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脚をとりもどせ!! 2

「しまった、もう着いてる! てかなんで公演中!?」


 驚いて檻を飛び出すナンシーの、牛柄ビキニの乳が揺れる。

 見渡した三百六十度の視界に入るのは、熊に象にダチョウといった突然変異体ミュータント猛獣や、設営のために使役させられる痩せぎすの男たち、空中ブランコ、玉乗りピエロ。


「今は公演中じゃないよ~? お客様に見せる前の練習をして~、オークション用のステージ準備もしよ~って、ロスに着くなり早速働いてたんだ~。ガァ、ガァ!」


 カウガールの疑問に答えたのは、奇妙な出で立ちの玉乗りピエロだった。

 チャイナドレスのスリットから覗くは、ボロボロの伝線タイツの美脚。アヒルの面を被っておどけた姿は、愛嬌と奇矯をともに含んでいる。


「てゆ~か、なんで商品が檻から出てるの? マムに怒られちゃうよぉ! すぐに戻らないと殺すぞガァ、ガァ!」


 チャイナ服の裾をひらひらと回転させて玉から飛び降りたアヒルピエロは、背負っていた中華包丁を手に、軽妙な足取りでナンシーに迫る。

 カウガールの判断は早かった。ホルスターから即座に引き抜いての早撃ちハイヒールが、ピエロの面をすぐさま捉える。

 ところがこの銃撃を、上体かがめてスルリとかわし、にじり寄ってくるアヒルピエロ。これはボクシングの防御技術、ダッキングである。


ダッキング(身をかがめる)だけで銃弾かわすとかありえないだろ!??」

「この足取りならありえちゃうんだな~。ガァ、ガァ!」


 あっという間に白兵戦の間合いに踏み込まれ、ナンシーが持つ二丁のハイヒールは、アヒルピエロの右脚と左脚の連続回転蹴りによって吹き飛ばされた。

 伝線タイツの脚に蹴られただけなのに、まるで金属同士がぶつかりあったかのような、音と火花を散らして。

 回転蹴りのラストには、錆びついた中華包丁が待ち構えている。急ぎ拾った金属バットで、三撃目を防いで見せるナンシー。


「遺品、役に立ったぜオジサン!」

「ガガァ~……。錆びた包丁じゃバット相手は厳しいかな~。でも三本アレば行けるよね? ガァ!」


 銃撃をかわしたボクシングの動きから、クンフーの動きに転換しているアヒルピエロ。

 錆びた包丁と伝線タイツの脚が、三刀流の斬撃となって幾度もバットに襲いかかり、鉄の棒を削り、凹ませていく。


「なんだこのアヒル女! 脚に鉄板でも入ってんの?? なんで脚が刀みたいに振り回せるの!」

「振り回せるのよ、ナンシー!!」


 チャイナピエロの連撃を前に劣勢のナンシーへ、背後から声をかけたのは、研究室(檻の中)歯牙しが礼賛らいさんだ。


「かつては誰しもが知っていたことだわ。終末戦争後、わたしたちは知識を奪われた。今ではある種の階級層しか知らない事実なの。聞いて、ナンシー。これは事実よ! “美しい脚は刀なの”!」

「アーハー? 何を言ってんのピーチク救世主! 寝言ほざいてる暇があるならそこから出て、あたしの銃を拾って寄越しな!」

「武器はあなた自身がもう持っているのよ、ナンシー! その美脚を刀剣だと思って振ってみて! あなたが対峙している、チャイナピエロと同じように! この狂った世界をぶった斬るサムライ救世主、それはあなたよ!!」


 おかしな論を展開する歯牙礼賛の姿はマッドサイエンティストのそれであり、腰が抜けた様子で地べたに這いずりまわったまま、彼女は未だに黒タイツ履きかけだった。

 こんなマッドソックスの言うことを、ナンシーは信じるつもりは毛頭なかった。

 だが、しかして。伝線タイツと錆びた中華包丁の三刀流を前にして、とうとうバットが斬り折られた時!

 咄嗟に飛び出てしまったのは、シミひとつなく武道の心得もない、ナンシーの真白いナマ脚だったのだ。


「なっ、なにこれ……?? あたしの脚……??」


 いかに賢明な諸氏であっても、この時代では失われた知識。『ストテク(ロスト・テクノロジー)』の原初にして究極。

 美しい脚は美しいほどに輝きと鋭さを増し、まさに刀剣の如き切れ味と破壊力を伴うことは、終末前は周知の事実であったのだ!

 スラリと伸びたバンシー・ナンシーのナマ脚は、この時一躍脚光を浴び、事実ちょっと光った。

 素晴らしき美脚が刀として振るわれし時に自然と発光することから、「脚光を浴びる」という言葉は作られたのであるから、当然のことである。

 中華包丁を割り、伝線タイツをみちみちと引き裂いて、輝かしき斬撃はサーカステントを揺るがすほどの衝撃波を発する。

 これはいわば産声である。今ここに新時代の剣脚けんきゃくが、後に『シックス・ストッキング・サムライ』と呼ばれる美脚の剣士が、産まれたのだから。

 華々しきデビューの一発を受けて三本の刀を全て傷物にされたアヒルピエロは、チャイナ服を血に染めて、元いた大玉の上にダイブ。

 この負傷では無事着地することはかなわず、激しく背を打ち付け「ガァッ!」と鳴き、動かなくなった。


「お、おいおいおい……! 本当にあたしの脚が、サムライの刀みたいに包丁をぶち割ったってのか? ていうか脚、思ったより痛い! 銃のほうがいいよこれだったら!」

「それはあなたがナマ脚を晒しているからよ、ナンシー。本当は脚を守るためにストッキング類を履くべきだし、防御力を高めたければデニール数の高い黒タイツを……」

「礼賛、後にしな。まだ終わってない!」


 ナンシーはハイヒールを拾い上げ、解説を遮るようにして舞台裏へ乱射。

 この銃弾を受けながらもサーカスの表舞台へ歩み出てくる肉塊は、熊よりも大きく象よりも力強い、網の鎖に締め付けられた猛獣であった。


「商品のくせにママに逆らってんじゃ、ねーだわよ!!」


 痩せこけた奴隷の男がムチで捕まり投げ飛ばされ、銃撃の射線を封じたかと思うと、ここぞとばかりにピンクタイツの化け物は突進。

 はみ出た腹を揺らしながら、ダイビングドロップキックでナンシーと礼賛に襲いかかる。

 次回、剣脚ショウダウン!

 ネクストサムライ、網タイツデブサーカス団長。

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