夏休み 七日目 聖都到着
「待たせましたか?」
そういったのは、早く起きて来たつもりが既に馬車の列が出来ていたからだった。昨日ワープで消える前に、朝にここで待っていると伝えただけで正確な時間帯を教えて無かった事を俺は少し悪く思った。
「いえいえ、御同行していただけるだけでもありがたい事ですので。あ、コチラは私の先生にあたるサヴァイブ大司教です」
「貴方は確か死んだ司教様の後ろにいましたね」
自分で言うのもアレだと思ったが、正直な感想としてコイツ二、三人やってそうな奴だという印象だ。前科持ちの顔というか、悪人面というか―――例えるならそう、細マッチョの極道。ニコニコはしているが、ローブの下に凶器をいくつか持っているのが分かった。そんな危険人物がまさかシスターの上司とは。
「お話を聞いた時から一度お目にかかりたいと思っておりました、サヴァイブと申します。長話もする暇もなく、とても残念に思います。馬車の支度は整っておりますのでどうぞお乗り下さい。それと―――途中少し馬車が揺れるかも知れませんが、気になさらぬようお願いします」
声が低く、重低音でゆっくりと話すのでその人を人一倍大きく見せるような迫力がある。
「揺れるというのは?」
「それについては私がお話します」
何かを隠すようにして、大司教の前に出るとシスターが説明を始めた。大司教も別にそれを拒もうともせず、シスターの説明を聞いている。
サヴァイブ大司教の存在感があり過ぎて、一般的な身長であるシスターの上から何か巨大な魔物が召喚されたのではと疑いたくなる。勿論説明は殆ど聞いておらず、大事な部分だけ聞き漏らす事なく聞く事が出来た。
「聖都の周辺の森には世界中から聖都に救いを求めてやってくるアンデット種がいまして、それが溜まりに溜まった結果、聖都の回りは大変危険な場所となってしまいまして」
アンデット種とは魔物の種類の一つに該当する。魔物の中にも獣や虫がおり魚や人型もいる、ようはこの世界の魔物とは動物の上位互換と言ってもいいのと俺は考えている。しかしその中でも異端というか、興味深い話だが、人間によって生まれた魔物も多く存在するのだ、今回がその一つのアンデットと言われる魔物だ。
アンデット種の元となるのは、人間の負の感情・・・などでは無く。未だ解明されていない謎ではあるが、人間の死体を媒介として何者か、あるいは何かの現象によって魔物化をする。
しかも不思議な事に魔力で動いているので、魔力が無くなると自動でまた死体に戻り、また何らかの現象が起こればまた魔物としてまたこの世界で動くようになる。
聖都の周りはそんな厄介極まりない奴らに包囲されているという。大丈夫だろうかそんな所にいって。
「駆除はしないんですか」
「アンデットとはいえ元は人であったもの達が魔物によって操られているだけですから。教皇様の主な仕事にアンデット駆除がございますが、それ以外ではアンデットの中に高レベルが存在するというのもあって、近づかないように生活しています」
アンデットにも縄張りのようなモノがある事に少し驚いた。というか集団行動をとるアンデットとか恐怖だな。見方がアンデットになるとかゴメンだぞ俺は。
「教皇様も中々大変ですね、死ぬ危険性もあるというのに」
「その点についてはご心配ありません、教皇の称号を持つものは聖都最強の証、ですので教皇様が駄目なら私達はより戦ってはいけないのです」
この世界って以外と個人的な力量によって地位とか決まったりするのか?それとも環境が整っているからこそ、そういった最強が生まれるというのがあるのか?どちらにせよ教皇が死ねばその聖都は大パニックになるわけだ。何とも危ない都だなオイ。
「そうでしたか・・・・なるべく見つからない事を祈るのみですね」
「そうですね」
馬車は昨日と同じようにシスターの横に俺を乗せながら、のんびりとした平原を走っていっていた。馬車の列の先頭からベルの合図が響くまでは。
「そろそろアンデットが出現する地域に出ます」
「分かってます、ならこんなに鳴らしていてはアンデットが寄って来ませんか?」
「その心配はありません、あれは生きているものにしか聞こえる事がベルなのでアンデットに囲まれる心配はありません、それに聖都の門にさえ入ってしまえば後は門番が何とかしてくれます」
「門番?」
「門番は聖都の研究グループが開発した魔導人形の事です。門に近づく魔物やアンデットを感知してその個体だけを魔法で吹き飛ばすという最新の魔法式で出来た人形なんです」
その後もシスターから聖都の事を聞いていると、かなり遠くから凄い勢いでアンデットの大きな軍団が此方に向かってきているのが馬車から見え、シスターにその事を告げると、どうやら教皇様が集めただけらしい。
凄い事だが状況が状況なだけあって早く教皇様に滅してもらいたい。完全に骨になってくれているものはあり難いぐらいが、悪い例として、微妙に腐りかけのゾンビなどはグロく、まともに見ていられないほどえげつない姿をしている。
段々とこちらに軍団が近づき流石に何かおかしいと馬車の先頭が気付いた時には既にもう遅く、地面から這い出たアンデットに馬車の車輪が絡まりドミノ倒しのように馬車の列は全て停止してしまった。
「アスクさん、私達夢でも見ているんでしょうか」
「夢は夢でもこれはかなりグロい悪夢ですね」
「私達の役割はあなたを聖都の中にまで入れる事です、さ!急いで!」
シスターは修道服の下を破き、俺は至高のブーツの適応能力で羽を足に生やしその場から聖都まで走った。途中でシスターが息切れを起こしへ垂れ込む事故もあったが何とか聖都の門までやってきた。
「ハァ・・・ハァ・・・やっと着きましたーーーー」
「シスター大丈夫ですか、顔が真っ赤で汗も止まってませんが」
「このくらい・・・何とも・・・・・・ケホッケホッ・・・日ごろの運動不足を・・・痛感させられます」
笑顔で、へたり込んでいるシスターに手を貸そうとすると無機質な声でコチラに警告するような音を出している。どうやらゾンビが門の手前にまで来ているようだ。しかしそれも安心だろう、シスターもここまでくれば問題無いと言っていた。
『ハイジョーハイジョー』
向けられたその腕にはフリーガーファウストのようなモノが構えられており、その照準は俺に向いていた。気付いた時には既に遅く、俺は空の旅をしていた・・・
アスクの笑みは魔導人形の判定に魔物として出た様です。




