先生と模擬テスト パート1
「今日から1年Z組の担任になりました、マサトラ・クスノキです。10年間クラスを変わるような事が無ければ同じです。あなたがたの先輩たちは今は、ほとんどの学年が遠征へ出かけているので、今あう事が出来るのは少しの人達だけでしょうが出会った場合は挨拶を忘れないように」
10年か・・・人生の十分の一を過ごすとこの時間が何か特別なものなのでは無いだろうかと思わされる。それにしても10年もクラスが変わらないのは俺にとってはありがたい事かも知れない。初めの一年で生徒の名前やその他諸々を覚えた後、友達の友達は私の友達作戦で徐々にその輪を広げていく・・・実にパーフェクトだと我ながら思う。
「はい」
「はい、ティア君、なんでしょう」
「クラスが変わるような事とはなんだ?」
「例えば、このZ組というのは学校の顔ですから心身ともに優秀であり続ける必要があります。なのでテストで85点以下を取ったり模擬戦で他のクラスの子に負けてしまうと、下のクラスに行ったり、クラスを勝った子と組の入れ替えをしなければいけません。ですが1年生の内からZ組の私達に模擬戦を仕掛けてくるような子は・・・いるかも知れませんがまぁ、油断せずにいけば問題ないでしょう。テストもまた然りです」
「分かりました」
実力次第で上のクラスにも下のクラスにも移動することになるわけか、となるとこれはZ組の生徒の力を底上げしてメンバーが変わらないようにしなければならないな。新しい奴が入って来られたら、俺の平穏な生活が台無しになってしまう。
それからも幾つかの質問が続いたが、そんなことはどうでも良いことばかりだ。この今のクラスならば俺に対する不安分子や危険分子は存在しない。もしも外部からそういった侵入者がやってくれば・・・その時は・・・新薬の実験体として歓迎しよう。俺の人生設計を揺るがす者は必要ない。
「無いならこれをZ組の始業式として、Z組の始業式を終わりにしたいと思います。起立、例」
それからは普通のホームルームが終わり、教科書が配られ授業が始まったが、どうにも簡単で眠たくなる。他の子供達も眠たそうに眼をこすっている、俺はもう駄目・・・・だ・・・・すぅー・・・すぅー・・・
「皆さん眠たそうですし少し別の事をしますか、どうせ1年生で勉強することは皆さん家で勉強しているでしょ?そうと決まれば皆さん外に出ましょう」
「先生いいんですか、授業中ですよ?」
先ほど俺のステータスを看破した獣人の・・・確かスクイだったか。彼女の声は少し低めの声で大きく、後ろの席に座っている彼女の声が一番左前に座っている俺の席まで良く聞こえる。シンリーにもにた真面目な獣人に見える。ああいうのは社会では馴染めないタイプの・・・いわゆる馬鹿真面目というやつだろう・・・あぁいや、いわゆらないか。とにかく言われたことしかやらない機械のような奴だろう。
「良いんじゃないでしょうか、どうせ皆さんも授業中ひたすら机を枕にするのも退屈でしょう」
マサトラ先生は全てを知っているかのように(実際経験済みなのだろうけど)、生徒達を学校のZ組に用意されたグランドに魔法を使って投げ飛ばした。
「ヒャッハー!!!!メイリオ様が一番のりだぜぇ!!!」
「アルバート参る!!!」
そんな感じで次々と生徒が落ちていってはそれぞれが魔法を使って衝撃を吸収して地面に着地する。これは下校時に樹から降りる際に安全のために使用される衝撃吸収の魔法であり、結構な高等魔法だが、学校のパンフレット替わりにZ組は特別に貰い、入学前までに習得しておくのだ。
「まず皆さんがどれくらい強いか先生が模擬戦をしてあげましょう、何人でもいいですよ、来なさい」
「俺から行くぜぇ!?」
「私も参加させてもらうか」
この二人は・・・鑑定に失敗したやつらだな。鑑定はお粗末だったとしても実力はこの学校で認められた奴らだ、まあ先生もかなり手こずるだろう・・・・。
「ではメイリオ君、アルバート君、かかって来なさい」
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5分後・・・
そこには大の字になって息を荒げるメイリオと、膝に手をつき前屈ぎみに苦しそうに息をするアルバートの姿があった。Z組で卒業しただけあって二人相手でも余裕で攻撃をいなしていたようだった。
「なにもんだよ・・・・まじで・・・・強すぎ・・・・だろ・・・・」
「私達はアレに追いつかなければいけないのか・・・フフフ、天才と言われた某の剣もまだまだのようだ」
二人の戦いはまるで正反対だった。メイリオはとにかく相手に隙を与えない拳での連続攻撃を得意とし、アルバートの剣術は自分の間合いを完璧に操る戦い方のようだった。
しかしメイリオの攻撃の連打は左足や右の手で全て打ち消され、アルバートの剣術も木の葉のように全ての攻撃をヒラリヒラリと避けると、メイリオに剣が当たりそうになればいつの間にか出した小刀でその剣をはじくという芸当さえも見せるほどに、この戦いは先生の圧勝だった。
「二人とも基礎的な能力は高いのに突っ込んでくるしか出来ないのが残念ですね。もう少し魔法や戦略的な動きを勉強する必要があります。今まで君たちは強い力を持って生まれてきたばかりにその力に驕っているところがあります。この十年で少しはマシになることを願いますよ。さて、次の人」
事前の情報はなし、敵は強い。毒殺ならまだしも、純粋に剣と魔法だけで戦うとなれば手も足もでなさそうな相手だ。やれるだけやってみよう。
「ティア、次僕がいきますが一緒にどうですか」
「お前何言っているのだ、それでは先生が可哀想だろ」
嘲笑ぎみにティアは俺にそう言う。しかし、コイツも奴の実力が俺達よりも上だという事に気づいている事が話をしている際の目で分かる。
「そこの二人、大丈夫です。かかって来なさい」
そうと言われては仕方がないと、二人で先生の懐に剣を握って飛び込んだ。
『いいんですか、なら遠慮なく』
「我がダーインスレイヴよ、汝の刀身は万物の物に永遠に消えぬ傷を残すため、我がグラムよ、汝の刀身は裏切りものへの罰を下す審判の刃なり、さあ屠ろう、目の前に私達の敵はいる」
「えぇ、ティアそんなの考えてるんですか・・・僕そんなの考えてませんよ・・・?」
ティアの二刀流の剣と俺の大剣は軽く一人の人間を吹き飛ばした。
「これを言わないと剣がまだいう事を素直に聞いてもらえなくてな、俺もまだこいつらに完全に認められたわけではないからな・・・」
とんだ呪いの武器じゃないか、どうしたらそんな偉そうな武器に出会うのか不思議でならない。
「君達・・・随分と危険な物を持っていらっしゃる。先生は嫌ですよ、痛いのは。それに私は手加減が苦手なんです。ですから君達の勝ち・・・ということで良いですか?」
非常に遺憾ながら不戦勝という事になった。しかし隣の白いお餅のような顔が赤くなっているティアを見ていると、癒されたので良しとしよう。
「ティア、次があります。だからあんまり怒らないでください」
「う、うるさい馬鹿者が!くぅぅ・・・・クソッタレ!」




