ムズィーク王国編 その11 無双2 派生的存在の少女バンスィー
無双というより、殲滅?だった。無双回を本当に作りたいけど・・・・・もう少し後になります。
精霊歌8魔法は地面を蛇のようにのたうち回りながら敵のいる向こう側に進む。そして数秒が過ぎた時、向こうに見えていた魔物が爆ぜた。外側からトマトが圧力を受けたように例外なく地上で進軍していた魔物は全て魔法ですり潰された。
向こうから聞こえる不思議な音楽を衝撃と音に変えて魔物の群れに打ち返した。コレで死なないようならその魔物は軟体動物か不死スキルでもある魔物だ、どちらにせよ数の優位性を失った魔物達に勝算は薄い。
「状況を見に行きますか」
「うむ・・・・どの程度生き残ったか楽しみだな」
「アルバート!俺は激減した奴らを全滅させる事を誓うぞ!!!!!この戦いに散っていった漢たちの為にも!!!!!!!」
「わ、分かったからその鼻水と涙で汚れた顔をどうにかしろ・・・・某のハンカチを貸してやるから」
メイリオはアルバートからハンカチを受け取ると、それで涙を拭き鼻をかんだ。
「誰がそこまでしろと言った。早く返せ、水魔法でおちなくなったらどうしてくれる」
「じゅるるるるる・・・・・・すまん、だが!これで視界良好気分爽快、遠くにいる何かにもバッチリ気づけたってもんだ!!!!!!」
メイリオには遠く離れた場所の状況が見えているらしい。俺には血を流した肉の丘が気付かれているようにしか見えないが。
「どれどれ・・・・・先生の目にも何やら不吉なものが見えます。アレは・・・・何かの繭のようですが」
「アレの周りだけ魔物がこれっぽっちも見当たらないのはどういう事だ!!!!!!アルバート!!!」
「知るか。某に分かるのは彼方に見えるそれが此度の災厄の元凶という事だぐらいだろう、メイリオ、よく見てみろ。あの禍々しい気を」
何かしらの方法で、三人は向こう側にいるモノをとても危険なものだという。そういう物なら是非とも研究してみたい。特にマサトラ先生が不吉というのだから、俺はその遠くにあるという何かに対する期待値は更に高くなる。
コレでガッカリするようなら、手が滑ってこの地域の生態系が狂うかも知れないがそれは全てその何かの期待外れによるものだ。しかしこう、何か何かと考えていけばいくほど期待値は上がるばかりなのでそろそろ見に行こう。
「もしかすれば、今回の魔物の軍を作った原因かも知れません。いえ、恐らくそうでしょう。ならば早い所潰してしまった方がこの国の為です」
先頭に立って元凶に近づいていく、これが俗に言う遠足気分と言うやつだろう。進むにつれて俺にも見え始めたソレの初期状態を目に焼き付けながら、更に歩みを進める。
「おいアスク止まれ、一人で行くな。後ろを振り返れ!」
ティアの声が後ろからするので言われた通り振り返ると、まだエルフの死で受けたショックから抜け出せていないのがいるようだ。血で染まった砦の中で泣き続ける少女とそれを周りで慰める他の仲間達、非常に絵になっているが見ていて疲れてくるので立って貰おう。
「リーズ、立てるなら立って下さい」
「アスクさん、ソレはあんまりだぜ・・・・」
「アスク、リーズはこういった事は始めてなんだ。お前とは違うんだぞ」
「ならどうするんですか、ここでリーズが泣き止むまで皆で待ちますか?あちらで彼女が泣いた原因であるエルフ達がまた大量にソレによって殺戮されるかも知れないというのに」
「最低・・・・アスク、あなたはもうちょっと人の事を考えるべきですわ」
「アスクさん、貴方の言っている事は間違っていないのかも知れないけど、それでもその考えは悲しいと思う」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
何故間違った事を言っていない俺が皆から責められなかればならないんだ?アルバートと先生が話に入って来ないのは別に俺が間違った事を言っていないからだろ?ならどうしてそう二人共沈黙を続ける?
「ヒグ・・・・ヒグ・・・・」
この少女も泣き止みそうに無い。このままでは繭が孵化してしてしまう!早い所こんな事は片付けて繭を見に行きたい。研究したい、早く見て聞いて感じ取りたい。
「そろそろ時間なので先生から話を出しますが、このままでは全員生まれて来る例のアレの餌食になるでしょう。先生一人で全員を守るなんて笑いごとでも言えませんから、ですからリーズさんと一緒にいるグループとあちらで戦闘をしてくる人とで分けようと思います。まずアスク君はアレを止めに行く係です、ここで飼い殺しにされるのはゴメンでしょう?」
「分かりました」
「そしてアルバート君、君の剣術ならこの一帯の魔物には負けないでしょう?」
「そこまで自分を過大評価される覚えはないが、指令とあらば受け賜わろう」
アルバートは自分の事をとても低く評価する奴というのが俺の中での認識になっている。Z組に入って見間違えるように変わったのもアルバートだろう。いつもメイリオに戦闘は任せて自分は隣に立つだけといった立ち振る舞いをしているが、アルバートの家系は代々ミトレス王国騎士団長を務める。言うなれば国王の剣ともいえる家柄なのだ。
その次期当主がアルバートであり、また折れてはいけない剣として幼少期から長い時間鍛錬に鍛錬を重ねて来た次世代の剣豪がアルバートなのだという。俺が剣の稽古をせず黙々と習い事と習い事の間の自由時間を研究に使い潰している時、クレウスに呼び出され聞かされた話だ。
「それとジーナさん、彼から貰った力を試してみてはどうですか?」
「何故それを!?・・・・・分かりました。リーズ、スクイを任せましたわよ?」
「ええ、ジーナも気をつけて」
「分かってるわ」
ジーナ・・・・・・・そうだ忘れていた、色々いじったんだった。俺がいつも使っていた猿(人間)のように薬をいくつか使ったりして。全て一応自分の体で試したが、他の実験体が無かったから丁度いいと思ったんだ。
「では、三人でアレを止めて来て下さい。死なない程度ならいくら負傷して貰って大丈夫ですよ?腕の良い回復魔法の使い手を知っているので。あ、でも心では負けてはいけませんよ、それは治しようが無いので」
こうして決まった三人で、中心地に向かう。途中死骸に魔力が宿ったゾンビが少量沸きはしたものの、物理で押し潰して行くのでなんの問題もない。しかし繭に向かって進むにつれて、足の進みは遅くなっていく。あの繭の周りだけ魔物の死骸がなく、繭が何かを仕掛けて来るのを警戒しながら進んで行ったからだ。
「ここから一体も魔物の死体が残っていませんわね・・・」
「異様な光景である・・・・ジーナ殿、お気を付けて」
「あら、アスクには言いませんの?」
「それはどういったニュアンスがこもっていますか?内容によっては僕も叱るべき態度で・・・・」
「まぁ、アスクなら心配ありませんわね」
俺が話している時に割り込んでくるとは・・・・・コイツもやられてばかりのポンコツでは無いというわけか。
「作戦は某が先頭で戦うので、ジーナ殿は後方から弓での攻撃を、前と後ろのバランスを保ちつつアスク殿には攻撃と支援の両方を行って頂きたい」
「分かったわ」
「それで行きましょう、と言ってもあの繭がどういった行動をとって来るかによって形も変わるとは思いますが」
繭との距離が百メートルほどになった時、繭は眠りを覚ますようにして正体を現した。全長十メートルはあるだろう巨大な蝶の羽と竜の翼をもった化け物。
口は先につれ細くなり、前歯の六本は肉食獣のような歯を、奥になっていくにつれて草食動物の歯のように平たく、モノをすり潰すようになっている。アレで食われた日には消化の良さそうな形になって、胃に送られる事だろう。
「アレは切るのに手間取りそうである」
「アルバート、恐らくあの化け物の羽についている大きな塊は鱗粉です。何か状態異常に関係するモノとみて間違いないでしょう。気をつけて下さい」
「承知した、ではアルバート・アナスターシャ参らせて貰う!」
アルバートは滑り込むようにして化け物の懐に入ると剣で一線、化け物を斬った。
「キーショロロ、キーショショショロロロロロロロロ?????」
一瞬で方が付いたと思ったその瞬間。アルバートはその蝶と竜の混ざった化け物の左足にあたり、此方に吹き飛ばされて来た。何とかアルバートを腕で受け止めるも、アルバートにも状況が理解できていないようだった。
「な・・・・・何が起こった・・・!?」
「ジーナ!あの化け物の鑑定を!確か貴女が一番鑑定スキルが高かったはずです」
「分かりましたわ!今行います!」
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ステータス
名前:バンスィー
性別:???
称号:死を呼ぶもの
種族:妖精族
レベル:2
HP:200000
MP:300000
攻撃力:2000
防御力:8000
素早さ:4000
賢さ:30
幸運:100000
通常スキル
・妖精歌8・解体術8・牙術2・身体能力強化9
使用不可通常スキル
・鑑定12・棒術9・盾術9・剣術8・短剣術8・暗殺術8・看破7
エクストラスキル
竜化 擬人化
ユニークスキル
死を呼ぶ声1
加護
精霊王アクシャスの加護 妖精王ティターニアの寵愛
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「体力と魔力が多いのは魔物ですから当たり前としても、それほど強い敵とは思えませんわよ?」
「どういうことですか?」
「幸運値と体力と魔力が多いのは確かに脅威なのかも知れませんが、危険かと言われればそれほどという感じですわ。名前はバンスィー、平均ステータス五千前後のAとSの狭間に位置する魔物ですわ」
「そんな分け無かろう!某の受けた攻撃はその程度の魔物から受けるモノとは比較にならなかったぞ!」
「もう一回鑑定してみてくれ!」
「わ、分かりましたわ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ステータス
名前:バンスィー
性別:???
称号:死を呼ぶもの
種族:妖精族
レベル:2
HP:200000
MP:300000
攻撃力:16000
防御力:28000
素早さ:12000
賢さ:40000
幸運:100000
通常スキル
・身体能力強化9・妖精歌8・解体術8・牙術2・毒牙1・毒鱗粉?
使用不可通常スキル
・鑑定12・棒術9・盾術9・剣術8・短剣術8・暗殺術8・看破7
エクストラスキル
竜化 擬人化
ユニークスキル
死を呼ぶ声1
加護
精霊王アクシャスの加護 妖精王ティターニアの寵愛
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ふ、増えた!?どういう事ですの!?」
「もしや、アレをしているかと言うのではなかろうな」
俺達を無視して、バンスィーがしているのは死体食い。それも魔物からエルフ兵士まで選り取り見取りの奴からしてみればご馳走なのだろう、喜びながら食らいついている。
「だとしたらあの愛らしい食事を邪魔するべきですか?」
「そういったユニークスキルを持っているのかも知れぬ。三人で一度にかかるのが良かろう」
「ええ、ソレが良いと思いますわ」
「あのバンスィ―をもう少し観察していたかったのですが・・・・仕方ありませんね」
毒の鱗粉も頃合いを見て取っておこうと思っていた所だ。コレを上手く利用してあの魔物から鱗粉を奪えればいい、ソレが出来ずとも鱗粉のついた羽さえ切り落とせれば取り合ずノルマは達成だ。
「三方向から攻めてバンスィーを叩く、準備は宜しいか?」
「ええ、いつでも」
「合図をください」
「よし、では参るぞ!」
三人で呼吸を合わせながらバンスィ―のもとへと向かう、途中バンスィーの使う蔦の魔法に足をとられそうになるもバンスィーのもとに三人共たどり着き、斬りかかる。
「キェエエエエエエエエエエエイ!!!!!!!!!」
「行きますわよ!!!!!!!」
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」
アルバートの剣とジーナの短剣はバンシィーの体に傷を負わせるものの、俺だけ攻撃は入っていなかった。
「グハッ・・・・」
「アスク!」
「アスク殿!!」
ヤバいと思った時には――――俺は空を舞っていた。
「不味い、某達も直ぐに離れるぞ!バンスィ―に致命傷は与えたはずである、少しすれば動かなくなる!」
空を舞いながら感じたのは、殺意の無い悪意さえ感じない攻撃だったという事だ。あの力があるなら首を狙って爪で刎ねる事も出来たのではと思う。
空を落下しながら思うのは何故コイツは殺意を持っていないかだ。単純に馬鹿なのか、それとも本当に正当防衛で攻撃し返しただけなのか。
「どういう事だ!バンスィ―ーーーーーー!!!!!!!!!」
叫びつつ、斬りかかるも今度は横にジーナとアルバートを巻き込んでとばされる。
「アスク・・・・・重たい」
「アスク殿・・・・・しっかりするである」
「す、すいません。ですが、可笑しくありませんか、殺意の無い攻撃を受けるなんて」
「分かりましたから、早く体を・・・・」
体を起こしながら話を続ける。アルバートも先ほどの一撃を不思議に思ってはいたものの、ソレは魔物だからと思っていたらしい。
「確かにアレは禍々しいモノなのかも知れませんが、知性のようなものがあるのは間違いないはずです。試しにいくつか実験をさせて頂きたい、成功確率は五分と五分。どうしますか」
「そんな話はもっと戦いが長引いてから・・・・」
「その話に乗るである」
「そうですか、良かった。ではジーナはバンスィーに分からないように魔法を詠唱しておいて下さい。アルバートは僕の付き添いで来てもらいましょう」
この可能性に賭けてみよう、もしかすればここからバンスィーが消えるかも知れない。それに毒鱗粉を手に入れれるかも知れない、それにもしかしたらそれによってこの戦いは終わるのかも知れない。何もかもが不確定要素過ぎるというのは俺の一番嫌う事だが、この際これしかない。
「ちょ、ちょっと私は・・・・まだ!・・・・・はぁ・・・行ってしまいましたわ」
バンスィーに歩みをゆっくりと進め、斬りかかるのではなく今度は言葉をかける。
「バンスィー、あなたは言葉を理解出来ますか。あるいは話す事が出来ますか?」
すると、驚きの変化が起きた。バンスィーが人型になったのだ、それも結構な色白美人のスタイル抜群の女性に。
「バンスィー、アナタハコトバヲリカイデキマスカ。アルイハハナスコトガデキマスカ?」
「おお!」
「オオ!」
オウム返しでしか返せないようだが、一応言葉には反応するようだ。しかも声が以外と子供っぽい所も笑える。この状態で、ティア達に見せてもあの口の細い蝶の羽と竜の翼を持った化け物とは思わないだろう、それどころか好印象を与えかねない。
「見た目が良いのは、恐らく人間に好印象を与える為でしょう。人間のような形になったのもソレが理由になるはずです。しかもパーツは恐らく横に耳が長いエルフがベースに髪の毛は僕でしょうか、緑色でとても美しいですね」
「ミタメガイイノハ・・・・」
「それは別に言わなくて良いです」
「ソレハベツニイワナクテイイデス」
「アスク殿、このバンスィーが食事を止めたのは良いですがこの後どうなされるのですか?」
「アスクドノ、コノバンスィーガショクジヲトメタノハイイデスガコノアトドウナサレルノデスカ?」
どうやら俺以外の真似事もするようだ。となると先ほどの行動も理解出来るかも知れない、あの時三人の中で下から上に斬り上げをしたのはアルバートだった。つまりバンスィ―は三人の中から目に入ったアルバートの攻撃を、使おうと思った時に偶々的の大きかった俺に使ったというわけだ。
ようは、化け物と言わざるおえないあの攻撃の方法は他の誰かの真似事をした、言わば挨拶のようなモノなのではとバンスィーは解釈したわけだ。一番初めのアルバートの一線を横に薙ぎ払って吹き飛ばしたのは、アルバートが薙ぎ払ったから。
そして俺が話かけて、オウム返しで帰ってきたのは恐らく意思疎通を働かせる為のものだと思っているのだろう。ならば・・・・
「あ、アスク殿!?何をしているのである!?」
「何って、ハグですよハグ」
思った通り、ハグをしようとするとバンスィ―もハグをしようとする。鏡のようにはならないらしく、あくまでも相手と同じ行動をする。つまり握手も出来たりする。
「ははは、面白いですね貴女」
「ハハハ、オモシロイデスネアナタ」
どうしたものだろうか、少しぐらい誤作動があればと思ったが完璧に真似て来る。しかも全て俺の望んだ通りの行動だ。・・・・望んだ行動?
「バンスィー、お座り」
「バンスィー、オスワリ」
言葉で言いながら、バンスィーは蟹股になって舌を出しながらお座りをした。・・・・・コイツ、考えが読めるのか?しかし言葉を理解出来ていないから何となくでしか対応出来ていない。だとすればコイツは凄いぞ・・・・・生物としては人間に近い存在だ。
もしコイツがイメージを理解して、する事が出来るなら恐らくこれで・・・・。
「なるほど、つまりは俺がそういう存在というわけか」
「ははは、やっぱりそうでしたか。どうでしょうか、僕の記憶は?」
「そうだな・・・・一概には言えないが、悪くは無いんじゃないか?」
「他には何か無いんですか?」
「そうだなぁ・・・・女なのに男の記憶で人格形成してしまった事を少し後悔してる・・・とかか?」
「あぁ、確かに僕の記憶は後付けの方が良かったかも知れませんね。そればかりは誤ります」
「いや、別に良いんだけどさ。あ、でも謝る気があるなら・・・・」
「ありませんよ?僕の記憶を受け継いだならそれぐらいわかって下さい」
「記憶で知っているからこそ分かるが、お前ウザいよ」
「同族嫌悪ならぬ、同一人物嫌悪ですか」
「そうかもな。というかさぁ、今はこの繭でローブみたいなの作って来てるのは良いけど。ちょっと股座の風邪通り良すぎじゃないか?パパは何か着るもの・・・そういや持って無いんだったなぁ・・・・」
「勝手に聞いておいて勝手に落ち込むの止めて貰えますかね。僕はそんなにメンタル弱くない」
「いや、俺はパパと殆ど同じだ。だからきっとパパのメンタルも弱い」
「アスク殿とバンスィーが二人で仲の良い親子のように話している・・・・どういう事であるか・・・・某にはサッパリ理解出来ぬ・・・・そうだ、ジーナを呼ぼう。突っ込みがこの場には足らなさすぎる」
アルバートは一人、虚空を見つめながらフラフラとジーナの所まで歩いて行った。そんなにバンシィ―が言葉を話した事が驚きだったのだろうか。
「そういえばパパ、さっき俺が何も分からないのを良い事に酷い事したのを覚えてるか。まだ斬られるとかなら俺も許せた。なんせ俺はバンスィーって名前のとても危険な雰囲気を醸しだした、竜海でいうならファイボス級のビックキャラなんだから。でもさ、成人女性の姿をしている俺に蟹股で犬の真似をさせるのは酷いじゃないか」
「でもちょっと興奮しませんでしたか?」
「ああぁ、背徳感が心地良かったよ」
「なら良いじゃないですか」
「まあ良いんだけどさ、でもなんか一応なんていうの、あんまりこういうのは良くないかなぁって」
「男の僕には分かりませんね~」
「ははは、そう言うだろうと思っていた。所であっちから走って来るジーナをどうする?」
「どうするというのはどういじるかって事ですね?」
「流石パパだ、話が早い」
当たり前だ、まずジーナがいたらどういじり倒すか考える事が先決だろ。他に考えられる現在の状況など考えるに値しない事だ。そんな事は他に任せればいい。
「そうだ、まずは・・・」
『出会い頭に頬ビンタなんてどうでしょうか』
同じ記憶を持つならそれから導き足される答えも必然的に同じというわけか。いやぁ、恐ろしい能力だ。
「バンスィーの変化はこちらからも良く見えていました。それにアスクと何やら変な事をしていたと言う事も、どういうわけか説明してもらいますわよ?」
ジーナが来るとビンタをするバンスィ―、それに驚くアルバートとジーナ。ジーナに関しては目を全開にして震える目でバンシィーを見つめる、そしてあたかもそこに二匹目の悪魔が降臨し、絶望したような顔をする。
「ま、まさか」
「ジーナ、どうやらバンスィ―と僕は気が合うようです」
「みたいだな」
「ですので」
「今からジーナ、お前を」
「いじり倒します」
「い~~~~~~~やあああああああああああああ!!!!!!!!!」
「つ・・・突っ込みがボケに食われたである・・・・」
「そういえばパパ、俺が持っていてパパが持っていないものがある、けどそれよりパパの持っているモノは俺より多い。だから勝負しないか?負けたら自分の持っているモノを半分渡す」
「レポートの事ですか?・・・・あんなの記憶を頼りにもう一度書けば・・・・」
「いいや違うぞパパ。パパの隠し持っているその茶菓子やらのお菓子類とジェルだよ、これからずっとパパのお世話になる分けにも行かないんだ。だからお金をよこせ」
「親から金を踏んだ来る子供に育てた覚えは無いのですが」
「不出来な娘でゴメンな、パーパ」
「可愛い子ぶっても無駄な事は貴女が一番分かっていると思っていますが、どうですかバンスィ―」
「はは、違いねぇな。よしじゃあ二人共に迷惑かけないように遠くでやろうぜ・・・・パパもここじゃあ本気も出せねえだろ」
「今度は親思いのデキた娘を演じているのですか?忙しい子ですね」
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場所は変わり、森の中へと場所は移る。バンシィーは先ほどまで知りもしなかった殺意というものを持って俺と対峙している。
「パーパ、これが殺意の一歩手前というやつだよな。俺がこうやって戦いを楽しめるのもパパのおかげだよ」
「なぁバンスィ―、二人でいる時は第一人称を俺にしたいからお前は私に変えてくれ」
「そうだったそうだった、パパはお友達作りを頑張る為に必死だったもんな」
「そうだよ、だから娘はそういったデリケートな部分には触れずに優しくしてあげてね!!!」
大剣を思って、左から責める。バンスィーもニヤツイて右から手を刃物のような形にして斬りかかって来る。武器を持っていないと思ったらこんな事も出来るのか!
ブシュゥ・・・・・・
そう思ったのもつかの間、バンシィ―の右手は一般的に大剣を受けた手のようにポーンと、音を立てそうな勢いで吹き飛び、その断面図からは人間のように赤い血が泉のように湧き出ている。
「イタタタタタ・・・・・・やっぱり真似しても拳は剣に勝てるわけない・・・か」
「どれくらい痛いんだ?」
「そうだなぁ・・・・・近い感じでいうと熱湯を全身にかけられた気分だな、初めはとても痛いが後からは寒気しかしてこない」
「面白い感想だな、流石俺の娘だ」
「ありがとう、私のパパ」
「はははははははは」
「はははははははは」
「そろそろ本気でやっても良いか?コッチは広がる外の世界に、胸を躍らせて今にも飛んで行ってしまいそうだからな」
「そうか、本気でやられるのは困るから少し弱気で・・・・・」
「死ね!」
「ちょ、待て、部分的に元の姿に戻す事が出来るのか!?」
バンスィ―は右手を細い蝶のような手に変え、ソレを魔法で強化し、一本の鋭い針のような形にする。
「レイピアが手にめり込んでいるみたいだろ?」
「あぁ、見栄えが悪い。何とか出来ないのか?」
まだ本調子ではないのか、それとも育ての親に対する力の加減か?ははっ、俺から派生した存在がそんな分けあるか。まだ本調子ではないようだ。
「お前が持っていないもので俺は戦わせてもらうぞ」
「はっ、そんな事知ったうえで戦いを挑んだに決まっているだろ!」
毒を風魔法で操りながら、吹き矢と剣で戦う。剣は今朝、ヴィントと戦った時以降毒を変更していないので、相手を風邪にする効果しかもっていない、いうなればへなちょこ武器で戦わされているような気分だ。
「私でもソレをくらったら死んでしまうから思い付きで当たってあげる事は出来ないな」
「舐められたものだ、そこまで言うなら当ててやるよ。俺のこの吹き矢に入った薬はお前も知っての通りの痺れ薬だ、コレを受ければお前の動きも少しは鈍くなるだろ」
「つまり、私はそのぐるぐる回っている煙と吹き矢に当たりさえしなければ勝てるという事だ。なんだ簡単な事じゃないか。はははは」
娘はどうやら父の煽りまで真似してしまったようだ、子供というのは親の余計な事まで真似してしまうものなんだなぁ。
「再教育してやろう。俺の手で自らな!」
「あてられるものなら当ててみな!」
それからは、毒の霧や液体を魔法で操作してとばしながら吹き矢で攻撃すると言った隙を作らない攻撃を繰り返し、バンシィーに攻撃をさせないようにする。
「流石パパだな、戦う相手の嫌な事ばかりしてくる!」
「それは戦いの基本だと知っているはずだろ、バンスィ―!」
魔法の数も、風魔法と水魔法、それから土魔法で木を薙ぎ倒しながらバンスィーの行動を範囲を狭めながら追い詰めていく。
「一、一、二、一、三、三、三、二、一、三、一、二、二、三、一・・・・」
「なんの番号だ?」
「これがパパの攻撃パターンだぜ!」
バンスィーは俺の懐に入り、心臓を抉り取ろうとする気で差し込んだ。が、しかし肺はやられたものの、心臓とは別の場所だ。俺にも反撃のチャンスを与えた事が奴の敗北の原因に他ならないだろう。
「心臓に差し込んでいれば勝てたのだろうが、甘かったな!」
「それは私からパパにも言わせて貰おう、甘かったな、私の手は毒の鱗粉付きだ!それに引き換えパパの大剣は風邪になる程度、私の勝ちは今決まった!」
「カカカ・・・ゲヘへへへ・・・・・ケッケッケッケッケッケ・・・・・」
「娘の前でなんて声で笑ってんだあんた」
「いやぁ、ホラ今お前斬られたじゃないか。俺が風邪薬を仕込んだと思っていた武器に・・・・・痺れ薬に変えられているとも知らないこの聖剣サマエルにな!」
「はは、ははは、はっはっはっはっは!!!!密かにお互い武器に毒を塗っていたなんて傑作だな。やっぱり私のパパだ、間違いない。はははははははは」
「で、どうなんだこの肺に差し込んだ毒の鱗粉付きの手は」
「致死性は無いが、当分の間は苦しむ事になる。効果は後数十分って所だ、それまでにティアやメイリオのもとに帰った方が良い、そうしないとこんな所で地獄を見る事になるぞ」
「お前はどうする」
「なんだ、娘の心配をしてくれるのか?・・・そうだな、なにより茶菓子よりもお金が貰えないのが残念だ、何かと初めはお金が手に入りにくいからな」
「それならここに白金貨の入った袋がある・・・・・これで何とかやって行け」
「な・・・・なんだ、私は別にパパから派生した存在であるだけで別にこのような事をされる立場では・・・それにパパはそんな事をしない人間だろ?どうしたんだ?」
「俺はバンスィ―には優しくなれるんだ・・・・・・なんでだろうなぁ。人間じゃないからか、はたまたいもしない娘を描いてそれにお前を重ねているのか。どちらにせよ可哀想な奴だな俺は」
「ちょっと気分が悪いぐらいで直ぐ弱気になってんじゃねえよ!ほら、ちゃんとワープ出来るのか!?」
「ははは、俺も自分にそこまで優しくなれるような人格だった覚えは無いけどなぁ・・・・ガハッ」
「なんで回復魔法かけてねえんだよ!もう手は抜いたからかけれるはずだろうが!」
「恐らくお前の毒鱗粉のせいだろうな・・・・・・魔法や・・・・・・精神的な追い込みもする・・・・・・とても強力な・・・・・・・生また時から持っている・・・・・・・最高の・・・・・・毒だ・・・・・・・・・上手く・・・・・・・やれよ・・・・・・・人間は・・・・」
最後まで言いきれ無かったような気もするが、コレで満足だ。コレで意識を手放す事が出来る・・・・
「おい、ここで寝るな!私がお前を運ばなければいけないだろ!オイ!聞いてるのか!オイ!・・・・・・クソォ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
日は既に落ち、辺りは暗くソレを照らす光は月明りのみ。かと言ってそれほど月明りが全体を照らすわけでもなく、形が少し朧気に見える程度だった。
「あの大きさは・・・・アスクだ!」
「アスク殿・・・・・・帰って来たか!」
「でも隣にいるわ、誰かしら?」
「アレは・・・・バンシィーですわ。それにアスクを肩に背負っています」
「アスクさんが・・・・・・・・・負けた!?」
「もう駄目だよぉ・・・・誰も死んじゃぁ・・・・・」
「お届け物だ」
バンスィ―はマサトラ先生によって灯りの灯った砦の前にアスクレオスをおいた。誰もがバンスィーの異様さに気づいていながら、アスクと同じような雰囲気を持つ彼女を受け入れていた。
「パパはまだ生きている、これからもっと悪化すると思うから看病してやったらいい。私がパパにするのはこれまでだ。誰でも良いからパパが目覚めたら娘は旅に出たって言っておいてくれないか、これでも一応言っておきたいんだ」
「わ、分かりました・・・・旅とは言いましたが何所に行くんですか?」
「マサトラ先生・・・・だっけ。私はそうだぁ・・・・・Zランクの魔物が跋扈してるって言う例の北にある未開拓地に単独で乗り込むとしようかな。あ、でもそれまでの準備をするために色んな所でまずは魔物を取り込んだりしようかなぁ・・・ああ~色々やる事がある!ま、当分はこの大陸の中でレベル上げしようと思ってはいる。乗り込んで返り討ちに会うような真似、パパの娘として恥ずかしいからな」
「貴女は・・・・それ以上強くなって何を求めるんですか?」
「強さに意味はない。ただ興味があるだけ、パパが使用なら私は本能。ただあるがままにふるまうだけなのが私。これ以上の会話は必要ないよね、じゃあパパによろしく!」
こうしてアスクは一度エルフの宿屋で夜を明かした後、ワイズバッシュ邸に送られるのだった。




