魔族地域 獣人国編(死) 3 泉の畔にて
アスクさんがいつも以上に臭い。
人を生かす毒薬すなるモノを彼女(竜王)は作れと言う。俺には今の所そういった物は思考の段階にすら達していないのだが、彼女が願う数少ない希望とあらば作らなければならない・・・・・・作らなければならないのだが・・・・。
「なあ、・・・・・人を生かすとは言うが一体どういう意味で生かすことになるんだ?」
「さあな、見当もつかぬよ。ただ妾は同族を殺すために生きるお前が哀れに思えただけじゃ、深く考える事もない、ただな・・・・・・お主も殺すよりも増えた方が楽しかろう?」
「増えた方が楽しいと考えるのはイデアが竜だからだろうぜ・・・・人間はその大きさに比例しない数で星の侵略をする・・・・・正直言って生きるなとは言わないが数の調整ぐらい自分達の手でするべきだと思うね、俺は」
「・・・・・・」
「でもそう考えたらイデア達竜族はある意味では俺の理想とする生き物だよ、知能はあるが決して世の理からはみ出そうとはしない。個人で欲望を自制出来る、・・・・・素晴らしいじゃないか」
「そうか・・・・」
「まさに人類が進化するならそういった生物が最高だ、不老不死やら若返りなどに夢見る奴らはまとめて別の生物にしてやりたい、自然に生き、人工的に生きるすべを失った人類がどれほど綺麗な生き物か・・・・想像するだけで夜も眠れなくなる」
夕日が赤い泉に反射して、二つに千切れている。空は既に藍色へと姿を変え始め、高積雲が夕焼けの最後を飾り、夜のとばりを下す準備を始める。
「そうかソレが・・・・・・・・・貴様の夢なのか?」
「今の話しを聞いて何故ソレが俺の夢だと思うんだ?また竜眼でも使ったのか?」
「違うわ、・・・お主が妾に夢を語るように話すからであろう。・・・・・・しかし悲しきことだな。貴様の夢の辿り着く果てなど悲しいものだぞ?」
「竜眼でも使ったのか?」
「使わずとも分かる、何とも虚しいものじゃ、後には何も残らぬぞ。変わるだけ変わってお前には誰も感謝はしない、罵倒などはするかもしれんがな」
「そんな事すら無意味と理解出来る生命体にする事が俺の夢だ。ドラマチックな最終回を迎えずとも俺はそんな事がしたいって・・・・・・思っている」
沈む夕日と重ねるようにして、俺は自らの夢を告白した。何故かは知らないが、俺はこの雌になら自分の夢を語って良いと思った。今の行動に意味があるかと言えば答えはノーであり、今の行動に意義があるかと言えば答えは・・・・・・・・・保留である。
「ク・・・・ククク・・・・カッカッカッ・・・・カハハハハハ・・・・」
「笑っているのか?」
「ああ、妾はどうやら一つ勘違いをしておったわ。お主、人間が大嫌いなのでは無いのだな」
「は?俺がいつそんな事を言ったんだ」
「いやいや、妾の勘違いじゃったわ。そうかお主、人間がこの上無い程に好きか」
「良い部分よりも悪い部分の方が多いのは毒も人間も変わりない、用は同じ人属として少し協力するだけだ、なにもおかしなことはないさ」
そう、全ては人間の歴史に新たな時代を創造するために必要な実験だ。場所は違えどやる事は同じ、その景色をただみたいが為に研究を続ける。その為に犠牲になるのは何であっても仕方のない事だ。それがいつからかは忘れたが俺の夢だ。
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あれから竜王は少し機嫌がよくなり、少し泉に足をつけて疲労を癒そうとまで言ってきた。当然竜王の足も俺の足も歩くぐらいなら疲労を感じず二日は歩き続けられるぐらいの能力はある。だから疲労と言うのはあくまで建前であって、本音は別にあるのだろう。
竜王の泉にブーツを付けたまま入れると、ブーツが適応してその泉の液体を飲み始めた。泉に適応する事が液体を飲む事に直接的な関係は無いとすればこのブーツは思考のようなものがもしかすると出来るのかも知れない。魔法については基本的に理解不能な点が多すぎるために手を出していないが、暇があったら鎧の点検もかねて調べてみるとしよう。
「妾にもな・・・・ちょっとした夢がある」
「竜王の・・・いや、イデアの夢か」
「ああ、そうとって貰って構わんよ。・・・・家族がの・・・・家族が欲しい」
「家族・・・・・・イデアにはいないのか?」
「おる事にはおる、いや、今となってはどうだろうな・・・・」
「どういう意味だ?勿体ぶらずに話せ。力なら貸して遣れるからな」
「クククク・・・・寿命を縮めることになるぞ、やめておけ。・・・・だが、気持ちだけは受け取っておこう、ありがとう」
ん・・・・?・・・・・んんんん?今この女、何といった。俺に礼の言葉を述べたのか?高貴という言葉の合う、傲慢で慢心という水があるなら大海が作れるほどのこの女が?、竜種の頂点に立つ竜の中のもっとも竜らしい、誇りやら何やらを大切にするプライドの塊のような奴が俺にお礼・・・・明日は頭上にツァーリ・ボンバが降るな。
「そこまで話したなら最後まで話してみたらどうだ?口に出す事で解決することも会ったりするぞ?」
「むぅー・・・しつこいぞ」
「す、す、すまん!話したくない事なら別に良いんだ。悪かった、この通りだ」
「人間の精一杯の謝罪をするときの姿だったな・・・確か土下座だったか。全く、そこまでせんでもよい。妾の話しには少しばかりお前が興味を持ちそうなものもあるのでな。余計な知識を与えぬためにも妾は話さぬ」
「俺が興味を持ちそうな話?」
「ああ、だからはなせ・・・・って何じゃその眼は。と言うか顔を近づけるな気持ち悪い」
「是非聞きたい、何なら後二十回は死んでもいい」
「種明かしのされたモノに興味はない、今の妾では貴様という生物を消し去ることは不可能じゃし・・・分かっていてやるようなことでもない」
「なら話してくれ。聞きたいんだ」
「グぬぬ・・・・分かった、分かったから顔をどかせろ。上からハァハァするな!」
鎧に握り拳で型が取れるほどの強烈なアッパーを受け、鎧が悲鳴のような音を上げながら再生する間に何度も同じ所を繰り返し何度も突かれていると、次第に鎧も再生を諦め、事が済むまでそこに穴が開き始める。当然その拳は鎧の招待を受け内臓に・・・・・・・・・きょ・・・・強烈な・・・・一撃を・・・・加えるワケ・・・・だ。
「や、やっと効いたかの?」
「いや、・・・・実はそれほど効いてもいないよ」
「ヒィ!?」
「いい加減話してくれても良いだろう?上からが駄目なら俺は足だけ泉に付けて寝転んで聞くから。なぁ?良いだろう?」
「・・・・はぁ、しぶとい奴め。話してやろう・・・・、ママはとりあえず行方不明じゃ」
「と、とりあえずか」
いきなり行方不明と来たか・・・・しかもとりあえずとかなり簡単にママは消された、先行きが不安になる話だ。
「そしてパッパだが・・・・あの人は封印されておる。どこに封印されているのか、どうやって封印されているのか、全くわからぬ」
お前の親父は一体何をしたんだ。
「全く分からぬと言いながらも封印されている事は知っているんだな」
「ソレは封印した張本人が妾に伝えに来たからの、知っていてもおかしくあるまい」
「伝えに来たのか?・・・お前のところまでわざわざ足を運んで?」
「ああ、礼儀正しい娘だった。確か名前は・・・・オルフィー・アナスターシャといったか。もう既にこの世にはいないだろうが、高いレベルとステータスから見て奴は勇者の類である事には間違いないなかった。しかしそれ以上に奴の技の密度は人智を越えたものだったよ」
「戦ったのか!?」
「親の仇じゃからのう、当然と言えば当然であろう?・・・だが奴はそのひ弱な腕で妾の剛腕と渡りあった強者じゃ、半分の力も使われず妾が負けた。あんなものもいるのだとあの時は思ったものよ、カカカ」
「よく封印されずに済んだな」
「依頼に無かったらしい、それにあの娘も妾が封印されては困るだろうからな。妾が住んでおるのは丁度人間達の領土と領土の境界線上じゃからな」
「強かったんだな、そのオルフィー・アナスタ・・・・・・・ん?アナスターシャ?」
「心当たりのある名前だったか?」
「心当たりも何も、俺の友人にそんな名前の奴がいる。アルバート・アナスターシャと言って、武器を使わせればかなりの実力者になる子なんだが、もしかするとそのアルバートとオルフィ―という勇者、何か関係があるかも知れないぞ」
「ふむ・・・・・・アナスターシャなどという名前はそう聞く名前でもない、暇があればちと訪問してみるのもいいかも知れんな」
イデアの顔が赤く照らされ、背景に溶け込むように俺の目に映る。俺の見ているこの今は、夕日をバックに黄昏る彼女を見られている今は、何かかけがえのない形容しがたい幸福に思えた。
そんな幸福感に浸っていると、遠くから何やら騒がしいものが近づいて来る。
「吸血鬼は反射神経どころか足も遅いようだな。おかげでこの通り、十分な水を確保する事が出来たよ」
何だお前は?




