クレウスの鬼畜特訓
少し長くなってしまいました。
「勉強は終わったか?」
(こいつさっきからずっと部屋の前で待ち構えてたのかよ・・・)
「はい、今日という日を楽しみにしていました」
「そうかそうか。クックックッ・・・今日という日を心待ちにしてたんだぜぇ?なんたってパパの息子だからなあ・・・ビシ・バシいくぞ?」
「初めだから基礎的なことから教えて下さい」
「そりゃ無理だな。父さんは基本を知らねえ。さ、訓練室に行くぞ」
逃げられないように腕の関節を掴まれながら、俺は訓練室といわれる場所まで連行された。
「よし、ここだ」
「お父様これは一体・・・」
「すごいだろ、たぶん世界中探してもこれほどのものを作れるものは世界にごくわずかだと思うぞ」
扉を抜けて広がっていたのは、石の壁で出来た広い空間と、入った途端嫌でも目に入る横一列に並んで配置されている大量の人形の数々だった。
石と石との間には隙間は存在せず、コレを原始的に行うには、ある程度形がピタリとなりそうな石と石を選び、その両方を小さな石で叩いて加工してピタリと合わせるしかない。一体どれだけの労働力を使ったのか見当もつかない、クレウスの権力の象徴とも言える部屋だ。
人形も精巧に作られており、服を着せていれば人間と区別はまずつかない。顔のパーツや体のパーツも丁寧に作りこまれて、大きさや形も様々、匠の深いこだわりのようなものを感じる。
「人形が沢山ありますね」
「なに言ってるんだ、俺が用意したんだぞこれが唯の人形な分けねえだろ」
「ではこれは訓練に使うのですか?」
「お、察しがいいな、まあこれを使うのは多分もう少し先だがな」
あまりに繊細に人間の形をしているものだから、夜にみるとちょっとしたトラウマになりかねないだろう。肌触りなどは本物の人間そっくりに出来ている。
「今日は一通りの訓練の流れから教える、それをこなしてまだ元気があるようならば父さんが遊んでやろう」
「分かりました」
遊んでやる・・・か。楽しみだ。
「とりあえず聞くが、アスクは走るのが好きか?」
「はい、歩いているだけで楽しいです」
実際に歩いて別の世界に触れ続けている事に俺は新しい喜びを感じていた。
「じゃあアスク、とりあえず自分が疲れて動けなくなるまでこの部屋を走れ、パパも一緒に走るから」
「え、ここですか?」
(部屋の奥が暗くて見えない地下鉱山のようなココを?)
「さあ、早く準備体操ができたら走るぞ、パパの真似をしながらついて来たら良いんだ」
「は、はい!」
暫くして、息絶え絶えで視界も朦朧とし始めた時、クレウスは走るのを止めた。三十分以上は走り込んでいただろう。とても四歳児の運動能力とは思えなかったが、この世界でステータスという追加の能力値補正があるおかげで、この長時間も運動が出来たのだろう。しかし察する事は出来ても理解するまで相当な時間がかかるような気がした。
「おお、さすがパパの息子だな、だけどなあ、走りに無駄がありすぎるなぁ、よし、少し俺が走るのを見てろ」
そういうとクレウスは俺が目に追える速さで走った。
(てかなんで走った後なのに汗1つ流してないんだよ、化物め)
「まぁ、こんな感じだ」
何所を走っているのかが見えただけで体をどう動かしていたのかは早すぎて全く目に追えるものじゃなかったぞ。
「これを真似してあと10周走ってこい、そしたら次は大剣の素振りをするぞ」
(四歳の子どもはそれぐらい出来るのがこの世界の基準値なのか?それなら、早々にカティウスの提示した異世界の平均男性のステータス表記は嘘っぱちということになるが、どっちが正しいんだ?)
「さあ、いったいった」
「ぜーはーぜーはーぜーはーぜーは・・・・・・」
視界が上下にふわふわしつつも、四歳児は根気で何とか走り終えた。俺の知る四歳児の行動力のソレを遥かに凌駕しているが・・・多分この世界ではこれも普通なのだ。
「ふー・・・・・ふー、終わりました・・・」
「おう、お疲れさん」
自分だけ革の水筒で水を飲んでいるのに気が付き、不快感を顔に示すと、クレウスはその水筒を俺に渡して来た。
「別の水筒はないですか?」
「とって来ないとないな」
「じゃあもういいです」
「別に父さんので良いじゃん・・・」
「よし、じゃあ次はこれをもって見ろ、父さんの予想では多分何度か振ってるとその内使いやすくなるだろ」
(やっぱりコレを持つのか・・・重たそうな大剣だな。鑑定で重さとかは分からないのか?)
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■鉛の大剣?(標準)
効果:特になし
材料:鉛
説明:クレウスが大きな鉛を圧縮して大剣っぽくしたもの、とても重い
重さ:鑑定レベルが足りていないため表示できません。
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あ、圧縮だと?一体この世界にどこにそんな技術が・・・。
「わかりました」
手に力をこめ、怪我をしない程度の力で持ち上げようとすると、当然持ち上がらない鉛の剣。それからすこしずつ力を加えていき、歯を食いしばり始めたところで、重い何かが持ち上がるような感触が手首から首へと伝わる。
首がピーンと張ったような感覚に襲われつつ、それでも諦めず歯が折れそうになるほど食いしばって、眉間に皺を寄せ、目を萎め、全力の一歩手前まで力を加え続けると、手の先にある鉛の塊のように思えた大剣は唸るようにズリズリと地面から離れ、空中にぷるぷると持ち上がった。
それを近くで見ていたクレウスは面白いものでも見るように見続けると、今度はその鉛の塊をゆっくりと地面に置く用に言った。
「本当に持ってしまうとはな・・・父さんは少しだけ驚いたぞ。それじゃ10回ほど父さんを真似しながら振ってみろ」
言われるがままに鉛を持ち上げ、ソレを上下にしようとすると、当然ながら体が持っていかれ、武器に振り回せてしまう。が、しかし此処で不思議な事が起きる。恐らくはコレがスキルの証明であり、ステータスというものなのだろうが、段々と剣が振れるようになって来る。それも物凄い早さで。
「信じられん奴だな、もう既に剣術と大剣術があるじゃないか。しかも身体能力強化もスキル欄にあるぞ。・・・後は鑑定と看破だな、それとどこで手に入れたのかレベル十二の薬学スキル。アスク、今度ネルの所にも連れてってやろう、お前のそのスキルを活かせるのは多分コイツのとこぐらいだ」
「え、お父さん僕のステータスいつ見たんですか?」
「・・・もう一度行ってくれ」
クレウスが緊張しているように見える。
「え?」
「お父さんともう一度いってほしい」
「お父さんがいいならいつでもそう呼びますよ、お父さん」
「お、おう、そうか」
(ジャバのとこの嬢ちゃんがジャバをお父さんってよんでたからあこがれてたんだよなぁ)
お父さん呼びが気に入ったようだ。なら俺は今後からそういう呼び方で呼ぶことにしよう。お母さまは・・・やっぱりお母さまだな。
「話がそれました、お父さんはいつ鑑定を?」
「ん?あーそれか、パパは鑑定の最上位の森羅万象というスキルがあってな、そのスキルのおかげだ」
スキルにも上下関係があるのか・・・怖い世界だ。
「さすが、お父さんですね」
「ははは、これでもトップのギルドマスターだからな」
「ちょっと自分のステータス見たいから休憩しても良いですか?」
「あ、今日はもう終わっていいぞ。明日からは早朝に限界までダッシュをして素振りを毎日10000回してからご飯を食べに来なさい」
「出来たらします」
主人公の新しいステータスがついに明らかに!ステータスと一緒に魔女のネルさんの部屋にも行きます。