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白タイツショタジジイコスプレイヤー老師の葛藤 2

 すね迫り合いを「キン」と打ち合って距離を離し、キッドは最後の質問で、この話を終えた。


「どう? これがボクらの事情。そして本当は、予言の救世主なんていない。ボクはキミたちがここにいることを、クイーンに暴露することも出来る。でも……キミたちがロスから去りたいなら、見逃してあげるよ。どうする? キミたちはどうしたい?」

「……愚問ね。あたしはもう、逃げて泣くのはゴメンなの。この脚の歩みは止めないわ。ショウ・マスト・ゴー・オン! アーハー?」


 決意とともに放たれたナンシーの銃の一発は、それまで寝ていたトゥエンティーフォーのほほをかすめて地面に撃ち刺さった。

 目覚めるバット男。先の戦いでバットはまた斬られ、グリップ以外ほとんど残っていない。

 そして歯牙礼賛、履きかけだったのか脱ぎかけだったのかわからない黒タイツを引っ張り上げながら、慌ててナンシーについて行く。


「まっ、待ってナンシー! 決戦に赴くにはこの黒タイツを履くべきよ。デニール数はあなたの美脚に合わせて自動調節されるはずだから」

「お、おいおい、よくわからないけど俺も行くぞ、マイ・スイート・ナンシー!!」

「誰がスイートだ、24点! あ、でも……さっきは、ありがと。一応ね、礼は言っとくから」

「おいおい、命を賭けた甲斐があったぞ! ナンシーが俺と両想いになった!」

「なってねえよシット! あんたね、プールに飛び込んで助けてくれたのは良かったけど、その後の抱きつきでホントは差し引きチャラだからね??」

「……クイーンはチャペルで寝てるよー。襲うなら今がチャンスだからねー」


 去りゆく三人の背中に、重要情報を投げかけて。

ボロボロのミラーハウスで一人、三角座りのショーター・キッド。

 割れた鏡に写るその顔は、笑っているのか、悔やんでいるのか。


「ハハハ……。ちゃあんと次の世代は育つもんだね。ボクは少し、クイーンに過保護だったのかもしれない……な」


 かくして深夜、キッドの情報をいぶかしりながらも、ウェディングチャペルに向かってみる、女二人に男一人。

 『スキニー・ランド』に作られたおとぎ話のお城の中に、このチャペルはあった。

 灯りは点っていない。人の気配はない。

 しかしバージンロードの真ん中に布団を敷いて寝ているブロンド女が一人いる。クレイジーサイコクイーン、その人である。


「オーマイガ……。キッドのガセくさい情報が本当だったのも驚いたけど、あのソックスシンボル、なんであんなところで寝てるんだろ……?」

「どうするのナンシー……。あなた本当にクイーンの暗殺なんてするの……?」

「イエス。決意は曲げないわ。どうにもこの銃はあてにならないし、踏み抜いて殺してやる」

「老師の話が本当なら……クイーンを倒しても状況は良くなりそうにないわ。いいえ、悪化する可能性のほうが……」


 冷静に説き伏せる礼賛の言葉に対してなのか、それとも独り言なのか。

 バンシー・ナンシー、ぶつぶつと述べる。


「一人目の男は……行きずりだった。二人目はとびっきりのタフガイよ。三人目は臆病者のクズ。四人目はだいぶ年上だったわ。あたしに銃を教えてくれたのも彼で、五人目のハンサムに殺された。その後も、その後も、何人も、全員……死んだのよ」


 闇にまぎれてバージンロードを忍び寄り、ナンシーは迷うことなく当初の目的を果たしに行った。

 眠れるクイーンに無慈悲に振り下ろされる、ナマ脚の刃。シーツの下の胴体をグサリと捉え、苦悶の表情に包まれるクイーン。


「んがっ……!! あ、かはっ、あっ……!!」

「あたしの愛した男たちはこの世界で生き残れず、みんな死んだ! 涙も枯れたわ! あんたのおかげでね、クイーン!!」

「けっ、けかっ……! あっ!」

「何だよ遺言か? 特別にあたしが聞いてやってもいいぞ、アーハー?」

「結婚して下さい」


 血反吐を吐きつつニコリとクイーンが言い放ったその時、チャペルのステンドグラスを突き破って、蜘蛛のような無数の脚が飛び込んできた。


「ナンシー!!」


 襲いかかる多脚のバケモノの襲撃から救おうと、跳びかかったのは二人。

 その一人、トゥエンティーフォーは脚のバケモノのタイツ斬撃で、右腕を肩から持って行かれてしまった。守られた側であるナンシーのヒールガンすら、一丁吹き飛ばされて遠くへと。

 そしてもう一人。同じく身を挺してナンシーをかばおうとした歯牙礼賛は、美脚に胸部を貫かれ、串刺しとなった。

 致命傷にみるみる顔を青くする、黒タイツ履きかけ研究者。



「ファーーーーーッック!!」


 自分を守って犠牲となった礼賛を救うため、ナンシーは渾身の一発を撃ち放った。

 残った一丁のハイヒール銃を両手で握って、怒りを込めて引き金を引く。ひときわの煙を上げて放たれた弾丸。

 しかしこの一発を、礼賛を盾にすることで多脚の化け物は防いだ。ここまで苦楽をともにしてきた相棒の顔面が撃ちぬかれ、眼鏡にビシっと亀裂が走る。

 次回、剣脚ショウダウン!

 シックス・ストッキング・サムライ、フォーエヴァー。

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