ジーナのユニークスキル
竜王が気絶している間に二人に解毒剤を飲ませると、うめきながらも徐々に痺れが取れ始め、呼吸も正常に戻り始めた。
「二人とも大丈夫ですか、二人のことが気がかりで僕は・・・僕は・・・」
俺はそう言いながら涙を一滴流す。
「アスク、貴方私達の事を忘れて一人で竜王見ながらご飯食べてたわね、どう、美味しかった?」
麻痺の状態でも意識ははっきりしていたのか・・・それは計算外だった。しかしまあ痺れて動けない人間二人と気絶して倒れた竜王のそばで、山の頂上を見ながらとる食事は格別だった。美味しかったと聞かれれば勿論イエスと答える。
皆で食べる食事と一人で食べる食事、一体どちらが美味しいかと聞かれたら間違いなく一人という答えがそこにはあったような気がするほどに。俺は愉悦と素晴らしい景色と食事をとれたことを幸せに思う。
「オークパニーニの事ですか?・・・ヘヘッ、食べてみてください」
「このやろう・・・わざと私達を放置してたでしょ」
「要らないんですか?・・・このパニーニ材料費だけでもかなり高いんですけど」
「貴方が食事をしている最中、偶に此方を見て容態を確認していたのをぼんやりとした中覚えているのよ?もしも私達が死んでも彼方には関係ないってことかしら!?」
「一つ手間暇込みで五万ジェルってところですかねぇ・・・飲み物も付けたら十万ジェル程です」
「・・・・・・頂くわ」
パンの焼き具合が良いだろう、それに使われているオークも品質の良いものが使われている。養殖などでは出せない大自然に培われた食べ応えのある肉から、溢れる旨みがたまらない事だろう。食べている本人の顔を見てもそれは一目瞭然だ。もう彼女は他のパニーニを食べてもコレと比べてしまい、このパニーニをもう一度食べたいがために、起こってしまった俺の行いも許さざるを得ないはずだ。
「ジーナ嬢・・・ここにきて食べ物に目が眩んじまいましたか・・・」
「ドラブさんと言いましたね?お酒は飲めますか?」
こっちの男には酒を飲ませよう、勿論良いものをだ。下戸なら別の物を用意するが・・・。
「いえ、ワイは馬がありますんで酒は・・・」
どうやら飲めはするようだな。
「帰りは僕が送って帰りますよ」
『申し訳ないです』という彼に、『いやぁ良いんですよ彼方も大変でしたからねぇ』と酒を進める。
「何であなた赤ワインなんて持っているのよ・・・国から子どもは十五歳まで飲んじゃダメな事になっているでしょう」
「父さんのセラーに入らなかったモノを貰うんです。主にポーションの材料で使うのであまり飲んだりはしませんよ」
「だから、飲んじゃダメなの、話通じてる?」
「客に出す前にソレがどんなものが知っていないと相手に失礼でしょう?」
「あのね・・・そうじゃないのよ・・・」
こめかみを抑えてジーナは唸る。俺も正論には絶対に勝てないと知っているので、逃げに逃げているわけだが・・・ジーナがこの事に気付くのはしばらく後の話だろうな。今は美味しい物でも食わせて忘れさせよう。
「ドラブさんも、飲んでないでなにか言いなさいよ!」
「男は横からどうこういうモノではないんで、もうしわけありやせん、お嬢」
「懐柔されるなんてなんて出来の悪い御者なのかしら・・・帰ったらおとうさんにいいつけるわよ?」
おぉ・・・ジーナのやつ、身分の低い者には容赦がないなぁ。もう一つパニーニがあるからコレで気をおち着けなさい。
「モグモグ・・・・うひゅぅ・・・」
美味しいものが精神にも良い影響を与えることは科学的に証明されている。感情の起伏が激しい年ごろだ。恐らくこれでほぐれることだろう。念のためにもドラブには帰って酒を飲んでもらうことにする。瓶ごとジーナの見つからない場所で渡し、ドラブは終始機嫌が良かった。
「そういえばジーナの所には凄い密偵が数多くいるんですよね?昔からそういう家系という訳でもないでしょう?一体どうしたんですか?」
「ん・・・まあ、ウチにも色々あるってことかな。でも良いじゃない、お嫁さん、探してたんでしょ?」
本当に何から何までお見通しという事らしい、一体俺の邸までどうやって侵入したのやら・・・
「ほぅ・・・凄いですねぇ、良く調べられている。ジーナの情報だけにはこれからも頼っていくかも知れませんが、その時はよろしくお願いしますね」
「・・・・はぁ、もうなんか面倒になって来たわ。貴方に嘘を吐くのは同類みたいで気分が悪いから本当のことを言うけど・・・誰にも言わないで頂戴ね?」
「はい、もちろん」
「実を言うと貴方の情報を知ったのは私のユニークスキルの力なの。目のあった生物を対象に、数週間前の過去と数日後の未来を見る事が出来るスキル。それが私のユニークスキルなのよ」
ユニーク・・・スキル?俺とはかなり部類の違うものだな。てっきりモノづくり特化の匠スキル的なカテゴリのスキルの場合のみかと思っていたのに。占いというかそれは・・・
「それは凄い、預言者ですか」
とんでもないスキルを持っているのがジーナで本当に良かった。他の奴がもしもこのスキルを持っていて、尚且つソレを悪用されるような事があれば大問題になりかけていた。
「とぼけないでよ、貴方もユニークスキルを持っているでしょう?しかも職業もオリジナル」
そういう事まで分かるのは・・・・少し面倒だな。
「困りましたねぇ」
「どう?一泡拭いたかしら?」
「その勢いで僕は倒れてしまいそうですよ」
「そ、後一週間の内には倒れることはないから安心しなさい」
「回数も無制限ですか」
「当たり前じゃない、使用回数にルールがあったら驚きよ。それにしても・・・・ユニークスキルって変わったものばかりなのねー・・・ちょっと驚いたわ」
「Z組にいる全員がユニークスキルの保持者ということをご存じではないんですか?全員がソレを使いこなしているかと聞かれると答えられませんが」
「嘘!?・・・スクイちゃんやリーズちゃんもまさか・・・」
「まあそんな誰かも知れない人は置いておいて・・・竜王のことを町の人達に早く伝えに言ってあげてはどうでしょうか?道端で祈る声が聞こえてくるのは、もう勘弁してもらいたいですからねぇ」
「そうね、皆もとりあえず元気が出ると思う。ありがとうね、アスク」
そう話を付けて、二人をワープで麓までとばした。俺にはまだやることが残っているから、ソレを終えて二人の後を追おう。




