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独学の毒薬で異世界無双  作者: ほふるんるん
修行編
39/185

天使門 4 正義戦

B7


門をくぐると先ほどまでとは明らかに違う雰囲気のフロアへと出た。足元の雲や空の色は血液のように濃い赤色に染まっている。ここからは切り替えて行けということだろう。


「アスク、目の前のアイツら・・・ドラゴニュートってやつか?」


重厚な金属の鎧に身を包んだトカゲの頭をした魔物が二体、剣を腰に携帯して上に上がる階段の前で胡坐を掻いて座っている。俺のような戦闘初心者にでも判る、あの魔物達はまだ普通に戦っても勝てない相手だ。


「はい・・・珍しい魔物ですねぇ」


ティア曰くドラゴニュートと言われる二足歩行であろうトカゲ達は、俺達に気付いているにも関わらず階段の手前で胡坐の体勢から立ち上がろうとしない。そんな好機だというのに俺達は前に足を出すことが出来ずにいる、異様なまでの威圧と格上の未知の相手に体が慄いていうことを聞かないのだ。


「天使達を乗り越えた小さき者達よ、運よく来られたようだがここから先は俺達を倒さなければ門は開かれんぞ」


その圧倒的な気迫に、俺達と彼らの間にある戦闘経験の差を見せつけられる。


「兄貴の言う通りだぜ、だからせこい技使って逃げようなんて・・・・・・・・思うんじゃあないぜ?」


上から物を言って来る奴らだが、実力は折り紙付きか。鑑定にしてもさっきから情報が得られない・・・そういう事から見てもこの門番達は戦い慣れている。段階を踏んで戦うべき相手であり・・・強敵に間違いない。毒を撒いて敵が呼吸をしなくなるのを待っているが、それも効果が薄そうだ。


「アスク・・・不味いぞ。相手の力も俺達で勝てるかどうか」


「クックックック、そう言って彼らが何も出来ずに死んでいってしまったらどうするんですか?」

(ティア、そういうことを言ったら相手にもこちらの心境が伝わるから止めてくれ)


「アスク、お前現実を・・!」


「そっちの坊主はよく分かってるじゃねえか、ご褒美に一瞬で葬ってやるぜ!!」


いつの間にか裏をとられ蹴りとばされるティアを横目に、蹴りで隙の出来た『門番ドラゴニュートのふざけた喋り方をする弟の方』に剣を振るう。


「後ろががら空きですよ!」

(この剣を当てることが出来れば・・・!)


「そうはさせん!」


いつの間にかもう一体の『礼儀正しい兄貴分のドラゴニュート』に、大剣を掴まれると、大剣ごと体を持ち上げられ空高く投げられる。


「鎧を着ている奴がまさか投げ技を器用に使って来るとは驚いた、カッハッハ!足元にあった雲が随分と離れたところに見えるなぁ!」


「グッ!・・・オォォォ!・・・」




ドラゴニュート兄の苦しんでいる様子が空の上からでも良く見える。俺の剣に素手で触れたのが運の尽きだったなぁ。だいたい腰にさしている剣は飾りか?それともご自慢の腕で俺の剣をへし折ろうとでも思っていたのか?


――――どちらにせよ不幸なトカゲだ。触ってはいけない物がこの世界には沢山あることを知りもしなかったのだろう、塔の中にしか棲まないお前達に分からなくて当然と言えば当然だが。


「毒にやられたのか兄貴!?すぐに状態異常回復魔法をかけてやるからな!」


地面にゆっくりと魔法で着地をしている間に魔法を詠唱しているトカゲが目に入ったので、状態異常にかかっている方を風魔法で遠くに吹き飛ばす。吹き飛ばされたティアとは別の方向だからティアが復活するまでの時間は、この弟分と一対一で戦っていれば稼げるだろう。


「馬鹿な兄貴のことなんてどうでも良いじゃないですか。ほら、貴方の蹴り。ご自慢なんでしょう?」

(それにせっかく一体弱らせたのに、回復なんてされたら困る。ただでさえお前達と普通に戦っていたら負けるというのに、回復までする気か?)


掛かってこいよと、顎に指を指してココを蹴って見ろと挑発をする。ニヤニヤしながら言うのがポイントとして挙げられる、俺の身に着けている数少ない戦闘技術の一つだ。


「おうおうおう・・・いってくれんじゃねえの。優しい俺も今回ばかりはちょっとキレてるぜ」


「優しい?ハテ?トカゲにも優しさってあるんですか?」


「しゃらくせぇ!ぜってえ殺す。ぜっろだ!!!」


走ってきたアイツが消えて・・・・・・・・・・・・・・・・・いつの間にか、吹き飛ばされたらしい。頭から血が出ている、思った以上に痛かった。


「・・・痛いな・・・うん。・・・・痛い」


(回復呪文、ドルン)


回復呪文を頭にかけながら、フラフラする頭を使って何か策はないかと考える。ティアは何所かに飛んで行ってしまった、恐らくそろそろ不死の力で体も再生している頃。煩い奴じゃない方のドラゴニュートはまだ毒で苦しんでいるだろう・・・戦闘どころじゃないはず。なら俺のすることは一つしかない。


「化け物が、まだ息があんのかよ」


「・・・・本物の化け物から言われるとは。思った以上に傷つくなぁ」


時間稼ぎ、あわよくば弱っている一体だけでも先にワープして始末に向かうか。


「嘘つけ」


「トカゲにも分かるんですか・・・ふむ、やっぱり僕は嘘が苦手らしい。やっぱり誰かを騙す時には嘘を吐くのは駄目ですねぇ・・・間違っていない言葉で騙さなければね・・・」


ドラゴニュート兄を仕留めるためにも、先にある程度弟の体力を削る必要がある。剣の斬り合いでこちらが勝てるとは到底思えないが、やれるだけのことをやってやるか。


「おぉ?なんだ、騙すってのはお前のその言ってた割には中途半端なその剣の腕の事かぁ?」


斬り合いに応じてきたが・・・!思った以上に強い!もはや相手が強すぎて相手の力量すらも分からない!


「お前、弱すぎだぜ」


「グッ・・」


「俺の兄貴はよう、例え自分を殺しに来る奴でも女と子供に限っては剣を握らない良い奴なんだぜ?ソレをお前・・・瀕死になるような毒魔法をかけちまって今グッタリしてるじゃねえか。可哀想だとか思わねえわけ?」


「・・・・・」


戦闘にそんなぬるい考えで動く奴がいるとは驚きだと言ってやりたかったが、上手く口が動かなかった。


「あぁ、そういやぁ―――――――お前達冒険者にはそんな心もねえか」


(ヤバい!)


肩の動きを見ていなければ避けることの出来なかった音速の剣に、小さな汗が落ちる。何とか立ち上がり自分の残りMPとHPを確認すると、MPは六割ほどHPは三割ほど残っているようで、以前からあてには出来ないと思っていた数値だが今となっては頼もしい。


何度斬られたか分からないが、それでも三割残っている。回復をして一度最大まで回復したはずの体力が一瞬で七割蒸発したのは笑えない冗談だが・・・それでも三割ある。


「百回転んでも死なないのなら、千回お前に斬られても僕は死なない」


「なんだよお前、ボロボロな癖に。説得力の欠片もないぜ?それによ、お前がフラフラしてる間に兄貴の毒も治せちまった。ありがとよ」


「次は当たらぬ」


「・・・・」


ドラゴニュート兄も復活か・・・最悪の展開だな。


「兄貴、気をつけろよ。まだ状態異常の時に落ちた体力までは回復してねぇんだ」


「分かっている。それと弟よ、聞いたか?先ほどのこの冒険者の少年の言った言葉を」


「ああ、千回斬られても死なねえってな。俺達の攻撃は擦り傷以下だったらしい」


「ならば俺達一人五千回の擦り傷以下の攻撃を与えればどうだろうか?」


「いいぜ、嫌いじゃあない。でも良いのか兄貴、冒険者でも子供や女は斬らないんだろ?」


「問題ない。先ほど気が付いたが・・・・私達の前に立つこの少年の魂の一つは立派に成熟している」


「ほうほう、なるほどね。なら兄貴はその片方だけを斬りたいから一万回の内半分の五千回を俺にくれた分けだ。本当は一万回斬りたかったんだろ?」


「まあそういうことだ」


兄弟揃って俺のミンチ化を御所望か・・・狂ってやがる。


「さて兄貴、そろそろ俺達もお喋りをし過ぎた」


「そうだな弟よ、一人五千回の擦り傷以下の猛攻、彼に受け止めて貰うことにしよう」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そして俺は真っ二つ、になるはずだった。






「おいおい、次期王の俺を差し置いて楽しそうではないか。俺も混ぜろ」


いつの間にか俺達の間に割って入るようにして立つ小さな影が一つ。俺の身代わりとなったその影は二人の剣によって切り裂かれ、死に絶えたように見えた。・・・・それも相手が不死ではなかった時の話しだが。


「おい、剣は斬られたら痛いんだぞ?」


「知っているとも、お前にはこの手の攻撃は通用しなさそうだな」


「こっちも化け物かよ、ちっ、最近の子供はどうなってやがる!」


「本当はやりたくなかったが・・・・お前達に少し恐怖という物を教えてやろう」


ティアは空中で剣に引き裂かれた体で、ドラゴニュート弟の首に鱗の上から牙をたてると、そのまま鱗ごと首元を嚙み千切ってしまった。そしてその瞬間から噴き出す青と赤と血が空で舞い踊り、ドラゴニュート弟は血液が噴き出す間はビクビクと痙攣し続けたが、次第にその動きを停止させた。


「あの鎧と肉に包まれた装甲を喰いちぎったのか!?」


「フンッ・・・ざっとこんなものだ。吸血鬼の顎の力を見誤ったな」


「馬鹿な、お前の攻撃力では私達の装甲など破れるはずがない!」


「通常時の俺ならばそうだったかも知れないな。だが・・・俺の破壊衝動のスキルは今最大限に活かされた。奴の首の装甲の薄い部分ならば喰いちぎることが可能なほどにな!」


「スキル一つに私の弟が死んだだと?・・・ふざけるなよ・・・ふざけるなよ!!」


兄貴と呼ばれていたドラゴニュートが、ティアの首を刺していた剣をきりあげ体勢を整える。それに乗じてもとに戻るティアと回復魔法で全回復をする俺。しかし不死身スキルで元通りになったティアは姿に少し変化があった、ティアのコウモリの羽にもう一枚、竜の翼が生え、爪も鋭くとがった再生しているのだ。


「ん?驚いた顔をしているな。案ずることはない、俺は俺のままだ。時間が立てば姿は戻るが・・・不格好だから余り吸血は支度はなかったんだが・・・アスクがボロボロになっているのを遠くで見ているワケにも行かなくてな」


「ティア・・・もしかして結構余裕があったんじゃないんですか?」


「王たる者常に余裕を持った行動を心掛けるべしと、父上からは教わったぞ」


「この野郎・・・」


「なにか言ったか?」


状況が優勢なのは間違いない。しかしなぜだ、あのドラゴニュートからは焦りが見られない。もしや何か秘策の一つでも持っているのかも知れない。


「せめてもの慈悲だ。貴様ら纏めて消し炭に変えてくれる!!!」



突如として、体内から光るドラゴニュート。自爆でもするかと思いきや、その光をどうやら口から出すらしい・・・ハッ!・・・不味い!忘れていたが、コイツもドラゴンか!!!


「ブレスってのはもう竜族にしか使えない技だったな?しかしなんか悪いな。なんか出そうだ・・・すぅうううううううおらああああああ!!!!」


ティア!?・・・お前も出せるのか・・・。


「そんな見様見真似のブレスに俺が負ける私のブレスではない!!!」


確かにティアのブレスに比べてドラゴニュートのブレスは勢いも、その大きさも桁違いに大きい。しかし、忘れることなかれ、ティアの隣にはこの俺がいる。


「エンシェントドラゴンさん・・・後ろが、がら空きだ」


微調整をしてドラゴニュートの後ろに回ると、驚いた顔をしたままブレスを吐き続けるドラゴニュートの首を刎ね飛ばし、無事戦闘終了。はっきり言ってティアがいなければ今頃カティウスにでもあっていただろう。


「ティア・・・さっきはありがとうございました」


「なにを言っているんだ、俺だってお前がいたから勝算のないブレスを使う気になったんだ。感謝してるぞ」



俺達は二体の死体を亜空間へそのまま突っ込み、次の階へ向かった。










どっちが主人公かわっかんねえや。

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