色々なその後の話し 6 地獄のメリークルシミマス
超展開
「アスク様。大変申しにくい事なのですが」
「どうしたスキールニル?」
スキールニルは俺と二人の時は余り口を開く事は無いのだが、一体どうしたというのだろうか。まあ、この状況からみて俺の新しい装備に何か言いたいという事なのだろうが、コイツが口を開くなんて珍しいな。
「今日はまだ、クリスマスイブではございません」
「は?・・・・何言って・・・・」
「正確にはアスク様がその鎧によって勘違いを強いられているのです―――――――そちらをもう一度しっかりと、見つめ直して下さい」
言われるがままに、もう一度俺の全身鎧装備に目を通す・・・・が、まあそのまま綺麗な色をした装備にしか勿論みえない。
「今日は何日ですか?」
「どうしたスキールニル、ボケでもしたのか?今日はお正月に決まってるだろ」
「・・・・・・・・そう、ですね」
(記憶を何者かの手によって書き換えられているとみて間違いないようですね。原因はどう考えてもアスク様の目の前に横たわる何者かの白銀のミイラが原因とみて間違いありません。アスク様には何か素晴らしい物にでも見えているようですが、そのアスク様の目も暗い部屋の中から見て分かるほどに充血なさっている)
「コレを装備してみたいんだが、手伝ってくれるか?」
早くこの上下鎧を着て皆に見せびらかしたいじゃないか。早く皆の元へ行きたいじゃないか。
「アスク様、もうしわけございません」
(このままではアスク様が危ない)
俺の後ろで飛び上がったかと思うと、無抵抗の俺の頭部に思いっきり、銃器で殴りつけやがった。
「な・・・何を・・・・スキール・・・二・・・・ル・・・・・」
「こうすることしか、私は貴方を救う事は出来ない。Verzeih mir.」
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~語られる事のないストーリー~
今、私の持ち得る武器は支給されている小銃、グレネードにスタングレネード、それにマシェット。なぜ公爵様が私達の世界の武器を手に入れているかは、邸の中ではメイド長クラスでないと知れない邸の秘密の一つだけど、そのおかげで今はそれ相応の相手とならば戦闘できる。
・・・だけど、私の手では本当に正しい方法で破壊することが出来るだろうか。眠るアスク様の前に立つ、白銀のミイラは動きはしないが、意志を持っている様にも見える。元は確かにアスク様の鎧だったのかも知れないけど、その鎧は多くの生物から刈り取られた命から出来た完璧な鎧だという事を私は忘れてはいない。
当然、そういった鎧に呪いが掛かると言った話を聞いた事は無い。此方にきて私も日が浅い新参者だけど、そんな話があるのなら冒険者は誰も鎧に魔物の皮を使わなくなってしまうはずだ。そうなっていないという事は、アスク様に限り、アスク様限定で何か特別な条件を満たしていなければならないはずだ。
この部屋の構造は私達の国にもみられた天井の高い、長方形の部屋。装飾品も限られいて、見るからに間接的原因にはなっていなさそうなキラキラとしたものばかり。ミイラの付近にも何か変わった魔道具があるというわけでもない・・・・・と、ふと思った。コイツは一番初めに何所にいたのかと。コイツは一体どこから現れて私達に接触したのか、ソレを思い出そうとした時・・・・ハッとした。
何故気付かなかったのか、一番初めに見ても良いような場所を見落としていた。
「おいおい、嘘でしょ・・・・」
ミイラと同じ白銀色をした包帯の束が天井に張り巡らされていることに私はようやく気がついた。それは繊細に作られた揺り籠のように、ふらふらと揺れていた。観賞用としては余り相応しくはない不気味なインテリアに生唾を呑み込んで、小銃を構えた。
「数は一・・・他勢力・・・ナシ。・・・・保護対象・・・・問題ない・・・発砲準備・・・・完了」
小銃の音が聞こえれば邸の中の誰かが駆けつけてくれるはず。私一人ではアスク様を運ぶことは出来ない、私一人、アスク様を置いて一人で逃げるわけにもいかない。無能な私をどうか、お許しください、御主人様。
―――ヴァパパ――――――ヴァパパ―――ヴァパパパパ―――――――ヴァパパパパパパ―――――――――――――――――――
マシェットを構えつつ、保護対象から距離を置く。白銀のミイラは此方を向き、その包帯をゆっくりと伸ばして私に触れようとする。それを斬って、触れないよう戦い続けた。
―――ヴァパパ――――ヴァパパパ―――ヴァパパ――――――ヴァパパ―――――――――
どうしてこんなに撃っているのに誰も来てくれないの?・・・・早く来てくれないと、包帯の数も増えて来て対処が追いつかない!・・・早く、早く誰か来て!
「誰か!!誰かいないの!!!」
叫びたくもなる、ポタポタと涙が出るけれどソレを構っている暇もない。こんな得体の知れない化け物と戦っているんだ、怖くて涙が出てしまう。コレが人間相手ならばどれだけ楽だったか。
ヴァパパパパ―――――――ヴァパパパパパパ―――――――――――――――――――
弾も残りニマガジン。私のプライベート用の武器は室内用じゃあないから、とても邸がもつようには思えない。でも・・・・いざとなったら使うしか・・・ない。白銀色の包帯の数は今や五十に近い数になった。いい加減誰か来てもいい頃あいじゃないの・・・どうして誰も応援に駆けつけてくれない?
「早く!!早く助けに!!!」
そうこうしているウチに頬に包帯が接触していることに気付いたのはつかの間、その包帯に自分の涙が伝い、自分の涙が赤色になっていることに気付かされた。
「赤色の・・・・・涙、確かにアスク様だけなんておかしいですよね」
涙が溢れて止まらない。それに伴って体も冷たくなっていくような感覚に襲われる、抑えようとしても溢れて来る。コレは最終手段として使わずにおいておきたかったけど、しょうがない、とっておきを使いましょう。
「公爵様申し分けございません!!!お部屋の一室、ぶっ飛ばさせて頂きます!!!修理代は必要経費という事でお願い足します」
しっかりと、後処理について話しをつけておくのはメイドの嗜みです。
「久しぶりに使わせて頂きます、MG08重機関銃わたしカスタム!!!行きますよぉおおおお!!!!」
―――――ウゥゥゥゥウウゥゥゥゥウ――――――――――ズゥガガガガガガガガガアガガガ!!!!!
アスク様にあたってしまいそうですが、敵が沈黙すればアスク様も助かるはずです。両手で持ったMG08重機関銃を乱射する私に敵は成すすべもなく薙ぎ倒されました。邸は三つの部屋をぶち抜いて一つの大きな部屋を作りあげるという所に、私と言う名の匠の心意気を感じさせます。
天井に会った包帯の束もMG08重機関銃の前にハチの巣となりました。敵も私がまさかこんなものを持っているとは夢にも思わなかった事でしょう。
「アハハ・・・アハハハハ・・・アハハハハハハハハハハハハハハハ・・・アアァ・・・気持ちぃいい」
少し笑い過ぎましたね、とてもスッキリしましたが。撃ち過ぎて少し眠たくなってきました。応援を呼ばなければならないのに。でもおかしいですね、どうして誰もこなかった・・・の・・・・でしょう・・・。
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とまあ、語っていたらクリスマスになってしまったワケだが、この騒動がどれくらい酷かったかを、詳細に話そう。
俺がこの事件を知ったのはクリスマスイブの前日、クリスマスイブイブの事だったのだ。あ、イブイブは間違いだからクリスマスイブの前日だな。
その日に目を覚ました。目覚めの悪い、うつ伏せで寝てしまった時のような最悪の状態だったのを覚えている。それで邸がボロボロになっていて空を見上げたら鳥が飛んでるのが見えて笑ってしまったんだな、「なんだこれは」って。
床にはカーペットが敷かれており、間違いなく邸であることに間違いないのに天井は遥か天空ときたら笑いもする。体を起こすと妙な違和感を感じてよく見ると、俺は手で体を起こしていた。
その時既に体には魔力がみなぎり、スキルも使えるようになっていた。手錠も外れ、体は以前の状態以上に力が滾っている様子もある。もうその時はパニックでとにかく俺以外に誰かいないのか探そうと立ち上がったのだった。
辺り一面は雪が降り積もり、自分の座っている周りだけが積もっていないと言った感じで、その雪は全て自分の上に積もったのだと理解した。
その雪を適度に払うと、その時初めて寒いと感じ、亜空間からデスになりきるための紫ローブを取り出すとソレを着て寒さをしのいだ。辺りを見回しても誰もおらず、部屋を出ると、廊下も荒れに荒れていた。掃除の全くされていないどころか、魔物がわいている。
爬虫類やら獣が廊下を歩いていると、攻撃を仕掛けてきたので適当に相手をしつつ、部屋を見てまわった。所々にメイド達が隠れており、その中には冷たくなっている者を必死に介抱する者や泣くものなど様々で、何があったのかを聞くのは簡単ではなさそうだった。
ただ、出会ったメイド達には土魔法と、火魔法で凍死だけはしないよう暖炉を作りその場を離れた。
「さて・・・・・どうしたものか」
余りの光景に溜息が出る。あんまり死体やら泣いている人間の近くにいたら、自分もなぜかそういう気分にならなければならないような気がして気分が悪い。
死人に口なし、錯乱する者に助言を求めるべからず。どうせ彼女達に聞いた所で大した情報は得る事は出来ない。俺には会うべき人間がいた、この邸の中にはいたはずだ。どんな危機的状況であろうとも生存していそうなクマムシのような奴らが。
『ソイツらにこの事件の全てを聞こう。それが一番の近道だろう』そう思った。
それから主要な人物をリストアップした。クレウス、カトレア、シンリー、ネル先生、執事長、それとスキールニル。
スキールニルだけどうかは分からないが、残りの人たちは俺よりも絶対に強い。ならこの状況において絶対に彼らは生きているはず。彼らに聞けば何か分かるかも知れない。そう思いたち、俺はその人達を探した。
シンリーは簡単に見つかった。彼女の家にいたのだ、メロエとジャバによって救出されたらしく、しかし彼女の状態も決していいとは言えず、今も眠りについたままだという。
二人の話しでは、俺が生きていた事が不思議だと言うほど、あの邸はとても人の住めるような環境ではなくなっているらしい。汚染にまみれた被災の地、今俺の邸はそういった場所となっているようだ。
何故そうなっているかは二人にも分からないという事らしいが、邸のメイドがあのままではかなり危険だという事が分かり、俺はワープでそのまま邸の元へと戻った。メロエがついて行きたがったが、ジャバがソレを許す事は無かったのは言うまでも無い。
邸に戻ると、小さくなる薬を飲み体を縮めると直ぐにメイド達の救出を始めた、死んだ奴は後回しで、栄養失調や軽い衰弱が見られる奴から俺の研究所へと送った。呪院もこのありさまでは無傷とはいかないだろうが、あそこには多分母様がいる。大部分のメイドもそこにいるはずだと思い、魔法では無理な精神的な病気や栄養失調などをコチラが受け持つことにした。
研究所も、かなり成長しており俺がいない間を全てジャマッパが指揮してやってくれていたようだった。国政も全てアイツが代理をしていたという、コイツがいて本当に助かった。
「アレックス!コイツらはお前の従者か何かか?かなり衰弱しているが何があった!?」
「話は後です、ジャンジャン連れて来るのでベットの用意を!」
「ここは呪院じゃあ無いんだぞ!アレックス!」
「ソイツらは原因不明のスキルか何かによって精神をやられています、その解析も頼みました」
「無茶だ!こんな数!それにまだ増えるだと!?ふざけるな!」
「無茶だろうがやるんですよ!!緊急事態なんです!!!」
「二人ともだうしたんだいそんな大声張り上げて?」
ジャッキーが走ってコチラに向かってやって来た。事情を端的に話すと、簡単に理解して「じゃあ、助けてやんないとね」と、一言、直ぐにメイド達を他の研究員と共に運んで行ってくれた。
「ふん・・・・ジャッキーは甘すぎる。アレックス、早く残りの奴らを早く連れてこい」
「分かってる、礼は後でしますよジャマッパ!」
「俺への礼の金利はすこぶる高いぞ、覚悟しておけ」
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その後もメイドを見つけては運び、見つけては運びを繰り返すと時間は昼過ぎとなった。時間が立てばたつほど生存率も低くなる、無駄に人的資源を減らすのは性に合わないので早めの救助を心がけたがやはり少なからず助けられなかった命はあった。
「誰だ、誰がこんな事したんだ・・・許さんぞ、許さんぞ絶対に・・・・」
漏れる言葉は単なる怒りだけだった、俺にこんな面倒な作業を押し付けた奴は絶対に許さない。傷の酷いメイドには回復魔法をかけ、動けるようであれば呪院自身で向かわせ、動けないようであれば研究所へ連れて行った。
そうこうしている内に俺の見覚えのある部屋へ来た、ネル先生の部屋だ。そっと、ゆっくりと扉を開けると、研究が続いている証拠のモワッとした臭いが当たりに立ち込めているのがわかった。
「ネル先生!ネル先生はいますか!!!!」
「助手よ。生きておったんじゃな」
すっと、現れたネル先生は大きな姿で、いつものような寝ぼけ眼にはなっていなかった。
「大きな姿になっている・・・という事は薬を飲んでいるという事ですか」
「ああ、外の状況は理解出来ているか?」
「はい、大変な状態で・・・・・・って、ソレ・・・父さんですか・・・?」
顔が滅茶苦茶になっていて、骨が飛び出て内臓を貫いている。しかしその内臓はドクドクと動いていることからまだ生きていることが分かる。
「うむ、その通りじゃ。大敗を期してしまったが、奴は未だこう生きておる。まさに奇跡的にな」
「父さんが・・・・・負けた?」
そんな事があり得るのか?あるモノなのか?
「相手はこの世界の者ではない。というよりもどの世界の生命体でもない。ただの余波に邸は壊滅したのじゃよ」
ますます意味が分からない。余波とはなんだ、壊滅とは本当なのか。分からないことだらけじゃ無いか。
「分からないことだらけといった感じじゃな。・・・・ふむ、では暫く考えてみてはどうだ。自分のやって来たことに本当に過ちが無かったのか。どこかで自分は決定的な見落としを犯してはおらぬか。妾に語り掛けるように、話して思い返してみよ。さすれば何か思出せるかもしれん。最悪なクリスマスプレゼントを探し出すのじゃ、そうでなければお前にクリスマスは来ぬ」
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そうか、分かったぞ!」
そう閃き、俺はネル先生の顔を向いた。真剣な眼差しで、敵に照準を定めたように俺は確信した納得をした。
「全ては、あの混沌の総帥という本から始まった気がする・・・という事は!」
「そうじゃ!貴様の新の敵はあの本そのもの!この邸からその魔導書を消し去るのじゃ!」
「父さんの分まで僕が戦ってやる、今すぐにこの本の出どころを突き止めてきます!」
「待てアスク、貴様には足りない者がある」
足りないもの、僕にはいったい何が足りないと言うんだ!?
「根性と、気合じゃ!」
「そうか・・・・確かに僕には足りないのかも知れない・・・けど、父さんのこんな姿を見たら自然と湧いて来るものさ」
「・・・・そうか、ならば言う事は無い!行って来るがいい!奴の元へと・・・!!!」
四面楚歌




