勇者陣営VS魔王陣営
チュンチュンチュン・・・・チュドーン・・・・
鳥の鳴き声が聞こえてくる早朝、レム睡眠の中を漂っていると突然の爆音にベットから毛布と共に落ち、弱い眠気と共に暫く瞼を瞑ったまま、完全な意識の覚醒を待つ。
暫くして、外の戦闘が激しくなってきた頃合いに毛布から這い出ると、洗面台で目の中を無理矢理洗いながら前髪も若干濡らしつつ顔全体に水を付けながら、顔をタオルで拭く。その時に髪も一緒にワシワシとしておくと、後から髪を整えるのに丁度良い下地が作れる。あとスッキリもする。
「ふぅ・・・」
外は勇者や教師が魔法の激しい攻防が繰り広げられている。俺は準備を急ぐため、歯を歯ブラシ・・・の初期のようなモノで磨き、耳垢を自分の契約した店で販売中の綿棒で除き、爪を削り、耳の裏を根入りに掃除して、モーニングティーを人啜りし、気を落ち着かせる。
「よし・・・・・・・・・・髪を整えよう」
おそらくニ十分そこそこして・・・それぐらいの時間をかけて髪の寝ぐせを直し、外の騒音を耳にしながら、火の魔法でじっくりと蛇を焼いていく。蛇にはサイレントスネークの毒が完全に抜けきった個体を使用し、味が良いか悪いかは別として、食べられるであろうものを焼いて食べる。
焼いたら多分食べれるだろう。料理はしたことはないが、生でも殆どの蛇は食えるんだ。この蛇も食べれるに決まっている。
「うグ・・・グ・・・硬い・・・・歯ごたえ凄いなコイツ・・・・うグ・・・うグ・・・グ・・・」
食堂が乱闘で使えないのは本当に不便だな。腹も程ほどに満たされたし・・・騒音被害を訴えに行くとするか。判決は極刑か別世界送りの二択しか用意していないが。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「おはようございます先生。あれ、戦闘中でした?」
「アスク君は離れていて下さい!」
マサトラ先生教職員達が勇者達と一進一退の状況が続く戦闘の中、体に泥や草を付けたマサトラ先生の言う通りに離れて後ろの方へ向かうと、沢山の負傷者が回復魔法待ちでグッタリとしているのが目に入る。魔力が回復するのを待っている者達や簡単な回復魔法では治らないような状況の者達は横に避けてグッタリと項垂れている。
「アスク、昨日は眠れたか?」
「おはようティア、はい、とりあえずぐっすりと眠れましたよ」
「そうか・・・俺は恐くて中々眠れなかったぞ・・・朝も飛び起きてきた」
それから、ティアに現状実力の差は拮抗しているということやその結果多くの負傷者を出しているということを聞いた。ティアは花粉の季節でもないのに涙ながらに話すが、ティアが涙を出すようなことはあってはならないだろう。コイツはどれだけ殴り合いの喧嘩をしても涙を流しながら殴ってくるような奴じゃなかった。
もし仮にこの騒動が原因でティアは落涙しているのなら、俺はコイツの友としてこの餓鬼の喧嘩を止めに入ろう。
「この喧嘩、止めた方が良いですか?」
「当たり前だ!こんな無意味な戦い・・・早く終わらせるべきなのだ!!」
「・・・・・」
たかが数百人が死ぬような戦いに首を突っ込むほど暇じゃあないが、優しい王子の御意見だ・・・この戦い、今日で終わらせて貰おうか。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
回復魔法で瀕死の者から回復して周り、まずは戦力の回復を図る。補給物資を相手は恐らく多くは持たない、それもそういった運搬機能を持った人間を空から確認することは昨晩出来なかったからだ。敵の手持ちの食糧が無くなるまでこちらは防御していればいい。補給路は今から俺が絶ちに行く。
敵の数は一個大隊にも満たない微々たる勇者の老若男女。陣形も統率も未熟というより知らないような、一般市民に神がポンッとスキルを渡したような烏合の衆。そんな相手など情けなくてしたくはないんだが・・・今回ばかりは別だ。粛々と始めよう。
「魔王覚悟!!!!!!」
前方から教師陣の攻撃を避けながら一人の青年が突っ込んでくる。サタン様が後ろで回復に周っているのを良いことに、傷が治った者達に更なる致命傷を剣で与えながら着実にサタン様のいる後ろに近づいて行っていく。
サタン様も態々後方支援に徹しているということは俺と同じ考えなのだろうが、こういうイレギュラーは当然いると想定しているんだろうな。
「前の鎧野郎!!!そこをどけぇええええええええええ!!!!」
「言われなくても」
毒の粉を顔にソッと被せたことにも気づかず、青年はサタン様の元へと行ってしまった。あの毒は新薬のステータスと身体機能共を共にジワジワと下げる効果のある毒のポーションを粉末にしたものだが・・・能力値が下がった状態で魔王に挑んで大丈夫だろうか?
「魔王覚悟ぉおおおおおおおおおお!!!!!」
遠くでそんな声が聞こえるが、その雄叫び虚しく凄まじい轟音と風圧と共に、果敢に挑んできた勇者は勇者陣営へと吹き飛ばされて行った。
「私の回し蹴りを甘く見てもらっては困る!!!」
風圧で回りの土が盛り上げるという天変地異紛いの大技、回し蹴り。なるほどぉ・・・負傷者を大量に巻き込んでいく姿は正しく魔王そのものだな。
「わが教師たちを倒してここまでやって来い勇者!!!でしゃばりは始まりの町から始めさせるぞ!!!」
サタン様の声が遠くから響き渡る。その間に集団から離れて戦う勇者達を何人か睡眠薬で眠らせて拉致をして行く。
「どう収拾つけるつもりですか!!!」
「サタン様ー!私達もいる事を忘れないで下さい!」
「すまんな、微調整はなんともならん!!」
流石サタン様、冗談のスケールも半端ない。人が舞い散るあの蹴りは微調整をした上での威力らしい、全く馬鹿馬鹿しくなるな。何もかも自然発生する災害のような奴だ。そんな災害に乗じたおかげで今では三人ほど収穫できた。勿論眠ったままそっとサタン様の所へ持って行く、
「アスク、次の魔王に貴様がなるか?顔も良くその外道っぷり。魔族には人気なタイプだぞ?」
魔族に好かれるタイプってなんだ。外道で強面ならモテると?・・・機会があれば魔族地域にお邪魔しよう。
「機会があればぜひそちらの大陸にもお邪魔します。僕は少し彼らに話を聞きます」
取りあえず、まだ誰も運ばれて来ていないテントに移動してから勇者達とお話をする。用意するものは、少しの毒と愛の鞭。愛の鞭といっても今回使用するのは、物質としてある、鑑定では武器の部類に入る方の愛の鞭だ。決して親が子供のためを思ってする行動とは別のものだ。その二つでしっかりと吐かせよう。
「さて・・・どんな話をしてくれるんだ?勇者」
「ッけ・・・何も話す事はねぇよ!!!くたばれ!魔王の側近が!!」
サタン様の側近・・・いや、肩書としてはカッコいいぞ、枢密院みたいで。いや、でもそれは俺の欲しい情報じゃあないな。まだ喋る元気の有り余ってそうな彼には喉に効く銀の毒を。
「アボボ・・・・ガボッ・・・オェェェ・・・」
効いたよね、早めのマンガン。※(特殊なマンガンなので美味しく温度関係なくお飲みできます)
「そちらの多分女性の方、貴方は何か話してくれますか?」
「誰が多分女性よ!あんたセイジにいったい何してん!!はよ私達のこの鎖もほどき!!」
頭が悪いのは多分風邪か何かの熱によるものでしょう。そういうあなたには青の毒を進呈。
「注射するので動かないで下さいねぇ。間違ってブスブス刺されたら痛いですから」
「やだ!やだ!いや!、止めて!!、ごめんなさい、話す!!!なんでも話すから!!!止めて!!!!」
「ちゅうちゅうたこかいな・・・ちゅうちゅうたこかいな・・・・」
「いや、いや!いや!いや!いや!!!!やめ・・・・・・・・・・・・て・・・・・・・・・・」
お薬はちゃんと効いたみたいだ、動かなくなった。
「バルビツール・・・自分で使うのはちょっとやめておいた方が良さそうか?ま、とりあえず効いたよねぇ」
あの短時間で勇者を捕まえるのは三人が限界だったので、これが最後の勇者(実験体)になる。
「なんでも話す!!お願いだ!!助けて・・・二人みたいになりたくないです・・・お願い」
「・・・・鼻につく奴は黄色の毒と鞭を贈呈しよう。もっと面白い反応すれば助かったかもな」
「えっ・・・・その鞭・・・まさか・・・それで僕を叩くのか!・・・やめろ!なんでも話すって言ってんだろ!!おい!!!聞いてんのか!!!」
精神的に二人よりも脆い傾向があるな・・・コイツはあまり使えそうになさそうだ。
「よく聞こえていますよ・・・・とってもよく。何でも話すんですよねぇ・・・ですが、私は人間の上辺だけの恐さというのを何故か知っているような気がしてならないんですよ。ですから、こういう場合、一度そういった皮を剥いでから、聞く事にしているんですねぇ」
「やめろ!!!やだ!!!怖い怖い怖い!!!お母さん!!!!お母さん!!!!やだああああああああああああああああ」
「では、ふふふふ・・・実験開始・・・・」
「―――――馬鹿やろう!!」
ようやく勇者たちと仲良くなれそうな所だったのに、聞き覚えのある声と共に俺の体は中に浮き、テントに仕様されている動物の毛皮に叩きつけられた。どうやら――――――どうやら本当に拳で殴りとばされたようだ。鎧の効果がなかったかのように、軽くテントが膨らむように・・・階段から人が落ちた時のような音が出ていたぞ?・・・痛いじゃないか・・全く。
「何ですか一体?」
顔を上げると、先ほどまで涙を流していたティアではなく本当に怒っているティアの顔があった。
「アスク、お前は何をしているか分かっているのか!!」
「対話ですが」
「話にならん。もう一発殴ってやる!!!」
「いえいえ結構ですよ。なんですか、せっかく後少しだったというのに・・・」
「お前がやっているのはただの拷問だ。なんの意味もない!!ただ苦しませるだけの悪そのものだ!!!」
「彼らはティアの父をリンチして殺害した奴らですよ?それに別に僕に悪意がある分けでもあるまいし、どうして止められる必要があるんですか?必要だからやっていただけなんですよ?」
「だからってお前が勝手に俺の仇うちをしていいとはならん!どうしてそれが分からないのだ!!!!」
深々と転がっている俺に蹴りを入れるティア。何てやつだ。俺は敵を尋問していただけなのに・・・しいてはお前のためにやっているだけなのに・・・・・どうしてお前がそんなに俺に怒るんだ。俺の情報によっては大勢の人間が死なずにお前の生活にも平穏が訪れるだろうというのに・・・。
「今やらなければティアの命も危いかも知れないんですよ?」
「・・・何が言いたい」
「勇者の聖剣のことです。何があってもおかしくない、不死殺しなんてものも存在するでしょう。ティアの父も偉大な魔族と聞いています・・・そんな人が簡単に死ぬワケがありません。この戦い、相手に全ての実力を出させたら負けずとも大切な何かを失うかも知れない戦いなんです。判って下さいティア。僕のやっている事は効率的に相手に情報を吐かせるためのものなんですよ。判って下さいよティア」
「だけど・・・!・・・だけど俺にはお前のやっている事が悪いことに思えた!!拷問だって別の方法があるはずだ!人質としても使える、こちらの条件を飲ませる条件に人質は大いに活躍するだろお!!?」
「そんな自分の生命さえも危険というこの状況下で。一体何が悪で何が正しいのか、そんなものを決める権利は既に僕達には存在しません。今は生き残って自分の目的をいかに早く成し遂げるかが問題なんです」
「なぜ、そのように結論を急ぐのだ!!俺達にはもう暴力しか残っていないとでも言いたいのか!?」
「人質の一人二人で止まるようなら死傷者が出た時に既に止まっていてもおかしくはない!!僕達が相手をしているアイツらはもうそんな人質の一人や二人で下がるような奴らじゃあないんですよ!!!この分からず屋!!!」
「だから!!!!!・・・・・・勇者を薬で拷問にかけて良いわけ無いだろ・・・・・・・・・・・」
「僕には僕の出来ることをしているだけです」
「・・・もういい。とりあえず勇者は俺がどうにかする、お前はもうあっちに行っていろ・・・」
「・・・」
なんか俺が悪い空気みたいになっている・・・いや、分かっている。分かっているからそう感じる、知っている。俺の悪いクセだ、実験の途中から気分がハイになって止まらなくなる・・・終われば冷静になってもう少しどうにかならないかとため息をつく・・・その繰り返しだ。
「・・・・はぁ」
よくわかっている。分かっているのに治せない。どこかでこの自分を肯定する自分がいるからだ。直した方が良いと客観的に思いはするものの、半分もう治らないと諦めている部分や、時間を無駄にしたくないという気持ちで直ぐにこの事を忘れてしまう。今までもそうやって逃げてきたんだ。
これからも一生この不快な気分に追われ続けなければならないんだ。それが楽だ、それが俺なのだ。そう割り切らなければならないんだ・・・そうでなければ失ってしまう・・・俺が忘れてしまった何か達を・・・。
「・・・・ッケッ、どうぞお好きに」
部屋から外に出ると、昼の太陽が全身に当たる。太陽は気持ちいい、黒ずんだ気分をティッシュでふき取るようにカスを残して浄化してくれるようだ。
「あー・・・・あの向こうに見えるは・・・・なんだ神か」
遠くで光輝く神をボンヤリとした透明な糸状の虫と共に見た。下級の神・・・しかも少しグレーな感じの神。
「あまりこういう汚い言葉は使いたくないんですがねぇ・・・ぶち殺してやる」
勇者に関してはアスクがね。悪いね。




