魔族地域 獣人国編(死)6 後かたずけ
全てがなんとなく上手くいかず終わった頃、俺は後処理に追われていた。
「竜海!次この書類全部デスの姿で王女に渡してこい!!」
「一辺に渡して下さいよ!!!五分前にお城に行ったばかりじゃないですか!!!」
王女を操り人形にした後、彼女の言うなれば摂政のような立場で国を動かすデスという架空の人物。その人形を動かすのにも色々と大変な部分がある事を以前の俺は考え無しに動いていたために起きた今の惨劇である。
「というか竜王とメロエはどこ行った!?」
「二人は先に帰ってしまいましたよ!メロエさんは学校、竜王さんはめんどいとかで!!アスクさんは良いんですか!学校に行かなくても!!」
「ウチのクラスは特別処置があるからソレは大丈夫だ、ほら次の書類!コレはジャマッパの方にまわしておけ!畑の所に手紙に付けておいた薬を撒いとくように伝えておけ。時間稼ぎはそれで出来る!」
どうも俺の通り過ぎる国は極端に人口が減少するという不思議現象が多発するために、前もって色々と薬を製作する準備は整えておいたのだ。まさか今度は兵士では無く町民が減るとは思わなかったが。
町民の約三割を資源にしたために、国に所々あったスラム街の消滅を確認したのは多少面白い情報だったが、その三割を埋める苦労もあったためにちょっとした細工が多く必要となった。
まず大変だったのが、ごっそりと減った町民達が一体どこに消えてしまったのか。この問題に得に役に立ってくれたのが魔物の存在だった。一夜にして邪悪なる魔物によって人口の三割が消滅し、ソレを救ったモクリトスは再びこの国の英雄としての象徴となって人々を表から導いて貰いたい。
正直、あの人の仲間をこういった形で手伝わせているのは心苦しいがこの国を放置して汚染まみれの屑
国家にした分だけ働いて貰うつもりだ。
「後どれくらいかかりそうですか」
「今書いている泉の所有権についての書類が終わり次第一時的に休憩を挟むつもりだ。何か用事でもあるのか?」
「いえ・・・ちょっとリアルタイムで見たいなぁって思ってただけです」
「なら今日は帰っていいぞ。お疲れ」
「あざーーす!、おさきに失礼しまーす!」
竜海が帰り、一人机の上でため息をつく。辺りを見渡すと自分の部屋であることを確認し、また溜息をつく。はっきり言って、俺は研究所と都合の良い権力が沢山欲しかっただけなんだ。なのに国政までやる羽目になってしまって困った。
とくに政治に関しては余り得意じゃあ無いんだが、とりあえず国内で不安分子がいるなら記憶処理で今の所は処理するしか無いだろう。
「そういえばジャマッパの奴・・・放置してたな」
ジャマッパの名前が書類に出て来てふと口から洩れる。疲れすぎて口から見聞きしたものがタレ流れる持病が発症しているようだ・・・・・・今あの猫の事を考えるのはとても面倒だが使える男ではあるので、早い所どこでどうやって使うか見極めておきたいところではある。
今の立ち位置は、王女は飾りで年間行事などをさせる時に主催者として企画と実行をして貰い、ジャマッパは俺と同じく摂政、関白のような立ち位置で頑張って貰うつもりだが・・・実際コイツがどこまで出来るのか俺はその能力を知らない。
国を見る限り、この国は税を余りとらない変わりに国民に対する補償なども少ない典型的夜警国家であり俺もソレを余りとやかくいうつもりは無い。つまりあの有能の使いどころに困っているのだ。国としてそこまで動かなくて言い為にどこにでも入るし、どこにでも使える。
チェスで言うなればジャマッパはクイーンと言っても過言じゃない。本当にどこに置いてもその力を十分に発揮してくれるであろう彼をどこの代表にしようかと悩む。悩んで悩みまくって、とりあえずここにある泉の件とちょっと片隅に残っている某洞穴(スキルブレイカー生産所)についての書類を彼にプッシュしてみる事に。
「ジャマッパ・・・ジャマッパさん。こんばんわ」
「だ!・・・・誰だ貴様!!!私の部屋にいつ入った!?」
「誰だ貴様・・・と言われると・・・そうですね、困りました」
実際ふらっとやって来てふらっと帰るつもりだったからそこまで丁寧な挨拶も必要無いと思ったんだが・・・まあいいか。本名は彼にとっても接し難くなるだろうから、最近考えた良い偽名を使わせて貰おう。
「僕の名前はアレックス・ワイズマン。伸長一メートル五十五センチの少年です、どうぞよろしく」
俺が服用している薬は背を『無理矢理』小さくする薬、飲めば伸長を半分ほどにすることが出来る。
実験では人間への投与は自分しかまだ無いが、大きさが五十センチほどの兎は三分の一ほどの大きさに、二メートルちょっとのクマは一メートルほどに小さくなった。まだまだ改良の余地ありの新薬の一つである。
飲めば走り高跳びで思いっきり何も敷かれていない地面に背面飛びしたぐらいの痛みが、数分間に波のように全身に押し寄せてくるだろうが、ソレを我慢出来るなら伸長は晴れて半分になる事が出来る。
追記として残すなら、骨格が一度バラバラになって内臓がトロトロになるので頭だけはしっかりと保護しておかないと、大変な事になるということぐらいだろうか。首から上と大事な部分を保護して体の改造を待ち、後から頭と大事な部分を調節をすると今のアレックスになる事が可能になる。
一時的とはいえ剥き出しになる脊髄や様々な神経に冷や冷やする半面、非常に興奮する元にもなるのでこの体験は一度はしておくべきだと思う。
「アレックスなどどうでも良い、貴様、どうやってこの城に侵入した?並みの相手ではこの城の兵士には勝てるわけがないはずだ」
「ではこうしましょう、侵入方法を教えるので僕の要件を聞いて下さい」
「要件・・?」
「はい、僕はまだ貴方がどれほど優秀な人物なのか知りません。それを僕に教えて貰う為に二つのタスクを貴方に任せてみたいと思っています」
「どういうことだ、タスクとはどういう意味だ」
ジャマッパは目を擦りながら先ほどまで眠っていた脳を急いで回しているように見える。夜中の二時に訪問するのは流石に可哀想だったか。せめて四時まで眠らせてやればよかったな。
「タスクは二つ、書類は貴方の机の上に置いておくので朝になったら仕事を初めて下さい。拒否権は存在しませんので気にしないで下さい、僕からは以上です」
「あ・・・ああ」
とても眠たそうだな・・・目が半開きになっている。正直俺も眠気で色々と適当になっているが、朝になったらとりあえず仕事をしてくれると思おう。してなかったらまた夜に来てやれば良いし。
「それと確か僕がどうやってここに侵入して来たか・・・でしたね」
「ま、まった。その質問を替えさせてくれ・・・・私も頭の中が今起こっていることを完全に認識が出来ていないから一つだけ・・・一つだけ覚えておきたいことがあるんだ」
「何でしょうか?」
「お前は誰だ」
ジャマッパから強い威圧が感じられるが、それも後数分持つかどうかだろう。それだけ彼にとっては重要な事だということだ、たぶん。
「この国のデスという奴の裏方で作業をする者です」
とりあえずはそう答えておくと、ジャマッパは一言「そうか、なんとなくそんな気はしていたよ」と言い残して、ベッドへとかえっていった。
俺もようやく一仕事終えたので・・・・眠れそうだ。最後に寝たのは二日前か・・・睡眠が楽しみだ。
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ジャマッパに仕事を任せてみて数日後。初めは全く触ろうともせず外へ出て人助けやら田んぼの改善後の様子を見回りしていたようだが、日を重ねる事に目の周りと目の中が赤くなりはじめ、最後にはちゃんと紙を見て仕事を初めてくれたのだった。
結果は・・・・・・・・・・・・・・・・とても困る人だった。泉の件をまず任してみてみればいつの間にか国家所有の完全な観光地になっていたのも驚いたが、彼の元研究施設は綺麗さっぱり跡形もなく消え去り、そこには穴を埋めた土が重ねられているだけとなっていた。自分の苦い過去は直ぐに埋めてしまいたかったのかもしれん。
結果的に、非常に仕事の出来る人材と言うのを俺はこの目で初めて見たかも知れない。と言うか、仕事の内容を理解して言われた事以上の成果を出してくれる人物と言うのはそういない、超有能である。
そして同時にこうも思った、仕事を出来る奴には出来る限りの仕事をさせた方が効率的でコストも削減出来てとてもいいと。
それからというものの、自分で行くのは面倒な田んぼの調子などを見る仕事や汚染の浄化具合の報告などは全てジャマッパにやらせてみた。
結果は言うまでも無く完璧の一言、計算の間違いもなく状況なども監視を頼んでいる執事からの報告と一致する。これからは監視(執事)を外して仕事をさせて問題ないという驚きの性能を見せた。
そしてその深夜。
「ジャマッパさん、こんばんわ」
「アレックスか・・・・何故私の熟睡した時を狙ってやって来るんだ君は。私に恨みでもあるのか?」
「いえ、逆ですよ。貴方はとても優秀な成績を収めているために更なる仕事を与えようと思いまして」
「優秀な成績を収めているならご褒美が必要なんじゃ無いのか?睡眠時間というご褒美が」
「ですから仕事(ご褒美)を追加してあげようと言っているんじゃあないですか。喜んで下さい、仕事が増えるだけ貴方は王女よりも自由に権力や行動をとることを許可されるんですから」
「王女より?・・・・王女は殆ど何もしていないのでは・・・」
ジャマッパが欠伸をしながら聞いて来る。王女の今の状況を知ったら彼は欠伸も出ないだろう。
「はははは、まさか。王女が何もしてない?そんな分けがないでしょう。今は王女の代わりにデスと僕が国を動かしていますが、次は王女がデスと僕の代わりをするんですよ?そして今はそのお勉強中という事です」
「お勉強・・・か、ふむ、確かにあの女王には交渉術以外にも予備知識を与える必要があるか・・」
「次に表立って面会する時には、絶対に貴方が寝首をかこうと思わないほどの立派な王の姿をお見せしましょう」
「ソレは楽しみだ、・・・話はそれだけか?」
「はい、今回はご褒美の事でお話に来ただけですから。ではお休みなさい」
「あ・・・ああ」
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ジャマッパには言った通り、王女シュシュには俺が勉強を教えている。この国の歴史についてまず全て叩き込むのと、地理の暗記、大学入試までの数学、あと近隣諸国の言語と人族語。
俺がいつまでも獣人族語で話していたのでは良くないと思ったのと、大国と貿易出来るようになったら必要になって来る能力でもあるためにそこはキッチリとしていく。
そしてダンスと楽器ぐらいなんか一つ演奏出来るものが欲しいだろうと思い、ピアノと専門のエルフを五年契約で雇い入れて王女にレッスンをさせている。最近はピアノにしっかりと慣れて来たらしい、あのおおらかなエルフの怒号が時々聞こえてくる時はしっかりと教えているなと身震いするほどだ。
「王女様、睡眠前に僕の渡した暗記用の紙を五回読み返しましたか」
「あ・・・・・アレックス・・・・私は・・・・・もう・・・・駄目みたいだ」
勿論王女の前でもアレックスでいる、もうこの国にいる時はアレックスでも良いかも知れないと思い始めたぐらいだ。
「どうなされました?ジャマッパに下剤でも仕込まれました?」
「そうじゃないよ!なんなんだよぉー!このハードスケジュール!!!生きてるのが不思議みたいじゃないかー!」
「生きているのが不思議?また可笑しなことを言いますね。死んでいる事が不思議ではないような言い方を・・・」
「いや、私以外だったら絶対に死んでる。ぜーーーーたい死ぬ!」
「では王女は死にはしませんね、はい、また明日も頑張りましょう。おやすみなさい」
「またコレ持って寝ないとダメなのぉ?」
手に持たれているのは10センチほどの短剣、魔法も加えてあるため実際は20センチほどの得物を常に持たせて寝むらせている。コレで夜に来るような輩をブスリとやれるようになれば合格ラインだ。
「持って寝てください、さあ早く寝る。時々王女の部屋に蛇を放つのでその短剣で仕留められなければ翌朝蛇が巻き付いていると思って下さい」
「え?毒・・・ある?」
「ありますが噛みません、あくまで巻き付くだけですよ」
「あー・・・・あるんだねー・・・」
中々眠りにつこうとしない王女を見て面倒になったので睡眠魔法で眠って貰った。さて、俺も学校に行かなければならない分けであって王女の世話をそうずっと出来るワケも無いので、王女には俺の代わりを用意しなければならない。
それを今から探しに行くわけだが・・・俺の作った教科書通りに勉強を教えてやれる奴なんて・・・・・・あ、一人心当たりがある。安月給で悲鳴を上げていた奴が一名・・・・・・アイツ夜以外なら時間空いてるんじゃないか?
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~竜海の塔 天使門~
ここは僕の塔であり、ここは僕のハーレムでもある。帰ってくれば数百人の天人族の女の子がお迎えに来てくれる。そう、ここは桃源郷。
「あははは~今日は何して遊ぼうか~~~」
「竜海様の好きなものがいい~~~~♪」
「そっかぁ~じゃあ皆でダ○スダ○スレボリューションしよぉう!!」
『♪♪♪しよう♪♪♪』
「たーーーつーーーーみーーーーくん!遊びに来てやったぞ!!」
どこからかジャ○アンのような声が聞こえた気がするが僕は気にせずプレイ用のマットを用意して、ゲームハードを起動させる。そう、今の声は聞こえていないのだ。僕はそう心にちか・・・
「たつみくん。遊びに来たんだけどお迎えがないんだよな、なんでだろう」
「アンタがワープで塔の内部にいきなり入り込んでくるから誰も気づかないんだろ!?いい加減にしろ!!僕の部屋に土足で入って来やがって!!」
「がみがみと煩い神龍だな。なんだこのカオスな空間は?天人族が全員個性放ちまくりで怖すぎるわ。普通の恰好の天人族が一人もいねえじゃねえか。ちっとはマシな服装にしてやれや」
「うるせえ!僕の勝手だ!!!」
僕はこの子達の前では神龍という存在でいたいんだ、例え相手がフリ○ザだろうがジャ○アンだろうが僕は堂々と彼女達の前で尊厳を保って見せる!
「・・・はぁ、分かった。分かったよ、今度は正面突破してくる。俺はお前に金になる仕事を見つけて来てやったんだぞ」
「また汚い仕事とかですか?嫌ですよ?」
「王女の家庭教師、時給金貨七枚・・・」
「やらせて下さいお願いします」
全力の土下座を持ってこの仕事を勝ち取らねばなるまい、僕は決心した。僕、家庭教師になるってよ。
「休みは無いがお昼はついて来る。夜は・・・まあ城の給仕係に任せれば良いか、竜海は昼に王女に勉強を教えてやってくれたらいい」
「その王女ってもしかして・・・・」
「猫の国の王女だが、なんだ?」
「ケモ幼女キタァアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!」
余りの興奮に歓喜の奇声を上げてのたうちまわってしまう僕。お恥ずかしながらこの衝動、止まりそうにございませぬ。
「ビャアアアアアアアアアアアア!!!!!」
「黙れ」
「黙ります、速攻黙ります」
「詳しい詳細はこの紙に書いておく、活動は明日からだ。くれぐれも粗相の無いようになもし何かあった場合には近衛兵のヤバい奴がお前を三枚に下ろす」
「承知しました、YES!ロリータNOタッチ!」
「うむ、君の手には一国の未来が掛かっている。責任重大だぞ、頑張りたまえ」
「ははは、中学高校と休憩時間は勉強をしていた僕の学力が今生かされようとしているんですね・・・なんか涙出て来た」
「それと竜海、声を替えれるか。デスの声と重なると面倒なんだが」
「できますよ、擬人化する時にそれくらいの微調整は余裕っすね、うん」
「では私は寮に帰って明日の準備に取り掛かるので失礼する」
「何かあったら即知らせますね」
「あ、・・・・そうそう、学校では俺ではなく僕ですので。宜しくお願いしますね竜海君」
そのとき竜海に電流走る!
(キモイ・・・なんだこのキモイ生物は・・・・でかいクセに物静かクール系男子でも気取っているのか?かぁああああ・・・・気持ちわりぃなぁ・・・乙女ゲーのキャラかよ。ッケ、勝手にモテてろクソ公爵)
「なんか言ったか?」
「いえいえ、何かの勘違いですよ。ささ、明日遅れると大変ですよアスクさん。頑張って下さいねぇ!」
「お、おう。またな」
こうして、僕の塔からハリケーンは通り過ぎていったのだった。




