天使門 3 オジ天
~4階~
二階や三階も一階層と同じ容量で、天使のオヤジ達がやって来ては倒し、軍隊規模になって来ても薙ぎ倒し、数匹で来た時もきっちりと倒し、といった感じで特に変わった事もなく階段を上ることが出来た。コレは恐らく油断させるための塔の管理者による工夫だろう、その理由として高レベルの割には団結力も知恵もない。慣れてしまえば無傷でその場を済ませることも出来る相手なのだ。そんな奴らに冒険者達がいとも容易く屠られるというのは考え難い。
「アスク!またレベルが上がったぞ!」
「おめでとう!・・・この塔に来てからレベルが上がったのはコレが二回目ですね」
「体に力が滾るぜぇ!」
ティアは二つの剣を起用に操りながら、喜びの舞のようなものを踊っている。かなり大袈裟だが、レベルが上がった時はこの舞を決まって踊るので、ティアにとって喜びの舞は自分の成長を実感させるための、ある種一つのルーティンなのかもしれない。似たようなもので例えるなら誕生日ケーキの蝋燭を吹き消すような感覚だろうか?
「大袈裟ですねぇ、ッふっふっふ」
(犬がはしゃいでいるのを見て和まされているような気分だ)
そういえば経験値というのは、名前の通り色々な事を経験することで入る値のことを指すため、物を調理したり、神に祈ったりしても入ったりする。極めてその量は少ないがちゃんと入る。変わった事をすればそれだけ大きな経験値が入り、極めて平凡な生活をしているとレベルも中々上がる事がない。
俺のレベルが百を超えたのも、加護もあるが、基本的には毒薬製造や、貴族の者として出来て当然と言われる事の習い事などで経験値を稼いでいたからだ。
お茶や楽器の演奏、マナーなど、貴族にしか必要の無い事を二年間もやらされれば、それなりに継続していた分だけ経験値は入った。あれほどまでに時間を無駄にしたと思った事もないが・・・今現在役に立たないこともいずれ役に立つとマサトラ先生も言ってたし、実は後々になって役に立つのかも知れないな。
「っと・・・踊ってて遥か彼方に見えるアイツらに気が付かなかった。アスク、次の敵みたいだぞ」
「どこですか?」
「よく見ろ、神々しいだろ」
目を凝らしてみると、確かに自分の爪の先よりも小さく見える。
「アレは多分この塔の名物ですよ」
「天使のオジサンが名物ではないのか!?」
「そうだとしたら一定数の女性冒険者だけが吸い込まれそうですねぇーーー・・・・」
「消えた冒険者はアイツらにやられたとみて間違いなさそうだな」
「真正面から戦っても今度ばかりは絶対に勝てませんよ?」
「分かっている、俺もあれらを見てそこまでの勇気は出ない」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ステータス
名前:
性別:女
称号:
種族:天人族
レベル:300
HP:400000
MP:30000
攻撃力:75000
防御力:100000
素早さ:6000
賢さ:4000
器用:3000
幸運:100
通常スキル
槍術9 身体能力強化8
エクストラスキル
軽量化10
ユニークスキル
加護
龍神の加護
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
天使の行進が数キロにも続き、なんのための行進か分からずに見惚れていると、その天使達がいつの間にか付近を通っていることに気付き、魔法で雲の壁を作り隠れた。見つかってしまえばワープでも逃げ切れる自信がない程の膨大な数に己の目を疑いつつ、早くどこかに行ってしまえと唾をゆっくりと飲み込み息を潜める。
【いこう、今しかない】
ティアの手が俺の目にそう訴える。冒険者の多くが使えるというハンドサインを既に会得していたことに驚くというよりも、今ここで危険を冒してまで階段まで移動する意味はなんだろうかと思い首を振る。
【コレを投げる。行こう、今しかない】
手に持っているのはピカピカと光るスライムの玩具。生きているのか、淡く光ながら光るそれは目も鼻もないというのに、こちらを見て観察しているようだ。
【音が出る】
そう言われて、初めて俺はティアの意図をようやく理解し、首を縦に振った。そして小さくティアがハンドサインでカウントダウンを初め、ゼロになった瞬間、ティアは力いっぱいに振りかぶって先頭で指揮を執る天使の顔面目掛けてスライムを投擲し、俺は天使の最後尾が今だ近くに居る階段の場所までワープした。
『ボドォゥーン!!!!』
背後からスライムが出したのか、爆発音がなり響き、最後尾にいた天使もソレに目を奪われたのか、俺達は階段を駆け上がることに成功したのだった。
~五階~
「な、なんだったんだ今の・・・」
「見つからなかった・・・というよりも見逃してもらった、という方が正しいのかも知れませんね。むやみに戦おうとしていたら、僕達は今頃葬られていました・・・」
ステータス的にも、走って逃げてもすぐに追いつかれていただろう。初めの数メートルを様子みで歩いてみた時、数人はこちらを既に探し始めていた。気配のようなものを感じ取られたのだろう、追いかけられなかったのが幸運だった。
「逃げる事もまた戦いの一部か・・・」
「心に沁みますねぇ、さっきのような事の後だと」
「楽しそうだな、アスク」
「刺激的な出来事を人間は皆好むんですよ」
「危なっかしい連中だなぁ。それと遠くに見えるのはさっきのオヤジか?・・・赤っぽいが」
「天使のオジサンの亜種ですかねぇ?」
_________________________________________
ステータス
名前:
性別:男
称号:
種族:堕天人族
レベル:120
HP:26000
MP:20000
攻撃力:8000
防御力:5000
素早さ:5500
賢さ:4500
器用:300
幸運:30
通常スキル
槍術6 身体能力強化6 投擲6
エクストラスキル
ユニークスキル
加護
_________________________________________
(天使の次は堕天使か、最奥地にいるのが神だったりしたら捕獲の準備をしないとな・・・)
「アスクのいったことは大体合ってたみたいだな」
「みたいですねぇー」
「みたいですねってお前・・・はぁ、こういう時は心強いな」
堕天使の群れが一丁前にファンランクスでこちらに突撃してくるので、魔法陣であらかじめ横一列に罠を張り、引っかかるのを待つ。数秒後には魔法陣の上に大量の堕天使の亡骸が風魔法と毒の合成トラップに引っかかって積もるが、大した達成感も得られず、先ほどのようなスリリングな駆け引きもなかった。
「大量ですねぇ・・・、解体するのは多い方が精密に調べられて大変結構ですよ」
「トラップに引っかかって嬉しいのは分かるが、その死体を乗り越えてどんどん来るぞ」
「第二、第三トラップ設置完了!実験開始!」
すると、先ほどのように大量に死ぬ事は無く、丁寧に口や顔を服で覆った奴がこちらへとやってくる。距離はおよそ一キロ先、すぐそばまで飛んできている。
「布で覆うってことは、コレの正体に気づいたって事ですね。魔物の癖に賢い奴らだ」
「油断してたら大変な事に・・・」
横を見ると首の無いティアが血しぶきを上げて立っている。どうやら、いつの間にか投擲された槍がティアの頭を吹き飛ばしたらしい。
「大変な事になりましたね」
「あぁ・・・全くだ。俺もどうやら用心が足りなかったらしい、絶対ぶっ殺す」
ゴキゴキと、首を鳴らすティア。白い肌に浮き出るのは静脈、コレはかなり怒っているようだ。言葉遣いも悪くなっている所から見るにもうなりふり構わずって感じだ。
「補助魔法で援護します」
「うむ、皆殺しだ」
死んだ経験が経験値になって蓄積されたティアのレベルは先ほどよりも十程上がって、見違えるような強さを滲ませている。一度に強くなったティアのステータスに初めはティア自身も慣れないような様子を見せたが、徐々に馴染み始めると後はステータスの差は誤差だと言わんばかりの無双を始めた。実際にはかなり強くなっていてバランスも取りにくいだろうに、直観で調節しているのだろう。凄い子だ。
「オラオラ!!!どうした!!!お前達の力はそんなものか!!!俺に示してみろ!!!」
などと、吸血鬼の王になる王子らしいセリフが飛びだす。素で魔王のようなことを言うティアにはきっと魔王になる才能があるに違いない、根は優しい奴だが怒らせるとこうも怖いとは思わなかった。
もう昔からのセオリーのように思えるが、優しい奴が抑えきれなくなった怒りを爆発させた時は、誰にも止めることなどできはしないのだろう。ただ、嵐が過ぎ去るのを待つように、今はジッとティアの怒りが収まるまで、干渉せず、静かに待っているとしよう。どうせすぐにかたが付く。
~数分後~
辺りには赤い肉片が大量に散らばり、その中でひとり立つ少年の姿があった。
「ふぅ、まあこれで許してやろう、俺は寛大だからな」
遠くでそういっている彼の声が聞こえる。寛大・・・ねぇ、研究材料に出来ないほどグチャグチャにしやがって。これじゃ素材としての価値も研究材料としても無意味・・・か。もう堕天使の事は忘れて次の階に行くとしよう。
B6
ここは中間地点か、周りにはモンスターの気配もなく、三つの宝箱と泉がある。
「お宝じゃないか、アスク、開けてもいいか」
俺も頷き、ティアが一つ目の宝箱を開ける、すると上から大量の矢がティアに降りかかり、ティアは串刺しになってしまった。
「死なないからって、何度も何度もされていたら流石の俺もイライラしてくるな」
見た目のせいか、イライラという言葉よりもプンスカプンという方が似合っている気がするが、ソレを本人に言うと何をするか分からないので特に何も言わないが。
「ランクの高いダンジョンは宝箱にも罠もあるので、うかつに開けないようにしなければいけませんね」
「な、なぁ、アスク、もうちょっとソレ早く言ってくれると嬉しいんだが」
ティアが何か言ったかも知れない、しかし特に重要で無いような事なので気にせずティアが串刺しになった宝箱を覗く、中にはエメラルドグリーンに輝く石をのぞかせた岩があった。
「これは、大きな石ですね何でしょう」
■アレキサンドライトの原石 特異級
説明:磨くとアレキサンドライトになる。
「こんな石のために串刺しになったのか・・・アスク、コレやるよ」
「良いんですか?これ磨くととても綺麗な宝石になるらしいですよ?」
「宝石は見飽きた、換金するとしてもこのままでは普通の店じゃ買い取ってもらえんだろうからな」
「悪い気もしますが、ではありがたく」
「それよりも次の箱だ、どうせならいっきにあけてしまうか」
トラップはあの宝箱一つだけだったらしく、中身はすんなりと姿を見せた。
■男爵イモ 高品質
説明:とっても美味しい男爵イモ、食べた者を笑顔にする。
男爵イモ・・・・!この世界にも遂に男爵イモなんてものが!ありそうでなかった、あちらの食べ物、男爵イモ。それが宝箱いっぱいに入っており、綺麗な外れだという事が分かる。
「ティア、そちらはどうですか?」
首を振っている、どうやら外れらしい。
「こっちは武器だ、そっちは何だった?」
武器は十分に当たりだと思うが、俺のイモに比べて。
■愛の鞭 特異級
効果:ファントムペイン 快感上昇 ダメージ無効 HP回復
材料:ファントムゲイズの鬣 天使の翼 ユリオンの骨
説明:この鞭では身体的なダメージは望めないが、相手への精神的ダメージに有効な武器
「面白そうな武器じゃないですか、僕の物と変えてくださいよ」
「何だそれ・・・まさか俺の知らない野菜なの・・・か」
随分と衝撃を受けているらしい、そんなにこのイモが良いだろうか。
「多分ダンジョンから出たものなので、見ない植物かと・・・いります?コレ」
「欲しい、交換して欲しい、頼む、大事に育てるから。研究とかしてみたいんだ」
植物のことになると目の色が変わるティア、植物に限っては王子でなく少年になる様子。
「では愛の鞭は僕が貰いますね」
(色々な用途があるからな・・・)
「おう、育ったら食わせてやろう」
「あ、ありがとうございます」
俺達は泉の周りで昼食をとった後、七階への門をくぐった。




