魔族地域 獣人国編(死) 1 ショータイムの計画
ゲームのオープンベータ前にかけてよかったぁ・・・
地下施設を破壊し汚染の原因を潰した俺達は泉で出店をしていた姉妹の元へと仕事が終わった事を告げた。彼女達にはこの仕事が終わった暁には、研究所の中に作る食堂で仕事をして貰う契約だった。
「仕事は建設予定中である俺の研究所の料理当番。月給は銀貨で三十二枚、八月と一月に給料とは別にボーナスが一回ずつ、これぐらいあれば問題ないだろう。八時出勤、十時までには家に帰してやる。今いったことや詳細な情報はこの紙に書いてある。しっかりと目を通して、その内容で問題なければ右下の線上にサインしろ。俺の研究所が出来るまでなら待ってやる」
二人はじっくりと紙を見つめ頷くと、紙を服のポケットにしまいこんだ。
「月給三十二万とか・・・その歳で年収五百万以上だね・・・・ははは。――――――――転職しようかな」
コイツの月給は確か・・・新作ラノベ本と銀貨が数枚だったか。
高校生ならば許せたその神からの条件、駄作が送られて来れば竜海の一か月のタワーディフェンスの成果も水の泡となる恐ろしい落とし穴を兼ね備えたその神の契約に、竜海も先ほどのような言葉を吐かざるおえないのだろう。先ほどから新しいパソコンがどうだのグラボがどうだのとブツブツ煩い。
「銀貨に目がくらむか竜海よ、貴様が望めば全ての龍はお前に銀を差し出すぞ?」
竜王が言い放ったのは龍達の事を一切考えていない残酷な言葉だった。
「人はソレを脅迫と言うんです・・・・・・」
「なに、それも力の持つ特権の一つと考えればよい、強い者が弱い者から奪うという行為は人間や他の生物であれ共通であろう」
竜海が竜王に洗脳を受けている、理屈では分かっていても一度やってしまえばそこに安心を覚え繰り返す事になるだろう。今回は助け船を出してやるとしよう、記憶を取り戻すという一つの目標をアイツから得られた借りもある。
「竜王、ならお前は俺のモノになるがその理屈で本当に良いのか?」
「はあ?殺して貰いたいなら素直にそういえば良かろう、森ごと貴様を蹂躙してやるぞ」
「森に罪は無いだろ」
「ゴゥルルルゥルルルッル・・・・」
竜王の口から炎が漏れ出る。もう少しで冬だが、これなら竜王は巣でも凍えずに済むだろう。
「あ、あの・・・・研究所と言うのは何所に建てる予定か聞いても宜しいでしょうか、人間の国と言うとこの大陸では無いでしょうし・・・家などの距離も・・・」
「建設予定地は・・・・実のところどこが良いものかと悩んでいる。ウチの領地だと親父に迷惑をかけるかも知れない、どうせ立てるなら見知らぬ土地が良いと思ったが・・・案外ここでも良いかもしれないな」
「ここ・・・ですか」
「ああ、丁度良い物件を今破壊して来たばかりだがアレも元は元々あった空洞に建物を建てて作られた場所だった。猫の領地周辺には恐らく大きな空洞が幾つか空いている場所があるんじゃないか?」
「空洞なら確かに周辺に幾つかあるにはあるの・・・・でも魔物が沸いたりしてかなり危険な場所よ?それでも良いなら場所の確保には問題ないと思うけれど」
流石魔族大陸だな・・・・・・洞窟の数も半端な数じゃない。魔物が作り出した物や、それらが討伐され残った洞窟達を掘り返せばきっと大きな研究所を造れる。嬉しい誤算だ、こうも早く良い物件が見つかるとは思ってもみなかった。
「魔物に関しては問題ない、ゴーレムに施設周辺は守らせる。指定時間に巡回するよう設計をしておこう。それよりも立地条件が大切だ、なるべく見つかりにくい人の出入りしない場所は無いだろうか?一目に付くのは困る」
「アンタヤバい事する気満々だな」
「ヤバいの基準は俺が決める。この世界の常識はアテにならんのでな」
「まあ確かに言えてますね」
竜海が苦笑する前で、もじもじとする妹の方。
「花摘みか?」
「ううん・・・・・いや・・・・・やっぱ何でもない」
「どうしたのお姉さん、私で良ければ聞くわ」
メロエが妹の方に近寄る。こう見ると二人は近い歳なのかも知れない、比較対象がいなかったから気がつかなかったが、妹の方は俺達よりも三つか四つ、姉の方は六つか七つ離れて見た目は竜海と同い年と言われても違和感がない。
「えっと・・・ありがとう、お名前は?」
「メロエよ、お料理が好きなの」
「ワタシもお料理大好き!メロエちゃん、どんな料理が好きなの?」
「え・・・れ、レバニラ炒めかしら」
(アスクが何でか知らないけど、コレ大好物なのよね)
「レバニラ?それって美味しいの?」
「味付けはちゃんとしているわ、多少の好みはあるでしょうけど」
「そうなんだぁ~美味しいんだ~ふふふ、そうだメロエちゃん今度一緒にお料理しようよ!」
「い、一緒に?私と?」
(私に並んで料理しようなんてこの子度胸あるのね、ウチの厨房なら自分の誇りを守るために私と料理する人なんていないのに)
「うん!きっと楽しいよ!」
「ならウチにお姉さんを招待するわ、お名前は?」
「ワタシはラッキー!お姉ちゃんはハッピー!メロエちゃん、お姉ちゃんの作るご飯はどれも美味しいんだよ!」
「へ、へぇ~・・・・そ、それは楽しみね」
(なんかとてもフワフワしてる人ね、別に話しやすくて良いのだけれど)
「所で今さっき何を言おうとしていたの?アスクの研究所に最適な場所があるみたいだったけれど・・・」
「うん・・・でもあそこは貴族様の敷地だから・・・」
「貴族ねぇ、確かにソレは駄目ね」
メロエが上手く情報を引き出してくれた。まず姉妹の名前は妹がラッキーで姉がハッピー、姉妹揃ってステータスの幸運値が高そうだ。そして良物件は何とこの国の貴族の私有地だという・・・どうしたものか。
「なあ竜海、お前どうやったら貴族の領地を手に入れられると思う」
「私有地なんだから無理・・・・いえ、合法的な方法で無いのなら幾つか無いとは言えなくもないです」
「どっちだ?」
頭をポリポリとかきながら、竜海は本気にしないで下さいと前置きをして話した。
「僕もラノベでしか見た事無いので実際無理な話なんでしょうけど・・・・国ごと手に入れてみてはどうでしょうか。意外とこれくらいの小国なら落とせないかなぁっと」
「国!・・・・国か、ああ、やっぱりお前に聞いて正解だった。よし国ごと取ってその私有地の貴族とやらを潰すとするか。それなら建設も早く出来る、合理的で金も必要無い」
「じょ、冗談ですよね!?」
「国取りか・・・ふむ、妾の伝説がまた一つ増えるという物だ、クァアッカッカッ」
「アスクが引っ越しちゃうの?」
それなら全力で阻止をするという目で俺の目の奥を下から覗き込むメロエ、ウチの家庭内事情からも出来ない事は分かっているだろうに・・・・心配性な幼馴染だ。
大体俺はまだ八歳だ、子供時代の思い出作りもまともに出来ていない、そんな俺が単身で引っ越し?馬鹿を言うんじゃない、俺にもっと学校生活を楽しませろ。
「いやメロエ、そうじゃあない。俺にはワープがある、この座標は記憶しているから問題なく行き来は出来る、つまり・・・」
「そう、なら良いの」
「それにメロエのレバニラ炒めが食べられないのは寂しいからな」
「え!?・・・ええ、うん。いつでも食べに来て良いのよ?」
「おぉうぇえええ・・・・・アスクさんの言葉に私氏吐瀉物不可避でございますええはい」
竜海が苦虫を嚙み潰したような顔をする。それと、その近くで恐らく別の意味で青くなっている二人の獣人。
「あ、あのアスクさん、その・・・私達の国に戦争を仕掛けるき?」
「戦争になっちゃうの?」
「いや、戦争にはならない。玉座を洗脳すればそれで終いだ、今夜にでも王城に攻め込むとしよう。城の周りは幻術魔法や色々国家レベルの魔法防御陣が張られているだろうが、真正面から入れば関係ない」
「正面突破ですか、良いですねぇ。やってることは完全に悪役、されどやらねばならぬ理由があるって言ったらカッコ良くないですか?」
「カッコ良いのか」
「カッコイイ良いんですよ!行ってやりましょう!城門から堂々と!」
「やけに乗り気だな」
「僕の少年ハートを甘く見ないでいただきたい、まだまだ子供です」
「竜海君・・・」
「どうしましたメロエちゃん?」
「ほどほどにね」
「あ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい」
「メロエは危険だから・・・なんて理由で連れて行かないなんて俺は言わないから安心しろ。だから包丁をしまってくれ」
獣人姉妹には悪いが事情を知ってしまったので、薬で明日の朝まで眠って貰う。家の位置が分からず、とりあえず宿屋の店主に金を渡し、二人の眠る部屋は俺が来るまでに誰であっても絶対に開けるなと言っておく。宿屋の店主の手に金貨の入った袋を手渡し、頼んだと念押しをする。
もし何かあれば責任を取って貰うという意味合いも込めてにこやかに握手をする。店主の顔色がどうにも優れていないと思ったら、どうやら店主の手を握り潰そうとしていたようだ。余りにもシワシワの肉球が気持ちいいものでついつい握り過ぎてしまった。謝礼の言葉を添えてさらに金貨の袋を渡す。
「また明日来る」
「は・・・はいぃ・・・・おまちしておりますぅ・・・・・」
宿屋を出ると外が騒がしい。兵士達が宿屋のある大通りの坂を上から下へと走り去っていく、一瞬しか見えなかったがかなり焦っていたようだ。
「何かあったんですかねぇー」
「何か無いとこう煩くならん・・・・内乱でも起きるようなら面倒が増える、早い所情報を掴もう。・・・・あの兵士・・・・見逃すべきでは無かったな」
「お主の思考回路など既に把握済みじゃ、ホレ」
宿屋の前に投げられた獣人の兵士は身を縮めて、震えている。それにブツブツと何か呟いているのは聞こえてくるが、何を言っているのか聞こえない。
「こ・・・・殺される・・・・殺される・・・・殺される・・・・」
「アスクさん、コイツさっきからずっと震えてますが何かしたんですか?」
「おいおい俺は何もしていない。聞くなら竜王だろ?」
「妾も特別な事はしておらん、少し落ち着くよう火を吹きかけただけじゃ。しかしアレだけで妾の強さを理解するとはこの者相当な手練れじゃのう、冒険者ならSとは言わぬがAには値するぞ」
そんな兵士が何故こんな町中を猛ダッシュで駆け抜けていたのか。理由を考える暇もなくそれらしき原因が向こう側から走ってやって来た。
「その反逆者を此方へ渡して貰おうか」
随分と忙しいそうだなぁ。こんな真夏の昼間に鎧を着て全力ダッシュするほどの大事件なのだろう、鎧の隙間から此方を見る目は早く仕事を終わらせて一息つきたいという目である。
「反逆者?」
「見た所旅の冒険者のようだな、これは国の問題だ。冒険者である君達には関係がない」
取りあえず胸ぐらをつかみ、俺の目線と同じ高さまで獣人を持ち上げる。途中、剣を抜いて俺の腕を切り落とそうと剣を振るったが、筋肉に阻まれ失敗した事に随分と驚いたようだ。
「剣が・・・・腕に刺さったまま抜けない・・・・ウグッ・・・・・」
俺もこんな支給品で俺の皮膚を斬れた事に驚きだ、恐らくサマエルを握れば俺の腕を切断する事も容易に出来る腕をコイツは持っているのだろう。
流石祖父の旅仲間に育てられた兵士達だ、剣の腕なら他国の兵士の十倍はあるんじゃないか?これに魔力が加われば本当に大国の軍隊といい勝負が出来そうなんだが・・・・残念ながら魔力の訓練は積んでいないようだな。
今の状態からも魔法があれば離脱ぐらいは出来ただろうに、剣の使い手が支給品で必死に戦っているというのは何とも悲しい現実だ。冒険者になれば強い武器も金も入るだろうにソレをあえてしないのは愛国者である証だろう、実に持ったいない。
「じたばたするんじゃない、俺はお前に話を聞きたいだけなんだ。関係ないなんてつれないことをいうもんじゃあない」
「クッ・・・・・ここで私の役目は終わりの様だな・・・・」
舌を噛み切ろうとしているので幻術をかける。今兵士の頭に流れているのは「死なないで、生きて」という自分の愛する者からの声だ。コレは簡単な幻術なので、在学中の生徒ならば誰でも使う事が出来る簡単な悪戯魔法である。
「おい兵士、いい加減に話せ。お前にはまだ守るべき者達がいるはずだろう」
「そ・・・そうだ、そうだった・・・・・・・私は生きなくては・・・」
そしてこの魔法に五~六回ほどの工夫を経て、新しい効果に変える事が出来る。この幻術魔法改め、洗脳魔法に掛かった対象は、自分の嫌がらない事以外は素直に行わせる事が出来る。
時間は追加で魔法をかける事により伸ばす事が可能であり、魔力を2000MPを使う事以外を除いてとても便利な魔法に仕上がった。
「この国では何が起こっている?」
「・・・・・内乱が起こっている・・・・」
「君の仕事は?」
「・・・・・反逆者の掃討・・・・」
反逆者だからと言って簡単に殺してしまうのは余りにも残酷な話だな。命というものに価値があるというのに、それを使わず廃棄するのは悲しい事だ。どうにかして彼らが消される前に回収できないだろうか。
「君の仲間は?」
「・・・・・町中に散らばり反逆者を見つけては殺しているはずだ・・・・」
「誰の命令だ?」
「・・・・・王女様からの勅令・・・・」
「相手の首謀者は分かるか?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
獣人は黙りこむ、沈黙は自分が分からない範囲の事か・・・・あるいは首謀者が分かっていたとしてもそれを話す事を嫌がっているかのどちらかだ。仲の良い友人だったとかなら話は別だが、この場合なら知らないと考えていいだろう。
「分からないか。ならいい、少しの間眠っていろ」
「すぅ・・・・・・・・すぅ・・・」
さて、首謀者は分からなかったがどうやら面倒ごとになったのは確かなようだ。面倒だが王女の首が広場に展示されないためにも王女を守らなければならなくなった。
取りあえず腕の兵士と怯える兵士を薬で眠らせ、宿屋の店主に任せる。店主の猫も毛の色が青から白へと変わり、品種改良でもされたかのように綺麗に真っ白になった。
「頼んだぞ」
「か・・・・・勘弁してくださぁい・・・・・」
宿の横にある小道に入り、女王とこの忙しい時に騒動を起こした馬鹿野郎を探すため二手に分かれる。
「俺とメロエは笛があるから別々に動こう、後は竜海と竜王だが・・・恐らく竜海の方が女王探しは良いだろう」
「ま、そうですね。女王様にはナイトが一番・・・」
「いや、別にそういうわけじゃない。竜王に任せられないだけだ」
「城を破壊し女王を奪うなど朝飯前じゃ、貴様は妾をすこし舐めすぎではないか」
腕をくるくると回し、口から火をゴッゥと吐く竜王。お城を中心にしてキャンプファイヤーをするのではない事をこの竜は知っているのだろうか。メロエも仕方ないとため息をつく。
「はぁ・・・・じゃあ竜海君と私で王女様を守るわ。アスクも女王様ごと剣で叩き切ってしまいそうだもの」
「な!・・・そんな俺は剛力じゃあないぞ!?確かに俺が城で戦えば数週間は立ち入り禁止になるかも知れないが、俺にも出来なくはない!」
「メロエちゃん、この二人に繊細とかつつましやかなんて言葉は無いんですよ。二人で頑張りましょう」
「ええ、お城が屠殺場と同じ臭いになるのは嫌だもの」
「お前らなあ・・・・・」
兵士が下へと走っていたことから、首謀者の居場所も町の下側にあると考え、俺と竜王は下側から捜索を。竜海とメロエは城へ侵入するため城へと続く大通りを上へと進んで行く。アイツら二人でどうやって城に侵入するのかちゃんと考えているのか心配になるが、アレだけ言ったのだから大丈夫だろう。
「じゃあとりあえず姫様を見つけ出せたら連絡をくれ。俺達も首謀者を見つけ次第連絡の笛を鳴らす」
「アスク、竜王ちゃん、気をつけてね」
「ああ」
「妾を心配するとは・・・・ふむ、まあよい。メロエも気をつけるのじゃぞ」
「ええ、わかってるわ」




