夏休み 殴りがいのありそうな良い顔
アスクが起きます
朝チュン・・・
自分のベットの上で目覚めた俺は悟っていた。
(また気絶したか・・・気絶癖はあまり良くないんだが・・・)
体は既に生気に満ち、申し分なくベットの中でごそごそと動き回ることが出来た。と言っても、上体を起こすのではなく、左右に回転したり、意識のある中でベットの中でごろごろするだけだが。
「おはようございますアスク様、すいませんがベットからお降りにならないでください。非常に危険ですので」
「どういうことだ?」
「過度な運動のせいで、体の栄養が足りなくなってしまい、現在その魔法陣の中でしかアスク様は生きることが出来ない状態になっているのです」
「体の栄養?」
よく見ると、体には脂肪のようなものが限りなく無くなっていた。とるべき栄養を取れなくなった体の到るところから栄養をかき集めているのが何となく分かる。
何というおっちょこちょいだ―――まさか栄養不足で倒れるとは。自分の体調管理も出来ないほどに俺は冷静さを掻いていたのか?・・・確かに殺されかけたことによる感情の上下は激しいものだった。
・・・だが、だからと言ってこのような体たらくを自分が・・・?
「その魔法陣には継続的に食事のとれない呪いに掛かった者達に、微量の栄養を与える力があります。ここで暫く大人しくしていて下さい・・・」
「いや、この魔法陣も随分と長く動いているんだろ?早く食事を取りに行くからこのガラスのように固い、囲いを解いてくれ」
「馬鹿ではなく、やはりアスク様はあほうでございましたか」
「主に向かってアホ呼ばわりとは聞き捨てならないな・・・」
「阿保とも馬鹿とも言いたくはなります。一体どれだけ眠っていたと思っているんですか」
「だから俺は早くお前の負担を減らそうと・・・!」
シンリーの目元には深い隈がある。これ以上の無理はさせられない。
「カトレアからは、多少手荒な真似をしても寝かしつけてとのご要望なので、少々手荒くなりますが・・・それでも行きますか?」
「そんな殴りがいのありそうな良い顔ぶら下げてるようなメイドには止められんさ」
「クロスカウンターはアリですか?」
魔法陣の範囲が広くなったかと思いきや、シンリーが野獣の眼光で飛びかかってきた。
疲れを全身から噴き出す正常ではない彼女の行動に、正当防衛で俺は拳を顔面に突き出した。
―――だが、それに合わせるようにして突き出された肘でその腕は撥ね退けられ、逆にその肘の先にある凶器からの完璧なクロスカウンターを貰い、俺の意識は宙に飛んで行った。
数分後―――目覚めると、魔法陣は既に光を失い、シンリーの姿はどこかへと消えて・・・いなかった。隣にいた。キングサイズよりも更に大きな俺のベットの隣で、一本の筆のようにピンと伸びて眠っていた。
彼女の顔は酷く窶れて死人のような顔つきだったが、やはり元が綺麗なために、目を瞑り、何も話さない死体のような様子であれば可愛らしくも思える。
髪は傷み、肌は少しカサカサしている。随分と長い間、俺の傍にいてくれたのだろう。
他のメイドもいるだろうに、変に自分の決めたことを曲げないところは、まったく・・・お前らしい。
「ありがとうな・・・シンリー」
「坊ちゃま・・・少しは黙ってお眠り下さい」
「・・・・!」
「・・・むにゃむにゃ・・・」
「・・・・なんだ、寝言か・・・ビックリさせるな・・・」
俺ももう少し、亜空間にある食事で軽く栄養を取ってから眠るとしよう。俺にも休息が必要だろうし、何より、彼女に必要だ。
アスクが眠ります、シンリーも寝ます




