平穏な日常 ヒミツの宴 (上)
これからは短めのお話を少しずつ書けていけたら良いなと思ってます。
八割がた雲に覆われ太陽は雲に隠れている朝、つまりとても良い天気の中で俺は久しぶりの登校を果たそうとしていた。校舎は変わりなく、以前と変わらず移動が不便極まりない。
私設の構造上、一風変わったアスレチックを楽しむことの出来る我が校舎は他クラスからは尊敬の目で見られる。
何故かと言うと、言わずもがなこのアスレチック校舎に行く生徒はSSSクラスとZクラスの生徒だからであり、SSSクラスは皆の憧れという奴だからだ。
Zクラスは・・・なんか目標とは違うらしい。何故だろうな?
「アスクさんおはよぉおおおおおおおおお!!!!」
「おはよう」
「あぁ、おはようございます二人とも」
クラスに入ると、顔面目がけて拳と剣が突っ込んで来たので二人の首を掴んで地面に叩きつける。アルバートもメイリオも元気そうで何よりだ、しかしおかしいな・・・二人しか来ないなんて。他はどうした?
「他は遠距離だぞアスク!!!ぶっ飛べ!!!」
「泣くが良いですわ!!」
「泣いちゃえ!!」
「偶には良いわよね!!」
ティアもリーズもスクイもジーナも皆元気そうだ。全員レベルも上がって右腕に刺さったリーズの本物の矢が魔法の効果で痛みを増している。早く抜かないと痒くて後から薬を塗らなければならなくなりそうだ。しかし抜こうと思ってもスクイの魔法で四肢は全て木の根に絡まれてしまっているのでどうすることも出来ない。
「リーズとスクイで僕が身動きが出来ないようにしてティアとジーナで魔法を連射ですか・・・まいったなぁ・・・」
「その割に随分と余裕そうだなアスク」
「いえティアとジーナの攻撃は痛いですよ?自分で掌をマッサージしているみたいです」
「ほう・・・剣は使うまいと思っていたが、そんな余計なお世話は焼かなくても良かったようだな」
「最近覚えた魔法を使って見たかったのよね、滅殺魔法って言うんだけど」
二人とも楽しそうで何よりだ。だがしかし、俺は瀕死と言う言葉がとても嫌いなのでそろそろ反撃に行こうか、それぞれ与えてくれた量のダメージ量は数値化されて俺のHPを減らしてくれているからな。それぞれに遊んだ分はお返ししなければ。
「まずティアです、与えたダメージはなんと五千。本当に殺す気だったのかと思いましたよ?」
「なんだ仕返しか?・・・ククク、俺に攻撃があた・・・ウゥ!」
「室内でペンだけ取りたいと思った時腕だけをワープさせる技術を得ましてね?かなり苦労させられましたが今ではほら。その腕からティアを引っ張って・・・・・このようにして僕の目の前に持ってくることが出来る」
「マジかよ・・・クククク、うぁあああああああああああああ」
取りあえずティアは窓から落とした。この校舎から地面まで数十メートルはあるだろうからそれぐらいのダメージ量になるだろう、よし次。
「次にジーナの滅殺魔法。アレただの上位の火と水の混合魔法でしょう、ダメージは千です」
「あ、私は投げないでね?ティアじゃないからってきゃあああああああああ」
ジーナをお姫様抱っこしてから、自分ごと回転する。程よくジーナが酔い始めたら止めて地面に投げ捨てる。
「次にスクイ」
「ひぃいいいいゴメンなさいごめんなさいごめんなさいゴメンなさい」
「・・・・・」
どうしよう、コイツだけ悪乗りでやった感じか?じゃあしょうがないかぁ。
「ほら、泣くな。飴やるから」
「グスッ・・・うん。ありがと・・・」
「ちなみに今スクイの舐めた飴は舐めれば顔面から汗が止まらなくなる飴だからね」
「熱いよおおおおおおおおおおおお!!!!!」
顔面を真っ赤にしてとても可愛らしい。
「ほら、お水だよ」
「ありが・・・・アツァアアアアアイ!!!!」
お水だけど、ちょっと熱かったかな。コーヒー用に沸騰したポッドのお湯を使ったんだけど。
「クラスのアイドルにまであの仕打ち・・・私は一体何を?」
ジーナがこれ以上酷い事をされるのではないかとビクビクとしているが何を期待しているのだろう?
「ジーナには顔面パンチですよ?」
「乙女の顔にパンチをするなんて最低ですわ・・・」
「・・・・」
「乙女の顔にパンチをするなんて最低ですわ!」
顔面へのパンチは最低と来たか。先ほどまで男の俺のありとあらゆる場所を矢で射抜いたこの少女は今度は顔面一発を最低だという。
「では他の人とは違う方法で罰を与えるとしましょう」
「他の人とは違う方法・・ですの?」
ジーナをお姫様抱っこすると、教室を飛び出しSSSクラスの生徒やSS、S、A、Bのクラスをお姫様抱っこをして回るという罰にした。
Zクラスのある校舎までの帰り道にどれほど効いたかをジーナに聞いてみる。
「どうだ、かなり恥ずかしかっただろ?」
「は、は、恥ずかしいというよりメロエさん達がガン見してたのが怖いのよ・・・わ、私どうなるのかしら」
俺とは予期せぬ所で集団リンチにあいそうな暗い表情のジーナ。いつもクラスで猫を被っている猿が久しぶりにその化けの皮が剥がれて可哀想に思えたので、何か一つお助けアイテムを渡しておくことにしよう。
「ジーナ、なんか困ったことがあったらこの薬を使え。俺がどこで何をしていても一度だけ目の前に現れる」
実際の原理はただの狼煙だから空を見ていないと俺は現れる事は出来ないが。
「どこにいても私の目の前に・・・・・これなら助かりますわ!」
「ただしこれが使えるのは今日と明日のみ。明後日や明々後日には効果がないから気をつけろ?」
「はい!今日中に!」
何か使い時が既にありそうな言い方だな。今日は特に絶対にやらなければならないという事は無いから、急に呼ばれても大丈夫なようにしておかなければ。
「じゃあ、クラスに帰るか」
「はいですわ!」
クラスに帰ると、俺達の挨拶で漏らしてしまった新人のZクラスの生徒やら先生を呼びに行った他の生徒が俺の方を怖いものを見るような目でみている。ティア達はちょっとやり過ぎたかと全員何も無かったかのようにそしらぬふりだ。そして目の前には切れてるのか半笑いのマサトラ先生。
「おはようございます、先生」
「アスク君、コレはどういう事でしょうか。新しいクラスのお友達には刺激の強い事を見せないで下さいとアレだけ言っていたでは無いですか」
「僕は休んでいたので初耳です」
「いつも言っている事です」
「・・・・・ですが先生よく考えて下さい。ここはZクラスですよ?ここでは既存の考えを捨て・・・」
「無くても良いように皆普通に仲よくしていて下さい。スキンシップで斬りあったり魔法を打ったりもしないでください」
「拳で語り合えと?」
「拳でも語り合わないで下さい」
「じゃあ何で語りあえば良いんだ・・・」
「言葉でお願いします。・・・・・・・はぁ、最近はZクラスに入れろという割には子供の安全を最優先という親が多いんですよ。校長(サタン様)もコレにはとても頭を悩ませている問題ではあるのですが、どうにもまだ解決策が出ずにいます」
「そんなのみなごろ・・・」
「それ以上はいけません。自身の評価を余り先生の前で下げたくはないでしょう?」
物凄く何を今更な気はしないでもないが、とりあえず言葉で語りあう事をしなければならないらしい。Zクラスの共通言語は言葉になったのか・・・生きにくいクラスにならなければいいが。
「それとアスク君、君が休んだ時にしたテストなんですが・・・・・受けて貰えますか?」
「何故テストを受ける必要があるんですか?」
「それも上からの指示で・・・」
「そうですか、で、場所は?」
「ここで放課後やりましょう、ティア君も受けるので二人とも忘れないように」
放課後にテストか、テストを受けるのなんざ久しぶり過ぎてどうやって受けるか忘れそうになっていた。先生とは以前にこれからのテストを受けるか否かをかけて勝負したことがあった。賭けは、全てのテストで百点を取り、実技で先生から一本とれるかどうか。
テストの内容は魔法の式が一番成績に影響が出る。よく竜海の見ているアニメで唱えられる魔法を使う時の呪文みたいなやつだ、これが百点とれていればAクラスには入る事が出来る。その他にはゴーレムの配合率計算や、ミトレスの歴史、国同士で中のよい魔族語の長文、等々。
クラスによって受けるテストの量が違うが、Zクラスは全てのテストを受けなければいけないという中々手の込んだ嫌がらせが先生陣から行われる。しかもテストの問題はZ組の担任によって決める事が出来るというサービスつきで。
つまり、Z組の一年生から十年生までのZ組の担任がZ組の生徒をSSSクラスに落とすために本気でテストを作るのだ。つまり先生は苦手分野を個人個人把握した状態で、その問題ばかりを個人に渡すという事であり、その時の賭けも俺が苦手とする分野を重点的に攻めて来た。
特に酷かったのは以前に出たゴーレム配合率に関する問題だ。
『五パーセントの火エレメントに、水エレメント六十パーセントを配合します。残り三十パーセントにはどういった金属が最適であるか。また、その時の作成されるゴーレムの心情を答えよ』
コレの答えは『ミスリル、また作成者に対して心よく思う』だ。実際ゴーレムの気持ちなんぞ分かるわけないだろうに主観的な観点から問題を作っているマサトラ先生に、こんなガキみたいな問題作るなと言うとその問題は全員正解となった。
前文は教科書の例題のパクリ、その後のまたから先は必要ない道徳の授業にでも出て来そうな問題というトリッキーな事をしてくれる先生だが、先生がそんな問題を作ったのには言い訳があった。
「アスク君は道徳の授業だけ欠席しますから、一度道徳の大切さを知って貰いたかった」との事。道徳の大切さを知らないんじゃないんだ、道徳そのものに答えがないから受けるよりも研究した方が正しいあり方だと思っただけだなんだ。
次のテストは道徳も追加しようとか呟いていたマサトラ先生のテストは今回の賭けでやらなくて良いと思っていた。
結果的にテストも終らせ、先生も不意打ちで毒ガスをその日ずっと吸わせていたから戦う頃には満身創痍だったから地面に叩き伏せる事も余裕だった。あの戦いで必要なのは病人を平気で殴る事の出来る度胸だけだったんだ。
しかし、上の都合上とかなんとか言って放課後マサトラ先生は俺に道徳のテストを受けさせようとしている。果たしてこれが許されざる事だろうか?いや、許されるはずが無い。
教科書に書いてある内容を丸暗記したところで解答を理解することすら許されないあの超難しい道徳をどうやって回答しろと言うのだろうか?謎は深まるばかりである。
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~??? ????~
ここはとある場所の地下にある巨大な空間であり、彼女達のアジトである。彼女達の行動理念には必ずアスクレオス・ワイズバッシュが中心となって存在し、彼のために、彼のためだけに日夜秘密裏に活動が行われている。
そして今宵、その巨大な空間に一人、綺麗な土下座をして許しを請う少女がいた。その周りには五千はいるであろう、緑のローブに身を包んだ女の集団と、緑色をした王座のような豪華な椅子に足を組んで持たれるローブを来た少女が一人。
そして今、静かに裁判が開かれる。
「メロエ様、アレは違うんですわ!アスクが・・・」
土下座から頭だけを上げると、まず一言目に何かの間違いだといいはる少女。それを夜の山頂のように凍える目で玉座から見つめる少女。
「アスク・・・ですって?あなた・・・・・・・・なに馴れ馴れしく読んでいるのかしら?」
「あ、アスク様がですね。私に罰だと言っていきなりおひ・・・うぅぅ」
彼女の証言の途中にもあらず、鞭が彼女の近くでパチンとなります。彼女には当たっていないものの、精神的恐怖は増すばかり。
「あぁ!!なんと羨ましきことを!!!皆さん、聞きましたか。この女は一人でアスク様の懐へ侵入したのです!!!どう思いますか!?」
『抜け駆けは極刑あるのみ!!!!』
『抜け駆けは万死に値する!!!!』
偶然とは言え、彼女達が崇拝するものにお姫様抱っこをされて学校中を駆け回られるというご褒美。そんな事はどれだけ努力をしても手に入れられない者も中にはいるというのに、この少女はぬけぬけと新米の癖にやらかしたのだ。
ソレを以前からストーキングして来た彼女達が許すワケもなく、今こうして彼女は裁判にかけられているのだった。
「しかしメロエ様・・・このようなモノを・・・・・アスク様から・・・・その・・・・いただきました・・・・・」
「貰い物までしたの?そう、つくづく私達の事をコケにするのね」
『殺せ!!!』
『殺せ!!!』
『殺せ!!!』
『殺せ!!!』
「お、お待ちください。この薬、今日と明日のどちらかに使えばどこであろうとアスク様が召喚されるのです!!」
そう少女が言い放った瞬間、先ほどまで大きな空間に殺せコールがこだましていたことが嘘のような静寂に包まれる。玉座に座る少女が汗を一つ、額にかきながらもう一度聞き返す。しかし、薬の効果は自分が先ほど聞いたものと同じだとその少女は言う。
「本当にアスクが召喚されるの?」
「はい、本人からそうお聞きしましたわ!!」
『アスク様に会える?』
『アスク様の本物?』
『等身大アスク様?』
『置物ではないアスク様?』
『お人形でもないアスク様?』
『アスク様?』
『アスク様??』
『アスク様!?』
『アスク様ああああああああああああ!?』
奇声、金切り声と男性からは言われる歓喜の声を地下で響かせながら騒ぎまくる彼女達。そして、玉座に座る少女が手を上げる動作と共にその歓声は静まり次の発言に耳を傾ける。
「今ここにアスク教第一の使徒の名において命ずる。明日の夜八時、南西の森に集合せよ。復唱!」
『明日の夜八時、南西の森に集合せよ!』
「補足として言わせて貰うわ、余り大胆な事は控えて欲しいけれどお菓子とか飲み物の持参はいいわよ、折角の機会だし、楽しくやりましょ」
『イェエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!』
そしてその日の集会は熱を帯びたまま終わり、一つ、また一つと大きな空間から闇は飛び散った。残ったのは緑のローブを来た少女が二人のみ。
「ジーナ、あなた助かったわね」
「あ・・・危なかったですわ」
(上)があるのでこの話は続きがあります。




