ムズィーク王国編 その3 集合
ムズィーク王国に来てから数時間後、俺達は広場付近の商店などで何が売られているのか見物しながら他のメイリオや、アルバートなどが到着するのを待った。
商店に売られているモノは食べ物から衣類まで見た事のない面白いモノばかりで、中でも果実や植物が普通に売られているという事に俺は感動を覚えていたのだった。
「これも・・・・・これも見た事がありません。それにコレは希少でSランク冒険者の報酬になる、高い薬草・・・・・・それがこの値段ですか」
ちなみに買う事は通貨の関係上出来なかったが、どこかで両替する事が出来ればこれを手にいれる事も出来そうだ。これがあれば少し変わった症状の毒薬を作る事が出来るので、その研究もしておきたかったのだ。
俺達の国で、ジュニパーベリーという名で売られている実だが、とても高値で取引される。俺はよく知らないが、貴族の間でお茶として飲まれる事もあるらしい。
「何をそんなに見てますの?」
背後から、何やら声がする。ティアでも無ければマサトラ先生でもない若い少女の声、そして俺はこの声をよく知り、よく聞いた事がある。口を開けば領民の安全と幸せの為だと、竜王を討伐するというセレブなお猿さんである。
「おさ・・・・・ジーナ」
「アスク、今貴方失礼な事を言おうとしましたわね?」
「現実とは言いたい事も言えないものなんですお猿さん」
「貴方が庶民なら私貴方を牢獄にぶち込めましたのに。残念ですわ」
「俺がお前を牢獄に入れてやっても良いんだぞ」
「嫌ですわ~貴方と私の中じゃないですの~オホホホホ」
そういいつつも土下座の体勢を作り始めているコイツのプライドの無さには俺も驚かされる。手はガタガタと震え、祈りのポーズから手を解こうとしない、だれかこの少女をどうにかしてほしいです。真面目で正義感が強い所は素直に良い所だとは思うが・・・・何というか、アホでマヌケなんだな。
それにホラ、向こうからティアがやって来た。この状況を見ればティアは俺を叱りつけるだろう、昔ドラマで見たオカンのように。そう、昭和のオカンのようにだ。吸血鬼というオカルトの王様にこれはダメあれもダメと、ガミガミと言われるのは恥ずかしいのだ。早くここに座っているお猿さんをどかさなければ。
「たって下さい、ティアがコチラに歩いてきますから。早く立たないと、次から本当にジーナの名前をシルバーモンキーに変更しますよ?」
「シルバーモンキーは止めて下さい!―――――そういえばティア様や他のお方と話す時は今と同じように何故お話にならないのです?」
「皆さんといる時は僕はアスクレオスですから。余計な詮索をするのであればジーナのファミリーネームをシルバーモンキーにしてきますが?」
「そそそ・・・・そんな事いくら公爵様の息子だからって出来るはずありませんわ!」
「へぇ~・・・・ほぉ~・・・・それでお前は僕に何か聞きたい事がありますか?」
「ないですわ!」
「ご機嫌よう二人共、いつの間にそんなに仲良くなっていたのだ?アスク、意外とお前は侮れない奴だな。クラスのマドンナとここまで中が良いとは」
「クラスのマドンナだなんて、そんな・・・・」
「あり得ませんよ、うん。ティア、きっとどこかで誤情報でも得て来たんですね。クラスで一番のマドンナはティアでしょう?」
「アスク、お前のそのどっちにも喧嘩を売っていくスタイル、俺は嫌いではないぞ」
「アスクはこの機会に少し私の事を見直すべきですわ~!おーっほっほっほっほ!」
騒がしい猿は放置し、残りの生徒も続々と集まって来たようなので一度ティアと共に広場に集合する。後ろから「お待ちなさい」などと、高い声が聞こえてくるが無視だ。
「えーでは皆さん集まったようなので、今回皆さんが決めたテーマである野菜の探索を開始してください。あ、それと各自で休憩をしっかりと挟んで水分補給を怠らない事」
正虎先生の指示の後、俺とティアはこのまま植物が生えているであろう、この大きな大樹の周辺を探す。メイリオとアルバートはまだこの国のエルフ語を話せないので、勉強をしてもらう。
待っていた間に簡単な会話には困らないように資料を作っておいた。後で合流出来たら、その時はパーティーを組んで森の奥に行ってみようという考えだ。
この国にはギルドが無いので、外部の者がどうやって貨幣を手に入れるかというと、ソレは物との交換だ。それも宝石などは喜ばれず、魔物の皮などが比較的に好まれる。
「アスク、ここら辺の薬草はまだ小さいぞ。恐らくここら一体の植物はエルフによって管理されているのだろう、探すならもっと奥の方になりそうだな」
「でしたら僕達も一度、情報収集から始めますか?」
「そうするしか・・・・・・なさげだな」
ワープにより、一度大樹の上まで帰ってくると、何所に聞く事が一番手っ取り早いかという話になった。
「なら挨拶もかねて国王の所にでも聞きに行ってみるか、この国の王ならばここら辺を良く知っているだろ?」
「多分それは無理と言うか不可能だと思いますよ、ティアも仕事の最中に見知らぬ客人が来たら追い返すでしょ?」
「当たり前だろ、ただでさえ忙しいのに・・・そういえば俺のいない間の仕事って誰が・・・・・・・大臣達よ、悪く思うな」
コイツ自分の立場をまだしっかりと理解していないのではないだろうか、しかし国のトップがこれで吸血鬼の国は大丈夫なのだろうか?
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門の前には四人の門番と、数匹の角を持った大型のネズミが警備をしている。とても厳重に守られているが、そこまで見張りの兵や魔物が必要だろうか?
調教された大型ネズミはかなりの高レベルに見えるし、兵士のレベルも高いのは間違いない。エルフだと思って痩せたイメージを持っているのならばその考えは捨てるべきだろう。胸筋のある、引き締まった筋肉が特徴の細マッチョエルフ、マッチョフとでも命名しておこう。
そしてここの門番の使っている武器からしてもこの国の独特な文化がうかがえる。左右二人づつ配備された門番は、それぞれ違った楽器を所持しており、これは看破のスキルを使って分かったことだが、それぞれの楽器の中には仕込み刀があったり、出す音を細工してモノを切り裂くように出来ていた。
「あれはバイオリンにチェロに・・・後二つは何だ?」
「縦笛と三味線ですね、この国にはまだ知られていない楽器なども多くあるのかもしれません」
他に服装や髪型も違い、この世界の基本は髪型がくせ毛とかではない限り髪をあまりいじることは無いが、ここの門番を見ているとこの国のエルフの髪型ははるかに進歩していることが分かる。
「後ろにウェーブがかかっている・・・しかもこっちは・・・三つ編みをねじって団子にしてるのか・・・ゴニョゴニョ」
「アスクは女性の髪型に惹かれるタイプか?」
コイツ・・・・・・マセてやがる。いったいなにを言っているのやら。
「ちょっとこの国の文化の発展を目のあたりにして驚いていただけですよ」
「そうか、ではとり会えず門番に話をしなければ話が進まないぞ。いろんな意味でな」
そういって、ティアは俺に初対面のエルフと会話させたいらしい。俺がコミュ障と知っていてこの仕打ち、到底許せるものでは無いだろう。
「あの、外から来たものですがエルフの王に面会する事は可能ですか。他国の王とその友人なんですが」
「そ・・・外の世界の王!?しょ、少々お待ち下さい」
門番は手に持ったバイオリンを鳴くような音でならすと、足に魔法がかかり、その魔法で滑るように城の中へと姿を消した。
どうやらこの国のエルフは楽器を演奏する事で魔法を発動するらしい。
「申し訳ない、我らも外の住人と対面するのは余り慣れておらず、どのように接していいか分からない。そちらから挨拶に来て貰った事を渡した達は嬉しく思う、しかし何故今きたのだ」
「急な来訪で戸惑う気持ちも良くわかる、だが外との交流が殆ど無いエルフの王と直接話をするにはこうでもしないと会えないと思ってな。だが、今回は王というよりも学生として会いに来たつもりだ」
「がく・・・・せい?ですか。それはどういった仕事なのでしょうか」
「そうだな・・・・・・行ってみれば他国の歴史や、魔法についての関心を深める仕事だ。外の国で裕福な子供などは幼少期から他国との繋がりを大切にするよう教育を受けている。そして今私達は学生の身で林間学習という仕事の一つとして、貴方達と交流を深めれば良いという考えでやってきた。これぐらいでお分かりいただけただろうか」
「外の世界でそのような事が・・・・。随分と平和になられましたね」
「あぁ、平和だよ。数十年前はそうでもなかったみたいだがな。今は飢えに苦しむ民も少ないと聞いている、誰もが生きる権利を持ち、誰も奴隷落ちにならない。良い世界だ」
ティア達魔族には奴隷狩りを受けていた記憶が残っている。ティア達の親の代は、そういった時代に生きていただけあって、人間を恨んでいる奴もいるだろう。それを分かっていて、人間の国の人間の学校に放りこんだティアの父は相当な変わり者と今ながら思う。
「そういった世界に憧れて最近森のエルフが外の世界に出るという事が増えまして・・・。先ほど見かけた銀髪の少女はお知り合いでしょうか」
「ジーナの事でしょうか」
「彼女もエルフの混血ですね、少し耳がとんがっているのがその証拠でしょう」
「外の世界への憧れか、まあ俺達もエルフの住んでいる場所がどういう所か気になってはいたからなこの機会に友好的な関係にもなっておきたいところだな」
「それはこちらにとっても喜ばしい話です」
「それに何といっても・・・」
「そう、なんといっても・・」
『人間は美男美女が多いですから!』
俺が考え事を止めてみてティアとエルフ達門番の話に耳を傾けてみたら会話の方向がえらくずれてないか?
「見た目や容姿の価値基準も違うのか、まぁ俺も人間では無いからよくは知らないが基本的に人は魔族の見た目を恐れ、エルフの見た目を好むからな・・・」
「魔族の方々にはまだ数人の冒険者としてしかあったことがないので今後は交流を交えてみたいものです」
「それなら俺たちの吸血鬼の国と友好条約でも結べないか王に提案してみるかな」
「ティア、そろそろいい加減にしないと後始末が大変になりますよ、色々と」
「う、まあそういう事だ、俺一人で決めて良い事には限界があるからな、この話はまたこの国のトップとする事にする」
「あ、先ほどの門番が帰って来ましたよ」
俺だと門番の会話が出来ないとティアが思ったのかどうかは知らないが、俺、途中から空気だった。




