神様の転生部屋で その3
とりあえず俺自身もスキルの貸し方が初めてだったので、天使に頼んでその事が書いてある紙を用意してもらった。
「えー、じゃあとりあえず僕の火属性魔法をいくつか見せるで、それでどれがいいか選んで下さい」
どうやら魔法を貸すことについては自分が一度使った事がある魔法に限り、そして貸した魔法は違った創造の仕方をしても貸した相手からしか発動出来ないらしい。
しかも俺自身魔法はあまり使わない戦闘スタイルだったので創造から始める事にした。
(とりあえず適当に魔法っぽい名前言ってそれっぽいイメージの現象を起こせばそれでいいよな)
「ファイヤー」と、言いつつ手から火を出す。
そこでソフィアナは「おー」と言ってくれると思っていた。
「なんかさっきのよりしょぼいね」
・・・「ピュロマーネ」
先ほどよりも少し手に魔力を集中させすぎたせいで手が炭化したが、どうやら出来たようだ。
「ど、どうですか。これが一番可愛くないモンスターですよ!?」
「は、早く消してよーーーー!!」
我ながら餓鬼相手に何をしておるのだと嘲笑したくなるが、こういった大人げない人間もいるという事を彼女に教える為のものだ。決して自己満足の為ではない。
「もう火の魔法はいいです、回復魔法を教えて下さい」
俺は知っている、メロエでも時々なるが女が男に対する好感度が限りなく下がるとその相手に対する言葉使いが敬語に代わるやつだ。・・・完璧にさっきのはしくじったな、とりあえず回復魔法で挽回するか。
「じゃあとりあえず今の俺の無くなってるこの右手があるから治すね」
俺はそういい右手を出すと既にベルトと痛み止めでかけていた魔法が少しずつ腕を再生させ始めていた。
・・・・あ、これダメなやつじゃないか?ほら肉とか骨がかなりグチャグチャいわせながら再生してるぞ、あ・・・ソフィアナが倒れた。
「ししし・・・・・しっかりしろー!!」
「アレ・・・・アレは?」
「ほらー、もう綺麗に治りました」
ソフィアナの恐怖と軽蔑が入り混じった目で見られながらも何とか回復魔法を見せた。
「とりあえず回復魔法だけで良いんで、後何か他に友達が持ってた才能とかくれませんか」
敬語が胸に刺さりながらも才能のつけ方の紙を見ながらいくつかの才能を付け、そのままの体で行くか他の誰かの子供として生まれるか選んで貰い転生してもらった。
「やっぱり私一人で生きていくのは難しいとも思うし。記憶もあるんだから転移じゃなくて転生でお願いします」
彼女が光に包まれ、消えた。俺の仕事もこれで終わりだ、後は彼女が世界を救うという大役を持って頑張ってくれるだろう。
「女の成長・・・恐るべし・・・だな」
部屋から出るとリョウが、「お疲れー、長かったわね、どうだった?」と聞くので、「ええ、結構冷たい感じのいい子でしたよ、無事転生もできました」と返すと、リョウは「え?転生させちゃたの?」と、驚いた様な顔で此方をみる。
「無理矢理転生の門を開いちゃったの?」
「ダメでしたか?」
「あのね~、勇者っていうのは活動しやすいように秘境とかで生まれるようにするの、それを無理矢理開けちゃったら一国の王の娘とか奴隷から始める事だってあり得るのよ!?」
ちょっと来なさいと、転生の門の近くにある記憶持ち転生者の名簿を見ると、どうやらソフィアナは異世界にある一番大きな帝国に第一王女として生まれたらしい。奴隷じゃ無かった分だけマシだろう。
「ほら~こういう事になる、異世界の常識がコッチで通用すると思ったら大間違いよ?あの世界のあの帝国は滅びの一歩手前って感じなんだから」
とんでもない所に転生させてしまったー、おれはいったいどうすればー。
「僕は一体どうすれば・・・・・・なんてことをしてしまったんだ」
「生まれは巻き返せないわよ、もう生まれちゃったんだから」
「僕が何とかしないと・・・・」
「当たり前じゃない、転生した者の責任は転生させた者の責任よ」
「は?・・・・でもさっき言ったのは何というか、流れ的な・・・・い、嫌ですよ?」
流れに任せて口を滑らすなんて人間だからよくある事じゃないか。うん、神様にはそれがきっとわからんのですよ。どうせ本当は何所に生まれるか分からなかった命。ならば運命とやらにかけてみるのも悪くはないではありませんか。
「こらこら待て待て、責任・・・・とってよね?」
微笑む彼女の顔は俺には般若を想起させる。不味い、非常に不味い。
「僕の辞書に責任を取るという言葉はありません、なので意味を理解する事も・・・」
「なら今から理解しようね~、まだアラフォーだし知らない言葉も多いのよね。うんうん」
「すいません、ならちょっと辞書の買い足しに行って来まーす」
「オイこらちょっとまて。様子見に来るだけで良いから、本当に。頼むよぉ・・・・」
もう何もかも滅茶苦茶だ・・・・・・・帰って温かい紅茶を飲んでレポートを読みたい・・・・。天界から下界に逃げ、家に帰ると空気が初めて美味しい事に気がつく。
「あら~アスク今までどこに行ってたの?」
「母様、天界というのは息が詰まりそうな所でした」
「あら~そうなの~楽しかった?」
「疲れました」
「うふふ、お疲れさま。明日からまた学校が始まるから寝坊は駄目よ?」
俺の夏休みは転生部屋にいた時間が長すぎたせいであっという間に消え去っていた。
・・・宿題忘れてた。




