色々なその後の話し 3 捕獲
アスク、捕まる。
PM 10:00
現在、俺は邸の地下牢にいる。話と話の間に何があったのかと言うと、俺はまずあの時ワープで邸内から外へと出た、外へ出たまでは良かったものの外に待ち構えていたのは数えきれない執事とメイド達だった。
やけに丁寧な見送りだと思いながら、もう一度ワープしようとすると俺の背中に反応が出た。反応が出たというのは、鎧が反応して当たったその何かに対して対策をとったという意味だ。そしてその反応の原因は弾丸だった、懐かしの・・・と言っても記憶には無いが知識としてある弾丸が俺の背後に転がっていた。
どうやら後ろで銃器を構えている執事による発砲のようで、俺がそれに対して質問をしようとすると、その執事に続くようにして全方位の執事、メイドから俺を蜂の巣にするかのように一斉射撃が行われた。全て鎧によって防がれはしたものの彼らはそれがどういった行為なのかを理解しているのだろうか。
この俺を、全方位から一斉射撃した意味を。全員の首をこの場で飛ばしてやろうかと思ったが、翌々考えてみればコイツら銃器よりも素手の方が強い。要するに本気ではないという事だろう。何か理由もあると見た。
「異界の武器でさえ通用しないとは・・・流石坊ちゃまですね」
初めに発砲した男が俺にそんなふざけたことを言った。随分と若作りであり歳の割に仕事の量は増すばかりの邸の執事を統括するデキる男、副執事長である。
序列で言うとシンリーと同等の立場かそれ以下と言う存在で、今までの話しで何故出てこなかったのか分からないぐらいの大物であり、その理由が明確なほど影の薄い老人だ。俺よりも彼はティル担当だった気がするが、その時は俺の御守りもしてくれたようだった。
「初めて見る武器です。どうやってその筒から僕の鎧の所まで飛んで来たのかは分かりませんが、魔法の方が君達も楽じゃないですか?」
ファンタジーな世界なんだから銃器なんていわず魔法で勝負しようぜ、と、提案してみたが。どうやらそんな気は毛頭無いらしく、俺が動くと同時に銃から放たれているレーザーサイトもそれを追うようにして俺を真っ赤に染め上げた。
「この武器が坊ちゃまを最も危険なく捕獲することが出来ると、御主人様からのご命令にございます」
「・・・・・僕の捕獲ねぇ。肝心のお父さんは僕を捕獲には来ないんですか?」
「邸にてお待ちです」
「そうかい・・・・じゃあ遠慮なく逃げさせてもらいますね」
その時俺は確かにワープした。周りの人間を巻き込まない範囲でワープの魔法を使ったはずだったが・・・・。
「お待ちください」
ワープした先を強制的に捻じ曲げられたのか、もといた場所へと俺は足をつけていた。魔法のキャンセルをされたのか、それともワープしようとした座標とここの座標を入れ替えたのか、どちらにせよこんな方法でワープを封じられるとは思いもしなかった。
竜王のように直接はワープで入る事の出来ない結界を張るならまだしも、魔法に干渉してその魔法を無効化するとは・・・・・・想定外も良い所だった。
つまり俺はなんの対策も立てておらず、ただワープすれば良いという考えの元ワープを使用したので、ワープでここに戻って来た時はきっと酷い顔をしていたと思う。絶対に普通の顔はしていなかっただろう、焦りと驚きに染められた馬鹿にしか見えなかっただろう、今になっても非常に腹が立つ光景だ。
しかしその時の俺はその事を必死になって隠そうとして、
「どうかしたか」
なんてそれっぽい感じで返していた。顔が赤くなっていなかったか不安だ。多分人一倍人に関わる仕事をしている彼らからしてみれば、そんな俺の心情などさぞ読みやすかったことだろう・・・。
それから色々と執事が俺に邸に帰るよう説得していたように思えたが、銃器を向けた相手からの話しだ、当然聞く耳を持たなかった。恥ずかしくて頭に入って来なかったとかそういうアレではない。
「どうしても―――御戻りにはなられませんか」
「っはっはっはぁ、力比べと行こう執事長」
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ああそうだそうだ思い出した、その後ボコボコにされたんだったな。デカイ口叩いていた癖にあっさりと負けてしまったんだった。それで思い出したくなくて今の今まで忘れていたんだった・・・・・。
「あーあー、誰かいないのかー。掌に打ち込まれた釘の辺りが痒くて仕方ないんだぁ――――誰か取ってはくれ無いでしょうかー」
そう言いつつ、周囲に人間や動物がいない事を確認すると、両手に打ち込まれた釘を抜く。・・・いや、正確には抜くではなく現在進行形で抜こうとしている、だ。掌に打ち込まれた釘は思った以上に離れず抜こうとすれば手に汚い穴を作るだけで終わりそうには無かった。
スキルも魔法も使えない、どういった構造だよこの牢獄は。
「無理矢理抜いたら血管も抜けますよ、良いんですか。血管抜けたら死にますよ、良いんですか」
「それぐらいじゃあ死なないだろお前は」
「お父さん!」
クレウスと、掌と足の土踏まずをデッカイ釘で打ち付けられた息子との感動の再会だ。別の理由で俺は涙が出そうだが、今は堪えて笑顔で許しを乞う。
「この釘を抜いて欲しいんです、とても痛いんです、お願いします」
「今お前専用の手錠を作成中だ、少し待っていろ」
「そんな手錠を待っている間に僕の腕は動かなくなってしまいます、早く釘を」
「駄目だ駄目だ!・・・・・俺はお前に甘くし過ぎていた。・・・その結果がこれだ、とんだ不良息子になっちまった。・・・・いろんな奴に迷惑をかけて・・・・それでお前は恥ずかしいとは思わないのか」
「恥ずかしい?・・・・どうしてですか?」
「少しは自分で考えろ!」
俺の父親は激怒した。うん・・・多分俺が悪いんだろうな。クレウスにはクレウスの物の見方と言うのがあって、今回はそれと俺の見方が偶々あって無かっただけだろう、次は上手く行く。・・・・上手く行くはずだ。
「結論が出ました」
「言ってみろ」
「僕の行動が気にいらなかったんでしょう」
「惜しいな」
惜しい?・・・しかしこれ以外に答えは無いだろう。
「・・・・?で、でも僕が謹慎処分になった事で父さんは怒っているのでは?」
「そんなものは勝手にしろ、俺は心のありようについて怒っているんだ」
・・・・???この人は一体何を俺に教えたいんだ。
「心の・・・・ありよう・・・・」
必殺のオウム返し。
「そうだ、心のありようだ。アスク、お前は謹慎処分と言われた時、少しでも罪悪感という物を感じたか」
首を横に振る。四本の釘で俺の体重を支えているだけあって、四肢がもげるのでは無いかと思わるほどの痛みが常に肘や膝を伝って脳に送られてきているので、多少返答が適当でも許して貰いたい。と言うか早く手錠を持って来てくれ、その特注品とやらを。
「お前には周りに迷惑をかけた、とか考えたこと無いだろう」
「・・・・いつも考えています」
「嘘だな」
「・・・・」
あーこりゃ何言っても駄目だ。YESMANになるしかないようだ、全てハイと言ってこの地下牢から早く出よう。
「はい」
「あ゛?」
どうするべきなんだ。教えてくれ父さん。俺は父さんに怒られるのは恐いから怒られたく無いんだが、俺には父さんのご機嫌伺いなんて生まれてこの方やったことが無いんだ。初挑戦なんだから許してくれよ。
「あ・・・いや、ハイじゃなくて・・・ほんとに皆には迷惑をかけたと思っています、僕も・・・僕も本当は学校に戻りたい・・・でも、グスッ・・・授業がつまらないんです・・・グスッ、二歳の時に教えて貰ったこと、今してるんです。・・僕は退屈で・・・グスッ・・・だから、だから・・・グスッ」
「お、おい、鼻水まで出すこと無いだろ?わ、わ、分かった。お前の気持ちはよく分かった。だから泣くな、いい男が台無しだぞ」
「は、はい、グスゥゥゥゥ・・・・」
「二歳の時の勉強を今ね――――あぁ、分かった。アスクは暫く邸にいなさい。ネルの助手として過ごすのでも良い、部屋で一人で勉強するでも良い。・・・・邸の中で暫く休みなさい」
「はい・・・・グスゥ・・・」
釘を引き抜かれ、俺の巨体を小石のように担ぐ俺の親父。マジで半端ないぐらい力持ちだが、脳筋・・・・・戦士タイプで助かった。第二の人生は意外と俳優なんてのも良いかも知れない、一度やってみたかったんだ。思いっきり叫びまくって嗚咽交じりでセリフ言ったりして見るの。
俺を・・・俺を裏切ったのかぁ!とか、がぁぁぁぁぁ!とか、な。あははははは。
・・・ふぅ。悪ガキ気分もこれぐらいにしよう、次は捕まらねえ。バレないように色々細工も必要だろうが、次は絶対に・・・・。
「邸から出ようなんて、そんな馬鹿な考えは止めておけよ。次は二日監禁じゃ済まないぞ」
「あ、僕二日もあそこにいたんですか」
「そうだが、・・・・お前気付いて無かったのか?」
随分と心のケアに時間かかってるじゃないか俺。それとも爺さんの暴力のせいか?どちらせよよく寝たもんだ。体が動ないのも変な姿勢で寝ていたからだろうか。
「爺やにアレだけボコボコにされたのは多分お前が初めてだぞ・・・なんか言ったのか?」
「あぁ、道理で体が上手く動かないわけです。ちょっと怒らせてしまったかも知れませんね」
「暫くはスキルも魔法も使えないぞ。頑張ればちょっとは使えるかも知れないが、爺さんのユニークスキルだからな」
おいおいおいおいおいおい!!!冗談だろマジか!?てか爺さんのユニークスキル強すぎだろ。
「それにお前の体、久しぶりに見た気がするが、鎧の下、そんなのになってたんだな」
鎧を常時着用している身であるため鎧の下は日焼けと言うのを一切していない。首から下がキッチリと分かるほど真っ白なことに驚いているようだ。ちなみに今の俺は鎧を着ていないためボロ布キレを腰に巻いた囚人スタイルである。
「鎧を脱いだのは久しぶりです・・・何かと便利だったもので」
「あの鎧、何かが憑依していたことに気付いてたか?」
「ははは、父さんも人が悪い。僕はそういうの結構信じるタイプなんですよ?」
体がグッタリしているというのにそういう冗談は本当に体に悪い、精神的にも病みそうな今のタイミングとか父さんまだ怒ってるのか?
「そうなのか?はは、すまんすまん。・・・だがな、マジ情報だぞ。これは」
「・・・・・マジ情報、ですか。・・・・ウチって憑りついたモノを追っ払う人いましたっけ?」
神経が上手いこと繋がって来たような気がする、さっきから手と足の震えが止まらないんだ。寒気がするのは体温が下がっているせいだろう、震えて体温を上昇させようとしているのだ。早く食事をとって温かいベットで寝たいものだ。
「いるにはいるが、お前自身も憑りつかれているかも知れないぞ?」
「じょ・・・冗談・・・はは、らしくないですよお父さん、そんなに息子をいびるのが楽しいですか?」
「ほら、今もお前の上に・・・・・・って暴れるなよ。お前重いんだから」
「暴れて無いです。と言うか早く僕を下ろしてください。もう歩けると思うので」
「いや、お前の周りは魔力が無いからステータスも機能しないぞ?」
「そんなもの無くても僕はあるけ・・・・・・」
足をつくまでは出来る、が立つことが出来ない。・・・・・嘘だろ、ファンタジー世界なら何でもアリなんじゃ無いのかよ。なんで立ち上がる事が出来ない、立て、立てよ。いい加減によ。
「無理するな、今のお前は一種の奇跡みたいなものなんだから。未だに伸び続けるお前の身長を両足だけで立たせようなんて無茶な話だぜ、全く。親父様の肩を借りてれば良いんだよ。お前はよ」
「身長差のせいで僕はソレだと引きずられながら歩かないと行けなくなるんですが」
「・・・・真剣に今俺はお前の身長をどうやって縮めてやろうか考えてるぞ」
「父さんならできます、なんたって僕の父さんですから」
「変なプレッシャーかけてくる息子嫌だわぁー」
壁に肩をあづけながら、とりあえず自分の部屋にまで戻ったのだった。
アスクを牢屋にぶち込むならこれぐらいしないと無理だと思いました。




