下級神と茶番
「勇者達よ、必ず魔王を倒して来るのです」
「そうすれば・・・俺達は世界に帰れるんだな?」
「その通り。魔王が異世界に干渉する力を他の神から奪い、そして今日、魔王の異世界に干渉する力が最も弱まる時期なのです。魔王から力を取り戻した暁には、必ずあなた達をもとの世界へ私がお返しします」
下級神と勇者の間で何か会話をしているようだ。他の勇者達が戦っている最中に後ろでコソコソとまあ楽しそうになことで。――――それにしてもあの下級神、神になっただけあって魔王は勇者でしか倒せないという情報は持ってるみたいだな。能力値もそこそこに高いし、容姿もかなり良い。確かに神になれそうな素材ではある。
しかし・・・なぜか俺の存在には気が付いていないようだな。なんか、気配とかで神様なんて存在は、いとも容易く分かったりするものかと思ったが、隠れていれば分からないものらしい。
「俺のこの対魔王最終決戦兵器、ダブルデュランダルがあれば魔王も怖くない。この剣には魔王だけに特化した能力がある。そしてこれを使えるのはこの俺だけなんだ。この力で・・・この俺が皆を救うんだ!」
ほーーー、魔王だけに特化ねぇ。あると言うのだからあるのだろうが、一体なぜにそんな必要のなさそうな武器が作られたのだろうか?製作者の真意が気になる武器だな。
「勇者よ・・・その意気です。邪悪なる魔王を一刻も・・・・一刻も早く討伐するのです」
キラキラと光る剣を装備する勇者は今しがた使命感と独善欲に酔っている。対魔王最終決戦兵器ダブ――――ダブルデュランダル(笑)・・・とても強そう棒だ。
サタン様もあんな棒で叩かれたなら負けてしまうかも知れないな。なんせ相手は尊厳というモノを持たない羞恥の塊のような奴だ。相手をするのも死に等しい羞恥プレイに違いない。
「ハ!・・・・魔王に近い存在がこの近くにいる!!!俺には分かる!!空か!!!」
・・・でなきゃあ話が進まないか?
まあ、まだまだ聞きたいこともあるし、不意打ちで死んでも困るのはこちらか・・・。今度はなるべく何もせず、対話を試みてみようじゃあないか。
「いえ、普通に貴方達の後ろです。魔法で隠れていただけだったんですが・・・今の今までまさかお気づきではなかった・・・などということはありませんよね」
魔王に近しい存在は隣にいるその神であり、勇者のセンサーは決して俺に反応したわけじゃない。
「わ、わざとに決まっているだろう!この武器の情報を早く魔王に届けるんだな。そして震えあがれ!」
「ハハハッ・・・面白いことを言う人だ。・・・出来の悪さは神も勇者も似たり寄ったりなんですかねぇ?」
「何を言っているんだ少年!最高神のフェゾ様に失礼だぞ!」
「ほう・・・最高神ねぇ・・・あってみたいものです。高位の存在故に姿を現すのでさえ困難という最高神様とやらに」
「フェゾ様、どうかこの無礼者にあなた様の力をお見せください。あの者はあなた様を疑っているようなので」
「猫の足音を聞いたという噂くらいには信用していますが・・・それでは足りませんか?」
罠を一つ二つと張って横には逃げられないようにして見たが、曲がりなりにも神という位を手に入れた生き物が果たして真っすぐ突っ込んでくるだろうか。もし遠距離からの攻撃が来たら直ぐに止めを刺しに回り込もう・・・知恵比べでは負けてないと信じたいものだ。
「では今から貴方の心の器を具現化してみましょう」
「でた・・・!あの光のビームは!!!」
おぉ・・・なんか蛍光塗料を塗ったとても速く伸びる触手がうねりながらこちらに飛んでくるぞ?ビームなら目に見えないだろうし、まず光なら横から見てもまず何も見えないだろうに。彼はなんの話をしているんだ?
取りあえずこちらの対応策としては、風魔法・水魔法・土魔法・生命魔法・雷魔法・火魔法を使った、バッチバチの粘液で回転を加えてはね返してやるが・・・人間の体に当てる物だったならこれで返せないか?
「鋭くお返ししますよ・・・【夏草兵夢】」
「きゃああああああああ」
どうから上手く当たったようだ、下級の神の心臓から醜いドロドロとした鏡が出てきた。何か具現化するような魔法だったらしいが・・・汚い物が出てきたもんだ。
「フ、フェゾ様・・・その汚い鏡はまさか・・・」
「勇者よ、これはあの小僧の心の器です」
な・・・なんだ・・と。能力の詳細が分からないから反応の仕様がないじゃないか!?俺にどういった反応を求めているというんだ!
「そうですよね」
勇者、お前は良いな。それで。
「そのじゃあ俺の心の器とやらを破壊してみてくださいませんか?僕の心がそれだと言うなら、壊されてみて、一度その実感が欲しい。どうにもさっきから気合いが入らないモノでね。茶番じゃあないっておっしゃるのでしたら、是非破壊して見せて欲しいですねぇ」
「化けの皮が剥がれたな!!!」
勇者は壺から大きな白銀の魔人を召喚し、俺に殴りかかってくる。いやぁ、しかし俺が相手をしているのは隣にいるその下級神だ。土塊に興味はない。
「ウッ・・・・馬鹿な・・・俺のエンシェントゴーレムが・・・」
技名もどうやって倒されたかも書かれないまま死ぬが良い。
(それと変な名前より霧のモクモク魔人の方が良いんじゃないだろうか。名前もそっちの方が和めるだろうし)
「おやおや?・・・・変わった人形を倒したら本体も死んでしまいましたねぇ・・・どういうことでしょうか?」
シェゾとかいった下級神様は倒れた勇者を放り投げると、愛想よく右手を前に出して微笑んだ。
「チッ・・・そこのお前、貴方はデミゴットか私と同じ下級の神といったところでしょう。どうでしょう、ここで一度私と手を組みサタンの能力を奪いませんか?私の力は鏡を使って能力を写し出す力。勇者達を呼び覚醒させたまでは良かったのですが、私に力を譲渡させる前に、この戦地まで来てしまいました。そしてこの勇者の力は特に欲しかった・・・それなのに貴方が駄目にしてしまった」
「愛想よくする割には早口だし何を言っているのか、今一よく分かりませんでした。どうかされたんですか?」
「ち・・・・・・チクショウメ!この無礼者ォオォォォ!!!貴様のようなゴミ屑野郎は今ここでわぁたぁしに全て奪われなさーい!!!」
ピョーンと跳ねてこちらに神がやってくる。手元に持っているのは例の能力を吸収するとかいう手鏡。アレでなにかされると力を奪われるらしい。・・・・それを分かっていて態々受けるという暇が今はないのが残念だ。こちらとしては一刻も早い終わりを迎えたいところだからな。
【幻影の水蛇】
巨大な大蛇が地を這いずり、跳ねた下級の神を丸のみすると体をくねらせ体内にある毒で何もかもを溶かし尽くす。大蛇が消えると、後には無残な惨劇の後が残った。
≪神格解放条件を一つ達成≫
神を殺したら神格条件が一つ達成された・・・・神の世界とは恐ろしいところのようだ。




