魔族地域 獣人国編(鬼) 3 王
スキルブレイカー・・・・・・吸血鬼の不死スキルや状態異常属性などを打ち砕くスキル。聖剣や宝剣に、数百本に一つ付くという吸血鬼を殺すためにあるかのようなソレを大量に生産していると暴露した女王。ただ戦線布告のような情報を俺達吸血鬼に提示し、それで値引きをしてくれと言う。
「キットシーアの女王よ、貴女はソレを知ってのうえで放置していると言うのか」
「まあ、本当に今さっき尻尾が掴めた情報だったからね。対策を取ろうにもこの国から裏切り者を見つけ出さないと行けないから」
「裏切り者を炙りだす算段は付いているのだろうな」
「そりゃあまあね・・・・でもそれには少しティア王にも手伝って欲しいんだけど、大丈夫かな?」
「内容による」
(ティア王か・・・・中々ない響きだ)
扉の向こうが何やら騒がしい、賊でも入ったか?
「会議中失礼致します!ジャマッパ殿が・・・・・・ジャマッパ殿が軍を連れてこの城を包囲しております!!!お逃げ下さいませ女王様!」
扉を叩き割に来たのかと思わせる勢いで、兵士が飛び込んで来た。内容からしてもただ事ではない、前々から計画されたものとみて良いだろう。それにこの兵士の慌てよう、かなりの数がこの城を囲っているに違いない。
「えぇ・・・・もうきたの?あ、そういえば君今日の朝門番だった子だったね」
「は・・・・はい」
「今すぐこの薬を持って門の前でコレを潰したいって願って来て」
「は・・・・はい?」
「女王のお言葉だ、聞こえなかったとは言わせんぞ!」
「ひゃ、ひゃい!!!!!」
「あと、ここに来るまでに開けて来た扉は全部閉じて来てね。もしもって怖いし・・・・・ってあらら、もう行っちゃったよ・・・・」
「王よ、責任をもって俺が行こう」
「モクリトス君は私から離れちゃダメだよ、安心していられないじゃないか。他の兵士で良いよ、そうそう、君でいいや君、そうそう君ね。ちょっと城内駆け回ってここに通じる扉は全て閉じて来てくれる?」
「ハッ!」
女王の近衛が一人扉から出ていくと、騒ぎの起きている外側とここは別の空間のように感じられた。
「本当はこの後の予定とか、もう少しゆっくり話をしたかったんだけど。来ちゃったし、パパッと手短に話すよ?」
「予定などアテにならん、それにこんな状況で話をしたくない。そんな事よりも先ほど兵士に渡したあの種のようなモノはなんだ」
「あすキュン・・・・・・今回の騒動を起こした人間から貰ったものだよ。正直言って何が起こるか分からないから門番君にあげちゃった」
「説明は受けなかったのか?」
「あの時の魔法・・・・・じゃなくて毒と同じモノなんじゃないかなぁって予想はしてるけど。なんか信用できない顔だったから信用しなかったんだよねぇ~・・・・」
「ック・・・・・」
しまった、まさかこんな事で笑いが出てしまうとは思わなかった。アスクの奴学校ではハンサムだのミステリアスだの言われているが、獣人の眼から見れば信用性の欠ける顔と言うわけだ・・・・これが傑作と言わずなんという。
「ありゃ、なんか変な事言ったかな?」
「いや・・・・申し訳ない。とても正直な王だと思ってな」
「あれ、あれれれ?私ちょっと今馬鹿にされてない?へいへいモクリトス君、コレ外交問題じゃね?」
「個人の捉え方の問題だ、外交問題では無い」
「ちぇ・・・モクリトス君は前から思ってたけどちょっとノリが悪いよ」
「今はそのような場ではないという事です」
「わかってますとも・・・・だけど!こんな騒ぎの中場の空気を和ませようという私のこの、なんていうの、気遣い?大事にして欲しいな」
場の空気がどうにもならないのは、この席に着いて貴女と話している時ずっとだが。
「とにかく外の件について問題は無いのか?」
「問題ないって断言できないけど、まあ安心ぐらいはして良いと思うよ。アスキュンって見るからに自分のやってる事に芸術性とか求めるタイプだし、失敗とか絶対に許さないタイプの人だよ」
「・・・・・・・」
今度は笑う事を防げたようだ。なんだろう、不思議と本音が漏れやすいような空間に陥っている。これが彼女のユニークスキルなのか、それともそういった獣人なのかはわからないが気をつけた方が良いか・・・・それにしてもこの部屋に入って来てずっと思っていたこの甘い臭いは何だ。
「あれ、そろそろティア王にも分かっちゃったのかな?」
「この甘い臭いはなんだ」
シロヘラや俺の近衛兵は全て剣や杖を抜いて構える。そしてそれとほぼ同時にキットシーアもモクリトスと言った獣人以外は全て剣を抜いた。
「コレは猫の感涙という物を熱してね、お香としてこの部屋に置いてるんだよ。このお香の届く中では嘘を付けなくなるという伝説級のお宝さ。お互い色々あった国同士だ、こうでもしないと安心できないだろ?」
キットシーアの女王が右手をひょいを上げると、剣を持った近衛兵達は武器を全て収めた。此方の兵も抜いたままでは同じ王としてのプライドが許さない、直ぐに剣を収めさせた。
「とても残酷な歴史があった事は俺も聞いている、確執も俺達にはある。何もかもが戦争で残った負の遺産ばかりなのは分かっている。だが周辺諸国やイザヴァル大陸の動きも最近は不穏になってきているのはキットシーアにも伝わってきているはずだ。このままじゃあ・・・・」
「時代の中に取り残されるってね。ははは、私の父さまもそんな事を言っていたよ。田舎でのんびり生きていたいけどソレを周りは許してくれない、そんな国なら侵略してしまえってね。だから私達も慎重にならざるおえないし、手段も選んでいられない。こういった秘密裏に部屋に小細工をしていた事は私から謝罪するよ、でもそうでもしないと私が死んだ時の代わりをモクリトス君に任せられないからね~」
「何を言って・・・・」
「ははははは、ジョークジョーク、でも王様なんて命を狙われる職業滅多にないからねぇ~。一応考えるでしょ?ティア王も」
「俺はまだそんな事は考えた事は無い」
「へぇ・・・・・・・・・でも考えぐらいはした方が良いんじゃない?王様って暗殺される職業ベスト一位だし。ははははは」
女王とそれから幾つか話をした後、そろそろ食事の時間だという話になり食事をとるため部屋を出た。閉め切っていて全く気付かなかった血の臭いがした。
「ナニコレクッさ・・・・・アスキュンの毒のせい?もぅ・・・・これ絶対服に臭いついちゃったよ、オキニの服だったのに捨てなきゃなんないじゃん」
「王よ、城内は全てこの臭いのようだ。先に臭いの元を絶ってから食事にするのは如何だろう」
「なにモクリトス君、この臭い君ならどうにか出来るの?」
「ここに来るまではいつも掃除当番だった、どうにでも出来る」
「じゃあ汚れのたまり場にいっちょ行きますか」
「いや、王女は来なくても・・・・・・」
「はぁ!?私が行かなくて誰が行くっての。さ、私を守りながら行くのよ!モクリトス君!」
「・・・」
傍から見れば兄と妹のような関係に見えるこの獣人と女王は、俺達も連れて城の外へその汚れを見に行くらしい。女王はドレスなのでモクリトスがおんぶをする形になる。それを見てシロヘラが、「あっしの背中を貸しましょうか」などとほざく、そんな臣下には俺が肘で腹を突くに限る。
「じょ・・・・・冗談でさぁ・・・・・クスクスクスクス・・・・・」
城門に近づくにつれ臭いが段々ときつくなる、苦みや辛みに近い臭いが俺の鼻孔を通り抜け不快な気分なりつつ、身の回りを警戒していると城門へとたどり着いた。周りを見ると非常に不愉快になる光景が広がる。
「こりゃあ・・・・・一体どうなってんでさぁ・・」
「ありゃりゃ、本当に聞いた通りグチャグチャだ。これじゃあ首謀者が誰かも分かんないよ~」
「心当たりはあるといった顔だな」
「むふ~ん、そんな顔してたかにゃ?」
目をパチパチとさせながら口元はニヤケている、嘘を吐くのが上手いのか下手なのか。どちらにせよくえない獣人だ、女王よりも女盗賊とかの方が断然向いている。
「でも私の城に攻めて来るなら歩兵だけとか甘すぎるし、絶対に何か隠し持ってるはずなんだよねえ~。それにグチャグチャになってるとはいえ重臣の顔のパーツが分からないわけ無いし、きっとどこかに隠れてるか入れ違いになったかのどっちか。後者だと来た道帰れば良いけど前者だと殲滅するのが面倒なんだよねぇー・・・」
「全員殺すのか?」
「ティア王の所は国家反逆罪は死刑にならないの?」
「いや・・・・死刑だ」
「ま、そゆこと。遅かれ早かれ死ぬなら被害を出す前にスッパリとやっちゃおうぜってな」
こうも躊躇いもなく殺すと言い放った女王を見て、王とはこれぐらい物事の善悪をキッチリとつけなければならないものなのかと思い少し胸が痛い。いくらソレが自分の役目だからと言っても、命令して殺すだけでも苦痛が伴う仕事を何故自ら進んで執行しようと思うのか。俺には理解する事に時間がかかりそうだった。
「じゃあ今から作戦を発表します、私についた賢い兵士達も続々と集まって来てるみたいだしね。まず
城下町に隠れて機会を伺っている残存勢力の殲滅に今いる君たちの中から半分ね。それと今も隠れてる頭の沸いた逆賊に鉄槌を下しに行く兵士が半分ねー!後の指揮は君達が頼りにして仕方のないモクリトス君にとって貰うから話はちゃんと聞くようにー!」
「王よ、話を聞かないのは貴女様だけです」
「あれ~?そうだっけ?冗談もほどほどにしないとまた夜這いに行っちゃうぞぉ~」
「・・・・・・残った兵士は俺の前でいつも通り並んで待て・・・・・・・ふむ、思ったよりも少ないな。十分の三程度とはウチの女王の人望が疑われるな」
「ハッ!我らは騎士団総長と共にあります!」
「オハギ・・・・・・・・良く成長してくれた。今回の任務、お前に兵の半分を任せようと思う。町の残存兵の殲滅任務、出来るな」
「勿論でございます。この命、キットシーアと共に」
「よし、では行け!三人殺すまで帰って来るな!」
『ハッ!!!!』
「さてと、私達も重臣狩りに行くとしようか。さてさて一体誰が首謀者なのかなぁ~~~~」
先ほどまで指揮のために降りていた女王が、またモクリトスの背中におぶられている。ドレスと言うのはそれ程に動きにくいものなのだろうか。下を向いて少し考えていると、風で少しキットシーアの女王のドレスがめくれる。
見えたのは何所で負ったのか分からない火傷の痕と足枷のようなモノだった。




