魔族地域 獣人国編(鬼) 5 勝利とは
最近主人公みてないな~・・・・どうしたのかなぁ~・・・ついに解雇されたかなぁ・・・・なんて思っていた方、安心してください。今回の話で一瞬だけ出ますよ。
元の大きさに戻りながら放った巨大な炎の渦は、敵を包み込むようにして燃え盛る。あの一瞬で魔法の壁を作る事など出来たとしてもそれは考えられても数人、九割の兵士は今の竜の吐息で燃やす事が出来たはずだ。
「私がこの日の計画のためにどれだけの時間を費やしたと思っているのだ。その程度の危険、予想していないとでも思っていたのか」
男の声と共に何かが俺の方へと向かって飛んでくる。
「王あぶねえ!」
シロヘラが俺の心臓に触れる所でソレを止めた。短い短剣だが青く不気味に光り、俺に死を連想させる。鑑定を素早くすると、青白い正体は俺達吸血鬼の天敵であるスキルブレイカーの付与がされている武器に他ならない。あのままシロヘラが止めてくれなければ俺は・・・・・死んでいた。
「・・・・・・・ファア!」
王とは思えない情けの無い声を響かせ尻もちを無様にもつく俺、立ち上がろうとするも足が震えていう事をきかない。
「王、彼方は初めてでしょう、それが恐怖ですぜ。たてやすか?」
「ば、馬鹿にするな」
「馬鹿にしちゃいません、ただそれが当たり前なんでさ」
炎の渦が消え、その中から魔法の壁で守られた獣人達が現れる。そのガラスのような魔法の壁を作っているのは奴らの魔道具だろう、一瞬にして壁を作るというのは並大抵の技術力で出来る事ではないのは分かっている。
「そこの吸血鬼の王はこの魔道具の価値に気付けたようだな」
此方に近づいてくる獣人の男が恐らく今回の首謀者だろう。この暑苦しい中紫色の法衣を着用し、巨大な宝玉から下に蔓が伸びたような杖を背中に持つ、目は鋭く眼力だけで圧倒されそうになる。
魔法の壁は、獣人の男に接触すると球体となってその男を包みこみ元の獣人達のいた魔道具のテリトリーから分離した。
「この魔道具は時間は限られるが一時的に効果範囲から出た者も対象とし守る。当然その全てが敵と味方の区別をして発動する」
「そしてあの耐久力か・・・・・・・ククク、中々良いものを作ったなようだな。参考にさせて貰うぞ」
「良いだろう、私が君主になった暁には技術提供もやぶさかではない」
「ちょーーーーーと、キミキミこの国の王様が誰だか忘れて貰ったら困るなぁ~?」
此方の方へ今度はおんぶではなく、御姫様抱っこをされてやって来る女王。その顔はやっと汚れを取る事が出来るとでも言いたげな狂気から生まれる笑みそのもの。女王の皮を被った何かが今、憎悪の瞳で対象の男を射殺そうとしている。
「なんだなんだ・・・・・・まだ生きていたのか?賢王と売女の間に生まれし穢れた王女よ」
「あはは、暴力と権力で何とか地獄を生き延びてきたよ。調子はどうだいマッパさん・・・・・いや、ジャマッパ」
ジャマッパと呼ばれた獣人の男は、
「全く違う呼び名をどうもありがとうキチガイ王女様、私はこれから国を動かす大事な用を済ませないと行けない。大人しくそこで立って・・・・・いえ、座ってみていて下さい」
「私が立てない事をわざと言い間違えてくる辺りかなり悪質だと思わない?ね、モクリトス君」
「俺はどちらにもつかない、イザヴァルならそうするはずだ」
「こういう時は素直に女子の味方になってりゃいいの、そしたら後から悪い事なんてないんだから」
「貴女は知らないだろうが元はと言えば私の手伝いをするために彼はここに残って貰っているのだ、私に手出しする事は出来んよ。あのお方との約束をモクリトスさんが破るわけがない」
モクリトスが此方に何か伝えようとしている、今の状況から考えて俺から行動を起こせと言っているのだろう。名誉挽回の時だ、彼女の前で尻もちをつかせて貰った借りは倍にして返させて貰おう。
周りで何か使えるモノはないかと探していると、奴に決定打を打てるかも知れないモノを見つける。女王も命令出来ずジャマッパという男も命令出来ない。ならば俺が使っても構わないだろう?
「モクリトス、手を出せ!」
「やっと立ちあがったか――――――なら話は早い、好きなだけ吸って行け」
右腕を差し出され、それに飛びつくのはなにか負けたような気がして嫌だったが、ここは素直に右腕から血を貰い力を手に入れる。いつもは獣人の血を取り込んでも多少毛深くなるぐらいの効果と身体能力が上がる程度だが、コイツの血は格別極上と言っても良かった。
サラサラのツルツル、喉越しも素晴らしく取り込んだ瞬間にどこが変わったのか瞬時に把握できる。二刀流、その達人の領域へと足を踏み入れたような感覚。今の俺の剣なら全ての敵を切り伏せる事が出来るのではないかと言う自信が出来た。
モクリトスの種族はレア種と言われる特殊個体の一つで間違いない、その効果は様々だが奴のはそうか、剣術の上達が異常なまでに早くなるという効果か。素晴らしい!今まで越えられなかった壁を真正面から壊してやったような気分だ。次いでに服も戦闘用にチェンジして軽くウォーミングアップを始めようか。
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ステータス
名前:ティア・ゼパル
性別:男
職業:崩壊王 破壊王子から職業ランクアップ
称号:鬼城を統べる者 エキスパート野菜ソムリエ 研究の申し子 新たな味覚に目覚めし者 魔改造の申し子 神域を見る者
種族:魔族(吸血鬼)
年齢:8
レベル140
HP:8900
MP:25000
攻撃力:13530 吸血効果中 (1830) 破壊衝動スキル効果 (700)
防御力:4630 吸血効果中 (130)
素早さ:35600 吸血効果中 (600)
賢さ:33002 吸血効果中 (2)
器用:13900 吸血効果中 (500)
幸運:100 吸血効果対象外
通常スキル
鑑定11 双剣術11 剣術11 牙術9 看破9 暗殺術7
エクストラスキル
破壊衝動8:気分が乗ると攻撃力が極大上昇
吸血8:相手の能力の300分の1を吸収
不死12:真祖に近い再生力を持つ
ユニークスキル
状態異常無効
装備品
武器右 魔剣ダ―インスレイヴ 弐式 〔古代級〕
武器左 宝剣白月〔古代級〕
■ 吸血鬼王専用ボディーアーマー
■ マント
■ 吸血鬼王専用レギンス
■ 吸血鬼王専用超厚底ブーツ
魔道具一覧
吸引の壺
気分の上がるお香
etc.
武器説明
■宝剣白月 古代級
効果:攻撃力7:悲鳴月:攻撃速度倍加:持ち主固定:切断面結晶化
説明:攻撃力と素早さにだけに全てを費やした月白刀の完成形。刀から剣になり、攻撃方法が変わった事と、スキルをそのまま受け継ぐ事に成功した利点を合わせ持つ。世界で二度目となる武器から武器を造る実験により生まれた宝剣。
素材:月白刀 眷属の魔法陣 その他細かい部品
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「お前は・・・・誰だ」
「気が動転しているのかオッサン、今さっきまで話をしていたじゃないか」
ここでようやく気付いたのか、ジャマッパは目を剥いて俺を観察する。確かに先ほどまでの俺とは少し見てくれが違う、伸長がブーツのおかげでほんの三十センチほど伸び、水色の髪の間から獣人の耳なんぞが生えている。何より服装が先ほどまでとはまるで違う。
ボディーアーマーは俺の国の英知の結晶と言っても過言じゃない、実験の中ではSランクの中でも屈指の鋭利さを持つ女帝蜂の針を通さず、軍魔法の中でも殺傷能力の高い爆撃魔法も軽く防ぐ我が国で最も硬いと言える鎧だ。
そしてレギンスとブーツも条件付きだがとても高いポテンシャルを持つ。レギンスとブーツは水中でのみ効果を発揮し、多くの吸血鬼の弱点の一つである水の中を動けないという呪いを膜を周りに作り防ぐ事が出来る。
「ティア王は見栄っ張りさんだねぇ~、そんなに厚底にしなくて良いだろうに」
「う、煩い!俺も直ぐこうなるのだ。決して友人が大きすぎて自分が小さいのが怖くなって来たとかではないのだ!」
「私の経験則から言わせて貰うと偉大な王ほどその器を宿す肉体は大きい。所詮子供にはまだ早いという事だ」
今の言葉で完全に俺を怒らせた事をジャマッパの奴は知らない。
「おい反逆者、お前は今俺を子供扱いしたな?」
「子供扱いで何が悪い、お前達は子供だろう」
「いい度胸だな!!!生きて帰れると思うなよ!!!」
吸血の効果はまだ当分の間は持つ、血液の量が多いとソレだけ長く形を維持できるのは昔から知っていた事。着実に距離をつめ、剣が届く距離に来た。
「お前からあの世に行ってろ!!!」
「いつまで魔力の回復をしているつもりだ、早くコイツを倒せ」
届いたと思われた剣は何所からかでた剣によって弾かれ、体は空高く投げられた。
「俺を空中に投げた事を後悔させてやろう」
空中で魔法を使って一瞬バランスを取ると厚底のかかと落としで急降下する。ジャマッパはコレを避けようともせずただ見上げるのみ。知っていたのか俺のかかと落としは全て魔法の壁によって綺麗に阻まれた。俺にはその力を利用してジャマッパとの距離を取る事しか出来なかった。
「硬い壁だな」
「見掛け倒しの攻撃だな、お得意の剣も弾かれなすすべ無しと言った所か?」
兵士達がジャマッパの周りを囲うように守りに入り、このまま攻撃を続けるのは危険と判断する。もし、兵士達がバラバラに此方にスキルブレイカーの装備でかかって来たのならばシロヘラが鉄球で全て仕留めてしまうのだが、ああやって纏まって囲まれるとあの魔道具が俺達の持ち得る全ての攻撃を防いでしまう。
あの壁をどうにか剥ぐ事が出来ればまだ勝機は・・・・壁を剥ぐ・・・・・ん?・・・・・そうだ、いっそうの事面倒だから全て壁ごと吸い込んでしまえば良い。
「いや、まだ色々とあるぞ。例えば―――よし、この重たい壺だが。この蓋を開けるとあら不思議、お前らを地面ごと吸い込んでやるよ!!!」
吸引の壺は俺が背を伸ばそうとして下半身を丸ごと吸い込まれてしまったというトラウマのある余り使いたくない魔道具だ。
魔道具の中でも古代級の品質と性能を兼ね備えたコレは以前天使門で入手した魔道具の中に隠れてあった。吸引するだけ吸引して、壺を割れば全て中身が出て来るという効果らしいがそんな勿体無い事は限界がくるまでしない。何より後どれくらい吸い込めるのかが分からないために無駄遣いしたくなかった。
「はははは、吸い込まれていくぞ。地面も、草も木も!お前達も潔く吸い込まれるがいい!」
「壁ごと中に吸い込む気か、いいだろう。なら私はその壺を破壊するまでだ。準備は良いか」
「ハッ!!!」
「属性は何でもいい、的はあの壺だ、打て!!」
流石にあの数の魔法は吸い込めないと感じ壺の前から離れようとすると、長い詠唱のあと俺達学生でももっとましな魔法が打てると思うほど弱い魔法が此方に向かって飛んでくる。雷属性の魔法は速さが命だというのに普通に見えるスピードで飛び、避ける事も可能なほど遅い。
環境に適していない水魔法が飛んでくると、もはや壺を洗えるのではないかと考えるほどだ。ジャマッパの魔法だけが、唯一巨大な雷のオオカミの形となり空をかけ、壺目がけて飛んでくる。そんなオオカミもシロヘラの鉄球の前に完全に原型を失い、壺にあたる事は無かった。
「お前達!!!コレはいったいどういう事だ!?」
「僭越ながら申し上げます!我々は一切の魔術訓練は行っておりません!!!」
「っは!?・・・・・モクリトスさんコイツの言っている事は本当なのか?」
「剣術ならば他国の騎士十人を相手に取る事が出来る強者どもだぞ」
剣術のみで、騎士を十人。嘘は言っていないのだろう、何故ならば彼らの持っている剣は一般支給用の剣、品質で言うと標準になる。そして俺の持っている剣は伝説級を越えた古代級の武器。
普通ならあの時弾けるワケが無いのだ、ソレを弾いたのは恐らく経験の違いと同じ武器でひたすら戦う内に身に着けたその武器の特徴や若干の変化によって生まれる力、ステータスで測る事の出来ない感覚から生まれる力によるものだろう、俺はこの武器を使い始めて日が浅い。
今までずっと、あの武器を使い続けて来た彼らに剣の腕で勝つことは例えジャマッパを囲む兵士の内の一人であっても不可能だ。
「魔法は!?魔法の練習は本当にしていないのか!?」
「俺達は常日ごろから魔法や、魔道具で体を鍛えている」
「ソレがなんだという?、私とモクリトスさんで考えた兵士を強化する訓練。アレには多くの魔法や魔道具に頼っていた、ならば貴方達もその良さを理解して取り込もうとするはずだろ!」
「逆だジャマッパ、魔法で鍛えた体でどうして魔法に負けると思う?」
「・・・・・あなた達兵士の頭の中は筋肉で出来ていたようですね」
『おほめ頂き恐縮です!』
「誰も貴方達を褒めてはいませんよ・・・・・・・では貴方達のいう筋肉ならあの壺を割れると」
「俺の元を離れたとしてもそれぐらい出来て当然だ。なぁお前ら!!!」
『当たり前だ!!!なめんじゃねー!!!』
アイツらのやり取りに冷や汗をかく、兵士達の目は先ほどの魔法よりも鋭く壺を凝視している、命令が出るまでピクリとも動かない。待っているのだ、今の主であるジャマッパの突撃命令を。
「先ほどから私の計画に大きな誤算ばかりが生まれる、これを神は私に味方せずと言わずなんという。研究所は跡形もなく破壊され、お前達吸血鬼を殲滅するために作らせたスキルブレイカー砲も土塊となり使い物にならん。挙句の果てに兵士は全てが筋肉バカで相手は魔法を得意とする吸血鬼と来た」
「お前の負けだ、反逆者。大人しく腹を切り裂け」
「もし、訳の分からない呪いで死んでいった兵士達が呪いで死ななかったのなら。もし、研究所が残っていたならば。もし、剣と魔法を両立して普通に戦える兵士だったのなら。もし、相手がもう少しマシな種族であったなら・・・・言いたい事は山ほどある。何もかもがついていない・・・・・最悪の日だ」
「ジャマッパちゃんもお終いだね、地獄でキッチリ罪を償ってきな」
「お終いだと?はは・・・ふはははは・・・ふははははははは・・・・・笑わせる、私がこんな所で終わってなるものか!最悪の日だと言ったな、アレは紛れもない事実だ。だが私の手本とするお方は・・・・・イザヴァル様はどんな逆境であろうと決して歩みを止められないお方だ!この程度の逆境、乗り越えられないでどうする!兵士よ、俺に考える時間をくれ!時間を少し稼ぐだけで良い!」
兵士達はジャマッパの命令に頷くと、一人一人壺へと飛びかかり壺の中に消えて行った。そして最後の一人、顔に十字傷を持つ男が飛びかかると一瞬魔法を剣に付与したかと思うと、剣は巨大になり俺ごと壺を一刀両断されてしまった。
俺は直ぐに元に戻るが、時既に遅し、俺は壺から出てきた兵士達に取り囲まれていた。
「魔法の気配を見せればすぐ首を撥ねろ、詠唱は出来ないはずだ」
「まあそうだな、俺だけなら確かにここから抜け出せなかったかも知れないだが・・・・・」
俺は上を見上げる、兵士たちは俺に釣られず俺が何かをしないかその行動の全てを見つめ、命じられた通り時間稼ぎをする。此方にいたはずの兵士達も数の少なさから劣勢、誰も助けに来てはくれ無さそうな雰囲気だが、ウチにも兵士がいる事を忘れて貰っては困る。
「夕方から王の血と共に、鉄球が降り注ぐことでしょう」
その声に、兵士たちは思わず上を見上げそして横から飛んでくる鉄球に全員が巻き込まれていく。勿論俺も含めて。兵士たちは死んではいないようだが軽く気絶して倒れている。むくりと起き上がると、ボディーアーマーの砂を払いその鉄球を打ち出した本人に問う。
「遅かったなシロヘラ、何をしていたんだ?」
「王を守るには少し数が足りないかと思いやしたんでうちの方から少し増援を出そうかと」
「そういう事はもっと早めにしておけ」
「王と皆とでは命の価値が平等ではありやせん、このような死地に仲間を連れて来るのは近衛隊長として非常に心ぐるしいのを分かってくだせえ」
「その間に俺が死んだらどうする気だ」
「後は任せてくだせえ、きっといい国にしてみせるぜ」
どうやら俺はここで絶対に死ねないようだ、絶対に生きて帰って臣下に大量の仕事をフルタイムで働くように命じるまで俺は死ねない。
「この戦いを早く終わらせて、早めに睡眠をとっておけよ。今回の件を纏める作業があるからなぁ?」
「ちょっと反逆者になってきてきやす、探さないで下さい」
「黙れ、残る敵は後少しだ。出来る事も限られてくるはずだ」
ジャマッパの方を見ると、ひたすら地面に文字を書いている。あれで何が分かるのかしらないが、良からぬ事をする前にかたずけに行くに限る。とりあえずワープをしてから奴の背後に周り、斬りつけるのが良いだろう。痛みで魔法も打てなくなるはずだ。
「シロヘラ、次は俺が奴の背後にワープする。魔法の壁を背後から斬りつけて奴が此方に気を取られている間にフルパワーで真正面から俺ごと鉄球でぶち抜け、分かったか?」
「フルパワーで王をぶち抜けば良いんですね。分かりやした」
「違う、そうじゃない。あくまでもぶち抜くのは俺ではなくジャマッパだ、お前にも分かるだろう?コレはふざける時では断じてない、ふざけたらお前の今後に関わる重大なミスになるからな?」
「絶対に外しやせん、信じてくだせえ」
「クククク・・・・本当にいい部下を持ったよ」
「全くです」
ワープで、ジャマッパの背後に回ると二つの剣で全力で叩きつける。当然魔法の壁に阻まれ、ジャマッパに攻撃が通るはずもない。しかし、それから異常とも言える事が起きた。全く気付いていないのか俺の攻撃にピクリとも動じることなく、ひたすら地面に書いていく。
鉄球は、予定とは違い俺と全く関心を向けないジャマッパに向けて飛んでくる。こんなにもあっけなくやられてくれるなら嬉しい事はない。しかしなんだこの違和感は。
鉄球はジャマッパの周りに張ってある壁に衝突すると、激しい金属音をたてて壁を突き破る。そしてふと顔を上げたジャマッパが、指先で鉄球に触れると信じがたい事が起きる。鉄球が持ち上がり、俺の上を通り抜け木を薙ぎ倒しながら飛んでいったのだ。
「ははは・・・・・・はははははは・・・・・・本当に成功してしまった、奇跡だ!。本当に何も間違ってはいない、この後ブラムの王が後ろから斬りかかって来るのを私は避ける。そして木に登り、魔法で湖から水を持ってくれば良い・・・・・出来る、出来るぞ!あのお方の真似事を、イザヴァル様の起こした巨大沼魔法が!」
「王!錯乱している内に早くジャマッパをやって下せえ!!」
「そ、そうだ。俺が上から逃げられないように斬りつければ何も問題は・・・・」
「私の魔道具がアレ一つだと思ったか!」
あれほどまでに苦労して破った壁がまた出現し、剣が壁とぶつかり合っている間にジャマッパは木に飛び乗り逃げる。アイツの言っていた通りならあの向こうに泉がある、そうなれば奴の思うツボだ。アイツの考えから抜け出す方法を考えなければ俺達に勝機は巡ってこない。
「させるものかーーー!」
少しでも動きを止められるように、火魔法を木に連射して木を燃やしながら地面を走り追いかける。
「自然を壊す者はいつの日か自然に滅ぶのだ、ふはははは!!転べ、生命魔法、カラマルネ!」
ジャマッパの使用した魔法が詠唱無しだったことから、簡単な魔法か殺傷能力の低いモノだというのは理解できても、それ以上を知る事が出来ずそのトラップに引っかかってしまう。
「一体何の呪文かと思えば・・・・カラマルネ・・・・絡まる根・・・・そういう事か」
足を取られワープで抜けるも、既にジャマッパは泉につき水魔法を使って泉の水を巨大な水球へと変化させていた。
「遅かったか!」
「吸血鬼は反射神経どころか足も遅いようだな。おかげでこの通り、十分な水を確保する事が出来たよ」
泉の周りにいた獣人達は殆どが残らず逃げかえり、二つ影がぼんやりと残ったままだ。逃げ遅れたのか、ピクリともその腰を持ち上げようとはしない。夕日に照らされて顔は分からないが、俺には二つの影の一つが誰なのか分かった。
ジャマッパはとんでもないミスを犯した。アイツの前にそんな事をしていたら間違いなく警戒されて攻撃を・・・・・っと、遅かったようだ。
「誰だ貴様は!?」
「折角夕日が泉に映ると言うから竜王を誘って見に来たのに。泉の水を取ってしまっては見えないでしょう?あと、彼方の声煩いので少し首を落として貰っていいですか?彼方の起こした奇跡よりも僕の今おかれている状況の方がかなり奇跡なんです。分かっていますか?早くティアと一緒に森に帰って下さい」
デタラメに剣で魔導具を叩きつけ破壊するアスク。壁がなくなり生身となったジャマッパの頭を掴むと、そのまま先ほどの戦場まで投げ飛ばしてしまった。
飛翔するジャマッパを追いかけるようにして森の中へと戻るが、ふと気になったのはアイツの言っていた奇跡とは一体何なのかと言うこと。少し気になったが、とりあえずは今死地に飛んで行っているジャマッパの事だけを考えるとしよう。
「クソ、クソ、クソ!!!!一体なんだというのだ!!!!私が一体何をした!?どうしてこう私の行動が全て裏目に出るのだ!!!式は間違っているはずが無い!!あの男だ!!!あの不確定要素が混ざったからこそ式が乱れた!!!クソ!!!!クソ!!!!こうなったら私も自棄だ、帰りの魔力も全て水魔法にかえて無理矢理にでも式通りにしてくれるわ!!!」
投げられた衝撃で意識が朦朧としているであろうジャマッパが全てを込めた魔法なのか、長い詠唱の後、水で出来た獅子が地面へと潜りこむと、底から大量の水が溢れ出し地面はぬかるみ始める。
「お前らは木と共に沼の中へと沈め!!!コレで私の勝ちだ、勝ちで良いだろう!?」
「いや~?君の負けだよ。私の持っている指輪で温めちゃうからね」
「王女!?」
「はいはい、直ぐに地面を乾かしちゃおうね。ほらほらどんどん地面が固くなっていくよ、ジャマッパ君どうするんだい」
「王よもう終わりだ。この戦いジャマッパの負けだ」
「私は・・・・まだやれる・・・・・お願いだ・・・・・まだ・・・・・・やらせてくれ・・・・」
「私もまだまだたんないな、コイツもう魔力が底ついてんだよね――――――なら私でも倒せるか」
王女が、モクリトスから一度も使われていない王国の騎士の剣を抜き取ると、ジャマッパに向かって這うようにして近づく。
「ママの仇、このシュシュ・バーマンが打たせて貰うよ」
女王、いや、シュシュが剣を振りあげジャマッパに振り下ろした瞬間、ジャマッパは懐から新たな壁を張りそれに抵抗する。ジャマッパの執念の塊のように見えるその壁はシュシュの剣を阻む。剣が壁におられても尚、カンカンと音を響かせながら刃を壁につき続けるシュシュ。
「反逆しておいて命は別売りなんて笑わせるよね、ははははは・・・潔く死んでよ!!!!!・・・・・頼むから・・・・・母さんの仇・・・・・・とらせてよ・・・・・・」
「王よ・・・・・・・・もうジャマッパには何も聞こえないぞ」
ジャマッパは既に魔力切れによって倒れ、魔道具は倒れたジャマッパを貯めた魔力の時間だけ包みこむようにして守っている。最後の最後まで抜け目なく自分の助かる方法を探し続けた化け物。コイツが目覚めるのが先か、魔道具の魔力が尽きるのが先か。
もしかするとそれも奴の計算の中に組み込まれているのかも知れない、だが俺達は勝った。権力と暴力と数と豪運で、臆病で用意周到かつ合理的で知識と知恵と見識を兼ね備えた一人の男に勝ったのだった。
長くなりました・・・・ティアのステータス画面は上昇値やらスキルやら装備やらで、つくるのに三十分はかかったプチ力作です。




