まだまだ続くムズィーク王国編 その15 思考の停止
食事を済ませ、グレートホールに足を運ぶと既に全員が食べ終わった後で食後に出される消化を促す飲み物を飲んでいた。皆俺が帰ってくると、そろそろ出るかと言った感じで客室に戻り初め、俺達四人も移動部屋に移動する事にした。
そして部屋に帰ると、先ほどのように他愛もない会話が続いていく。
「・・・・・それで早朝アスクの部屋に遊びに行った時、アスクの奴どうしてたと思う」
「早朝で・・・・・何でしょうか、やはり勉強・・・・いやアスクさんならもう既にお酒を飲んでいてもおかしくは・・・ないか・・・分かりません」
「アスクの奴パンツ一枚でドラゴンフラッグしながらレポート読んでた」
「だっはっはっはっは、何してるんですかアスクさん!」
「いやぁ、アレは偶々効率的に腹筋を鍛えられないか考えた結果だっただけですよ。それに僕の部屋をノックもせずに出入りするのはティアだけですから」
「普通アスクさんの部屋にノックも無しに無断で入ろうなんて勇者は学校にいませんよ・・・・」
「大体あの時は早朝と言うよりも真夜中を少し越えたぐらいのまだ夜の時間ですから、当然月も出ているわけで、そんな時に誰が訪問してくるなんて。・・・・・普通警戒しないでしょう」
そんな日常的な会話を嗜んでいた時、ふと周りを見ると何やらメロエ達の友人達は揃って絵を描いている様子。しかもかなり本格的な道具まで用意して形だけはプロそのもの。
「僕達はお邪魔ですかね」
「そうかもな」
「しまったあああああああああ!!!!お嬢さん方の!!!!!邪魔になってしまうとは!!!!!!」
「某達は退席するべきであろう」
四人それぞれ立ち上がり、隅の方へと移動してから、ティアの亜空間に入っている机と椅子で改めて会話を始める。
「・・・・んでそれでですね。ティアが僕をみ・・・・て、って・・・・?今度は隅の絵でも描いているんですかね」
「分からん、コレだけ大きな部屋だ。隅から隅まで描き写しておきたいのかも知れん」
メロエの友達役三百人、全員コチラを向いて隅の絵を熱心に描いている。凝視と言っても良いだろう、俺達の後ろの隅を目が飛び出てしまうほどの目に力を込め見つめては描いている。
「そうとなれば部屋から出て修行でもしましょうか!!!!!」
「ほう、食後の運動と言うであるな。某も付き合おう」
「面白そうだな、森で会得した俺の新技もお披露目といこうか」
「僕も少し体を・・・・・」
「アスクは見てるだけだぞ」
「え・・・・」
「そうだぜ!!!!」
「当たり前である」
「・・・・そう・・・ですか」
「ちょっと待って!」
扉を開けた時、メロエの声が俺達の足を止めた。メロエが止めたかと思うと、メロエの友達の数名が俺達を再度客室にあるソファーまで導き座らせる。
「どうかしましたか?」
「もう少しここでお話しててちょうだい」
「だが俺達はメロエ達の邪魔になると思って席を外そうと」
「良いから、バティス子爵とアナスターシャ伯爵もよ」
「まだ世襲していないので子爵ではありませんが・・・・俺はそう、アスクさんの幼馴染でもあるメロエさんには是非ともメイリオと呼んでほしい!!!お願いできますか!!!!!!」
「某もアナスターシャという名で呼ばれるのは余り好かぬ。アルバートで宜しく頼む」
「そう、ならメイリオとアルバート。二人共そのまま座ってお話でもしてて」
「それで邪魔にならないのであれば・・・俺は別に」
「うむ、何か事情があって座っていなければならないのだろう」
俺達はメロエに言われるままソファーに座っている、ただ会話しろと言われても考えて出て来る話題と言う物がパッと思いつくような事もなく、ただ四人共なんで俺達は座っていなければならないのだろうと話ながら考えていた。
「もしや俺達の下か上に魔法陣のようなモノを隠して詠唱しているのか?」
「いえそこまで大規模な人数でやるとすれば・・・・・媒体となるモノが必要に・・・・」
「アスクさん、ソレがビンゴのような気がしますね。媒体は絵具とあのキャンバスです、隠れていて絵は見えませんが恐らくアレは魔法陣のようなモノが描かれているに違いない!!!!」
「となるとその魔法がどのような効果を持っているかという事であるな」
「アレだけ人数が攻撃魔法を仕掛けて来ても俺だけはまず殺す事は出来ないしな」
「ティアだけならともかく僕達も残るとなれば四人に効果のある魔法でしょう。例えば・・・・・そういたずらに僕達を眠りに落とそうとしているとか」
「いや、某達にはもっと恐ろしい事があるぞ・・・・・・・」
『恐ろしい事?』
「男女間での既成事実を作られてしまう事だ」
「は?」
「え?」
「ほろ?」
既成事実を作られるというのは、つまりアレか。バッコンドッカンズドンしてパラパラパンパンパーンと出来てしまうアレの事を言っているのだろうか。いやしかしいくらそんな玉の輿を狙ったかのような行動をとるとしてもこの大人数は・・・・・・ん、待てよ。その為の四人・・・・・・・・・大変な事になったぞ!?
「馬鹿を言え、そんな事を考えるのはまだ当分先の話しだ」
「そうですねぇ、僕達はまだ若いですから」
「アルバートは前に許嫁に似たような事を迫られたからその所は警戒していてもしょうがない、俺が許す!!!!」
「メイリオ・・・・うむ、確かに某の早とちりだったのだろう。皆にはつまらぬ心配をさせた」
三百人余りのメロエの友達が静寂に包まれていた空気が溶けたように消えてなくなり各自息を吐いている、何やら一仕事終えたような雰囲気だ。どうやらアルバートの考えは杞憂に終わったようだな。
「さぁ、お披露目の時間よ皆さん」
『はーい』
メロエと静かな仲間達は一斉にキャンバスに書かれているモノを俺達に見せた。見せる事で発動する魔法なのかと警戒したが、そんな魔法よりももっと恐ろしいモノがそこには描かれていた。
「こ・・・・・これは・・・・・俺達・・・・か」
「その・・・・・ようですね」
「へぇ~皆さん絵がお上手ですね!!!」
「いや、メイリオ、よく絵を見よ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・なんか美化されて・・・・・アレ、なんか僕の顔が書かれてないのもある」
「うむ、気付いたか。某の顔が滅茶苦茶適当なのもある」
「俺の顔が全員の絵で完全に女なんだが・・・・というかコイツら全員アスクだけ本気で描いてないか?」
「あははは、アスクさん。絵の中では僕達同じ伸長です!!!!!」
「笑えない冗談ですよ・・・」
何だ、皆俺だけ特別扱いのつもりか。そんなモノはいらん、むしろ俺も適当に描け。そうじゃないとなんか疎外感感じるだろうが・・・・・クソ、なんかお腹がキリキリして来たぞ。
「良かったではないかアスク。狙いはお前のようだぞ」
「ふぃ・・・・確かにアスクさんがこの中ではモテそうではありますから・・・・いやぁセーフセーフ」
「某の考えは当たらずしも遠からずと言った所か、まぁアスク殿、達者でな」
「え、ここは皆さん同じ苦労を味わおうと言う所では」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
三人共無言の笑みで俺から三歩遠のいた。
「裏切り者どもめ・・・・」
「キャンバスは各自どのようにしても構わないわ、ママに許可はとっているから、ありがたく寮部屋に飾るなりなんなりしなさい」
『はい、お姉さま』
「では今日は解散よ」
三百人余りのメロエの友達はアリのように列を作って帰って行った。気付けば既に夕方、窓からは夕日が綺麗に山に向かって落ちる所だった。
「メロエ、あの子達とはどういった経緯で友達に?」
「別に・・・・・戦ってたら自然に増えたのよ」
「そんな不良みたいな・・・・」
「可愛い子が告白してきたらティアとかはちゃんと断れるかも知れないけど、アスクは出来なさそうだったから、私が変わりに未然に防いでいたのよ」
「そんな僕でもちゃんと・・・・」
「前に言ってたじゃない、生意気な奴は鼻フックかけて全校生徒の前で同じ事させるって」
「アレは半分冗談ですよ・・・・」
「鼻フックって大好きな人にされると辛いと思うの、だから私が未然に止めときなさいって止めてたのよ」
メロエの説明が終わると、三歩と言わず七歩は三人は俺から離れた。俺を見る目は不思議なモノを見るような目、一体どうしたというのだろうか。
「どれだけ気に食わなかったらそんな事になるんですかアスクさん・・・」
「魔族にも恐らくそこまで鬼畜な奴は少ないぞ」
「某、正直アスク殿の事を見くびっていたかも知れぬ、それにしても三百人とは・・・」
「殆どがSSSとSSとSの子達よ。Z組にも一人いるわ」
「何と!?」
「本当か!」
「アスクさんの事が好きな人なんてうちのクラスに・・・・」
そこで偶々デザートをグレートホールの中で食べ続けていたリーズとスクイが帰って来る。偶々話を耳にしたのか、興味深々で聞いてくる。
「誰?私が違うって事はリーズちゃんかジーナちゃん?」
「いや私は無いわ。うん、ないわ~」
「じゃあジーナちゃん?」
ずっと、片隅で誰にも触れられずぐったりとなっているジーナ。タオルケットを慈悲でシンリーからかけられ、今はそれでぬくぬくと一人で眠っている。そんな奴に限ってそんな事は無いだろう。
「そう、002番よ」
空間が静止したかのような冷たい世界に色を変えた。表情は氷付き、先ほどのメロエの言葉が自分の耳の誤作動だと信じたいが為にもう一度メロエに聞き返す。
「ジーナが俺に告白をしようとしていたのか?」
「ええ、でも初めは政略結婚のようなモノを目指していたみたいよ。愚かよね」
その通りだ、愚者そのものであり愚者の化身と言っても過言では無いその愚者は何でこうして一人で幸せそうな顔をしながらお昼寝を人の邸で堪能しているんだ?あぁ?
「おいアスク、ジーナが起きてしまうから止めろ」
「某はちと疲れたである・・・」
「きゅううううううううけいも大切でしょう!!!!さあ、ソファーに深々と座って!!!!ジーナの事はいったん放置という事で!!!!」
ソファーに着きメロエに話を更に聞いて行く、聞かなければならないと思った。
「それで、そうこうしてるうちに三百人に増えたという事ですか」
「いいえ、もう少しで千人を越えるわ」
頭が痛くなって来た、もしかしたら血が足りないのかも知れない。今からオークでも狩ってレバーだけ持ち帰ってこようか。
「何でそんな集団になってるんだ」
「名前もあるのよ、皆アスクの事が大好きだからアスクを宗教にしてみたの。それがアスク教」
「・・・・・・・・・・」
俺は思考を停止してしまった。




