魔族地域 獣人国編(鬼) 6 野営
夜に書きました、恥ずかしいセリフ注意。
兵士達は剣を構え、ジャマッパを覆っている魔法の壁が壊れるのを今か今かと待っていた。
・・・あれから五時間が過ぎ、気付いた時には周囲も赤から黒へとその色を変え、フクロウやスズムシが鳴き声を出している。周囲は夏の夜だと感じさせる暑さと乾いた風が吹き、先ほどまでの攻防が嘘のように静かになっていた。
現在俺達は、ジャマッパの周囲を囲むようにして野営をしていた。昔ランタンという塔から出た採掘品を分解し、研究する事で量産化に成功した国があり、今では野営に必要な魔道具として重宝されている。今もこうしてそのランタンによって外とは思えない明るさの中、俺達は時が来るのを待っていた。
「ほら、これ食べなよ」
「コレは?」
王女から渡されたのはサラサラとした液体の中に毒々しい白い粒粒が浮かんでいる謎の物体。食べなよと言われた事から、恐らくこれは食べ物なのだろうが・・・・この汚物のような茶色の水に浮かんだ食べ物をどう食べる。一緒に渡されたのはスプーンだが、コレで白い粒粒や緑の海藻をすくって食べるのか?
「ネコまんまだよ、アルーナ姉さんの初めて上手いいった料理なんだってさ。モクリトス君がこの国に来てソレをよく鉄板ネタにするもんだから皆食べてみたくなってね、材料から探して作ったらまぁソレが上手いのなんのって。それからは派生で色々なネコまんまモドキが出来たものさ」
「そ、そうなのか。で、ではこの茶色い液体は食べても大丈夫な物なのだな」
「ふふふ、過程を知れば違和感を感じなくて済むって不思議な魔法だと私はその時思ったよ。ソレ味噌って言うんだけどさ、大豆から出来てんだぜ」
「あの植物界の伝説級とも言える大豆か・・・!まさかこのようなモノが作れようとは・・・・・早速いただこう」
スプーンで中の液体と共に白い粒粒を口に入れる。何とも言い難い、ぬるくて安心感のある食べ物。例えが見つからない独特な触感だ。モチモチと白い粒粒が歯に挟まる、コレは余り美味しくない。味噌を溶かした汁を吸いこんで噛んだ瞬間に沁み出てくるが・・・・似たような物ならタピオカ・・・・か?
しかし我が国の主食とも言えるタピオカとは違う・・・コレはウチでは不採用だな。
「どうよ、うっまいよねぇコレ」
「あ?・・・・・ああ。・・・・・・味噌が良い味を出しているぞ」
「だよねぇ~、犬の奴らもコレが大好きなんだよね。下手したらウチより好きな奴多いかも」
コレを!?・・・んな馬鹿な。下手をすれば豚の餌だろうにこんなもの・・・・しかし彼女がこよなく愛すると言うのならば・・・・・うま・・・・くは、やはりないな。うむ、味噌の汁だけで俺は良いと判断した。この汁にどれだけの栄養と旨みを封じ込める事が出来るか、ソレが問題になるだろう。とにかくこの白いブツブツはダメ。
「あれ~?ティア王まさかお米苦手かい?」
「い、いやそんな事は・・・」
「無理しなくて良いんだよぉそういうのはさ、ほらほら食器貸して」
「そんなもの使用人に頼めば・・・・」
「一応まだ武力クーデターの鎮圧途中だからねぇ、階級とか今はそこまで気にしてちゃ駄目だよ。皆平等に疲れてて皆いつ死ぬか分かんないんだから」
「す、すまない・・・俺は何所かこの空気に甘えていたようだ。そうだ、今は戦いの途中だったんだな」
今は戦いの中で俺達はその一時休戦の中休ませてもらっているに過ぎない。もしかしたら今この瞬間ジャマッパが目覚め、活動を開始するかも知れない。あの壁にまだまだ予備があるのだとすれば国外に逃げられる可能性も出てくる。
アスクならアレを簡単に壊せるだけの腕力があるのだろうが、アイツが今どこにいるのかさっぱり見当がつかない。ジャマッパを追いかけている最中に泉で見かけたものの、ワープを使えるアイツを再度見つける事など不可能に近い。下手をすれば大陸をまたいで鬼ごっこだ、このタイミングでソレは困る。
「ねぇ、聞きにくかったんだけどティア王は何かあの堅い魔法の壁どうにか出来る策ある?」
シュシュが覗き込んで聞いてくる、少し申し訳なさそうに聞いて来るのは無力な自分をアピールしたくないためだろうか。流石の女王もあの壁を越える策は持ち合わせていないようだ。
「いや、どれも時間のかかるものばかりだ。しかも可能性の低いモノばかり」
あの壁をどうにか破壊出来ればもっといいが、この五時間兵士が剣で殴りつけても全く歯が立たず剣が折れる始末。俺も似たような事を考えたが、自分の剣で斬りたくなかった。俺のは支給品と違って金がかかっているのだ、そう簡単に壊してたまるものか。
「ティア王の臣下に一人あの壁を割れる子がいなかったっけ?」
「シロヘラの事か?・・・・アイツのアレは負担が大きい、今回の戦いで既に四~五回は使っている。もうスプーンも握れないはずだ。普通の人間が使えば間違いなく使い物にならなくなる腕を奴は不死のスキルで一時的に再生効果を高める事が出来る。だが、強力な技なだけに後からくる反動も大きい・・・」
シロヘラはこの技を使った後、俺の前から忽然と姿を消す。この時はどんな事があってもアイツは呼んでも来ないのだ。ヘラヘラしているシロヘラ以外シロヘラではありやせん、という謎な事を言っていたがただ弱い所を見せたくない意地っ張りなだけだろう。
「そっか、良い臣下だね」
「ああ、この俺に相応しい・・・・・・よき友の一人だ、自身を大事にしないのが玉に瑕だがな」
「はははは、良いなぁ。私も欲しいよ、そこまで心を許せる臣下が」
「きっと見つかるはずだ、俺も隣国の王として援助は惜しまない」
「あ、ありがとう。君やっぱり女の子の涙に弱いタイプだったりするのかな?」
「あ?・・・・・・・・いや、・・・・・・・・・・・・まあ、そうかも知れないな」
いつの間にか彼女から零れ落ちている涙に戸惑う。どうして泣いているのか、俺には考える余裕が無く、ただどうしたら涙を止めてくれるのかを考えるだけで精一杯だった。
「だ、大丈夫だ。俺がいる」
「・・・・・・・・え?」
何を言っているだ俺は!?無責任な事を軽々しく口にするのは王として許しがたいこ・・・・
「だ、だから安心して涙を流して良いぞ、め、命令だ」
何を言っているんだ俺は・・・・・馬鹿か、馬鹿だな。どこにそんな命令を出す王がいる。
「命令なら・・・・・・・・・・逆らえないね。ハハッ、なんたって私の国は弱小国なんだからさ・・・・ひっく・・・・っうっく・・・」
彼女は他の兵士に気を使わせないように小さく声を抑え殺しながら泣いた。しかし野営中全ての兵士がソレを聞き、此方に振り返ったがまた何事もなかったかのように食事をとったり、ジャマッパの監視に戻った、その中には当然モクリトスも含まれる。王女が兵士達を気遣うように、兵士達も王女を気遣っているのだ。
そう、彼女に味方がいないのではない。まだ彼女自身が気づけていないのだ、彼らという存在を。その事が分かるのは何時になるかは分からないが、ソレは恐らくかなり遠い未来だ。信頼関係と言うのは気づけたから出来るという簡単な物ではない。
大国と同様に、長い時間かけて地盤を固めていくからこそその上に成果が実るのだ。その地盤すら見つけていない彼女らにそう簡単に道は開けない。俺はその時まで彼女達を守ろう、ほぼと言うか全く得が無い上に損害しかないが、まあ女に国というオマケがついて来たに過ぎん、それ程度両方守ってやるわ。
その覚悟を笑うように、夏とは思えない冷たい風が吹く。小走りで向かって来るのは伝達兵だろう、真っすぐ此方に四足歩行で走って来る。
「城下町にて交渉が行われ、とりあえず捕縛と言う形で連れてまいりました!」
「なにを勝手な事をしているのだ!」
「総長!・・・・しかし住民たちからの声が余りにも多く!」
「ッチ・・・・・感情のまま行動するのはウチの隊の弱点だな」
「申し訳ございません!」
「なにをどうしたら反逆者が捕縛になるのだ!?」
「町の住民からは、誰も得をしない戦いは止めるべきだという声で・・・・その・・・」
「丸め込まれたのか!?」
「・・・・・はい」
「お前ら全員帰ったら国内布パン一枚で三千週だ!!!早く伝えてこい!!!」
あの冷静なネコがここまで怒りを露わにするとは・・・・それほどまでに許せなかったのだろう。王命に従わない自由な兵士・・・・もはや傭兵に近い。いや、金で雇われている分傭兵の方がまだ信頼できるかも知れない。
「ハッ!」
それにしても妙だ、交渉となるならもう少し早く決着がついてもおかしくないはず。それが何故五時間もたった後で・・・?
情に厚い兵士とかある意味最も使えない兵士ではないかと思います。




