夏休み 晴天の霹靂
予期せぬ事がアスクの身の周りで起きていく・・・
客が多く来る時間帯を過ぎると、ジャバは残り物で素早く料理を作り、無言でメロエと俺、その他料理人やウエイター全員に皿を振る舞い、厨房の奥に消えて行った。クレウスの前では、楽しそうに話していたジャバだが、ココでは厳格な料理人の一面を垣間見たような気がした。
黙々とそれぞれが食べ始め、時々ポツリポツリと会話が生まれるが、直ぐに疲れのせいか手を動かし、口に料理を流し込む料理人達。そして椅子に座ったまま、一人、また一人と仮眠をとり始めた。
「アスクも時間が悪かったね・・・でも、来てくれて助かりました。ありがと」
「気にするなぁ・・・俺も目的の食事を済ますことが出来た」
「アスクも眠たくなってきちゃった?」
「かも知れん・・・。お茶」
「ハイハイハイ、冷たいのでよかった?」
「あぁ、ありがとう」
グッと飲み干すと、凍えるように冷たい水が喉を通る。熱い体にこの一杯は、十分に先ほどまで感じていた眠気を奪っていった。
「くっぅ・・・・」
強烈な痛みが脳裏に走る。こ・・・コレは・・・
「クスッ―――沁みちゃった?」
「ああ、アイスクリーム頭痛だ・・・フッ・・・【フロスト】・・・」
額に小規模の氷魔法を生成し冷やすこと数秒。
「ハァ・・・」
「治まったみたいね。そういえば、お腹はもう一杯になった?」
「あぁ・・・そろそろお暇させて貰う」
「え・・・?」
「眠たい」
「ちょ・・・・えーと・・・ベットあるけど?」
「何言ってんだ―――じゃあな」
「まっ―――」
長い廊下を出て扉を開こうと手を掛けると、外側からの強い力に、ヨロリと後ろへたじろぐ。外からは大勢の関係者と思われる者達がなだれ込んできて、廊下を埋め尽くしていくのをただ、ボーと眺めていた。
「ジャバさん!!!!大変だぁ!!!!捕獲していた魔物たちが全員食われとる!!!」
「全滅だっ!!!急げジャバさん!!!俺達にオーダーをくれ!!!」
どうやら魔物の群れがこの街に潜伏していてそこらじゅうの店の食材を食い漁っているらしい。食材強盗か・・・しかも相手は人間だけではなく魔物もいるときた。
「アスク!お昼寝の前に!」
「あ゛ぁ・・・・?・・・俺は帰るぞ」
「このまま食材が全部食べられたら、お店が開けなくなっちゃうの!」
この夏休みに家より美味い飯にありつけるココを失うのは少し勿体ないか・・・。
「少し待ってろ、・・・直ぐ終わらせてくる」
「・・・私も待ってなんていられいよ!泥棒は全員、客の餌にしてあげるんだから・・・」
「俺には出さないでくれよ」
俺は即席で作り出した氷の爪楊枝を使いながら走って街中を探した、魔物の出現したせいか街は静まり帰り、お店も全てしまっている。
アオーン・・・アオーン・・・
途中何度か聞こえる魔物の声を頼りに街の中を探すと店と店の間の暗がりや、屋根の上にも複数いる事が分かった。しかしおかしいな、同じ種類の魔物の群れではなくて、複数の種類が混ざった群れ?
魔物を駆除しながら街中を走っていると、黒紫色のローブを身に纏った謎の団体が俺のワープのような魔法で出現した。随分と効率の悪い魔法だが、高価そうなアイテムを使ってそういうことを可能にしたらしい。
「おぉ・・・お探ししたぞアスク殿、さあこのような街ではなく私たちと一緒に聖都へ向かいましょう」
おっと・・??
今とても人と話をしたくない気分の時に、俺の名前を知るモノ達と面会するのは非常に気分が優れないんだが・・・一体何者だろうか?
「誰です?あなた達。そんな罪人の着るようなみすぼらしいローブを着て・・・首を落とされたいんですか?」
剣を取り出し、ぶらりと下げる。毒は麻痺毒で良いだろう。量もそれなりに、注いで・・・と。
「滅相もございません!・・・しかしこのような場所は貴方様には相応しくないかと」
「そうですか。・・・三人ずつ、三途の川の向こう岸に渡って貰おうか」
剣から毒をたらし、ローブの集団にまき散らす。当然しっかりと魔法でガードはしてくるが、俺の毒が液体だけだと思っているなら、それは可愛い間違いだ。
「僕の毒は魔法との複合ですよ?」
老人の後ろにいたローブは一人また一人と、毒蛇から採れた毒を魔法で霧にした毒の霧に痺れ、身動きがとれなくなってきく。老人もそれに気づき、俺に攻撃を止めるよう言ってきた。
「申し訳ございません、アスク様のような方は初めてでして、私たち教会もどうすればいいか困っているのです」
老人が肩で息をしながら俺に話しかけてくる、流石に老人相手に毒死は罪悪感を覚えたので毒を治す丸薬をローブ達には渡し、俺と会話している爺さんにも丸薬を飛ばす。
「とりあえずそれ飲んで話を初めてください、話の途中で死なれても後味悪いので」
薬を飲み終えた教会の奴らはこそこそと、崇めるべきではないとか崇めるべきなど言い争っている。そして前に出て来た老人は俺に事情を話し始めた。
「まずはどこから話をすればいいものでしょうか、こちらもアスク様がどの程度状況を理解なされているのか分からないもので」
「驚くほどに状況を理解出来ていない。・・・あなた達は一体どちら様ですか?」
「我々は教会の者です。ようやく聖都へのお迎えの準備が整いましたので、お伺いした次第です」
驚いた。このような無礼な蛮行を繰り広げる輩がまさか教会の人間?
「ハァ・・・?・・・なるほど理解は追いつきましたが、幾つか疑問は残りますね」
「貴方は!!今最もこの世界で神の領域に達する可能性が高いということ理解しておられますか!!?」
人の質問を聞かずに熱心に何かを黙々と俺に説明するお爺さん。こういうのを熱烈な信徒というのだろうか?酷く面倒なお爺さんだ。
「理解しておられません。先に、この惨状を起こした理由を教えて欲しいのですが宜しいでしょうか?」
「現人神になる可能性のあるモノを探すこの魔道具によって、はい。探しておりましたところ・・・少々生徒達が野蛮な方法に出てしまったようですね、はい」
「統制がとれていませんね?」
「神とは時に大を得るために小を切り捨てるのです、今回はアスク様を見つけることが何よりも重要だったのです。他の事など神にとって些細なことでしょう」
「なるほど・・・する気はなかったが、出てしまった被害は致し方のない犠牲と見るわけですか。となれば勿論、責任をお取になって貰えますよね?」
「はて?・・・それはどういう・・・」
そういい、必然的に前のめりで倒れる老人。
「老人、子供でももう少し疑ってかかった方が良かったな」
左手には二つの薬が握られていた。一つは軽い腹痛を起こす毒、もう一つは痕跡一つ残さず、死に至らしめる毒。残った腹痛を起こす毒薬は、亜空間の中へと消えた。