ムズィーク王国 ラスト 楽器と光武様と復活
腰痛やら肩の凝りは何とかほぐれたが、この頭の頭痛はどうにかならないものだろうか。無理矢理頭の中を何かでこじ開けられているようで気分が悪い。
「どうにかならないものか・・・」
「お困りのようですね」
突然の声に驚き、対魔物用の毒を使用しながら前に飛び後ろを振り返る。使ってからその種類に気付いたが、今は何であっても構わないだろう。
「誰だ」
「シンリー様からアスクレオス様に接触する際には、このような手段を使いなさいと仰せつかっておりましたので」
「お前は・・・・・・・昨日会った新人でしたね。・・・・・はぁ、アイツは心底俺の心臓を労わってはくれないらしいな。それとメイド、体の方は大丈夫か」
「多少吸い込んではしまいましたが仕事に支障はございません。お心遣い恐縮でございます」
昨日見たドイツ人の新人メイドだ。伸長やく百七十センチ弱、筋肉は無駄なくつき柔軟性もある、隠し持っている武器は鉈と拳銃と・・・・後はなんだグレネードのようなものまで持っているのか。メイドにしちゃ危険な物を持っているなぁ。
「それで、・・・・僕が困っていると?」
「はい、そのような発言をお聞きしたので」
「そうか、耳が良いな」
「恐縮です」
「・・・・ッチ、それで?お前はその俺が困っていたとして何か出来るのか」
「はい、私はシンリー様よりアスクレオス様の身の回りのお世話をさせていただく事になりました。コードネームはスキールニル、以後宜しくお願いします」
バンスィーの一件で俺に遂に護衛がついてしまったか・・・・以前は邸の外にはそういった輩は少なかったのに、まさか隣についてくるようになるとは。困った・・・非常に面倒だぞ。
「ではスキールニル、早速で悪いが一度俺の前から姿を消してくれ」
「かしこまりました」
すると、本当に俺の目の前から姿を消し、臭いも跡形もなく消え去っていた。
「少しは使える従者の様ですね」
「恐縮です」
「では消えたまま聞いて貰います。僕は今とても頭痛に悩まされていましてね、回復魔法ではどうにも治る気がしません。生活に不自由は無いのですが気分が悪い、この僕の今の状況をどうにか出来ますか?」
「zu Befehl」
「そうではなくここは御意と言うのだったろ?」
「御意」
「護衛として一流でも、メイドとしては半人前と言った所ですかね~」
そう言った所、横の壁に違和感が生じる。微妙な質感の違いと言うのだろうか、触ればわかるのだろうがそこまでの勇気は俺には無い、触る所が触る所なら大問題だからな。
「・・・お分かりになるのですか?」
「おいおい、驚きすぎて迷彩がズレているぞ。ちゃんと壁と同じ質感にしないとダメじゃないか」
「私の迷彩スキルが見破られた・・・・?」
「スキールニルが油断しただけの事だ、そう落ち込むこともない。君は別世界の住人、そう俗にいう異世界転移者だ。だからそんな風にスキルが万能だという酷い誤解をする」
「アナタは・・・・・本当に八歳?」
「今の君の立場を忘れたんですかスキールニル、君は従者で僕は主人だ。主人をアナタ扱いはどうなんですか?ちゃんと様かそれともご主人で統一するか決めといた方が楽で良いと思いますよ」
「御意、ではご主人」
適当に言ったつもりだったが、まさかご主人の方で呼ばれるとは。またコイツはクセの強そうな奴が従者になったものだ。
「・・・・・・・・なんですかスキールニル」
「ご主人の頭痛を止める為の方法を一つ提示可能です」
「頼みます」
「昨日の晩餐のパーティーの際、ご主人は音楽を聞いている時に限りそういった頭痛を感じていたように思えませんでした。ですのでエルフの国に出向き、音楽で頭痛を止めるというのは如何でしょうか」
流石異世界人だ、なるほど音楽で治療とは面白い発想だ。ポーションのようなモノを飲まされても治る気もしない。いっそそれで治るなら儲けもの、治らなくとも個人的にあの演奏にはもっと金を払うべきだと思っていた所だ。
「良し、ではもう一度言ってみるとしましょう。朝食後、父さまに一応行くとだけ伝えてから馬車で向かいますか」
「馬車よりも素晴らしい物をご用意させていただいております」
「ほう・・・楽しみにしているよ」
馬車より良いものとは何だろうか?あり過ぎて検討が付かない。それにしても馬車で行かないというのは凄く良い発想だと思う。はやり異世界人にとって馬車は棺桶と言っても過言じゃないだろう、俺もあの乗り物が大嫌いだからそれで行かないというスキールニルの発想はいたく感動した。
「御意」
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そして、父さんから許可が下りるとスキールニルのまっている玄関先まで心を躍らせながら、行くと待っていたのはGunbus 410に似たバイクが二台とその一代にまたがるスキールニルだった。
「どうでしょう、コレでエルフの国まで」
「面白い乗り物です、どうやって乗るのか見せて下さい」
「御意!」
それから暫くどうやって動かすのか、それとどうやって止まるのかを教えて貰い少し練習した。
「それにしてもこの乗り物は重たいですね、一体どれくらいの重さ何ですか?」
「九百キロです、色々手を加えた結果乗り手を選ぶようになってしまいましたが。私は後悔しておりません」
ほぼ一トンのバイクを俺は持ち上げしながら練習していたのか、道理で重たいわけだ。
「変わりに例えミサイル・・・・いえ、魔法を喰らったとしても凹む事はありません。それとご主人には必要無いかと思われましたが、ランチャー・・・・爆発系統の魔法が打てるような装備もございます」
この女バイクで戦争でもしようと言うのか。
「それは心強い限りです」
「それに最大時速は四百キロ越え、風魔法と土魔法により動かすのでご覧のように馬や劣化竜に引っ張られることもなく、揺れも音も大変小さくなっております」
「この乗り物が好きなんですね」
「はい!コレはバイクと言います。是非公爵様に広めて貰いたい乗り物でございます」
「乗り心地が良ければ父さんにも進めておきたいと思います。では練習の続きをさせて貰って宜しいでしょうか?」
「はい!喜んで!」
この女バイクの話になると性格が変わったのかと思うぐらい良く喋るな。しかし教え方も丁寧で分かりやすい、無駄な知識も次いで教えて来るが、ソレは授業料だと思って聞いてやるとするか。
~一時間後~
俺は風になっていた。乗り心地は馬車に比べれば数倍マシで、速度も数倍早い。何より乗っていて気持ちが良い、邸の周りには広い庭があるのでひたすらそこをバイクで走り回る。途中何度か使用人や庭師に驚いた顔をさせるも、ソレは仕方のないという物。
「ご主人、どうやら乗りこなせて来たようですね」
「はい、感覚がつかめるまでに久しぶりの苦戦をしましたが何とか」
「この短時間でバイクに乗られるというのは凄い事です、シンリー様のお話していた通りの天才でございます」
「ありがとう、おかげでもう普通に乗れるぐらいには慣れたよ」
「ご主人の為とあらば」
「ではそろそろ行こうか、この頭痛ともお別れをしたい」
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エルフの国まで、以前俺達が通ったルートをバイクで走る。こことは反対側の森では魔物の軍と争った後始末の途中だろう。
「もしかすれば後処理で面会は出来ないかも知れませんね」
「申し訳ござ・・・・、まった・き・・・・・」
どうやらバイクに乗っているせいで音が届かないようだ、ついてからまた話すとしよう。走っていると聞こえてくる鳥の化け物の声やどこかで魔物が発情する際に出す鳴き声の数々、コイツらはあの魔物の軍に参加しなかった魔物達であり、それによって死ぬ事のなかった自由気ままな奴らである。
あのバンスィ―がこの世界に出現する条件と言うのが、そこら中で今鳴いている魔物達とは関係がなかったのか、それとも十分な数が揃いコイツらは必要なかったのか。
これ以上は非科学的な根拠でしか考えられないが、魔物という物が人間やそれに準ずる生命体を捕食対象とみるのはもしかすると、神か何かの考えで増えすぎた人口を調整するためのいわば一つの答えなのかも知れない。
「科学者としては三流の答えだな、ハハハハ・・・・」
「どうか・・・・たか?」
「いや、何でもない!そろそろエルフの国に着くぞ!」
森が開け、大樹が見えてくる。俺にはあの大樹が、詠唱の中で出て来たユグドラシルのような気がして仕方がない、ソレがあたかも死んだエルフ達の弔いをしているかのように葉を騒めかせているように思える。頭痛のせいか以前の俺が見れば爆笑するぐらいセンチメンタルだ、早い所治療して貰わなければ。
「着いたぞ」
バイクを降り、大樹を見上げると以前と同じように迎えてくれる門番・・・・の姿は無く、今は女性の門番二人が門を守っていた。
「アイツらも逝ったのか・・・・」
蔓で出来た階段を上がり、門番に挨拶をする。初めは事情があって通せないと言われたが、アスクレオスが来たと伝えて欲しいと頼み、数分後国の中に入れて貰った。
中は静まり還り、音楽などは一つも流れてはいなかった。以前のあの明るい音楽を奏でていたエルフ達も徴兵され消えて行ったのだろう。無意味な戦争が起こりエルフが大勢死んだのだから確かに静かになる事は分かる。だが、それで生きているエルフまで死んだようになっているのはソレはそれで物悲しいな。
「スキールニル、姿を隠しておいてください」
「御意」
城門に立つと、四人だった警備が二人に減っていた。飼われていた角のついたネズミもまだ子供なのか角が柔らかそうで全く役に立ちそうにない。
「こんにちわ、メゾさん」
「アスクレオス様、ようこそムズィーク王国へ。どうぞ、光武様がお待ちです」
兵士が極端な数減り、国としては瀕死の状態にあるムズィーク王国の城門を守るメゾ。まだ若いエルフだろうに、目の下に隈を作り頑張っているようだ。いずれ彼女にもそれなりの幸せが来ると良いが、あの絶望具合から見て彼氏も戦死だろう。
「・・・・・・」
今手に持っていた精力剤を彼女に手渡そうとしていた自分がいたが、センチメンタルな自分がソレを止めていた。センチメンタルな俺はここで彼女に何も触れずに城に向かえと言い、もう一人の俺はこのまま精力剤を渡して、「もうひと頑張りですよ!」と言って最高の笑みで彼女を絶望に再度突き落とせと言う。
おセンチな俺と俺が言い争いを脳内で繰り返しているうちに例の頭痛が俺を襲い、そして頭痛の痛みから早く解放されたいが為にここに来た事を忘れ、何を呑気に遊んでいるのかと思い早々に城門から城の中へと足を踏み入れた。
「痛みが増して来ましたね・・・・早く向かうとしますか」
迷路のような長い城内を歩き、王の間の前に着くと扉にいた兵士が扉を開けてくれる。
「アスク君よう来たなぁ。大した持て成しは出来んがまあ入りや」
「ありがとうございます、・・・・どうですか状況は」
「悪くなる一方・・・・と言わざるおえんやろ。国で徴兵出来る兵隊はあの時集めれるだけ集めた、せやけどその三分の二もこう死んでしもうたら流石に私も凹むってもんやで」
「それは作戦に問題があったとしか言いようがないのでは?」
「あの状況下でな、あの兵士達を束ねていたら分かる。あの子達は音楽を奏でて森と暮らす事は出来ても魔物と立ち向かって勝てるような子達じゃないんよ」
「それは兵士達を信用していないのでは?」
「アスク君、少し口が過ぎるで。私が彼らを信用してなかったらあんな作戦は思いつくわけ無いやろ・・・・・まぁけどその信頼にも答えて貰えんかったけどな・・・」
三つの砦を作り、一つ目の砦と二つ目の砦によって魔物の全てを駆逐するという大魔法を使った作戦。あれには一つ目の砦に最低でも十人以上の兵士が残っていなければ発動は不可能と言うものだった。光武はソレを達成できず散っていった者達へ言っているのだろう。
偶々俺達が一つ目の砦からメモを見つけ偶々五~六人で出来たから良かったものの、あのままでは一つ目の砦と同様に第三の砦も破壊されて、エルフの住む大樹まで魔物がやって来るのも時間の問題だったと言える。
「貴女は作戦ミスを認めないと」
「あの作戦はミスじゃない、そもそも戦に失敗も成功もありはしないやろう?なぁ、アスク君。それにアンタ私にそんなお説教しにここまで来たんちゃうやろ」
「はい、僕もそこまでお人よしになった覚えはないので。此処へはある取引をするためにやって来ました」
「取引やて?」
「未だバンスィ―に刺された時の後遺症が僕にも残っていましてね、頭痛がするんですよ。頭をこじ開けられているような」
「ほう、それで?」
「ウチの優秀なメイドから音楽による治癒を提案されましてね、なるほど面白いと思い光武様の元に参ったというわけです」
「それで、取引と言うからにはそちらは何かを提示しなければならないが・・・それは一体なんやの?」
「そうですねぇ・・・・今必要なのは今を生き抜く為に壊れたエルフの経済を立て直す事と、子孫的な問題と言った所ですよね」
「いや、経済に関してはエルフ達は元々自立して草木と共に生きとったから問題はないんよ。せやけど確かに後者は問題視しとる」
「そこでなんですが、経済とその子孫的問題の両方を回復させる良い計画があります」
「申せ」
「まず、問題視されている子孫的問題についての解決策ですが。二パターンコチラでご用意させて頂きました。一つ目のパターンはまあ、エルフと人間族との混血を増やすという事ですね。まあこれは友好関係を結んでいけば自ずと増える事でしょう。そしてエルフの血を人間と混ぜたくないというエルフ特有の思想をお持ちのエルフに関しては二つ目のパターンをご用意させていただきました」
「そうやねぇ・・・確かにそういうエルフもおる。特に元長老?みたいなご老人達、まあハイエルフやな。そのご老人達は人間など必要ないっちゅう考えのエルフが多いねぇ」
「そんな方の為に、ご用意させていただきました。魔法の薬です」
「魔法の薬やて?なんや胡散臭いな」
「コレは実は父にも内緒なのですが、薬に関して少々知識がございまして。コレを使えばあら簡単、男性エルフ様方にひたすら頑張って貰えるという物でございます。しかしこの国は今大きな傷を負っており公には不謹慎ですのでお売りできません」
「私がソレを横流ししろと言うのか」
「はい、王からのモノならば問題ないでしょう。入手先などは決してお話にならないという条件で、今回の取引でのみ無料で十本セットをお売りしますが、如何致します?」
「どうしてアスク君に薬の知識が少しあったとして、どうしてこんなもん作ったん?」
「それはエルフの国の未来を考えて僕なりに何か出来ないかと考えた結果、色々な情報を元に作り上げた物なのです」
「何とも裏のありそうで不気味な子だよ、アスク君は。それに引き換えティアちゃんはもう・・・・プリティーっていうのかな。もうあの綺麗な宝石みたいな目なんだもの、お姉さんきゅんきゅんしちゃう。あ、君の眼は焼き魚の目よりも濁ってると思うで」
「おほめ頂き感謝の極みです、取引に関してはどうなさいますか?」
「私がアスク君に演奏を聞かせればええんやろ、それで危なげな薬が手に入るんやいっちょやったろう」
その後、光武はバイオリンを兵士に持って来させると曲を一つ引いてくれた。知らない曲だったが、良い音色で聞いていて気分が楽になるようだった。
「こんなもんでどうや?」
「まだ分かりませんが、少し軽くなったような気がします。では此方を・・・・・・お納め下さい」
「これが例の魔法の薬なぁ・・・・・」
「本当はコレをコップで十倍に薄めてから一口ずつ飲用と良いのですが、国家存亡の危機ですので一瓶グィっと言って貰って下さい。あ、それと男性エルフ一体に女性エルフ一体は恐らく持ちませんのでいくつか別の個体を用意しておいて下さい」
「ほぉ・・・・それで私はコレいくらで売ればいいだろうか・・・・」
「そんな事は知りません。自分で人選して、それからその危なげな薬を飲むのかどうかを聞いて、そして恨みつらみの少ないようにお願いいたします、飛び火がここまで来ても困るので。それと注意事項が一つだけございます」
「注意事項やて?」
「はい、絶対に二つ飲まないで頂きたい。ソレだけを守って頂けるなら私からは以上です」
「よし分かった、私の方で厳しく人選しよう」
「ではこの話は他言無用でお願いいたします、もし薬の追加が要りようであれば私の従者であるスキールニルが、一月後またこの王の間に現れますのでその時お申し付け下さい。ではでは、エルフの繁栄を願って・・・・」
スキールニルのスキルによって、俺は目の前から消えたように思えただろう。実際は空いた扉からそのまま出て行っただけなのだが。
「アスク君・・・・ティアちゃんの前とは偉く反応がちごうたけど、アレはホンマに同一人物かいな・・・」
その後俺は頭痛の痛みがサッパリなくなり、音による治療を提案したスキールニルと一曲引いてくれた光武に感謝したのだった。




