勇者VSアスク 終結
邪魔者が加わり、二体一となった戦いが始まった。正直この状況で新しく敵が増えるのは俺にとっては最悪の事態と言える。しかも寄りにもよって後方型高火力魔法使い・・・壁勇者と魔法使いという敵にしたくない組み合わせの二人がなんの不運か敵となった。
「二人で力を合わせて僕を頑張ってリンチしてみてください、こちらは二人共ミンチにする気で行くので」
本当に、お前だけでこっちは手一杯だと言うのに・・・・本当に全く、勇者ってのは手に負えないな。
「卑怯だなんて思うなよ小僧、俺も出来ればお前とさしで勝負したかった。だけどよ、この勝負、勝たなきゃ、俺達には後も無ければ未来もねえからよ!絶対に勝たなきゃいけねえんだ!!!」
「えぇ、分かっています。ですから掛かって来なさい。僕という子供を殺して彼方と隣の彼女は未来に帰って幸せに暮らすと良い」
「・・・お前・・・子供だったのか?」
「ハハハッ、十歳は大人でしょうか?まあ、ですが、そう見て貰えるのが嬉しい年ごろであることは確かですよ」
コチラから突っ込み、ケンという勇者とのまた剣と剣のぶつかりが起こる。ケンは勇者の力で剣を使いこなし、俺は転生した際に手に入れた、元々なかった剣の才能で戦う。どちらも経験を積んだ得るはずのなかった力でのぶつかり合いに全身全霊をかけている。皮肉なものだ。
「ケン君!迷ったらだめだよ!」
「分かってんよ!!!・・・分かってるけどコイツはまだ!!!」
「嘘かもしんないよ!!そんな重たい鎧、子どもがきれるワケないじゃん!!」
「まぁ・・・そう思って全力が出せるなら良い暗示にはなるんではないでしょうか。僕としても手加減されたまま殺されたなんて、そんな汚名を背負って死んでいくのは悲しいですから、全力で来てくださいよ、この際ね」
本当はこんな力は必要なかった。周りに期待され、興味のなかった分野にまで手を伸ばし、そして振る剣の意味も分からないまま腕だけは神から授かった才により高まる。
そんな俺の紛いモノの剣と、今を生きるために必死こいて努力してレベルを上げてきたこの勇者・・・力量差も当然広がる分けだ。
「勇者ケン!お前がここに来てどれだけ戦って来たかは知らない!!だが、僕にもやり残したことがまだまだあるんでね。負けられないんですよ。これから先は瞬きする隙も与えませんよ?」
亜空間から毒の液体を剣に浸透させ、滴る剣を振るい、勇者の能力値を下げる。お喋りばかりで自分の得意分野をすっかり忘れそうになっていたが・・・やられる前に思い出せて良かった。
「チッ・・・悔しいがまだ俺だけではお前には勝てないのかも知れないな。だが!二人ならどうだ!!」
ケンは俺の剣に押し倒されるようにのけぞると、バックステップで後ろへと下がった。
「怖気づきましたか?いや、貴方に限ってそんなことは無いでしょう。一体何を・・・」
「魔神滅殺魔法、エビル・アナイアレーション!」
俺の下にいつの間にか出来た魔法陣から、神々しいとでもいうのか、とても危険な光の出る前兆と思える白いキラキラした粒子が飛んでいる。体も分かっているのに動かない、いや動けない。この結界の効果は足止めの力もあるらしい、いつもだったらこんなもの直ぐにぶち壊して相手の絶望する顔を拝むんだが・・・。
疲れと激しい魔力の消耗のせいだろう、頭がフラフラして全くいう事を聞かない。まあ、回復をそりゃなんども何度もしてたら魔力の消費も大きいだろう。つけが今このタイミングで帰って来たか・・・勇者のやつ、俺よりも運は高いみたいだな。
俺は魔法陣の中央で光の光線に包まれた・・・
「クソォ・・・何で・・・何でこんなことに・・・」アイツも・・・アイツも生きたかったんだろ・・・こんな世界は・・・あんまりだ・・・あんまりすぎる・・・!」
「ケンちゃんは卑怯なんかじゃないんだよ・・・あの子は本当に強かった。でもケンちゃんには私達・・・クラスの皆もいるってことを忘れないで。忘れなかったらきっと誰にだって負けないよ」
「華菜・・・お前・・・はは、ははは。いつもお前には励まされてばっかりだな、全く男として情けねぇ」
「・・・そんなのどうだっていいじゃない。バカ・・・」
「あぁ、俺は馬鹿だ。だからお前が俺の隣でちゃんと馬鹿が馬鹿しないようにちゃんと見ててくれよな」
「ケン・・・」
「よし、皆が待ってる。行くぞ、魔王の所へ」
「うん!」
・・・・・・・・何だこの茶番。もしかしてコイツらあんなポンコツ光で俺が死んだとでも思っているのか。いくら俺が動けないとはいえ、鎧が全てはね返していたらただの効率の悪い穴掘り道具だぞ。落ちた穴では亜空間から取り出した魔法薬でMPは回復させて貰った、体力も魔法で全快だ。アイツらは無駄にMPと涙を消費したわけだ。
それと酷いのは俺を生き返らせないようにするための罠か、一切フラグっぽいものを会話に登場させていない。これでは竜海の言っていた、≪実はまだ死んでいませんでした、さあ絶望しろ≫作戦が使えない・・・。いっそのことビームなんてなかったことにしてしれっと穴から出るか。いや・・・ここはそんなカッコ悪くしたら駄目だろ。どうすれば・・・どうすればいい。
「アイツが第二形態とかあったら今頃俺達もヤバかったかも知れないな」
なるほどその手があったか!流石勇者だ、手を差し伸べるのは自分の仲間だけではなく、ネタに困った敵にもなんだな。良いだろう、その第二形態というフラグ。俺が存分に使おうじゃないか。
まず見た目だが・・・俺の知っている第二形態がある敵役というのはかなり少ないぞ・・・?竜海に見せて貰ったものしか知らないし、まあ考えてみるか。
代表的には頭を上下二つにするとか、トゲトゲしてた頭を丸っこくしたり小さくなったりとか・・・人型から化け物になったりとか・・・竜化・・・あるいは翼や羽が生える・・・はたまた顔面と左手と右手で分離するやつ・・・デスマス口調だった奴が突然チンピラのようなオラオラ系になる・・・場合によってはR15にしか出てこないようなグロキャラになる事も・・・うーん、少ないが案はこんなものか。
取りあえず出来る事からやっていこう、デスマス口調をオラオラ系にするのは簡単だ。多分いつも通りにしてればそれっぽくはなるだろう。後は羽と化け物っぽさとグロさ・・・か。
口調の方は問題ない、次に表情だ、滅茶苦茶ヤバそうな感じでまず舌をだそう。舌なめずりをしてちょっと三下っぽく、勿論笑顔で。
次に鎧だが・・・少し頑張ってもらって羽を生やそう、見かけだけなので飛ぶことは出来ないが。色はそうだな、黒や紫は高貴な色だ・・・三下っぽい色なら鼠色とかか?
・・・・・・彼らが行ってしまう前に変身をちゃちゃっと終わらせ、特大の黒い光を穴の中から空に打ち出し、それとなく彼らにまだ俺が生きている事を悟らせる。というか悟ってくれ、頼むから。じゃないと俺のメンタルでは飛び出にくい。
「アイツ・・・まさか生きて・・・!戻るぞ華菜!あのままアイツを放置していたらきっと魔王の戦いの時に邪魔になる。今ここで奴の存在に気がついているのは俺とお前だけ、なら俺達で何とかするしかない!」
「うそ・・・・私のエビル・アナイアレーションが聞いていないっていうの・・・!?」
ありがとう、イイ感じだ。とても出やすい。後は俺が下から風魔法を使って浮かせ、穴から出るのみ。あ、魔力に余裕もあるし天候とかも少し変えてみるか。雷魔法と水魔法を使い、雷雲を作る。普段は時間がかかるうえに魔力もとても使う。なので今回は特別だ、特別にボスっぽく演出を自分で作ってやった。
・・・・・・ド!ド!ド!ド!ド!ド!ド!ド!・・・・ゴ!ゴ!ゴ!ゴ!ゴ!ゴ!ゴ!ゴ!・・・・
穴から飛び出し、蘇ったとばかりに一言。
「よう、地獄から蘇ったへ」
あ、ヤバいミスった。
「今アイツ噛んだのか・・・?」
「噛んだんじゃないの?」
リテイクが聞くかは知らないが・・・。
「・・・よう、地獄から蘇ったぜ・・・」
それっぽくしとけば相手も気遣って・・・
「あ、無かったことにしたな」
「したわね」
そんな優しい奴らではなかったな。俺の名誉の為に殺されくれないか?
「心中お察しするぜ。小僧、頑張ったんだな」
「小僧ってお前。その小僧のためにさっきは涙さえ流してくれたってのに、本当に冷たいんだなぁ。勇者ってのは」
「第二形態で態々来やがって・・・復活なら二期にしてくれねえか」
「せっかく変身までしたんだ、殺し合いをしようぜ。命の取り合いなんざ帰ってからは出来ないだろう?」
「口調を変えてまでケンと戦いたいのね、あの子。よかったじゃないケン、あの子に好かれて」
「笑えねえ冗談はよしてくれ、ちゃっちゃとケリつけていこうぜ。第二形態ってのは大抵勇者の覚醒であっけなくぶっ倒されんだからよ!」
「行くぜ!!!」
舌なめずりをしながら戦うというのは案外大変で、下手をすれば自分の舌を噛みちぎって死ぬというマヌケになりかねないので、結構大変だ。
羽も重くて邪魔になり途中で折った、いや、はっきり言って戦闘には滅茶苦茶邪魔だから。風の抵抗は受けるわ、羽もって投げられるわで、地上戦で羽はまず必要ない。
「結局一度も使わずに羽を折っちまったな・・・なんだったんだ?」
「気にするな、戦闘を続けよ―――――」
っと、最後まで言わせてもらえず左側から矢が飛んでくる。この空気の読めない魔法の矢は・・・華菜とか言ったか。
「今失礼な事を考えなかったかしらこの子」
「女はどいつもこいつも勘が鋭くていやになるな!!」
空気の読めない奴に斬りかかると、今度は正面で戦っていたケンがガードに入って俺の剣を弾き、空いた腹に尖った剣先で俺の鎧を突きさす。厄介だな・・・剣先は何とか鎧によって流されたが、二体一というのは精神的にも苦戦する。
「こればっかりは同感だぜ、女の勘ってのはどうにも当たって怖い。なぁ、小僧」
「だから早めに殺しておきたかったんだ!」
勇者目がけて頭上からハンマー型の魔力の塊を叩きつけようとする。勿論、コレを喰らったぐらいで死ぬ壁の勇者ではないだろう。まあ軽くて重症って所か。しかし、コレを別のやつの・・・例えば空気の読めない奴が喰らったとしよう。すると、どうだろうか。
「華菜ぁああああああああああああ!!!!!!!!!」
ケンを庇い、身代わりとなった彼女は魔力の塊に押しつぶされミンチになった。ケンは今そこに居た自分がいたら死んでいたかも知れない恐怖よりも、空気の読めない奴が死んだことできっと怒り心頭のことだろう。やったぜ・・・とりあえず煩わしい蝿を叩く事ができた。
「小僧貴様ああああああああああ!!!!!」
煩い奴だ。今この付近でも人が死んでいて、今さっきもお前は俺を殺した余韻とやらに浸っていたというのに。
「ほら生き返れ」
今度はミンチになった空気の読めない奴に希望の生産者という、大変製造の難しい高級な薬を与える。
「あ、あれれ?私生きてる!?」
五秒たった後でも良かったんだがそれではキモイ奴が更にキモく大変身するだけではなく、勇者の怒りのボルテージも上がるだけだからな。ここはキッチリ綺麗に元通りにした、五秒前なので肉と一緒に交じっていた布やら何やらはちゃんとローブになって彼女の体を守っている。
これでゾンビになれば服の再生は無いのか!っと、考えている奴がいるなら答えはイエスだとだけ言いたい。だがそれだとR18なので、いろんな意味で不可能だとだけ伝えるのを忘れないがな。
「華菜!?」
「隙あり」
大きな動揺を見せたケンの隙は大きく、俺が奴の四肢の神経を切断するのに十分な時間を作ってくれていた。切った後はケンを蹴り飛ばす。これで回復魔法を使わない限り奴は立つことは不可能だろう。
さて、後は煽って集中力をかき乱しますか。内なる力とか解放されたら困るだろうし、下手したら普通に負けるだろうからな。
「もう止めましょう、こんな戦い無益だ」
「なんだ今更、最近この国で流行ってる煽りか?」
あぁいいなそれ。この国で流行らせるか。
「気に入りましたか?」
「クソ野郎・・・」
「ヒロインに助けて貰えばいいじゃないですか・・・・あぁ、さっきの潰されたまでの記憶は残っていましたっけ」
死ぬ間際の瞬間は意識が飛んで記憶が無いとしても、それまでの記憶、恐怖の記憶だけは残っていたか。良い実験結果になった、鎧はもとに戻っても記憶までは戻らないか。
「俺も回復魔法使うほど魔力が残ってるわけじゃねえし・・・完敗だな。そういえば負けた勇者はどうなるんだ?改造手術でもされるのか?それともさらし首か?」
おやおやおや?・・・コイツの精神力は一体どういう構造になっているんだ?流石の俺もこんな状況になれば諦めて舌を噛むか覚悟を決めて無口になるぐらい状況の変化があっても良いものだが。コイツにはそれがまるで感じられないな。
「あ、バッタの能力とかそういうのはつきませんよ。勿論さらし首もありませ・・・ないぜ!・・・それにしても竜海と似たようなことを言う奴だな」
「竜海・・・竜海だと?いや、だがしかしこのネタの偏り方・・・・・竜海のやつ生きてたのか。神のやつに消された時は本当に死んだのかと思っていたが・・・生きていてくれたか、はは・・・やっぱついてるぜアイツ」
竜海のもといたクラスはケンと同じだったようだ。竜海に知らせた方が良いのか・・・?こういう場合はどうするべきだ。
わざわざ塔をまた登って竜海に会いに行ってそれを話すのか?いや、どう考えても面倒にしかならないだろ。というよりも竜海のやつあれはあれで満足してるだろう。なら俺が態々介入することでもないはずだ。
「多分その竜海だ、時期的にも揃っているし間違いないだろう。今は遠く離れた場所でとある塔で主として冒険者を待つボスになってるよ、天人族の女に囲まれてな」
実際彼はオタクだろうが、引きこもりだろうが塔の主には違いない。引きこもる事が仕事であって、誰にも文句を言われる筋合いなどなく、竜海がイチャイチャしていてもそれはただの仕事と生活を合理的にしているだけの事なのだ。
しかし・・・・そう考えた時、ふと脳裏に浮かんだのは竜海の塔を竜海ごと爆破するという考え。正直アイツだけ何で人生そんなにイージーモードなんだ?俺みたいにマナーとかダンスとか、そういうクソみたいな習い事を親からさせられるわけでもなければ、特別貧乏で働かなければいけないといったわけでもない。
羨ましすぎるぞ竜海のやつ。どうしたらそんな趣味に没頭できる空間づくりが出来るんだ、教えてくれよ。
「俺が血反吐履いてここで倒れてるっていうのにアイツは裏ボス気取りでハーレムかよ・・・クソ羨ましいじゃねえか。俺も勇者なら・・・・ハーレムものが良かった」
「酷く共感できる内容が故に・・・何とも残念な最後だな」
それと空気の読めない奴の震えが止まり、ガチガチという歯の音も聞こえなくなった。三角座りから、すくっと立つと、ケンの所まで歩いて行っている。しかしケンは今倒れているので背後から近づく狂気に気づくことはない。
「・・・ハーレムものとなると、勇者はその全員に分け隔てなく接しなければならないぞ?いいのか、そんな大変そうな選択をして。一人を大事にしてやった方が良いんじゃないのか?その・・・後ろにいる・・・華菜さんとか」
「華菜?はははは、いやぁ華菜は幼馴染というか別にそのハーレムの中には別に・・・・」
「ねぇケン君、コッチ向いて」
今度はケンが震える番のようだ、ギャグ補正か何かで止まっていた四肢の出血が酷くなる。
「恥ずかしがらないで、ガタガタ震えないで」
顔はみるみる青ざめ、振り向こうとしない。否、振り向けないのだろう。疲労などではなく、俺には無かった圧倒的恐怖感。威圧、そういった物が混ざった逆らう事を許さない絶対的恐怖の存在。
「こ・・・小僧。一生の頼みだ。足だけで良い、回復魔法をかけてくれ」
「言い忘れたが俺の名前はアスクだ、それとな・・・・・・・ハーレムを元から考えている奴にいい最後は待ってないぞ。例えば今のお前みたいにな」
「アスク!頼む!俺を・・・俺を一人にしないでくれ!」
「ハーレムを願った代償だ、甘んじて受けるがいい。せめてもの慈悲だ、皆のいる所で存分に楽しめ」
「やめろぉおおおおおおお!!!」
二人を校長室までとばした。
「南無阿弥陀仏・・・・・もしくはアーメン。安らかに眠れ」




