(サブストーリー)新たなる研究者1
時々出す感じの研究者編。その1
「お願いだ!!もう少しだけ待ってくれ!あと少しなのだ!」
男は床に頭を擦りつけた。頼む相手はこの国の王、しかしその王が首を縦に振ることはなくその男は城から追い出されてしまった。
「ああ、何という事だ。後一歩で完成と言うのに、なぜ誰もこの素晴らしいゴーレムの存在に理解を示さないのだ!」
男は城門を前にして項垂れた。それを見かねた警備兵は言う、貴方は十分にこの国に貢献して下さった。ただ、今の彼方は昔にも増して変わっちまった。少し落ち着くまで嫁でも貰って幸せを手に入れたらどうだいと。
男はそんな物に時間を割く暇が惜しいのだと警備兵に絶叫すると、以前その男に向けられていた英雄に対する目ではなく、面倒な爺さんを相手にするような眼だった。
「何故だ、何故わらかん。これ程まで革新的発明を私はこれまでにしたことがないのだぞ。コレは世界の覇権を塗り替える兵器なのだぞ!だのに・・・うぅ・・・クソォ!!皆アホウだ!いつまでも大地に縛られ続けるがいい!!皆仲良く!俺を見上げるがいい!!俺はもうこんな所にはいられんぞ!!城でふんぞりかえるちゃらんぽらんな国王よ!!聞こえるならその耳の穴ぁかっぽじってよく聞け!!俺は、お前の言うよう世界を変革する新しき風を吹き込む窓を作ってやったのだぞ!!ソレをお前は外して捨てたのだ!!その窓を他の誰かが使おうと文句は言うまいなあ!!!!」
優しい顔していった警備兵とは別にもう一人が男に向かって辛い言葉を言い放った。
「はいはい、爺さん。お薬は御家ですよ」
(無礼な爺さんだぜ。あんたがこの国の英雄と言われたのは随分昔の事だろうに未だにそんなことを引きずってやがる。でもまあ昔の事がなけりゃあ、あんた今頃、不敬罪で即刻首だけになっていただろうけどな)
「五月蠅い!貴様らも分かっているだろう、俺がこの国の為にならぬことをしたことなど一度もないと!」
「それはそれ、今は今。俺達も仕事なんでね、王様に命令されてないことばっかりやっているからそんなことになるんだよ」
「くぅ・・・もう俺の声はもうお前達には届きはしないのか。ウゥ・・・ウゥ・・」
男は絶望を絵に描いたような表情で、城から城下町へと降りる道を下って行った。それを目にしながら二人の警備兵が、厄介な荷が下りたよう強張っていた表情を緩めた。
「ふぃー、やっと帰った。あの人昔から良い人だったから変に手荒に出来なかったんだよな」
「それにしてもあの人本当におかしくなっちまったな。ゴーレムの軍事利用が最近やっと一般化して来たって時に、ゴーレムを空に飛ばしたいなんてなぁ・・・」
「飛ばしたからなんだって話だよな。魔法使いなら風魔法で、司教とかなら光の槍をズドンって感じだろうし、空で戦う理由が分かんねえよなぁ・・・」
この警備兵たちの言うことは正しかった。低空を行き来するワイバーン達などから身を守って戦い続けて来た者達であるが故に、空を覆う化物を前にして数多の対抗策を持っていた事に違いはなかった。
しかし警備兵は知らなかった、いいや、この世界の殆どの人間がその存在を知らなかった。普段竜が何所を飛んでいるか、Z級と呼ばれる伝説上の化け物たちは空の、一体何所を通っているのか。
全種族の認識不足が生んだ空の獣道とも言える穴が・・・残っていた。そしてその存在にいち早く気が付き恐れた男がいた。
その男は魔導者と言われる珍しい職種で(男は初め自称で、括りで言えば無職だったのだが、功績が認められ今現在一般的に使われるようになったため少ないのは当然と言えば当然)、主な仕事としてゴーレムやそれに類する大きな魔道具を作る仕事に携わり、数は少なくとも、素晴らしい論文の数々を残し、ペンと頭脳で偉大な英雄と評された初めての男だった。
しかし、そこまでがその男を許容できるその国のレベルだった。天才を理解しようと努力し、秀才の一人が手を叩き、それにつられて拍手の連鎖が続くレベルなら、その国では英雄扱いだった。けれども、鬼才と言われるその男は秀才の理解の枠組みから逸脱しすぎたために、理解されず、拒絶をされた。
上手くコントロールする者がいれば出来ない者もまた然り。その男は理解されずともいつか報われると信じてその道を突き進んだ。
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「その結果がこれだよ」
酒場で姉ちゃん困らせるただの飲んだくれおじいさんになってやがる。
「おじ様大丈夫よ、まだまだ現役!ふぁいと」
「そう思うかい」
(金を持っていたら、こういう姉ちゃんは優しくしてくれるから、もうしばらくは持ってないとな)
袋を覗くと、まだ白金貨が数枚残っている。英雄の老後の金にしちゃあ少ないが、まあ生きていく事に困ることはあるまい。
「あと百年は生きてやるつもりだが・・・このまま百年隠居するぐらいなら何かデカイことやってとっとと頭がパーになる前にくたばっちまうのもありだな」
「デカイことってぇ?」
歳食ってもなさそうなのに頭がパーに見える姉ちゃんが、上目遣いで爺さんの俺の話しを聞いて来るなんざ金の力以外にねえんだろうな。・・・大体こんな娘に話して理解されるなら、国王も理解してくれるぜ全くよ。
まあいいや、どうせ理解されねえんだ。懇切丁寧に明確に説明してやらあぁ。
「そうだなぁ・・・おじちゃん今空飛ぶゴーレムの研究しているんだけどな。それがピヨピヨって飛ぶんじゃねえんだ。ゴォーって飛んで、ずぅ・・・っと、雲の中に隠れるゴーレムなんだ。そんで辺り一面見える限りの見える場所をだな、俺の考えた沢山集める君一号で太陽の光を吸収した後、色んな形をした鏡でくりゅくりゅまじぇまじぇしたビームを水に当ててその衝撃で太い槍を地面に突き刺すのさ。そしてその放つときの熱は集めてそのゴーレムの動力源にしようってわけよ、名付けて、【生きるためには殺さないといけないのだトンプソン君八十一号】だ」
「すっごーい!天才!」
何が凄いだ。酔った勢いで俺自身何言ったか覚えてねえような事だぞ。凄いのはソレを理解した気になっているお嬢さんの頭のポンコツ具合だ。だが、気分はいい。頭を抱えて、顔をあげりゃあ理解した気になっている此畜生どもよりかは時間の無駄がないしな。
「設計図みたいなのないのぉ~?」
「あるぞ。国家機密とか言われていたが、俺は知らねえや」
「へぇ~。・・・従来のゴーレムに比べて総重量が今までの1.15倍、見た目は随分違う。使う素材も鉄や鋼ではなくて聞いた事のない物質・・・ここは大掛かりな錬金の手が入るか・・・ふふっ、興味深い」
「なんだい姉ちゃん、さっさと馬鹿面に戻れよ。そんな真面目な顔で見たって分かるモノかよ」
「わかりますよ。半分だけなら」
「・・・ハハッ、凄いじゃねえか。半分もわかんのか」
「ええ」
「何者だ姉ちゃん」
「名もなき研究所でスカウトを担当している者です」
「スカウトだぁ?」
「はい、優秀な研究者を集め研究をする秘密組織・・・のようなことをやっています」
「どれくらいいるんだ」
「帝国出身の方は・・・三十人くらいかな」
今この娘、帝国出身はと言ったのか。外交をせず現時点で戦争の準備を着々と進めるこの帝国でそれだけの人数がその秘密組織に入っていると?どういうことだ。
「全体でどれくらいだ、教えてくれ」
「よく分かりません、千・・・・いやもっと多いかも。国籍、種族が皆さんバラバラなので数えるのが大変難しいですし、私の管轄ではないので」
何という事だ。そんな組織は聞いた事も無いぞ。一体どこにあるんだ?ミトレス王国か?それともミズガルズか?帝国は人種差別に煩い国だ、あるはずがない。
「そんな場所・・・一体どこに?」
「猫の国、キットシーアです」
「キットシーア・・・」
魔族の土地の獣人が住む場所・・・だったか。最近じゃあ紛争もあったと噂に聞いたが・・・そんな場所に研究所があって大丈夫なのか?
「最近紛争があったと聞いたが」
「はい、そのようですね」
かなり大規模なものだったと騒がれていたが、違うのか。それともコイツらがテロリストとかか?
「そのようですねって・・・たいしたことはなかったのか?」
「うーん、実の所良く分からないんです。私この世界に来て拾われたばかりなので」
「ね、姉ちゃんは転移者なのか?」
「そう言われているみたいですけど、自覚はないって感じですかねー」
俺が酒に酔っているだけなのか、姉ちゃんがアホなのか。聞いているコッチの頭がおかしくなりそうだ。
「危険じゃあないのか?」
「その点は安心して貰って良いと思います。とっても住みやすい所ですよ~。杖を武装している魔導士の数もここに比べてかなり少ないですし。周辺の魔物のレベルは高いですが、ふかふかの布団に涼しい風があれば夜も怯えずぐっすりと眠れます」
こっちに来てそんなに立ってないと姉ちゃんは言うが・・・ソレが嘘みたいに情報通だな。転移者には何かしら神の方から恩恵とやらが与えられるらしいが、その恩恵と何か関係があるのか?
それと姉ちゃんの話だが寝床に関してなんの解決にもなっていないな。布団と風があっても食われちまうよ。しかしまあ・・・。
「楽しく暮らす・・なあ。そいつは良いものだろうなぁ、ッケッケッケ」
「興味が湧きました?」
「ああ、どうせ行く当てもないんだ。紛争地域だろうとワケの分からん姉ちゃんのいる研究所だろうと、行ってやるさ」
「アハハハハッ、異世界の人って大体ですね~。では何時にします?私は数日の間この場所に滞在する予定ですけど」
「明日でいい。宿屋の腐りかけの根床もこの老体には堪えるものがあるしな」
「分かりました。じゃあ明日で手配しておきますね」
「手配?」
「ウチの研究所専用に馬車があるんです。それでとりあえず漁港に向かって、そこで船に乗り換えて絶海付近までをその船で向かいます。そのあとは私が連れて行きます」
「あんたが?その・・・大丈夫なのか?」
「ご心配は無用です、私専用のランゼペガサスがいるので」
ランゼペガサスだと・・?聞いた事がないぞそんな種類のペガサスの名前。魔族地域特有の呼称とかか?
「この世界では品種改良とかわりと普通に行われていたりするんじゃないんですか?」
「品種・・・改良?」
「もしかしてウチがおかしい・・・?人間の新たなる可能性だ!とかそういうの、おかしい?」
「人間の研究をしているのか!?それは禁忌に触れるということだぞ!?」
「あぁ・・・ね、はいはい、今完全に理解した。御免なさい、今の会話忘れて?」
(あぁ駄目だ、よく分からずこのお仕事するようになったけど、ウチってやっぱりおかしい所なんだわ。ハハハ・・・道理でおかしな人ばかり・・・)
「いや、そりゃあいくら何でも無理だろう姉ちゃん・・・」
「おねがーい」
「いや、それよりもっとその研究所の話を・・・」
「あ、イッケナーイ。お喋りし過ぎちゃったぁー他のお客様の所に行かなきゃー。それじゃあね、お・じ・さ・ま。また明日」
逃げ足の速い姉ちゃんだ、直ぐに店裏に消えちまった。俺に疑問だけを残して消えるとはいい度胸だ。今日は酔いも程ほどにまわってイイ感じだし、部屋に帰って荷物を纏めたら直ぐにでも寝てしまおう。明日の不安もなくなったことだしな。
研究所のメンバーもその内書いてみたいです。




