お勉強の時間 領地編
領地について書いていきます。
「・・・次に領地についてお教えします」
「手短に頼む」
四歳児の言葉と態度に見えなかったのか、シンリーは唖然としてその言葉を飲み込むと、咳払いをし、説明を始めた。
「まずはこの土地の良いところからお話しましょう。この土地には様々な観光地・・・・楽しいところと思って下さい。それが沢山あるのです。それはもう他の領地とは比べられないくらいに」
「観光地・・・」
自分の手には大きすぎるペンで〔チャプチャプ〕とインクを付け、その先でぐるりと棒人間が楽しんでいる光景を書く。
「お上手です。次に冒険者の数が他の領地よりも格段に多いということも、良い点の一つに挙げられます。その理由として、先ほど話した塔とダンジョンが関係してきますが・・・覚えていらっしゃいますか?」
「塔が人為的に、ダンジョンは自然的に発生する・・・みたいな感じでいいのか?」
「む、難しい言葉をよくご存じで。公爵様の真似ですか?」
「お父様はこんなに賢い言い方はしないだろ、窓の外にいたおじさん達の話し方を聞いたんだ」
「もう簡単には驚かなくなってきましたが・・・凄い吸収力ですね」
「ありがとう」
こういう褒められ方は嬉しい。心の底がポカポカするみたいだ。
「ええ、これからも頑張りましょうね(テレ顔は随分と可愛いのね)。お話の続きですが、公爵様の所有する領地にその塔やダンジョンといった建造物が世界で発見されているモノの四分の一を占めているということが、この土地が繁栄を続けられる基盤の一つといえます」
「難しい言葉じゃわからない・・・もっと簡単な言葉で話てくれ」
褒められた礼として、困った顔と困った声で質問をする。人に頼られたことが俺はまだないから、多分これと同じことを他からされれば少なからず悪い気はしないはずだ。この女性が幼気な少年と同じモノを好むとは思えないが、コレが精一杯の今の俺からの礼だ。
「うりゅ・・り・・・」
涙も出そうと思ったが、無茶をした。吐気を感じると共に変な声が漏れる。
「も、もうしわけございませんアスク様、そ、そうですね・・・なんと言いましょうか。めっちゃ凄くて皆幸せー・・・・みたいな感じ・・・です・・・」
どうしたと言うのだろう、シンリーがいきなり馬鹿みたいな言葉遣いで抽象的な言葉の羅列を始めた。
「シンリー、それじゃあ意味が分からないよ」
「ッチ・・・」
小声でシンリーが俺に悪態をついた気がしたが、きっと気のせいだろう。元々育児教育には不向きそうな、何人か既に殺しているであろう凍てついた目をした女性だったから、別に今更なにも違和感を覚えたりはしないが、それでもいい気がしないのは確かだ。
「シンリー、俺はもっと勉強してシンリーの言葉も分かるように賢くなるよ」
「えっと・・あの、ありがとうございます?」
自責の念にでも駆られたのか、普段は涙の一つ見せないシンリーの瞳に涙が浮かんでいる。こういう時に俺はクレウスからこういうように言われた事がある。
「まあ涙ふけや。俺も悲しくなっちまうだろ?」
その言葉が彼女の涙腺を決壊させた決め手になったのかどうかは分からないが、静かに涙を拭きつつ、シンリーは失礼しますと扉をしめて出て行ってしまった。家庭教育用のカリキュラムに一通り目を通し、俺が今勉強していた続きの文章に目を通す。
(人族語は不思議で、アルタイ語系かと思い気やそうでもない欧米の言葉が混ざっていたりと複雑な形をしていたが、そこらにあった本で何となくの形を覚えていたおかげで、慣れるのにさほどの時間はかからなかった)
【ギルドマスター、クレウス・ワイズバッシュの本拠地であるために、憧れ、利潤、情報量の多さからもこの領地に長く滞在する冒険者が多く、その冒険者を取り締まる治安維持の騎士も、当然多くこの領地に入って来るため、他の領地よりも高い治安水準を毎年示している事が、国の審査から明らかになっている】
これを見る限り冒険者に良い印象は持てないな。冒険者は治安を悪くする要因の一つになり得ると国は考えている。ヤの付く自営業のようなものと考えて良いだろう。彼らが治安を維持することもあれば、ソレを取り締まる騎士も多く、結果的に領地は治安が良いと・・・そう言うことか。
「じゃあ俺の親父は組長ってところか・・・ふぅん、ちょっと考え直すか」
自分の親は出来るだけ綺麗な方が見習うにも気が引けないだろう。俺の父さんは国を守るヒーローだ。
お次は国とお金についてです