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独学の毒薬で異世界無双  作者: ほふるんるん
ムズィーク王国編
91/185

ムズィーク王国編 その11 無双1 異変

すっごく長くなってしまった。後、無双というのは殆どサブタイトル詐欺みたいなもの。

「さて・・・そろそろ宿に戻るか・・・」


溜息のように呟く。そうして自分自身に言い聞かせて思考を変えなければ、今そこで起こっていた奇妙な出会いについて今暫く考えてこんでしまいそうな自分がいたからだ。伸びはしてみるものの、森の中は高い木が根こそぎ日光を吸収している為、周りの木を切ったとしてもそこまでの日光を得る事は出来ず、そのまま森を出る。


途中何体か魔物が出たが全て何かに引き寄せられるように、南の海岸沿いに移動していくようだった。こういった魔物の習性というのは未だに誰も解明出来ておらず、俺にもサッパリ分からなかった。しかし、こういった魔物が集まるというのは一つの魔物の軍が出来ている可能性があるという事だ。


魔物の軍は、巨大な力を持った魔物の個体がダンジョンの力から運よく逃れ、魔物の集団を形成したモノを、更に統率が取れているという視点から見てミトレス王国では軍という。軍には勿論、指揮をする魔物によってレベルが異なるが、指揮する魔物がSランクともなれば町や村が飲み込まれる事もある。


SSSランク・・・・にもなれば、恐らく最悪の結果国が飲み込まれ、ダンジョンがその指揮する魔物を封じ込めるまでの間に多くの国が飲み込まれるだろう。まあそうは言ってもそういった軍の行動というのに、好物なのかどうかは知らないが勇者と英雄がよく集るので、今までに歴史でそういった事で滅んだ国というのは少ない。


「国の滅亡・・・・・・・材料の回収には丁度いいが・・・林間合宿場所が翌年からこの場所になるなら、ソレはそれで守っておく必要性が出て来るか・・・・・・準備はしておくとしても少し様子見だな」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「もう起きてたんだな」


「おはようございます、ティア」


「うむ、今日もよい天気だな」


「皆さんはどうですか?」


「メイリオとアルバートは朝の特訓と言って走り込みに行った。ジーナとスクイとリーズは部屋で魔力の操作と武器の調整をしているぞ。アスクが暇なら全員で久しぶりに試合でもしてみるか?」


「いえ、何かやっているなら別にそのままで大丈夫です。しかし、少し面白い事が起こりそうなので残念な気はしますが」


そう言うとティアは笛のような物を亜空間から取り出し、ピィーと吹いた。綺麗な音だが、いきなり吹くのはちょっと止めて貰いたい。というよりも、まだ朝なので寝ているエルフもいるだろう、そんな時間帯に笛を吹くのは近所迷惑というものだ。そういった常識をティアには教えてやらないと。


「ティア、笛は近所迷惑に・・・・」


「半径五メートルと、笛の所持者しか聞こえない仕組みになっているからそういった問題にはならん。それに俺達二人で面白い事をするよりも全員でやった方が面白いだろ」


何時からかティアは常識も兼ね備えた王様になったようだ。それと、笛の所持者であるという奴らは本当に来るのだろうか・・・・・・?しかしそう思ったのもつかの間、数分もしない内に疑問は解決する事になる。


「おおおおおおおお!!!!!!!!はぁあああああ!!!!!!!!よぉおおおおおお!!!!!!ございます!!!!!!!!!!!!」


朝からコイツに会うのは少しばかり疲れる。別に合わせるわけではないが、体の体温を無理矢理一度上げられたような気分になるので、会いたくないときには会いたくないやつだ。幸い今はある程度体は温まっていたとしてもコイツの熱に耐用するだけの元気はある。


「そう朝から叫ぶものではないと何度言えばわかるのだメイリオ、ティア様とアスク殿を見習ったらどうだ」


「ククククク、メイリオはそれでいい。朝の目覚めには丁度いいやつだ」


「いえ、少し自重を・・・・・」


そう言いかけた時宿屋から三人組が出て来る、ジーナ達三人組だ。彼女達も笛を持っているらしい、誰が作ったのかは知らないが俺もその笛欲しいな・・・・・なんか仲間外れみたいで許せん。


「そうだ、お前には一番初めに渡しておこうと思ったんだが、そういった機会が無くてな。ホラ」


渡されたのは、ティア達とは違い一回り大きいサイズのオカリナのような形をした笛。


「持ちやすいようにお前のは一回り大き目のモノにしてみたんだが、どうだ?」


「コレは良いものです、ありがとうございます」


笛だ、笛笛、笛やったぁ~。仲間外れではないぜ~、やったぜ~。


「おはようございますわ、皆さん」


「おは~」


「おはようさん」


「とりあえず、皆集まったみたいだな。それで俺もまだアスクから聞いて無いんだが、面白い事とはなんだ?」


聞いてすらいないのに普通に人を呼ぶティアの神経については理解しかねる所だが、とりあえず森であった事を話していく。森の魔物達が集まっている事、そして自分の考えている推測、ソレを聞いた後それぞれの口から欲望がタレ流れ始める。


「森の魔物の血と素材か・・・・」


「新しい獲物・・・・・素晴らしい響きだぁぁ・・・・」


「必要の無い殺生は避けるべきなのだろうが・・・不思議だ・・・・血が騒ぐ」


「魔物の素材を売れば領地の改革の費用を少しぐらい負担出来るかしら・・・・」


「魔物の皮でドレス作っちゃおー・・・・」


「あんたら何物騒な事を考えてんのさ・・・・」


リーズが常識人であるために、ウチのクラスは成り立っているのかも知れない。もしもクラスにリーズがいなければ、Z組は変人の集まりや、魔窟などと呼ばれていた事だろう。クラス一の常識人に感謝の意を示しつつ、話を本題に持って行く。


「そして本題の魔物が南海岸に集まっているとして、何時襲いにかかって来るかという事です。恐らく国の対応からみてもそう時間は残っていないのでしょう」


慌ただしく結界のような物を確認して回るエルフ兵を見ながらそう言うと、メイリオも思い出したかのように話だす。


「そういや、走っている時にエルフの兵士が色々な所の家から兵士を徴集していました。アレはその魔物の軍に対応するための準備を整える為のものと考えれば・・・・」


「俺達も準備しておいた方が良いな。兵士達が戦うにしても、流れ弾には気をつける必要がある」


ワタクシたちはとりあえず、準備を整えるという事から始めるべきなのですね」


「マサトラ先生も呼んじゃう?」


「スクイ、あんた先生の知らない所で私達が魔物の軍なんかと戦っちゃったらアスクさんみたいに掃除を一年するだけじゃ足りないぐらいの罰を受けるわよ」


俺の罰としての掃除一年を誰も忘れる気はないらしく、皆う~んと頭を悩ませながら、先生同行を渋々賛同する形となった。


「じゃあ私が呼んでくるわ、スクイ、あんたは足温めておくんだよ。スタートダッシュが遅いせいであんたクラスで一番足遅いんだから」


「分かってるよぉ」


「ジーナは魔物の素材詰め込む用の袋を用意しておいて頂戴。どれだけ大きくなるか分からないからおっきいの」


「ええ、分かりましたわ。あ、でも持ち運びならアスクかティア様に任せた方が宜しいのでは?」


「どういうこと?」


「二人共、何もない所からものを取り出す魔法をお使いになられますから」


ジーナの言葉にリーズは混乱している様子。確かに突然説明を省いて言われても誰も理解出来ないだろう。それに説明したとして、理解できるとも思えない。こういうのは話すより見せる方が分かりやすいだろう。


「リーズ、ほらこんな感じです」


「え!?その武器って体の中に仕込んでるんじゃなかったの!?凄い便利じゃないの!!その魔法!」


「ええ便利ですよ、使い方によっては色々な事が出来ます。人を拉致したり、魔物を捕獲した後入れて置いたり、用途は様々。悪い事に使うことも良い事に使う事も出来ます」


「後で良いから教えてよ」


「ええ、構いませんよ」


「やった!、やくそくだかんね!」


「はい」


「てことは後は各自準備をして十分後にまたこの宿前に集合ね」


リーズのおかげで早い所全員がまとまって動ける、リーズは戦闘なら指揮官のような役割にもしかしたら向いているかも知れない。


十分後、全員が集まるととりあえず情報を手に入れる為に城へと足を運んだ。城に行く途中、マサトラ先生にいくつかの条件を飲むことによって戦闘の観戦および介入を許可して貰えた。一つは現地の人のいう事に従う事。二つ目はでしゃばって一人で突進していかない事。三つ目は先生の目の届く所で戦う事。


この三つが守れるなら魔物との戦闘を許可してくれるという。はっきり言うべきだろうか、マサトラ先生だからこのような事が言えるのだと。


他の教師に同じことを求めるのは酷というものだ、Z組全員が力を合わせてやっと勝率が三割あるかないかのマサトラという最強の教師だからこそ、俺達は背中を預けて魔物達と戦う事が出来る。


何のメリットもないであろうこの魔物とエルフの生存圏をかけた戦いに介入するという行為。それを何故認めたのかと言うと。


「林間合宿なので、この機会に自然の恐ろしさという物を体験していただこうかと思います」


などと、ふざけた理由からなる。自分ならば恐ろしい思いをさせるだけで済ませられるとでも思っているのか、はたまた生徒が死んだとしてもその責任を逃れるすべを持っているのか。しかしそういった先生の可笑しな思考回路のおかげで俺達Z組は世界初と思われる魔物の軍戦の、子供での参戦となった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

城の前に付き、一昨日見た顔がそこにあった。


「メゾさん、おはようございます」


「マサトラさんおはようございます。お城に何かご用件ですか?」


平然としている素振りを見せる門番のメゾ、俺をチラ見しては目が泳ぎ、また俺をチラ見しては目が泳ぎと、落ち着かない様子。そんな取って食うわけではないというのに。


「お城が騒がしいようなのでもしかしたらと思いまして、生徒達の事もありますし」


「そそそ・・・そんなわけないじゃないですか。ははは、や、やだなぁ~」


「もしよければ、私は力になれますよ。生徒達も回復魔法が使えます」


「先生!」


「話が!」


「ちが!」


「君達は黙ってなさい。先生が上手くやるから」


先生がこの場で言わなければ、約束のうちの二つ目を誰かが破っていた事だろう。


「私の一存では無理なので、女王様を通してで無いと・・・」


「メゾさん、そういえば最近彼氏が出来てましたよね、でしたら・・・」


マサトラ先生が巾着袋から何かを取り出し、メゾの手に握らせる。


「コレって・・・・・森奥でとれる高価な・・・・」


「女王様の所に通していただけますね?」


「どうぞどうぞ、しかし女王様は忙しいので手短にお願いしますねぇー!」


この教師、生徒の前で堂々と贈賄しやがった。


「先生がそんな事をしても良いのか?」


「おや、吸血鬼の王様はこの行為は罪に問われると重いですか?」


「残念ながら俺はこの国の政治には干渉出来ない、だから見て見ぬふりをする」


「おやおや、この国の貴族様達もだんまりですか?」


誰も別に反論はしない。ここで喧嘩を最安値で売りまわっているマサトラ先生を縛りあげた所で俺達になんの利益も出ない事を俺達の誰もが理解しているからだ。ここにまだSSS組上がりがいたなら話はまた変わっていたかも知れない。


「こんな大人にならないように」


『お前が言うな!』


「無条件で元気がいいのは子供の持っている力の一つですね~あ、それとここで起こった事に関しては言ってはいけませんよ?もしもばらせば、ジーナさん達は昨日と一昨日の売上金の没収を」


「没収したら許さないから」


「メイリオくんとアルバートくんは昨日エルフの女性にナンパ・・・・」


「先生殿落ち着け、某は余り人を切りたくはない」


「俺もこの拳を血には染めたくはない、しかしそうしなければならない時もある事もまた辛い現実ぅぅぅぅぅ・・・・・・」


「そしてアスク君は今日朝、少女・・・・」


「そういえば、今日の朝良い毒草を見つけて新しい毒薬を作ってたんですよぉ、良い実験体が見つかったようです」


「そしてティア君は・・・」


「お、俺は何もしていないぞ?」


「そうですね、君にとっては日常的な習慣の一つなのでしょう。ティア君、コレ最新式の魔道具でしてね。光魔法の多重使用によって、被写体の像をこのもう一つの魔道具に白黒で写しとるという物なんです」


「それで?・・・何が言いたい」


「今日の朝偶然魔道具の手が滑って写しとってしまった物です」


一枚の紙のような物をティアに見せるマサトラ先生。前世でいう所のカメラがまさか出来ていたとは、しかもそれを盗撮に使うという最悪の使用例を見せるマサトラ先生。


「これ・・・・・皆に見られたくないですねぇ~」


「こ、コレは!!」


「何みてるんですか?」


俺は少し背伸びをし、二人で隠れるように見ていたそれを目にしてしまう。その白黒写真に写っていたのは、紛れもなく長い髪をとかしている少女の写真。実際には服で隠れて見えないが、ティアの髪は、今見えている三倍の長さはあるのだ。つまりこの写真に写っているのは紛れもないティアの写真。


「アスク・・・・お前は見てしまったか」


「いえ、遠くからでは何がなんだかサッパリです」


「そうか、ならいい。マサトラ先生、お願いだからその写真捨ててくださいお願いします」


そう哀願するティア、ここまで弱気なティアも久しぶりに見る。それほどまでに嫌な物だろうか、その写真は。


「まあ皆さんは日頃から周りの目を常に把握しておくことが大切だという事です。さてと、皆さんの説得に余計な時間をかけてしまった。早い所ケリをつけに行きましょう」


俺を含め男子陣全員が既に瀕死と言わずとも疲労していた。特にアルバートとティアに関しては顔が疲れ切っている。


女性陣はピンピンしこれから魔物の軍と一戦するというのに先ほどよりもむしろイキイキとしている、金の為なら彼女達は龍にも虎にもなるだろう。少しでも良いので、その元気を哀れな男性陣に分けていただきたい・・・・。


「さて、行きますよ」


『・・・・』


『はーい!』


城内に入りそのまま謁見の間を通り過ぎ、そのまま迷路のような城内をると、会議室があり、扉の向こうでは綿密な作戦が建てられていた。


「現在は、南の海岸沿いを歩いて西に周り進軍してくるであろう中規模の群れが一つと、真っすぐ直線でコチラに向かってきている魔物の大群が一つあります」


「数は?」


「中規模の魔物の数、およそ三百、大規模の群れ、およそ三千です」


「むむむむ・・・・コチラの兵の現在の状況は」


「今集まったもので丁度千人です」


「千人かぁ・・・・三倍やんね、無理やろコレ。でもこの世界なら魔法あるし、あっちとは違うし・・・・やってみる?」


「やってみるも何も、光武様が動かなければ我が国に待つのは滅びのみですぞ!」


「お気を確かに持ちなされ光武様!」


「わぁーっとるって、やかましい。いや、三千人は対処出来る方法思いついてん、兵士結構死ぬけど。でもなぁ・・・・・この横のからのパンチをどう対処するかが問題になってくるわけよ・・・・あ~ティアちゃん欲しいよぉおお~」


「その話、聞かせて貰いました!」


このタイミングでマサトラ先生が扉を開けるとは思わなかったが、俺達もそれに乗じて扉の中に入る。光武様には驚いた素振りなどはなく、ただ驚いたのは光武様の周りで同じように作戦を練っていた指揮官たちだった。


「誰だ君たちは!」


「教師と生徒ですかね、今はこの状況の打破の為にこうしてやって来ました。私達にその西からくる魔物の大群を任せて貰いましょう」


「何を言っているのだ貴様ら!エルフの存亡がかかっているこの一刻を争う事態に!」


「だから早急に対処しなければならないをあなた方は理解していないようだ。試しに彼、アスク君と言いますが、彼が魔物と戦えないと思いますか?」


エルフの指揮官が揃って俺の方を見る。マサトラ先生もなぜか、一発やれと言わんばかり表情。そうだなぁ・・・・どうするか。あぁ、良いものがあったじゃないか。


「コレは僕が昨日狩りをした縁獅子の皮です。新品なので綺麗でしょう」


後ろに亜空間をつくり、縁獅子の皮を取り出し被る。そして、ニッコリスマイルを忘れず付け足す。


「も・・・・・森の化け物を・・・・皮に一つ傷つけず勝ったというのか・・・!」


「それに協力してくれたのは、隣にいる吸血鬼であるティア君です」


「あ、アレは吸血鬼の王家の紋章・・・・!何故そんなものがこのような場所に・・・・」


「俺も学校の生徒だからな」


「ティアちゃ~ん!」


指揮官の目がある事を知りながら、ティアに抱きつく光武。これによって場の空気は完全に、戦争前の緊張感のある空気ではなくなっていた。


「必要な武力はあります。後は貴方達が信用なさるかどうかです」


「ん~・・・・確かに西からの攻撃をちょっとでも防いでくれるなら後は結界が時間稼ぎもしてくれるやろうし・・・・まあ志願してくれたのもあるし・・・・ええよ?私達は主力の群れを叩くので手一杯やし」


「ありがとうございます。そうと決まれば、作戦決行時刻は何時にしますか」


「私達の部隊は時間通りに出る、西からの群れはあと四時間もすればこの国周辺に着くはずや。その四時間のうちにあんたらには魔物の群れを出来れば叩いて欲しい」


「ウチの生徒は天災児なので、もしかしたら数分で終わってしまうかも知れませんねぇ~」


マサトラ先生が、光武様に煽りを入れる。マサトラ先生は言っているのだ、無能な兵よりもウチの生徒の方が優秀だと。


「は・・・?、まあ全部倒せたならコッチに来てもええけど、あくまでも全て倒しきってからやで?魔物一匹たりとも城下町には入れたらあかん。ええな?」


「皆さん、対象は殲滅が必須目標です。全滅を確認後、主力部隊に攻撃許可が下りているのでそのまま進みます。もしもその場で誰かが、負傷したり、行動不能となった場合はその場で撤退をします」


『は~い』


『・・・』


「どことなくティアちゃん達元気ないけど大丈夫かぁ?」


「戦闘には問題ありません。そういった切り替えは出来る子達なので」


「あっそう、まああんたの都合で生徒を動かすんじゃないで?」


「僕の都合だなんてとんでもない。むしろ無理難題を突き付けて来る生徒に正当な対処をし、更に譲歩まで与えた結果がコレですから。では私達はコレで失礼します」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「マサトラ先生、あんな風な言い方をするのは良くないと思います」


「リーズさんですか、・・・・あなたは心の優しい人ですね。しかし、彼女の選択の一つ一つが積み重なって今のこの状況が出来ているのです。外的が少ないからと言って兵を少なくするというのは余りにも甘すぎる考えと言わざるおえないでしょう。コレは彼女の為でもあるのです」


「そうですか・・・・」


「それに貴方達にも伝わって来たのでは無いでしょうか、指揮官たちのあの焦りが。指揮官という仕事は兵士よりも人を選ぶ職業と言っても過言では無いでしょう。声を荒げたり、常にイライラしているのは、自分達の手に命がかかっているという事を自覚しての事です。皆さんには有り余るほどの回復する魔力がある。腕が千切れたとしてもこの場にいる殆どの人は回復魔法で直ぐに治せるでしょう、中には何もしなくても復活する子もいる。そういった君たちに傷を簡単に治せるという認識を持ってほしくなかったのがこの戦いに皆さんを参加させようと思った一つの理由です」



俺達は黙って先生の話しを歩きながら聞いた。確かにこの世界に来てから傷は直ぐに塞がるものだという錯覚をしていたのかも知れない。だから軽はずみな行動も起こす気になる。しかしマサトラ先生はそういった思考は良くないと思い、事を起こしたのだろう。



「そして、自然の力の恐ろしさを知って欲しいと私はつい先ほど言いました。しかし、この自然と戦うという強いエルフ達の姿を皆さんにも見て貰いたいと思いました。皆さんは三体の魔物を倒すと聞くと、直ぐに終わると考えるかも知れません。しかし、彼らにとっては三匹の魔物を狩るというのは生死を賭けた戦いになると言っても過言ではありません」


「そんな勝算ない戦いに行くとは・・・・クールだぁああああああああああああああ」


「クールなんて言葉で片付けて良いものではありませんよメイリオ君。命を賭してでも成し遂げなければならない事があるという思考そのものが、彼らの中にある力の答えの一つです。それに軍で三倍の数と戦うというのは殆ど全滅覚悟と言っても過言ではありません。しかし彼らは戦います、どうしてだと思いますか。アスク君」


「給料を貰っているからですかね」


「・・・・・・・・・アルバートくん」


「大事な人を守る為であろう」


「そうですね。ならばそういった勇敢な戦士達のお手伝いをするつもりで私達も魔物を倒していきましょう」


マサトラ先生の話しで、何故か魔物を倒しに行くというのに重い空気になっている。というか、戦闘前にこういう話をするか普通。こういう時には生徒を鼓舞するような話をするんだよ、別にその話は後になってからで良かっただろ。それに今は戦闘に勝たなければ何も残らない、何も残ってはくれないんだ。


なら、俺達がやる事は戦士達の事をお手伝いするつもりでやるのではなく。如何に彼らの手柄を横取りして、彼らが魔物を狩る前に狩りつくすかが問題なんだよ。その後の結果として兵士が生きているか死んでいるかがついてくる。


「ティア、メイリオ、アルバート、ジーナ、スクイ、リーズ・・・・・・兵隊達が来る前に全て終わらせますよ、手柄は全部僕達のものです」


「は、当たり前だ!」


「分かってるぜぇええええええええ!!!!!!!」


「先ほどの話しはいささか某達の過小評価だな」


「ま、金目のものは全て私達のモノですわ」


「三百枚じゃあデザインが限られちゃうしね~」


「あ、あんた達先生の話し聞いてたの!?」


「まあ、痛みの伴わない説教なんてしてないのも同然ですしねぇ~、先生らしい事したつもりだったんですがぁ・・・・やっぱり皆さんそれを受け止めるほど真面目ではありませんでしたかぁー」


「ちょ先生!?」


リーズは未だに、先生の馬鹿真面目になった時の戯言を聞いている。


「では!はりきっていきましょー!」


『うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!』


『いぇえええええええええええええええええええええい!!!!!!!!!!!!!!』


こうして、俺達の戦いは始まった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「メイリオ、そっちはどうだ」


「巨大な一つ目の人型が見えるぞー。だが他の魔物は小さいのか木の上からは見えーーん!」


「了解だ。マサトラ先生は何か見えますか」


「先生最近老眼で・・・・・」


「冗談を言ってる場合ではないだろ」


ティアが、偵察の司令塔として動く。動きの軽くて素早いメイリオとスクイとマサトラ先生は偵察に出て、ジーナと俺とリーズとアルバートはどちらかと言うと重装備や、魔法が得意なので来たもしも偵察の中から魔物が引っかかれば、即殲滅にあたるという仕組みになっている。


「方向的にはこちらに向かっているようだからそろそろ準備しておいてくださいねえええええええ!!!!!!!!!!!」


「了解しました。コチラは大丈夫ですので、偵察を続けて下さい」


数分後、準備万端の所に魔物達はやって来た。その後、全て殲滅した。余りに直ぐに終わった出来事だったので、さして感想も出てこない。三百体はいたはずが、四人でそれを分けるとなると、少し取り合いになってしまった、というよりもそんなに倒した記憶がない。この数分間を思い返してみよう。


「先ほどとても早いトンボの魔物が行きましたが大丈夫ですかあああああああああ!!」


「猛スピードで突進してきて、見事に僕達の攻撃範囲内に収まってくれました。もう二百キロほど速度が出ていて尚且つ正確なルートを見つける事が出来れば、まだ僕達の近接攻撃の範囲に入れたんでしょうが」


「トカゲの大群が、一つの岩みたいに行きましたよおおおおおおおおおおおお!!!」


「へぇ・・・保護色ではありませんか」


「私はパスですわ、あんな当てにくい的」


「某が参ろう」


アルバートが前にでると、トカゲの大群を見て剣を収める。そして、もう一つの得物を鞘から抜いた。


「アルバート、ソレは?」


「太刀という。某の家と、とある種族の繋がりから巡りあった我が愛刀である。こういった広範囲の敵を切る場合にはコチラの方が何かと都合がいい」


二メートルほどだろう、その現世で定義されている太刀とは違う太刀と言うべきその武器は、細く切れ味のような物を全く感じさせない。しかし、彼が左から右に魔力を込めて全てを薙ぎ払ったかと思うと、トカゲの通って来た大木と大木の間もろとも、トカゲを横にスライスした。


余りにいきなりの出来事だったので、俺達はコチラ向きに倒れて来る大木を避けつつ、アルバートに文句を言う。


「もう少し何とか出来なかったんですか!?」


「服に土が着いちゃったわ!」


「私なんか髪の先っちょトカゲと一緒に切られちゃったじゃないの!もう、アルバートの馬鹿!」


「す、すまぬ・・・・まだまだ未熟故、精進致す・・・」


「結果はともかくよくやったぞおおおおおおおおアルバートおおおおおおおおお!!!!!」


「お、おい!メイリオ!上だ!上に敵が!」


大木に上って偵察を続けていたメイリオの上にモモンガのような魔物が姿を現し、飛びかかっていた。


「はははは、忘れたのか我が盟友!俺が何故偵察組になったのかお!!!!」


「そうだったな、すまぬ」


アルバートが謝罪の言葉を述べた時には既に魔物は地に小さなクレーターを作り、体を横にしていた。メイリオは木に登った状態から、魔物の攻撃を気持ち悪いほど上半身を捻り、カギ爪による攻撃を避けると、捻りを利用した右ストレートでモモンガを弾丸のように地面に撃ち落とした。


「俺のパンチを受けてお前は倒れた、仕方のないことだぜぇぇぇぇ・・・・俺は強いからな」


と、いう事が俺の周りで起こったことだ。どうにも数が足りないのは気のせいではない、どこかで作戦を無視してつまみ食いをした奴らがいるという事になる、そしてどうしてか犯人は分かっている。


その一人が、今ナイフを持った掌についた血をうっとりとした目で見ている男。


「いやぁ・・・・久々に魔物を狩りましたが、胸の高鳴りを感じずにはいられません」


口に血をべっとりとつけた少年。


「ジュルジュル・・・ッペ、・・・・・よし」


「よしじゃないですよ。何二人共つまみ食いしてるんですか!」


「一匹だけと思っていましたが、やっぱり我慢でしたね~はははは」


「お前達の代わりに俺が倒してやったんだ、むしろ感謝されても良いぐらいだと・・・ジュルリ・・・・思うが」


「僕だって我慢してるんです!二人だけはずるいと思いませんか!!!」


「俺ももっと倒しておけばよかったぞぉ・・・・・・・・・」


「私は皮さえもらえれば問題ないし、いいよ~」


「お金!お金になりそうなものはありまして!?」


「あんた達いい加減にしなさい!」


「狩場を移しましょうか。そちらの方が獲物が多いとも言っていましたし」


「早く行こうぜぇえええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!」


「僕も早く魔物を倒したいです!」


本当にこのままではクラスメイトに手柄を奪われる、一刻も早く魔物を仕留めなければ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「状況はどうなん?」


「第一の砦は破壊された模様!現在魔物の群れは第二の砦に進軍中であります!」


「ごくろさん、じゃあそろそろ仕掛けが発動する頃やね~」


光武の策というのは第三まである砦のうち、第一の砦と第二の砦を使用した挟み撃ち作戦だった。第一の砦にもしも兵が残っていたならば、第二の砦の兵と第一の砦の兵とで使用する軍の中で統一された魔導士達によって発動される、超大規模魔法である。


それはその間に挟まれた魔物を巨大な音の衝撃によって倒すというシンプルかつ、強力な魔法。集団で片方が合奏を、もう一方が詠唱をする必要になり、その事から音楽魔法の最終形態とも言われる。


「問題は、第一の砦に果たしてエルフが残っているかどうか・・・」


せめて十人残っていてくれれば、合唱魔法は機能する。しかし、砦に置いた三百人、全てが魔物によって蹂躙されたとしたら。そう考えた時、光武に悪寒が走る。


「成功するやんな・・・」


余りにも危険な賭けだったが、白兵戦の出来ないエルフに残っているのは魔法を使った戦法のみであり、それも数が三倍ともなれば勝つことはまず不可能であり、そんな力を国は持っていなかった。


というよりも、光武が玉座に着いてから数年の間にこのような事は一切なく、それどころか軍の一つもこのエルフの国にはなかった。本当に自然と共に生き、魔物が来れば逃げるという生活を続けていたのだ。

それを変えたのが光武とイザヴァルだった。


光武はエルフ達に木の上に国家をつくり、繁栄をさせてきた。しかし軍を持たないといつ何時敵がせめて来た時に対処が出来ないと、少人数にせよ本格的な軍を作った。戦いを知らない種族に戦わせるというのは、光武にとって苦労の連続でしかなかった。しかし、この数年でここまで国を成長させた光武の手腕というのは天才という言葉だけでは言い表すことが出来ないだろう。


「光武様!合唱魔法が発動しません!」


恐れていた事は、起きてしまった。第一の砦、生存数十名未満の報告。コレで、更に第二の砦を犠牲にした作戦をしなければならない。そうすると、また三百人のエルフが消える。


「合唱魔法を繰り返せ!いるかも知れんやろ!!!」


「ハッ!」


「あの子達も駄目かも知れんなぁ・・・・・ティアちゃんも大丈夫かいな・・・・」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

~一報その頃噂のティアちゃんとアスクは~


場所はここで間違いないようだ。砦は外壁も内側も血だらけになり、肉片やらでアヴァンギャルドなデコレーションがされている。


「とても独創的なトッピングです、ねぇティア」


「これが全てエルフの血か」


「誰も生きて・・・・・・いないようですわね」


「アルバート、少し俺は吐きそうだぁああああああああああああああ」


「メイリオはまだ慣れぬか」


「皆さん、グロイのでみないように~~~~~~~~というには少し遅かったようです」


瓦礫を探してみると次々に出て来る四肢の数々、偶に頭なども出るがどれも干渉用には向かない悲惨と言われる状態になっていた。


「誰か・・・・いるのか・・・・」


「おっと、まだ誰か息をしているようですよ?」


「アスク、何所だ!?」


「この瓦礫の下からですね、よいっしょっと」


そこには下半身は既に切り離され、上半身の身となった中年の男エルフの姿があった。


「俺にはもう目も見えない・・・・だから俺の代わりにこの胸ポケットにある呪文書を・・・・」


息を吐いて、今にも死にそうなエルフ。


「いや、話してる途中で死んで貰っては困ります。ティア、回復魔法をかけましょう」


「このエルフの欠損具合からみてかなりの魔力が必要そうだな。皆を呼んでくる」


直ぐに砦の中を見てまわっていたマサトラ先生や、ティア達が戻ってくると回復魔法を集団でそのエルフにかけた。


「コレだけ魔力があれば、一時的には大丈夫でしょう。血液が流れていないので、血を流さなければ直ぐに死ぬでしょうが」


「コレはどういうことだ・・・・何故私は今目を開けているのだ・・・・いや、そんなことは・・・・・・・どうでも良かったな。・・・・・・・・・・・・コレを見て欲しい」


取り出したザラ紙には魔法の詠唱らしきものが書かれていた。


「これを詠唱してほしい、仲間が・・・・・まって・・・・い・・・・・」


中年のエルフは完全に生物としての機能を停止した。


「さてと、これを詠唱してほしいというのが彼の最後の望みだそうですが、皆さんどうします?」


「アスクさん・・・・・俺は・・・・・・・このエルフの中に漢を見ました・・・・・してやりましょうよ・・・・・死んでいった彼らに向けた鎮魂歌(詠唱)を!」


「泣くな、メイリオ・・・・某も・・・・・うぅ」


「こんな目の前で沢山の人が・・・・・グスン」


「こんなのあんまりだよぉ・・・・」


「悲惨な・・・・光景ですわね・・・・」


「勇者が来た時の事を少しばかり思い出したわ・・・・」


「これが魔物の力・・・・か」


「皆さんは泣ける時に泣いて下さい。その痛みは必ずあなたたちの糧になりますから」


皆さんたった一人が目の前で死んで、このありさまである。よく外壁にいた何百人もの死体を見て泣き叫ばなかったものだ。


「僕は詠唱をしているので、タイミングを見計らって涙を拭いた人から詠唱に参加してください。えぇっと、・・・・・これは恥ずかしいですね、ティアの剣を呼び出す呪文のようです。・・・コホン、では。」


「大地は歌う、振動するは生命の脈動、刻み込むは勇士集いしもの達とのに生じる災厄、揺らぎは大海を裁き連ねる、揺らぎは山を裁き連ねる、揺らぎは空を裁き連ねる・・・・」


「我ら断罪を願いし者は災厄、彼方に見える災厄に延命なき絶望を願う・・・・・」


「願うは絶対なる支配者ユグドラシル、万物にして我ら大地の守り神・・・」


「海と山と空を震わせ、今災厄に与えん、絶対の虚無!」










              『ナハトグラオザーム・モルト・レルムリート!!!』



















※2017 7月 21日 大幅修正&超加筆

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