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独学の毒薬で異世界無双  作者: ほふるんるん
大会準備編 
168/185

大会準備編 8 食事前の運動に

心地のよい眠りから目を覚まし、辺りを見渡して、また数度瞬きをして欠伸をしながら重たい頭を起こした。スキールニルの姿はなく、変わりに頭の下には枕が差し込まれており、自身がそれに気がつかないほど爆睡していたのだと気付くと、呆れてしまう。


(体力と魔力が溢れそうだぁ・・・完全復活だな)


心身ともに休息出来たのだと考えると、意外と自分には耳かきをして貰うのは良い効果があったのかも知れない。しかし他の人間に耳かきを頼むというのは恥ずかしい、どうしたものか・・・。


「お目覚めになられましたか。ご昼食の準備が出来ておりますが」


「シンリーか」


いつでもどこでも気付けばそこにいる、そんな彼女は今日も好調らしい。俺でなく、心臓の悪い人間に仕えでもしたら恐らくその人間は二日と持たないだろう。冷や汗で済むのは俺がシンリーを知っている事と、こんな展開が以前にもあって耐性が出来ているおかげだ。


「スキールニルはどうした?」


「スキールニルは諸事情により大浴場にて体を清めている最中でございます」


風呂か。確かに一仕事終えたような臭いだったが、別に落とす程でもないだろうになぁ。


「今日の昼はどこで食べるんだ?」


「そうですね――――風も余りない良い天気の日です、外にしましょう。それに今日は特別に量も多いので」


いつもより多いとはどういうことだ、食事のバランスはいつも担当する料理人が量っているはずだろ?それともパーティか何かの残りの処理でもさせる気か?昨日の夕飯の残りのような感覚で。


研究所内ではよく昨日の夜の鍋が朝に雑炊になって無料で出て来たりするのだ。金を別の事に使った奴の救済処置として置かれているんだが、ウチでもついにその流れが出来始めたか?


「珍しいな」


「メロエが張り切り過ぎてしまいまして」


「メロエがいるのか・・・?」


「あからさまに顔を強張らせないで下さい」


最近メロエとは何かと不思議な会い方しかしていないモノだから、正直会い辛いが。相手が気にしていないなら、俺もそれなりに素っ気ない態度を求められているのだろう。なに、日常的に相手に合わせるぐらい誰だってするだろう。俺にも出来るはずだ。


「そんな顔はしてない。むしろ嬉しいぐらいだ、メロエの料理は美味しいからな」


「誰かさんのために必死に練習していますからね」


料理なら俺はお湯を容器に注げるだけの嫁でも良いんだが。・・・外食だけでも別に問題ないし。


「・・・俺は顔を洗ったら向かう、そう伝えてくれ」


「かしこまりました」


シンリーが少しの間姿を消し、俺は部屋に一人となった。シンリーに言ったように、顔を洗いハンドタオルで顔を拭くと、ふと外からの視線が気になり目をやった。


外にはおびただしい程の平伏した緑の群れ、いや、信者の群れ。そして空には大量の眼のような緑の光が爛々としている。辺り一面が緑一色となり土地が盛り上がっているようにも見えるほど、それらの行動には無駄がなかった。一体なんのサプライズだ?


「おいおい・・・何千万の信者がここにいるんだ?」


空は以前のような青空ではなく、色鮮やかな緑によって染め上げられ、地面はソレを移すように緑一色。部屋の中がおかしいのではないかと思わせる不可思議な光景に思わず息を呑む。


「俺の眼がどうにかなったのか・・・?」



以前のように天使が緑のローブを着て参加していたとかなら、まだ笑えた。虫のような顔を持つ未だ公表さえされていないであろう未開の地の種族がいたとしてもまだまだ笑う事が出来た。


しかしこの状況はどうだろう、神・・・恐らくこんな宗教に入っている時点でまともな神ではないだろうが、ソレが数えただけでも数十柱いる。ステータス画面が加護を受けますかの選択肢で埋め尽くされているため、一度そっと閉じ、それを見なかったことにする。


いつもなら遠慮なく加護を与える癖に、態々返事を待つという過程を踏む所に、無駄な配慮があるように思える。


しかもチラッとしか見ていないが、イエスとオッケー、みたいな別の言語で了承の意味しか取れないような選択肢しかなかった。配慮はあるが慎みはないのがウチの宗教の教えか?

勿論全て無視する、怖いからな。


「このまま庭に出て食事をして大丈夫か・・・?いや、行くしかないだろうが・・怖いなぁ」


俺が部屋から出ようとドアの前に立つと未知の力でドアが勝手に開き、俺が出るとドアが勢いよく閉まった。もう、食事をとったら早めにこの邸から出よう。行く当ては適当で良いだろう、ここじゃないどこかへいければそれでいい。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・         



庭に出るとあの緑達の姿はどこにもなく、真っ先に視界に捉えたのは俺の知るどこまでもどこまでも広い青空と高層雲、朧雲とも言うソレが空を走るように存在し、先ほどまで見ていた緑の閃光が嘘のように涼しくも暖気を孕んだ春風が心地よく頬に当たる。


・・・・ああ、先ほどのは悪夢か何かだろう。暫く休んでいなかったから疲れが目に出たのかも知れないなぁ・・・。


「アスク!こっちよ!」


高くてキンキンと頭に響く声の主・・・俺の中の代表的少女であるメロエが手を労わらない速度で腕を振って呼んでいる。急いで行かなければ彼女の腕が心配だ。


「今行く!」


扉を出て、メロエのもとへ早歩きで向かい用意されていた席に座ると辺りを見渡し俺以外の席が数多くあることに気付く。もしやコレはパーティーなのではないだろうか。いや、だとしたら料理の謎とあの緑の集団も理解できる。・・・面倒ごとにならなければいいが。


「今から料理を運んでくるからちょっと待っててちょうだい」


メロエを呼んでコソコソと話す。これにはワケがある、スキールニルとシンリー以外には基本的に俺はお坊ちゃんで通っているのは言うまでもない、しかし今は謹慎処分中のため芝居も厚みが増しているのだ、ちょっとしたことでも気が抜けない。


「ああ分かった・・・メロエ、少し聞きたいんだが、コレは何かのパーティだったりするのか?」


「いえ?みんなで昼食なんて久しぶりだから、ちょっと・・席が多くなっちゃったのかも知れないわね」


「ちょっとだと・・・?ちょっとどころじゃあないだろ、コレはどう見ても数万人規模のパーティー・・・」


「私、料理運ぶの手伝わないといけないから、ごめんなさいまた後で」


結局なにも聞けず行ってしまった・・・なにかはあるのだろうが俺には話す事ではないということか。ならば俺も気長に待つとしよう、周辺に気を配る事も今は面倒だ――――運ばれた食事を口にしてこの場を後にしよう。


「わっ!!」


「・・・・」


背後から肩を叩くと共にいきなり現れた我が父クレウス。驚き過ぎて言葉を失うタイプの俺は、いまとてもリアクションに戸惑っていた。


クレウスさん、クレウス・デューク・ワイズバッシュさんや。貴方様は俺の父であり公爵であるお方だろう。どうしてそんな幼稚な真似をなさるのですか、おかげで軽く手が震えているのですが。


「ヘヘッ、驚いたか」


「・・・・ガキか」


右腕が丁度空いていたのでクレウスの腹にねじ込む。コレは先ほどの礼だ。全く、三十路前だろうがお前・・・少し落ち着けよ。


「ば、馬鹿やろう、本気で殴る奴があるか!ちょっと驚かしたぐらいだろが」


「早く爵位譲って引退してください」


「嫌だね、後二十年は俺だ。ッか、お前意外に元気なのか」


最近はずっと部屋の中に引き籠っていると偽って、研究所にワープしていたからクレウスと母様カトレアには少し心配をかけた見たいだな。『元気なのはどっちだろうな』とは口が裂けても今は言えない。


「健康には気をつけていますから」


「減らず口ばかり叩きやがって・・・誰に似たんだか」


「良き父の教育の賜物です」


「そりゃあどうも」


「というか、お父さんはなぜここに?」


いきなり現れたことにはなにも言わない、シンリーも似たようなことが出来るのだ。クレウスも出来るのだろう。


「最近世界の各地で動きが大きくなって来ているのは・・・知っているか?」


「そうなんですか?」


「俺達はどうしても世界情勢と生活が絡んでくるから、ちゃんと毎日確認しとくように」

(俺もシンリーからさっき聞いた話だから言えたことじゃないが・・)


全くそんなことは知らない、というかどこが動いたんだ?


「まず大きな点で言えば三つだ。一つは犬の国が二国あっただろう?その二国がミトレス王国介入によって和平交渉まで持ち込まれようとしている。そしてコレの裏で国王暗殺の噂が飛び交い俺達も痕跡を見つけるまでには至ったんだが・・・」


「見つかっていないんですね」


「ああ、まるで消えたように痕跡もなくなったらしい。犬の国からはまだ出ていないはずだが、コレで王が暗殺でもされれば戦争はまた起こり得る」


犬の国から突如として姿を消した暗殺者は研究所内にいる、だから『父さんは通常業務に戻って良いですよ』と言って今までの行動を最大限に労いたいんだが。言ったら折角手に入れた可愛い部下を手土産にしなければならなくなる。それは面倒だ。


「元々パワーバランスが大きく傾いている状態ではあったんだ、今の内に犬の国を一つに統一しようと考える獣人もいる。それを防ぐためにカインが俺にも連絡を寄越したぐらいだ、もしかしたらアスクにも応援に来るよう連絡用の鳩が飛ぶかも知れん、窓には気を配っていてくれ」


「はい、早く見つかると良いんですが・・・」

 

父が相手だとどこに隠しても見つけられそうだが、頑張って匿うとしよう。


「そうだな。それと二つ目だ、その犬の国の南側にある旧エルフの国と犬の国に挟まれた猫の国という小国があっただろう?確かカインのお使いで言ったよな」


「とても良い所でした」


「実はだな・・・余り人には喋るなよ、あの国で最近内乱が起こったようだ」


「内乱・・・ですか、一体いつ!?」


「年末よりも前だ、丁度アスクが使いで行って帰ってきた時期と合う。巻き込まれはしなかったのか?」


最近じゃないなら大丈夫か、・・・・去年の秋の話をされても困りものだな。


「なるほど、城下町が慌ただしかったのはそのせいでしたか。僕は大丈夫でした、あの後直ぐに町を離れましたから」


「そうだったか。余り面倒ごとに巻き込まれるんじゃないぞ?お前には俺の後を継いで貰うんだから」


「当分変わる気のない癖に・・・、最後の一つは?」


「ソレはお前の身近な所で起きているんだが、気付かないか」


俺の眼を見て、本当に気付いていないのかと。若干冷や汗も掻いているようにも見える。


「僕の身近で世界規模な異変・・・メロエの宗教ですか」


「確かにそれもおかしな方向に進んでいる事は知ってる。だけどそれじゃあない。確かにメロエちゃんも含むことだが、宗教関係じゃあないぞ」


「分からないですね・・・」


「一瞬の間もなく言うあたり考える気もなかったな、お前」


「あー・・・ぅん」


はいそうですとは答え辛かった。大きな良心がそうさせたのかも知れない。


「まあいい、気付かないものなんだろう。アスクのクラスメイト達の話しだ、メイリオ君とアルバート君、それにジーナちゃんが一年後に開かれる選考祭に出る事が決まった」


「選考祭?・・・」


「お前も出るんだろ?大会だよ大会。そのアスクのいっている大会が選考祭だ」


ホェ・・・・全く知らなかった。メイリオとアルバートが大会にね。ティアは流石に無理か、国務に追われているし万が一ということもある。危険なことに態々出るということもないか。


「そういえばどうしてそれを父さんが知っているんですか?」


「バティス家とアナスターシャ家とはなぁ、父さん喧嘩仲間なんだ。バティスの鉄拳野郎とアナスターシャ家最強の剣客といやぁ、俺の世代じゃ有名人なんだぜ?」


メイリオとアルバートの親か、何となくイメージはつきやすい。ござるとか侍気取りがアナスターシャで、シャオラァアアア!と、いつも叫んでいるのがバティス家だ。しかしそんな話が今なぜに俺の耳に入るようなことに?


「そ、そうですか」


「おうよ、そうなのさ。そして二人は俺と同じ時に嫁を持った・・・そこまでは良かった、しかしあろうことかアイツら俺より先に父親になりやがったんだ。しかも二人とも女の子!すげぇ可愛くて女の子が欲しいなぁなんて思ったりもその時はしたぐらいだ」


「は、はあ・・なんか話が脱線していませんか」


なんか無駄に熱く語りだしたし、面倒だし、どうでも良い事ばっかり話して本題が見えて来ないし。・・・・なんか誰かに似てるなあ。


「いやぁ、そんな事はないぜ。そして時を同じくして今度は三人ともが長男を育てる親となった。初めは容姿が良いだとか家の子は大きいとかまあ自慢出来るような良い子だった。いや、勿論今も良い子だぞ?」


「なら良いじゃないですか」


「そのまま良い子に育ってくれれば良かったんだが。家の子だけなぜか邸に引きこもって怪しげなポーションばかり作るような子に育ってな、挙句の果てに謹慎処分なんて不名誉をサタンから言い渡される始末。父さん今どんな気持ちだと思う?」


気持ち、気持ちか・・・。不肖な息子を持った気でいる父親が、息子以外で自分の名誉を守るために行うであろう心理的な行動は・・・っふ、余裕だな。


「驕り高ぶっている?」


「そういえばアスクは道徳のテストだけ零点だったな。じゃあちょっとこの問題は難し過ぎた、父さん謝る。父さんがして欲しいことなら分かるか?」


クレウスの望みか。


大会の話から始まり、アルバートとメイリオが出るということが父の口から告げられ、その二人の親はクレウスの喧嘩仲間だという。そして、散々に『あの家の子は良い子なのに家の子は』といった典型的愚痴を零されつつ、最終的に自分は何をすればいいかを問われている。


なんだ、答えは一つしかないじゃあないか。


「二人に勝つなど、造作もないことですよ」


「メイリオ君はサタンに、アルバート君は俺に臨時の師を持っていると聞いてもか」


だから何だと言うのだろうか、クラスメイトに勝つのは当然だ。確かにメイリオは俺よりも武道に長けている、アルバートは剣術に。スキルのレベルも12になっていてもおかしくない。二人とも才能を持って練習にも励んでいる。


だからなんだ、だとしても勝つのは当然だ。言われた通りに練習している奴と、知識を持ち、自身にあった練習法を既に持っている奴とでは、もうそこに決定的な溝が出来上がっているのだ。師を変えて今更どうにかしようと甘えている時点で二人の未来は確定している。


それに比べそんな子供を教える事で、自身の反復練習をするサタン様とクレウスには恐れ入る。相手に教える程効率の良い理解の仕方もないからなぁ。


この師弟関係に利があるのだとすれば、表面を見るならばアルバートとメイリオだろうが、技術を教える代わりに自身を見つめ直せるサタン様とクレウスは前者の二人よりも強くなるだろう。手の届きそうにない場所から更に向こうへ行こうとするから厄介極まりない。




「僕の目標は父さんですから、二人はどうでも良いです」


「俺を倒す気・・・ねえ?・・・・ップ・・・・アハ、アハ、ガハッハッハッハッハ!最高

に良い気分だぜ、ハハッ。アルバート君は俺に父を越えれるよう鍛えて欲しいと言ってきたが、お前は俺を倒したいのか。コイツは傑作だな」


「十歳の息子に完敗する父の顔を拝むために精進してまいりました」


「随分と舐められたモノだ。なんならいま此処で戦ってやっても良いぞ?」


挑発に笑顔で乗ってくる辺りまだ余裕のようだ。確かに今の俺では一太刀食らわせれれば奇跡のレベルだろう。しかし、ここで一度戦っておくと練習に新しい要素を取り入れる事も出来るかも知れない。


「食事前の運動です、少し離れた・・・・・・・・・・・あの山なんてどうでしょう」


「よし良いだろう、愛する息子に身の程を教えてやろうじゃあないか」


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