれが投げ込まれたか。半径数十メートルはあるこの巨大サーカステントの外部から、出入り口を突き破って、である。
「超絶破壊力のガータートス? シット! これは……クイーン!!」
「ナンシー! あなたクイーンに選ばれたのよ!! 危険だわ!!」
蒼白になって顔を見合わせる、ナンシーと礼賛。
そんな様子を知ってか知らずか、モノクロのウェディングドレスから白と黒のガーターストッキングを魅せつけるクイーンは、テントの外より恭しく告げた。
「好きです。結婚して下さい」
次回、剣脚ショウダウン!
ネクストサムライ、クレイジーサイコクイーン。