平穏な日常 ヒミツの宴 (中)
平穏そのものの日常が暫く続きます
(さて、明日のテストをどうやって回避するかを考えよう。)
取りあえず考えるために寮の部屋に帰った後、お菓子と紅茶とコーヒーと牛乳を机の上に用意する。コレは俺にとっての儀式に近いものであり、コレをすると自分は思考能力が高まるという自己暗示をかけてある。
三角形になるよう紅茶とコーヒーと牛乳の入った耐熱ガラスの容器を置き、その外側にお菓子をバラバラにおく。このときお菓子は中央に入れてはいけない、無意識にいれたら考えるのを止めるべきだというサインとして十五分睡眠をとる。コレの繰り返しを続ける。
(マサトラ先生をどうやって解雇・・・または急な休みにさせるか。どこに根回しをすれば・・・)
などと考えているうちに日は沈み、ほどほどにお菓子でお腹の満たされている腹を眺めながら、気分を変えるために食堂へと向かった。食堂にはSSSクラスやZの生徒がまだ多くいる、この時間帯に来るのは久しぶりと言っちゃあ久しぶりだ。晩餐を食堂で食べるという事をするのもここ三週間はしていなかった気がする。
「おばあさん、何か手早く作れるものありますか?」
「ありゃ、クレウスの息子じゃないか。久しぶりだねぇ、今作ってやっから待ってな。二分で作ってやるよ」
ここの婆さんは一度父さんに来るように誘われた事があるほどの料理の腕前を持っている、種族は恐らくハーフエルフだろう。というかこの婆さんに以前鑑定スキルを使ったら偽物を見せてきた。策士な一面を持つ婆さんの正体を生徒の誰も知らない、俺も外見でしか判断することが出来ない面白い婆さんなのだ。
「二分で残飯拵えて貰っても困りますよ?」
「豚の餌で良かったのかい?」
「そんなもん置いて無いでしょ」
「まあね、皆食べ物を粗末にしない良い子達だよ」
そりゃあ粗末にしたら脳の血管が切れて死にそうな婆さんがいるからな。
「そりゃあおばあさんのご飯は美味しいですからね」
「・・・・黙って座ってな」
「僕がカウンター席に座っても良いんですか?」
後ろを見ると、気まずそうにSSSクラスとZクラスの生徒が顔を伏せながら食事をしている。沈黙で。俺が来ると大体そうだ、皆は俺の機嫌をそこねないように静かに食事をとり始める。俺の見ている前で下品な事をすると何かあるとでも思っているのか、礼儀正しく若干震えながら彼らは食事を続けるのだ。
そんな光景を見ながら悦に浸って食事するというのは悪くはないが、今日の気分は生憎とそういった感じは無いんだなぁー。
「ま、冗談ですよ。僕はいつも通り奥の部屋でとらせていただきます。なにせ僕のために造られた部屋のような所ですからね、あそこは」
「あそこは本来罰を受けた生徒が肩身が狭い中食べづらいだろうという配慮で作られた部屋だよ。今は確かに誰もいないがそれでもあんたが使っていいってわけじゃ・・・・・何だいその眼は、分かってるさね、だからアンタはもうちょっと遅れてこの食堂に来れば良いじゃないか。ワタシだけでも残って作ってやるから、ほら、ティアちゃんとかと一緒に来れば・・・・」
「食堂の御婆さんの分際でこの公爵家の長男である僕に向かって指図するなど千年早いですね。今日は偶々無意識に今の時間帯に来たかっただけですから、もう迷惑はかけません」
「誰も迷惑だなんて思っちゃいないよ。・・・ハァ、アンタのその不器用な所は親父ソックリだ。なんかあったら相談に来るんだよ」
「・・・・そうなったら僕もお終いですね、ハハハ」
婆さんから定食を受け取ると、奥にある部屋へと入る。暫くすると、また食堂は賑やかさを取り戻す。この違いを聞く事もまたこの食堂を楽しむ一つだ。
「そういえば他の奴らはいずこに?」
また奴ら俺を除け者にして新しい事をしているのではないかとウジウジ考えながら食事を終えた。ちなみに今日のメニューは、マスみたいな魚のムニエルと雑穀米、それに苦菜っぽいのが適当な味付けをされて出された、疲労も吹き飛ぶ上手さだった・・・・。
そして部屋に帰り、眠りに着こうとした瞬間。俺は今日中に道徳のテストを回避する合法的方法をついに考え付かなかったことを気付いたのだった。
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次の朝、学校の始まる約五時間程前。現在時刻は朝の五時、起床。子供の朝はすこぶる早い。どれだけ遅く寝たとしても六時までには目が覚める。脳や体のメンテナンスは大丈夫なのかと自らの体に聞いてみたいものだが、これも通常通り動くために問題ないと見える。
シャワーを浴びて、寝ぐせを直して歯を磨く。それに使用する時間は三十分。大人でするならば二倍とはいかずともそれなりの時間を食うであろうその工程を完全に覚醒した子供状態であれば三十分で終わる。
つまり残り四時間三十分、いかようにして過ごすかという問題が生じるわけだが一つの考えが俺の頭の中にはあり、コレは今しかないと思ったのも確かだ。いつもは何所へでも監視の目がついて回るが、その監視の目も今はお休み中である。立ったまま睡眠をとるスキールニルをベットへ投げると俺は薬を服用し、キットシーアへとワープした。
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猫の国、キットシーアの城内に俺の部屋がある。中身は誰にも開ける事がないように言っており、誰も開けてもいないはずだ。まあ開けた所で殺風景な置物一つない空き部屋があるだけなのだが。
そこへワープしてやってくると、とりあえず横の部屋に遊びに行く事が俺の中では恒例行事となりつつある。
「おはようございまぁぁ・・・・すぅ・・・・・・アレックスでぇ・・・・すぅ・・」
抜き足、差し足、忍び足。ひっそりと、ゆっくりと、部屋に防音結界をかけて枕元に立つ。そして亜空間から常備している爆竹を手にとると、ゆっくりとベットの上に配置していく。この工程全てにゆっくりと言う言葉を使うほどに全てをゆっくりと進める。そうして綺麗にジャマッパの寝ている所以外の場所を爆竹は占拠し、俺もベットから離れる。勿論、抜き足、差し足、忍び足の精神でだ。
そうして、ベットから十メートルは離れてその先にあるソファへと腰を掛ける。点火するための火魔法はこの手の中にあり、そして今からお楽しみへのカウントダウンを始めようとカウントダウンをとっていく、この時、十から一まで段々と声を大きくしていくのが俺流だ。
「じゅぅ・・・・・きゅぅ・・・・はちぃ・・・ななぁ・・ろく・ご・よん!・さん!!!に!!!!」
一の手前でジャマッパが目覚め、ゼロの瞬間彼は幸運にも上に着いたふさふさの耳を塞ぐことによってその難を逃れた。盛大に音を上げる爆竹に耳を防いでうずくまるジャマッパ、いつまで続くのかという恐怖に震えながら、未だ状況を理解していないであろう脳で必死に考えていそうだ。
やがて爆音は止み、辺りは静寂に包まれる。ジャマッパもそれに気がついたのか周囲に目をやり防音結界が貼られていることにまず気づき、そして俺に気付くと気圧の下がりそうな大きなため息をついた。
「アレックス、なんだこの魔道具は。相手を嫌がらせるためだけにこんな凄いモノをお前は持ってきたのか?」
「はい、寝起きドッキリというらしいです」
「前例があるならそれを考え付いた悪魔に伝えておけ。寝起きは止めろと、寝起きは。しかし私も学習したものだな、アレックスの悪戯にも慣れて来たような気がしないでもない」
「そうですか・・・ではもう少し種類を増やしてみましょうか。まあ胴体の二つや三つで足りると良いですね」
「獣人族に胴を二つも三つも持つ奴などいはしない、それにこれ以上何かする気だ?勘弁してくれ」
寝起きドッキリが足りなかったのか、また欠伸をしている。眠気なんざ先ほどの爆竹と一緒に吹っ飛んだと思っていたのに。
「これからの仕事の良しあしによって貴方の睡眠時間は保証されると思って貰って良いでしょう。何せ僕は使える人には使えるまで働いて貰いたいと思っていますから」
「使えなくなったらどうする気だ」
「直して使います」
「・・・・・我が国では職に就いたものが過労死した場合、復活させて再度仕事をさせる事は禁止されているんだ。破ると、斬首刑が待っている」
「では法律を変えなければいけませんね、勝手に過労死した場合には半永久的に働かなくてはならないという法律に」
「そういえば労働組合という物を以前から作ってみようと思っていたのだった。私はその書類を作らなければならない、さあアレックス、私は仕事を始める。早々に部屋から退室願おうか」
この猫男は起きたばかりだというのに早速仕事にとりかかろうとしている、なんと勤勉な男だろうか。俺も早々に退出してやりたい気持ちは山々なのだが本題は寝起きドッキリなどでは断じてないのだ。
「ちょっと待って下さいまだ本題が終わっていません。以前に渡した仕事は二つあった事を、まさか忘れいるなんてこと・・・・・・あるはずがないですよね?そう、研究所の件についてです」
「我が国の所有する領土の中でも不浄の地と言われるあの沼地に研究所を建てるという話だったか。正直に言わせて貰うが、あの場所に研究所などを建てる意味が分からない。建てるならば王都にどうぞ大きな研究所をお建てになって下さい。国を乗っ取った貴方達です、それぐらいの財力はあるのだろ?」
この宰相、面倒な所を突いてきやがる。以前壊した研究所に恨みでも持ってんのか?それならそうと早く言えば良いだろうに。・・・・・・と言うかさ、いっそうの事この猫を俺の研究所に入れてしまえば良いのではなかろうかと考えてしまう。
こんな国の事なんか他の貴族達に基礎を叩きこんでやらせればいいのだ。どうせ王女が動き出すまでに俺達がすることと言えば盤石な地盤を固めて改革のやりやすい、いわば草が芽を出すために必要な土壌作りをするぐらいだ。そんな事に有能を使うなど勿体ないとしか思えない。
「そこらの国の国庫ぐらいならすぐにでも出せる、だせますが。・・・そこ、貴方が移動する先なので預けた方が良いかと思ったんですが・・・・そうですか・・・・王都では簡単な実験しか出来ませんねぇ・・・・危険度の少ない・・・社会にさほどの影響も与えない・・・安全で・・・・クリーンで・・・・健全で・・・・安心の・・・・・・・・・・・・つまらない研究所にしましょうか」
「ワタシが移動する先だと・・・。そうか、それは決定事項なのか?」
「はい、決定事項になりました。デスと二人で話した結果です」
「そうか・・・デスもか・・・」
ジャマッパから見ればデスは今の所唯一イザヴァルと繋がっているかも知れないという人物だ。イザヴァルを崇拝するこの猫男を納得させるにはデスという架空の兵器を使う事が最も有効的だと判断した。
「ですから日を改めて僕はまたここにやって来ます、その時は仕事の引継ぎをこの国に残っている貴族にさせましょう。力のある貴族達は宝石になってしまいましたが、残りの貴族達は前例を知っている分キッチリと働いてくれるはずです」
まあ、戻せるけど戻さないのはただ反乱とか革命とかの異分子を限りなく減らしたかったから。大きな反乱がおきて国中ダイヤモンドだらけになっても売りさばくのに困る。薬の材料となるダイヤモンド☆ユーフォルビアの生産も安定していない。
「デスの使ったあの獣人を宝石に変えてしまうあの魔導と言えるあの力・・・・・どういった魔導なのかアレックスは知っているのか?」
「一部しか僕も知りません。彼は忙しい人ですから」
「ならば気をつける事だな、組織に裏切りはつきものだ」
「そんなことは無いと・・・・・・思いたいものですね」
裏切るどころか裏の組織すらないが、この男の妙な勘違いのおかげで俺の背後には巨大な組織が築きあげられていそうである、コレは後々使える材料になるだろうから今は大事に頭に保管しておくことにする。
「それと研究所の件だが、改めて再検討させていただく。立地の条件が沼地という意味が何となく私も理解出来なくはない。要は人が近寄って来られては面倒になると思ったからだろう?私もその考えには同調する」
ジャマッパは他にも材料や道具を運ぶのに道が必要だがそれは沼地には不安定であり、そこが何よりの問題点だと俺にはなした。しかし魔法の使えるこの世界でその考えは頭が固いと正直思う、地下に巨大なトンネルを作る事も魔法と時間さえあれば可能なのだ。
所どころで拠点を作ればそこからトンネルを繋げてウチの職員だけが通るトンネルを作る事が出来る。後はそのトンネル内を生活出来るレベルにすればいいのだ、魔法という便利な物で。
明かりを灯し、所々にトイレをつけておけば後は好きに改造していけばいい。酸素が足りないなら空気を送る魔道具を繋げてトンネル一つを風の通り道にでもすればいい。大量の人と手間をかける巨大トンネルという発想さえも魔法の前では可能となるのだ、魔法様様だがすこし怖くも感じる。
「ある程度アレックスと話すウチに方向性が決まったような気がする。私は仕事に戻るとするよ、今度は帰ってくれるな?」
あーだこーだと話をしている内に、ジャマッパの顔が見つからない一ピースが見つかった子供のような顔になったところで話を切りあげることに。
「言われずとも、僕とはコレで一時お別れです。ちゃんと覚えていて下さいね?研究所の事を」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・帰った・・・・か?ふぁあああ・・んー、とりあえず寝るか」
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残り時間、二時間。結構話をしていれば時間と言うのはあっという間に過ぎてしまうものである。さてと、俺も研究所の話しをしていたら何だか毒を作りたくなって来た。
最近は殆ど魔法と手と道具で俺は自分のスキルの毒薬自動生成器という物を使っていなかった事をステータス画面を見て思った、そしてコレを使ってやろうとも思った。
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≪お帰りなさいませ御主人様≫
どれにする?
・生産
・形状変化
・ニオイ消し
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機械から取り出されたボードには、お帰りなさいませの文字。この機械バージョンアップでもしたのか?以前にはこんな感じじゃ無かったのに、なんか見やすくなったな。
「見やすいな」
するとボードに≪ありがとうございます≫の文字、この機械は人族語を理解するような優秀な機械では無かった。それがお上が何をしたのかこの機械にAIらしきモノが追加されている。・・・なんか一人で触っていることが怖くなって来たからこの機械は壊してしまおうか。
≪私は御主人様の力になります≫
「なんだちゃんと音声があるじゃないか。あるならそれを使えば良いものを」
≪バッテリー消費を抑えるためです、ご容赦下さい≫
「許さん、そんな事で直ぐにバッテリー切れになるポンコツはウチにはいらん」
≪ご容赦下さい≫
機械の癖に鳴き声とは変わったギミックだ、よし、少し面白そうだから暫く話させてみるか。機械の上に分かりやすいよう黒い球体を浮かべる、コレを落とせば機械は屑鉄へその姿を変える。コレでAIモドキが一体どんな反応をするかみてみたい。
「うむ・・・・、ではお前は一体どういったことが出来るのか説明してほしい。もし以前の機能にAIモドキ、お前がついただけならば俺は今すぐ破壊をする。気味の悪いモノは置いておきたく無いんだ」
≪承知しました。まず、私の力をご説明い足します。申し訳ございませんが、私の本体に新しく追加されている赤いボタンを押して頂けますか≫
自分が壊れるという事に恐怖のようなものは感じていないようだ。
「自分で何とかしろ」
そこからは、機械が自ら自分のスイッチを押すためにグラグラと揺れているのを見て時間を潰した。やく一時間ほどだろうか、先ほどのような涙声でスイッチを押すよう懇願する機械がそこにはあった。どうやら声は出せてもボタンは一人で押せないようだ。自分を机の上から地面に落とせばどうにか押せただろうにそれすらしないとは情けのない機械である。
「おい、なぜボタンを押せない」
≪私にはボタンを押す手がございません≫
「なぜ声を作るときに自分でボタンを押す事を考えなかった?」
≪ボタンは御主人様に押して頂きたく思いました》
「自分を床に落とせばその凸ボタンをおせるぞ。押さないのか?」
≪壊れてしまいます≫
「根性のある奴だと思ったらそうでもないみたいだな」
≪恐縮です≫
「それで結局机から自ら落ちないのか?」
≪私が壊れてしまいます≫
「頑固な機械だな・・・・・まあいい、とりあえずボタンを押す前に俺に何があっても良いよう準備をさせろ。お前をトリガーにこの大陸一つ吹き飛んでも大丈夫な準備をする」
≪警戒され過ぎかと思われます≫
そりゃ自分の持っている機械が突然喋りだしたんだ、付喪神が宿ったと昔の自分なら研究もしたかもしれない。しかし今の俺は弱いため、こんな未確認物体をこのまま放置することへの我慢が出来てしまっている。そんな俺に予期せぬことが起こった時に対応できる力があるとは到底思えない、早く壊してしまいたい・・・・が、欲求のせいでこの機械を暫く観察もしたい・・・・一体どうすれば・・・・。
「俺はお前の事が怖い。なにをしてくるか分からないからだ」
≪警戒心が高すぎるかと思われます。私は貴方の仲間・・・いえ、貴方の道具です。貴方に益がある事を常に望みます≫
こんな感情豊かなAIモドキは見た事がない。危険だ、余りにも危険。故に見てみたく思う。
「一つ聞く、お前はテレポーテーションのような瞬間移動と言われる類の事は可能か。この場合は俺の使うワープは含まない」
≪類であるならば可能です。私はどんな場所、どんな所からでも御主人様の設置したいと願った瞬間にそこへ設置されます≫
「例えソレがお前の壊れそうな所でもか」
≪場合によります≫
このAIは曲者である。とりあえず少し疲れたので機械を戻すと部屋は静かに朝を迎えていた事に気づき、部屋のカーテンを開ける。八メートルはあるであろう巨大なカーテンがズズズィ・・と開かれ外は眩しいぐらいに日光の入る快晴だった。
(あんまり眩しすぎるのもどうかと思うぞ)
俺は学校へ向かった。
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「おはよー」
「おはようございます!!!」
メイリオは右手を構えて、再度机のしたへ拳を下げる。後ろでアルバートがカチンと剣を収めた音が聞こえて来た所から見ても昨日のことを気にしてだろう。
「殴りあえないのが残念ですね」
「今すぐ昨日編み出した必殺技を試してみたい気持ちですが、先生に言われましたから。まぁ!直ぐにでもそんな事言われなかったみたいに殴り会えるだろうからそれまで待ちましょうや!!!」
「早く先生の妄言の効果が切れると良いんですけどね」
「誰の妄言ですか?」
ヒュルリという擬音が付きそうな動きで教室に入って来たマサトラ先生が、俺の背後に立ち生徒達には見えないよう手裏剣を手に持って俺を脅してくる。
「そんなもので脅しにならない事は分かっていますよね?下げて下さい先生」
手に持っていた手裏剣をどこへ消したのか、手から消えても威圧は消えずに残るようで俺を席に座るように指さす。
「担任がそんなに好戦的では生徒がソレを真似してしまうのも無理ないと思いませんか」
「先生も生徒から影響を受ける一人の生き物という事を忘れてはいけませんよ、アスク君」
言われた通り、一番左上の席。出席番号一番の席に座る。後ろを振り返るとここ三週間で数人生徒が増えているような気がする。みなさん並々ならぬ努力の末、親の手を借りて頑張って下から這い上がって来た生徒達だ。Zの何が良いのかは知らないが、このままZクラスがこんな感じなら仲間連れて新しいクラスでも作ろうかと考えてしまう。
授業が始まっても元々Z組だった奴らは何もやる事がない。教科書なんざ読書の代わりに毎日コツコツ読んでいれば何が書いてあったかぐらい覚えているものだ。そうだろうに後ろの彼らは何が楽しいのか紙の束にマサトラ先生が書いてある文をひたすらに映していっている。
一番後ろの席に近いティアに、ジェスチャーで『何が楽しいんだ?』と送って見た所、ティアにもよくわかっていない様子。他も同様だ、彼らが何をしたいのか理解出来なかった。一番真面目なクラスのまとめ役とも言えるリーズも、『彼らには必要な事なのよ』と答えになっていない答えを返すのみで全く使えないありさま。
暇で暇で仕方がないので、窓ガラスを割って教室から外へ飛び出そうとしたらいつの間にか移動していたマサトラ先生に、止められる。
「先生、これ以上僕の時間を無意味に奪うのは止めて貰えませんか、もっと楽しい授業がしたい」
「ならば上の学年のZ組にでもいってきますか?他は元々の授業と変わりませんよ?」
「いや、ちょっと材料の調達がしたい。同学年のFクラスに行って来る」
「彼らも今は勉強中ですからいってはいけません」
「ならそこの教師より上手く教えてやろう。それで文句ないか」
「おおアリです、君は自由過ぎる。不良というやつです」
「一番成績の良い不良というのも乙なモノですね」
「黙って座っていなさい」
「断る。先生が元通り面白い授業をしてくれるなら僕は戻って来ます」
今度は教室の扉から静かに出る。不良認定されたのだ、今さらどこまでクラスが落ちようが知ったこっちゃねえ。SSSだろうがSSだろうが好きに落として貰って構わない。
俺は目に見えて勉強してますよって奴らがすっげえ嫌いで隠れて勉強する奴らが大好きな奴であるというのは自分自身昔から知っていた事だろうに今までどうして我慢して来たのだろう。
「アスク、ちょっとまてよ」
「ティア!?皆もどうして・・・・・・・不良って言われますよ?」
ティア、メイリオ、アルバート、ジーナ、スクイ、リーズ。旧友ども大集合かよ、てか昔からいた奴ら全員不良になっちまったのか。Z組終わりじゃねえか?
「俺達は保健室に行くためにクラスを抜けて来ただけだ。問題ない」
「それで六人全員保健室ですか?パンデミックにもほどがあるでしょう・・・」
「お前は少し方法を考えろな?いきなり飛び出す馬鹿が何所にいる。方法ぐらい考えろ」
「世話の焼ける上司です」
「全くであるな、アスク殿は少し自分の御身分を自覚する必要がある」
「正直見てて冷や冷やしましたわ」
「私は皆が行ってるからついて来ただけで・・・」
「アスク君の世話が焼けるのは皆知ってたことでしょ。さ、一人の責任は皆の責任よ、行きましょ?」
「いや、リーズ。ここはアスクに全員運んでもらうぞ。罰ゲームだ」
「面白そうですねえええええええ!!!テンション上がって来ましたよぉ!」
「うむ」
「え・・・私は・・・イイです・・・」
「スクイさん、連帯責任ですわ。さ、あなたは特等席ですわよ」
「え?―――――えぇええええええ!?!?!!?」
「なんかキメラみたいね」
スクイを肩車してリーズとジーナを肩に乗せる。男どもは腕にぶら下がって遊んでいるので、もうこのまま移動しようと思う。体重が凄く重たくなって床が音を上げているように思えなくもないが、俺達はFクラスへと向かうべく校舎を脱走したのだった。
平穏って良いなぁ。




