魔族地域 獣人国編(鬼) 恐怖のティア様入国
これから少しティアの話しが続きます。
「これが噂に聞いた魔科混合国・・・キットシーアだな。想像していたよりもずっと田舎・・・・・・コホン、いやここぐらいが丁度良いのだろう」
「王様~交渉国をえり好みとは随分と余裕がありやすねぇ~」
会談の為、俺達はキットシーアという猫の国に来ていた。この国を一言でいうなればそれは、のどかだろうか。所々から聞こえてくる擬音のオンパレードは恐らく彼らの言葉、獣人族語であり、それらの内容は何となく指を指されている俺の乗っている馬車と怯えるような目で分かる。
「やはり・・・・怯えられているのか」
「そりゃあ色々こっちが侵略やらしやしたからねぇ~。サタン様が魔王の中の王である帝王の座に就くまでにうちらが侵略したこの大陸の三分の一の種族には、そりゃあ恨まれて当然でしょうぜ」
「三分の一と言うより魔族の住む地域全域と言った方がしっくり来るだろ・・・・・・今でも俺達が武力で他国よりも強いからまだしも、コレで技術力が追い越されてみろ。大陸のバランス所の話しじゃあなくなるぞ」
「種族の滅亡・・・やな。それと魔物堕ち。どっちにしろ最悪ですねぇー」
今までにも少ないにはしろ、いくつかの種族が滅びた。代表的な種族と言えばエルフの中の縦に耳が長い種族。横に長い種族だけがアスク達のいるイザヴァル大陸への逃げ、縦に長い種族達はこの大陸に残り、他の種族と戦った。
縦に長い種族だけ何故逃げなかったのかというのは、ソレは自分達の森を守りたかったや、何か秘密兵器を持っていたのではないかという憶測が飛び交っているが、そうでは無く、逃げられなかったのだ。
単純に彼らは他国のドワーフや獣人、そのほかの巨人族や吸血鬼族によって集団リンチのような形で絶滅したのだ。理由は見た目の良さと長寿という事からによる情報提供、まあ主に前者が理由で滅亡したのだが。
エルフの見た目の良さにドワーフや獣人といった種族がエルフさらいをし始めたのがキッカケになる。やっていたのは少人数であったとは言え、エルフ自体も長寿の為あってか個体数が少なかったため、ソレだけでもエルフの国には大きな影響を与えたのだろう。
エルフはその後ドワーフとコボルトに全面戦争を仕掛ける。初めはドワーフとコボルトを逆に根絶やしにする寸前まで追い込んだものの、ドワーフの国の上にはドワーフを支配する巨人族が、獣人族の上には獣人族を支配する吸血鬼族がいたために、エルフ族は四カ国を相手に戦争をする事になった。
結果、巨人族による遥か天空ともいえる場所からの落石攻撃と、吸血鬼族によるコボルトなどとは格の違う軍の魔法により、森林にあった巨大な大木ごと、岩山に姿を変えた。エルフ達の身分は奴隷以下の家畜となり、四カ国によって分割、その後の彼らについては反吐が出るような扱いを受けるようになった。
「縦耳エルフ・・・・か・・・」
「どうしたんですかい?」
「いや、ほんの少し前に俺がエルフの国に行ったのを覚えているか?」
「あんときはほんとーに仕事全部押し付けられて、吐血しながら書類整理をしたことを俺は覚えてやすぜ」
「あ、ああわるかった。いや、そうではなくてな。その時に横耳のエルフにも合ったのだ、しかし彼らは俺達の事を忘れたかのように、俺達をもてなした。あの時の茶菓子の味は今でも忘れられない」
「あんた俺達が再生できないぐらい体力消耗してた時に呑気に茶菓子食ってたんか」
「今でも彼らの中には直ぐ前の出来事のように思い出せるだろう、先代の犯した罪を。自分達が何をされてどうなったのかも」
「ねぇ王様、茶菓子・・・・・・くってたんですかい?」
「俺に出来る事と言えば悲劇を繰り返す事の無いように、俺の代で変えるぐらいだ。今でもエルフや他の種族に偏見を持つ年齢層の高い吸血鬼が多くいる、しかし俺達の代はそうやってエルフが消えた歴史を見たわけじゃない。なら、今の俺達のなら偏見なき世の中の再構成が出来る」
「へへへ、やっぱ王様は面白いなぁ~。臣下に茶菓子のおみあげもなしに世の中の再構成やなんて夢物語を語りやすか」
「茶菓子を買ってきて世の中の再構成が出来るなら幾らでも買って来てやるぞ。まあ、臣下をそこまで甘やかすような王ならば、再構成どころか国の滅亡するまで国民を甘やかしていそうだが」
「へへへ、それは大変だ。しかし残念でもありやすねぇ、この国なら甘ーい茶菓子を作る材料が沢山手に入りそうなのに。侵略する気はナシですかい」
俺はシロヘラの指さす窓から、外を見た。馬車に揺られているせいか、多少視界がぶれるが確かに広大な農地がある。確かにここをお茶や茶菓子を作るように誘導出来れば・・・・クックックック。
「王様、目的目的、目的をわすれちゃいけやせんぜ」
何を馬鹿な事を言っているのだろうか、ソレはソレ、コレはコレである。しかしそれとなく有益そうな情報、・・・・例えば現在人間族の間では甘味なお菓子が流行っているとか。それを今売り出せばかなりの利益になるとか、そこら編は味覚と嗅覚に優れた獣人族であれば最高の物が出来るとか。そういった事を提示すればあちら側も良いように動いてくれるかも知れない。
それもこれもまずは、友好関係を築き上げてからだが・・・・・・正直言って何時になったら帰れるかも今は分からない。学校の課題と国の内部調査の書類や密偵による報告が今も溜まり溜まっているという事を忘れたい事だが、現実問題増え続けている。
もう一層の事あちらから協力要請的な形で、また一時的な同盟を結べないだろうかと考えてみたりもする。
エルフをお互い取引している時は仲が良いクセに個体数が減ればそれを取り合うという始末。そして飛び交う偽情報の応酬に狂わされる国民達。
ウチの国でそういう事をする奴は全員牢屋にぶち込んだが、この国ではまだそういった力もまだ満足に行使する事も出来ていないのだろう。おかげで先ほどのような恐怖の対象のような目で見られる。しかし王が変われば国民も変わる・・・・・・歴史から学んだ原理だ。
「あ?忘れるワケ無いだろう。俺を誰だと思っている」
「甘党で~城に菜園を造らせ野菜を育てる~女子力バリ高の~中性顔王?」
「間違ってはいないがどこか馬鹿にされているような気がするぞ」
俺も好きでこの顔で生まれて来たわけではない。今は亡き父からは顔のパーツではなく吸血鬼としての能力と王としての在り方を、病弱な母からはこの・・・・・少女のような顔を貰った。そんな二人を馬鹿にされているようで少し腹が立つ。
しかしそれを笑うのは、男性のエルフと女性の吸血鬼の間に生まれたシロヘラという少年なのだから、別にどうという事はなかった。奴隷のエルフと貴族の吸血鬼の間に生まれた彼は幼少期よりずっと俺の傍で俺を守る仕事をしている、縦耳エルフ血を半分持った目鼻の整った青年なのだから。
そんな彼が人の家族を馬鹿にするような事をしないのはよく知っている。きっと多くの吸血鬼よりも家族という物や家族という存在について考えた吸血鬼だからだ。だから家族の大切さやそう考えた時の自分の喪失感との葛藤をしているシロヘラに俺は少し同情をしているのかも知れない。
「馬鹿になんてとんでもございやせん、ぷーくすくすくすくす・・・」
俺は本当にこんな奴に同情しているのだろうか。
「笑っているではないか」
「コレは咳です、最近はやっているようでぷーくすくすくす・・・」
歳の割に行動が俺よりも子供のような奴、それが俺の近衛であるシロヘラである。もう一人、近衛にシロヘラよりも年上の女性がいるのだが・・・・・ソイツはまた別の仕事を任せている。
「もうよい!、というかまだ城にはつかんのか!」
「もう城内には入りやしたぜ・・・・クスクス・・・・今は近衛のモノが馬車の前に準備しており、お降りになるのは影武者が歩いた後でございます」
「そんな事をせずともお前らより俺の方が再生能力は高い、心配はいらん!」
「王としての自覚をお持ちください」
「い、いきなり冷静になるな!この近衛風情が!」




