後片付け
サブタイトル通りです。
~仮テントにて アスクが去った後の出来事~
ティアは無残な姿に変えられた三人を前にして、最善の策は何だろうかと考えていた。
「うぅ・・・どうすれば良いのだ。アイツを追い出したのは良いものの、このままでは三人とも死んでしまう・・・かと言って俺は余り回復魔法は得意じゃない・・・うぅ・・・どうすれば・・・」
外は勇者との戦闘で傷ついた生徒や教師がいるために、むやみやたらに大きな声で勇者を助けてくれと言えるはずもなく、しかしティアはどうにかして彼らを助けたいという気持ちだけがあった。
「こ・・・小声で探しに行けばいいのか?・・・でもそれで他の者達に勇者達が見つかってしまえば・・・・な、嬲り殺しでは済まされない・・・うぅ・・・・どうすれば・・・どうすれば・・・」
頭を抱えるティアに残された時間は残り僅か。そこに彼を助けるために導かれるようにして二人の生徒がテントへと入って来る。
「あ、ティアくーん、ここに居たんだ」
「あんたのこと探してたんだからね。スクイが」
偶然にもティアを探しにテントの中にまでやってきたスクイとリーズ。彼女達もまたZ組であり、学校の顔であり、SSSクラスの生徒から敬われる才児達だ。勇者を助けようとする世界の意志か、はたまたティアの作った必然か。どちらにせよ、ティアの中で彼らを救う手立てを見つけた瞬間だった。
「スクイ!・・・よくきてくれた!よく!」
「え!!?ど、どうしたのティア君!?」
スクイの手を取り、嬉しさの余り手をブンブンと振って感謝をしてもしきれないといったように喜びを行動に示すティアに、戸惑いながらも嬉しいスクイとソレを良く思わないリーズ。突然起きたティアの行動に二人は違う感情を湧かせるも、同じ疑問を抱いた。
「ティアーーー・・・スクイから離れなさい。手も繋がない。ホラ、放して」
「わ、悪かった。すまん・・・でも、スクイが必要だったんだ!」
「お、落ち着いてよティア君。どうしたって言うの?」
「彼らを助けて欲しいんだ!!」
スクイとリーズはティアの指すテント奥を見て、驚いたようにティアの顔を見る。ティアも勿論、二人の驚く顔が予想できなかったわけではなかった。しかし、それでも彼女達に協力を申し出たのは、彼女達ならば瀕死の状態である酷い状態異常にかかった勇者達を治すことが出来ると確信してのことだった。
「ティア・・・あんた、分かってんの?」
「そうだよティア君・・・ダメだよ・・・それは」
「救える命ならば救いたい。それに彼らが意識を取り戻すまでにサタン様のところに連れて行けば良いんだ。問題はないはずだ」
「そうじゃないでしょ?・・・ソイツら、あたし達の友達も殺してるんだよ?ティアのしてることって、裏切りなんじゃないの?」
「リーズちゃん、そこまで言わなくても・・・」
「コイツの為でもあるのよ、ティアは直ぐにこれから王様になるんでしょ・・・お父さんが死んだって話を偶然聞いたのよ」
「・・・・」
ティアは無言で彼女の言葉の噛み締める。ティアにも分かっていた。確かに、敵に・・・それも勇者に情けをかけるような者が王になるなど、前代未聞であり、ありえない話だろうと。
「それでも助けたい」
「二度は聞かないわ・・・親と友達を殺した恨むべき勇者達を、本当に助ける必要があると思っているの?」
「ある!!!」
「・・・ほんとに、アナタが魔族って笑ってしまいそうよ。・・・私は絶対に手を貸さないわ」
「リーズちゃん・・・」
「スクイ、アナタはどうする?アナタの友達も数人傷を負って、魔法で傷が治っても眠ったままでしょう?そんなことをした彼らを助けたい?」
「・・・私は・・・・・・・私はね、リーズちゃん。・・・目の前で誰かが目を開けてくれないのって・・・もう、嫌なんだ。・・・・だから、・・・だから、ティア君に協力する。私に出来ることがどれだけの事か分からないけど」
「あっそう、勝手にしなさい。絶対に手伝わないからね」
「スクイ!!!ありがとう!!!!」
スクイの回復魔法は他の魔法使いとは分野の違うような、別の領域の魔法だと、回復を専門とする教会の司祭達は言う。基本回復魔法とは神や精霊に祈りを捧げ、力を分け与えて貰い回復を行う。しかしスクイの場合、祈る対象は自然そのものであり、祈りをささげる対象が共通認識を持つ一個体に限らなかった。
そのため治療の最中には、対象の人間から木の根が生えてくることや、別の生き物が生まれるなどと言う事態が頻繁に起こる―――しかし、例えソレが神に治せない神の称号を持つ者の作った毒薬であったとしても、自然に対する祈りを重んじるスクイにはソレを癒すことが出来た。
彼女は短時間の祈りと魔力を贄に、その生まれ持ったユニークスキルによって万人を癒す魔法の使い手。Z組に入ることを許された理由であり、ティアが感無量といった様子でスクイがやってきたことを喜んだ理由になる。
その後スクイの魔法によって、勇者は一度別の生き物のように変色し、化け物のような姿に変わりはしたものの、時間が経つにつれそれは元の姿へと戻り、最終的には三人共命を取り留めたのだった。
意識の覚醒しない内に、ティアは彼らを一人ずつ抱えて戦場の中を駆けた。魔王サタンの元に連れて行くことが出来ればそれだけで彼は満足だった。三人共を魔王サタンの元へと運ぶと、尻もちを付いて満足そうな顔をしてティアは空を見上げた。
雨雲を切り裂く一筋の光が空に昇ったかと思えば一直線に雲は割れ、確かにそこには限りなく広く、青い空があった。
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校長室
校長室では二人の戦いが続いていた、いや、戦いではなく一方的な暴行だった。
「華菜ちゃん、もうそろそろやめて上げようよ、こんなの華菜ちゃんが傷つくだけ。男って皆そういうもんなんだから」
熱海剣司に馬乗りになってタコ殴りにする華菜。それほどまでに彼のハーレム宣言には心痛めたらしい。男でいうところの、好きな女が、自分が寝ていると思って友人に他に何人も男を作りたいといった時ぐらいの気持ちなのか、はたまたそれ以上なのか、それなりに彼女の心の痛みは大きかった。
「でも・・・ケンちゃんが・・・・他の子と・・・・グスン・・」
「もう許してやれよ華菜・・・流石に熱海の顔面が回復魔法じゃ治らなくなるぞ」
熱海の顔面は、はれるどころか、上から更に殴られた事によって血を出し潰れていた。言葉通り、もう目と鼻の場所が滅茶苦茶になっている。しかしそんな風に熱海がボロボロになっていても周りは華菜を止める事はしなかった。否、しなくていいと思った。
男達は熱海をリア充と妬み、女達は熱海を女の敵という共通認識が相まって、誰も自分の持っている魔法の力を使ってまで止めようとしないのだった。
「お届け物でーす、・・・・て、まだケン殴られてるんですか」
「うわっ、魔王幹部!」
「違うわよ、銀のフライングヒューマノイドよ!」
「貴方達の知り合いを連れて来たというのに。やれやれ酷い言われようですねぇ・・・・そこでタコ殴りに合っているのはケンなんでしょうねぇ・・・多分。水死体と同じぐらい元の顔が分かりませんよ」
「大丈夫に決まってるでしょ、ずっと熱海には華菜に殴られるごとにドルンかけて上げてるんだから。死にはしないわよ、フライングヒューマノイドの癖に優しいのね」
この世界に来てしまったことにより、「多少のことでも回復魔法があるから良いよね」みたいな雰囲気になっているコイツらが俺は恐い。




