和解・・・?
ジーナ達が山を降り、数十分ほどたった頃。むくりと竜王が気絶から大きなあくびをしながら目覚める。そして周囲を見渡すと俺に気がついたのか、怒りを咆哮に乗せてほえた。
「おう・・・・やっと起きたか。それにしても随分と大きなあくびだったじゃないか、どうだ、眠気は覚めたか?」
「おかげでの・・・して、この檻は何じゃ。このような物で妾を降伏させようとしておるのか?」
「まだ勝った夢でも見ているのか?」
「・・・・・小僧。十秒やろう、早くこの鎖と檻を外せ。今なら丸のみにして楽に殺してやろう」
丸のみにする力も今の竜王には残っていない、自信だけは失っていないようだが、体がそれに応えきれていない。彼女の心は俺に未だ勝つつもりのようだが、彼女の肉体は既に負けを察し始めている。
「お前は俺の薬に負けた。お前の状態異常に対する軽い気持ちが、今回のような事態を招いたのはお前にも分かるだろう?そして普遍の事実を受け入れ次に生かそうと思うなら―――今回は負けておけ。竜にも誇りとやらがあるなら、それをこれ以上傷つけてやるな」
能力も体の大きさも知らない相手を前に、一週間という時間をかけて情報を集め、毒の調達や罠の数々を作りあげてきた。その俺に無策で力のみで勝とうとするのはあまりにも浅はかなことだ。
「ぐっ、貴様どこまで妾を愚弄する気じゃ、よかろう相手をもう一度してやる、さあ早くこの鎖を外すのじゃ」
脳を破壊するほど強く聞いていたなら、それ相応の反応があると思ったが・・・先に精神が崩壊したか?言っている事が理解できない。
「お前はこの薬に負けたんだよ、このピンクの薬があるだろう」
亜空間からムチンのような粘り気が特徴的なピンクの液体を取り出し、それを見せると竜王の顔は怒りの顔から一辺して、怯えるような顔でその薬に目が釘付けになる。
「先ほどの薬・・・か?又それで妾を無理矢理あのような・・・いや、次は先ほどの様にはいかぬ。妾に同じ手が二度通用すると思うなよ小僧」
「あの薬と同じなわけがないだろう、これはさっきのものとは比較にならない原液だ。使った瞬間、意識が飛ぶだけで済めばいいが・・・地獄のような生をこれから送ることになるぞ?」
今ある快感のポーションはこれだけ。コレを使い切って尚も竜王が回復の兆しを見せるようならば、殺すしかない。最初はこの竜を見てもただ美しい竜としか思わなかったが、俺の求める答えが彼女にはあるような気がして、食事を終えてから彼女の事ばかりを考えている。
もしや自分に心の変化があったのではないかと思っているが、なにぶんまだ情報が足りない。そういう意味でも今後、この竜とは何かしらの関係でいたいと思うようになっている自分がどこかにいる。きっとここで殺してしまえば、それでお終いだ。
しかし、この地点でなにか一つ変えることが出来るなら―――この竜との共生の道を選ぶことが出来るのならば、俺はこの己に宿った変化の正体をいずれ見つけることが出来る、そう確信している。
「小僧の持つ毒はそれだけ・・・・共生を望むじゃと?・・・・馬鹿馬鹿しいのう」
竜は心を読めるのか・・・それとも第六感というやつなのか。口に出して教えてくれただけで今は良いとしても、こちらの手の内を読めるなら初めの毒も避けることが出来ただろうに・・・色々と不可解な奴だ。
「貴様のような奴の嫁になるぐらいなら、自決するのが先じゃ」
「ふむぅ・・・・困ったな」
今考えれば、竜王が死んで帝国軍がこちらに攻めて来たりすれば大変だ。戦争が始まればウチは儲かるが、色々被害が大きすぎる。死人も出るわ、場所は壊れるわ、最悪の未来しか待ってない。帝国との戦争は後々起こるとしてもそれは今やる事じゃあない、せめて俺の薬が完成した後だ。
「ちょっと待ってろ・・・」
「ようやくこの鎖を外す気になったか、しかしお主を殺す事には関係ないぞ」
「絶対に殺さないと駄目なのか?」
ジーナと同じ方法で何とか・・・・いや、今の竜王は流石にそういった事に敏感になっているだろう。俺の攻撃の殆どは予備知識無しの相手を想定して構成してある、そして例え竜王が弱っているとしても竜王は俺の次の行動の予測をして対処してくるだろう。
「妾の中ではこれは最優先じゃ、お前は地の果てまで追いかけ、殺してくれる」
「それは今じゃなくても良いか?」
「命乞いのつもりか?妾を嫁にすると言っていた男のセリフとは思えんな?クッふふふふふ」
「命乞いじゃない。それと竜王、お前は俺の女だ。今でもその考えは変わらない」
虹色に輝くブレスを放って竜王は返答してきた。どうやら相当嬉しいらしい、竜の癖に頭に青筋が立っている。
「まぁ待て、俺もまだ子供を持つにはまだ早い、竜が子供を産むのはまだ後でも大丈夫だろ?五年待ってくれ、必ずお前を力技でたたきのめしてやるから」
「ほう・・・五年後と言えば例の大会があったのぉ、クッふふふふふ・・・よかろう。五年後、小僧を殺しに行くとしよう。期限ギリギリと言った所じゃが・・・まあよい」
「大会?なんのことが分からないが、とりあえず良いんだな?」
「くどい!その顔は殺すまで忘れん。余生は怯えて生きるがいい」
「そういえば君に時々手紙を送りたいんだ。名前は竜王じゃないんだろう?」
「死ね!!!!!」
俺は竜王との決着を五年後に持ち越し、山を下りた。
竜王の言っていた例の大会とは・・・!5年後に言ったい何があるのか!書かれるのは当分先!




