森に入っての初戦闘
俺達は森に入る準備を整えるため、まだ見ぬ寮に向かおうとすると校門前になぜか立っているメロエ。彼女のSSSクラスはまだ授業中だが・・・
「アスク、その女の子誰なの?グランドからそのまま寮の方に向かって歩いて行くから気になって来てみたんだけど」
メロエの様子がおかしい、いつもの明るい表情が今は少し濁っているように見える。
「おい、俺はおと・・・」
「あなたは黙ってて」
「う・・・うむ」
「アスク、説明してよ」
それから十五分ほどかけてメロエに事の顛末を語ると、メロエの顔から濁りは消え、晴れ晴れとしたいつものメロエに戻った。一体さっきのは何だったのだろうか。
「なら私もついて行くわ、ティア君ともお話しがしたいから」
「女扱いしないやつは良い奴だ、よろしくな」
「それよりメロエ、授業は・・・」
「一日ぐらい別に問題無いでしょ?今やってる所なんてずっと前にやった所だし、出来た友達も皆寝てたから暇だったの」
(メロエの奴そんなに賢かったのか・・・そういえば母親はシンリーだったか。なるほど、納得だ・・・いやしかし初日から学校を早退とは・・・良いのか本当に・・・)
準備のためSSS組とZ組の寮に行くと、内装は中々に豪華で、壁などには絵などが多数飾られている。風景画やらこの世界の偉人っぽい人間が描かれており、絵の一枚でも破こうものなら金貨ではすまされないかも知れない。しかし後で全て捨てておこう、邪魔だ。
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俺が寮を出ると既にメロエが待っており、ティアはまだ準備に時間をとられているようだった。
「ティアは3階の部屋なんだね、アスクの部屋は確か一階の一番端っこだったよね?ルームメイトの人ってどんな人だった?」
「俺達Z組は一人に一つ部屋が貰える。メロエの部屋は誰かの一緒だったのか?」
「驚いたことに隣の席に座ってたオーガの女の子だったのぉ。アスクの事話したら決闘したいって言ってたよ」
「俺に憶えられるぐらい強いことを証明したら、それも考えておくと言っておいてくれ」
「うんわかった~、あの子力はとってもありそうだからもしかしたら、アスクが負けちゃうかも知れないよ、アハハハハ」
「かもな」
オーガという種族の情報が足りないからなんとも言えないが、生物なら俺の持つ剣で斬ればなんとでもなるだろう。
「二人とも待たせたな!」
ティアが三階から飛び降り、やがて地面と接触するとギュチャっと音がする、首やら足などがあらぬ方向へと向き、頭からは血が噴き出ており年齢確認が必要な光景が眼前に広がっている。その後その肉はグチャグチャと音を立てながら元通りの原型に戻っていく。
「これが不死のスキルの力ですか・・・中々に興の乗る光景ですね」
「スキルと言うほど良いものではない・・・これはヴァンパイアの呪いのようなものだ。老衰かヴァンパイアに対するスキルのようなものでなければ、俺達ヴァンパイアは死ぬ事を許されない」
「ティア君、もっとよく考えないと駄目だよ。おじいちゃんになるまで元気に生きられるってことなんだから良いじゃない!」
おじいちゃんになるまで心が元気かどうかは別の話になってくるだろうがとりあえず体は、寿命まで死ぬ事なく再生し続けるのだろう。拷問も絶対に死なないから楽にできるわけだ・・・何とも可哀想な種族だな。
「そのおじいちゃんは次第に足や腕、体が動かなくなり意識だけとなる。そしていつ自分は死ねるのかと涙を流して孤独に寿命までの時間を過ごすのだ」
その凍てついた言葉にメロエの表情は悲しそうな顔をする。なにもダイレクトにそんな例えをする必要もないだろうに。まあ・・・ティアもメロエもまだまだ子どもだし、仕方のないことではあるが。
「ティア、そのスキルはティアにとって呪いと思えるものなのかも知れませんが、その力で不可能な事を可能にすることが沢山あると僕は思います。いつか細胞の採集をしたいぐらいです」
「お、おう?ありがとな?準備できたしじゃあそろそろ向かうか、冒険者ギルドへ」
「ええそうしましょう、メロエもそれで良いですね?」
「うん!」
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冒険者ギルドに着いた俺達は登録をするために受け付けにいった。
「坊やたち、ここは大人たちがお仕事に来るところよ?」
「僕達はこれでもここら辺の人間よりも働き者ですよ?」
「ごめんなさいね、あなた以外のその二人にはちょっと冒険者はまだ早いと思うの」
あぁ・・・見た目の問題か。確かに百六十センチある今の俺と、年相応の身長の二人は確かに問題があるか。
「おい坊主ども、姉ちゃんを困らせてんじゃねえよ・・・」
「貴方は冒険者ですか?」
「おう、俺はC級冒険者のバッシュってんだ。坊主達ダメだろぉう?強いのを証明するものも持たずに来たって誰も信じちゃくれねえぞ、腕に自信があるなら魔物でも狩って持って来ればいいじゃねえか」
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ステータス
名前:バッシュ
性別:男
職業:重戦士
称号:ビーストキラー 守護者
種族:人族
年齢:34歳
レベル:30
HP:300
MP:100
攻撃力:200
防御力:300
素早さ:90
賢さ:70
幸運:10
通常スキル
鑑定1 大剣術4 盾術6
エクストラスキル
ユニークスキル
加護
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なるほどなあ・・・C級の冒険者がコレか。鑑定もしてこないし、この世界の一般的な冒険者はこういった感じなのか。
「ではそうする、アスク、メロエいくぞ」
「そうですね、証明書は必要だ」
「そうね、先に行きましょ」
二人は女の子扱いされたのが嫌だったのだろうか、メロエはムスッとしており、ティアの色白の顔には青筋が立っている。怖い子達だ。
森は王都から近いといっても離れたところにあり、普通に走れば長い時間がかかる。
俺はティアとメロエに体に、魔法による負荷がかからないよう、負荷の緩和をする魔法をかけ、体を軽くする魔法もかける。ティアが詠唱はしないのかと聞いてきたが、なんのことか分からなかったために適当な相槌を打ってその場を切り抜けた。
「早いはやーい!」
「馬車なんかよりもコッチは楽で気持ち良いぞ!」
普通は出せないようなスピードが魔法によって可能になり、移動効率が魔法によって各段に上がる。この世界には馬車はあってもスピード重視の乗り物が開発されない理由は多分そこにあると思う。
文明的にもっと先というだけなのかも知れないが、少し頑張れば魔力だけで330キロまで出す事が出来る魔法があるのだから、自動車を開発するよりも魔法を覚えた方がコストが安くていいのだろう。魔法車とかいうあのゆっくりと走る車は、貴族が自慢に乗っているようなものだしな。
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森の中に入ると、さっそく最初の獲物を見つける。
「アレはゴブリンか・・・つまらん」
どうやら狩らないらしい、通りすぎて行く。
「なんでですか?いつもすぐ湧いてるから出会ったら狩るのが一般的ですよね?」
と、一般を知らない俺が知ったようなことを言う。
「ゴブリンは金にならんし、他のEランク冒険者やDランク冒険者のとる獲物の数が減ったら可哀想だろ?俺はやるなら徹底的に回りの奴らもろともぶっ壊すぞ」
滅茶苦茶な考え方でとても惹かれる。やるなら徹底的にということか。
「もう少し奥にすすみますか・・・そういえばメロエはどのくらい戦えますか?」
「アスク、ちょっと聞くのが遅くない?鑑定しなさいよ」
「では失礼して・・・鑑定」
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ステータス
名前:メロエ
性別:女
職業:
称号:料理王の娘 奇才 多柱の加護
種族:人族
年齢:6
レベル:30
HP:120
MP:50000
攻撃力:60
防御力:80
素早さ:7500
賢さ:500
器用:300000
幸運:50
通常スキル
料理12 洗濯8 裁縫11 針術8 短剣術3 解体術10
エクストラスキル
母親の才能
ユニークスキル
選ばれし者1
加護
龍神帝アジ・ダハーカの加護 サタンの加護 精霊王アクシャスの加護
農耕神ぺルセポネの加護
選ばれし者
レベル1
絶対にピンチになっても助かる
加護
龍神帝アジ・ダハーカの加護
MPに成長補正+極大 補正効果倍加
精霊王アクシャスの加護
MPに成長補正+極大 賢さに成長補正+大 精霊との親和性+大
農耕神ぺルセポネの加護
器用成長補正+極大 器用補正効果倍加
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「メロエは見ない間に強くなりましたねぇ」
ステータスが人間の数値を示していない。前から色々と器用な子だとは思っていたが・・・本当に器用な子だったのか。
「えへへ、アスクに言われた通りに、『毎日』私頑張ったの。アスクが森とかに行ってるときに私はお母さんから裁縫と洗濯とか、お父さんからは料理とか教えてもらってたからね。家の事なら何でも任せて!」
な・・・なんてハイスペックなんだ。普段の生活では殆ど役に立たない事ばかりしている俺を置いて、彼女は俺の知る以上に凄い成長をしていたらしい。
「メロエはそれってどうやって戦うんですか?」
「そうだなー、針で体を縫い付けてあとは短剣でブスリかな」
針で縫い付けてる辺りで既に急所狙えそうだが、そうはせずに縫い付けた相手をその後短剣でか・・・・メロエのやつ以外に惨い殺し方をする。とても四歳児とは思えない猟奇的な発想だ。
「案外メロエはえげつない奴だな、そうおもわないかアスク?」
「僕達も縫われないように気を付けないといけませんねぇ・・・」
「やらないよ、・・・・うん」
針を持って微笑む彼女に冷や汗をかく。ティアも笑いが引き攣っている。
「おいアスク、お前の女だろ、どうにかしろ!コイツ怖いぞ」
「何ですか僕の女って、メロエはただの幼馴染です!」
「ただの幼馴染・・・・・・」
森の中を駆けながらそんな会話を続けていると、途中にゴブリンが現れ、「ンニヨォー!」と襲い掛かって来た。
(よし、話しの流れがこのゴブリンのおかげで変わるぞ・・・!)
「え!?、あ、コイツ?やっちゃえばいいの?」
ゴブリンとメロエの戦いは戦闘にすらならなかった。圧倒的な速さでゴブリンの後ろをとり、服の中に仕込んでいたのだろう鉄の針でブスリ、ナイフを使うまでもなく、小さな針で喉元を突き刺して絶命させてしまった。
「ま、こんなものかな」
なんてことだ。ゴブリンなんて存在自体していなかったような流れる作業で、死体は始末されてしまった。血まみれの手でゴブリンの内臓を捌くメロエの姿は手慣れた猟師の如く鮮やかに行われ、最後には血の一滴も残らないよう彼女の水の魔法が汚れを全て洗い落とした。
「あの針ヤバいぞアスク!」
「縫うなんてことはしませんでしたね・・・」
「亜空間に入れておくわ」
あれ、その魔法教えたか?
「最近俺以外にもこの魔法が使える奴が増えていて驚いているんだが、コレはお前の仕業か」
「いえ・・・僕はなにもしてませんよ。メロエが自分で覚えたんです」
「彼女は何者なんだ?」
「僕も・・・・・・分からなくなってきたんです」
「なーに話してるの?」
お前の話をしてるんだよ!っと、肩越しに話しかけて来るメロエに言ってやろうかと思ったが、先ほどゴブリンを捌いた時に使った短剣を握っていたので、俺はその言葉を静かに飲み込んだ。
「メロエはアスクの事がとても好きなんだと思ってな!なっ!アスク!」
「は?・・・ああ、ん?ええそうですね・・?」
「ちょっと、ティア君!?」
ティアの言っていることがよく分からなかったため、適当な相槌を打つ。
「で、どうなんだ!お前はどうなんだ。好きなのか嫌いなのか?」
好きか嫌いかと聞かれたら。とりあえず適当な相槌を打てば何とかなるだろう。
「時と場合で代わりますかねぇ・・・」
「は?」
今の『は?』はメロエのモノか?ふむ、いやそれはない。メロエに限ってそんな野蛮で威圧的な事をするわけがない。ティアの奴、メロエの声真似をするとは・・・中々に、似ていたじゃないか。メロエ本人かと思ったよ。
「おい、メロエが怒ってないかアスク!」
「何でメロエが怒っていると思ったんですか?僕の知るメロエなら、絶対に怒りませんよ。ねえ、メロエ?」
「うん、怒ってないよ」
「僕はそういうメロエが好きですよ」




