魔族地域 獣人国編(猫) 地下坑道 前
「その依頼、俺達が受けようか?」
その言葉を発したのは紛れもないこの俺だった。
・・・この言葉に一番驚いていたのは、隣で目をカッと見開いている竜王でも無く、ハンドクローをくらってもまだ叩き足りなかったかと思考していそうな竜海でも無い。
紛れもなく、一番俺が驚いると言って良いだろう。
自分で自分の事を自己分析してみても、そういった慈善事業のようなモノをしたことが無い。どちらかと言えば、人に迷惑をかける方が多い――――その自覚はあった。
「え、ああホント?なら向こうで姉と合って貰える?」
「ああ、分かった」
一体何がお分かりになったのですか、アスクさん。俺にはサッパリ理解出来て無いのだが?大体状況に流されたと言っても今のは言い過ぎだ。普通なら「あー大変ですねー」と、自分には無関係だからとアピールしながら出店を離れる。
それが今日の俺はどうした、竜王と一緒というだけでここまでカッコ付けたがりになってしまうのか?我ながらそれは宜しく無い。しかしこうして依頼を受けてしまったんだ、ここは一発カッコつけるべきだろうか。・・・・・・・よし、なんでもポジティブに考えていこうじゃないか。
「竜海、メロエ―――ほら」
「あ、僕らの分まで買って来てくれるとは気が利きますねアスクさん。柄にもなく熱があるんですか?」
「ほう・・・・そんなに俺の掌が恋しいか」
「マジ冗談っす、はい。・・・・ゆるちて~?」
頭の割れるような音ではなく、何か骨のようなモノが肉を締め付けているような不快な音を出しながら竜海が呻く。メロエの方はお礼を言って素直に受け取ったというのに。
「アスクの買ってくれたサバの煮込み、アスクが私の為に買ってくれたもの、十秒でこれより美味しいの作れるけどアスクが買ってくれたもの。ハァハァ・・・・」
と、思ったがメロエはメロエだった。普通に呟いている内容が気持ち悪い、しかも最後に関しては何かこのサバの煮込みを馬鹿にするような事まで言っている。メロエは負けず嫌いなのは昔から見ていてよく知っているが、ここまで顕著に表れたのは久しぶりか?
「メロエ、お腹空いて無いのか?」
「そんな事ないわ、もうお腹ペコペコ」
「お前・・・お腹ペコペコとかいうキャラじゃ無いだろ」
「・・・・」
「とりあえず、この場で食うから良いんだ。他の場所で食べようなんて考えるなよ?」
「わ、分かったわ。それよりいいの?その左手のソレ」(アスクの指紋を舐めようとしてたなんて、口が裂けても言えない・・・・)
「ああ、これか。コレは良いだよ。俺の掌が大好きみたいだから」
「私も好き!」
「・・・・・?」
「私もアスクのゴツゴツした掌好きよ!」
コイツさっきから変なエンジンかかって無いだろうか。いや、間違いなく何かが違う。そう、多分妙にここに来てから・・・サバの煮込みを受け取ってからのメロエは気分がハイになっているような気がする。
「だから私も・・・・ね?」
獣人国の兵隊さーん、誰かこの変態を国外に追放してください。俺の掌を舐めようと近寄って来るこの変態に付ける薬を俺は今持っていない。硝酸でも浴びせてやろうかと思ったが、メロエにそんな事は出来ない。
「な、なぁ・・・メロエ、これで我慢してくれないだろうか」
頭を撫でられるのが嫌いな女性もいると聞くのでこれはどうかと思ったが、寄り添ってくるメロエを遮るように頭を撫でた。これで嫌われてしまうならそれも仕方無し。撫でてしまったんだ、後はなるようになる。
「あ・・・えっと、えとと・・・・・・アスク?」
「皆、今からちょっとばかしこの国の為に慈善活動をしようと思う。参加したくなければ別に良い、あくまでこれは自由参加だ。報酬は・・・俺から出そう」
「ひゅー・・・マジであんたアスクさんですか?」
自然と掌に力が入った、いくらやっても平気そうな竜海を今度は本気で潰しにかかる。
「妾は別に構わんよ・・・自然は尊い」
キタキタキタキタキタ!!!!ビンゴだ!!!!
「そうか!よし行こう直ぐ行こう!」
竜は所説によれば土地やその場所の守り神という事もある。それなら竜の王である竜王もそういった事をしても良いと依頼を受けようと言ったあの時に少しながら考えていた。
「おいアスク、なんだこの手は・・・・焼かれたいのか?」
「これでも代表的な貴族の家の子なんでな。エスコートをさせて貰えないだろうか」
今の俺、何やら滅茶苦茶恥ずかしい事を口走っていないだろうか。いや、気のせいじゃない。俺コレにふられたら滅茶苦茶恥ずかしいだろう。顔の汗腺が忙しそうである。
「ふむ・・・まあ良い。このような所に連れて来て貰った礼もある、早い内に返しておくのが良かろう」
竜王の擬人化した手が触れた、とてもスベスベでしっとりとした竜王の手を繋いで、売り子の姉がいるという所まで歩いて行った。あぁ・・・・姉のいるという所が地平線の彼方まで吹き飛んでくれないだろうか。
至福の時間というのは、音より早く過ぎるような気がしてならない。会場のようなものに直ぐついてしまい、例の売り子に似ている姉を直ぐに発見出来た。
「あなたが売り子の子の姉でしょうか?」
「え、ああ、はい!そうです!ご夫婦で新婚旅行ですか?」
「いや違うぞ。どうしてそのような考え方が出来る」
「え・・・だって手を繋いで子供までいるじゃないですか」
メロエの方を向く姉。俺もつられてみると、酷く落ち込むメロエが目に入る。そして鞭のような音速を物体が超えたような音を響かせながら俺の手から竜王の手はすり抜けた。
「いつまで握っておる」
「あ、ああ、すまん」
「あ、まさか私地雷ふんじゃった?」
「そなたが気にすることでは無い。要件を端的に申せ、こやつがそなたの妹から依頼を受けた」
それにしても妹と良く似た姉だ、双子だろうか。多少胸部に差があるとしても、顔は瓜二つで性格も近しい所があるようだ。
「そうなんですか!ありがとうございます!立ち話もなんですからコチラへどうぞ!」
連れてこられたのは、ゲルのような移動式住居。ここで姉と妹が、それぞれの準備をしているのだろう。妹は出店をして資金調達、姉は今の国の状態を知らせる為に講演を。よくもまあ二人でそこまで頑張れる、自然と国を相手にして懸命に立ち向かう二人を見ていると、何とも儚げで無謀に見える。
「妹さんから聞きました、国の汚染の事を。どれくらい酷いんでしょうか」
「実はハッキリとした事は分かって無いんです・・。数か所は見つけて話合いをしたのですが・・・それでも工場は止めようとしないし。分からない部分は地下に何かあると考える方が妥当かと考えています」
「地下ねぇ・・・僕達はソレをどうにかすれば良いと」
「はい、それと土地全体に浄化魔法をかけていただけると」
「浄化魔法?」
「ご存じありませんか?SSSランクの冒険者のパーティーには必ず一人はいると聞いていたのですが・・・」
「俺達の中で浄化魔法使える奴いるか?」
俺以外の全員が頷いた、どうやら俺以外全員浄化魔法を使えるらしい。というよりも何故俺が使えないのかと疑問の目を向けられている。
「そんなメジャーな魔法だったのか・・・?」
「光魔法でいえば代表的な物なのよアスク」
「アスクさん、あんたゾンビとどうやって戦う気だったんです?」
「よもや浄化魔法も使えぬとは言わぬよな」
コイツらにとって光魔法の浄化と言えばそんなに常識だったのだろうか。以前学校のテストに出たぐらいしか覚えていないぞ、それも内容まで把握していない。単語だけ覚えていた感じだ。
「は・・・ははは・・・・ハハハハハ・・・・全然問題ない。・・・・話の続きを」
「はい、それで土地の浄化と地下の秘密を暴く事。これをお願いしたいと思います、報酬の件ですが内の妹がやっている店での今までの売り上げ金の一億ジェルでお願いします」
相当頑張って稼いだのだろう、大量の袋に詰めてあるのは全て銀貨や銅貨ばかりだ。はっきり言って使いずらい事この上ない。普段から銅貨や銀貨を使って外食なんてしないし、つり銭も貰わない。それがこんなに増えてみろ、一生かかってやっと使える量だ。
「いえ、お金はいりません。その代わりと言っては何ですが・・・」
「え?そんな事で良いんですか?なるほど・・・・冒険者というのは変わった人が多いですねぇ・・・」
「その代わりしっかりお願いしますよ」
「分かりました!それに関しては私、ちょっとした得意分野でもあるので!任せて下さい!」
こうして始まった、この国の汚染を止める依頼。手始めに二手に分かれる事となるのだが―――まぁ分かってた部分もある。竜王とメロエが上で浄化をし、俺と竜海は地下組だ。
「全くどうしてこう上手く行かないものか・・・」
地下組は坑道の中を絶賛詮索中、上の様子がとても気になる。
「アスクさんが不器用なんでしょうが」
「たーつーみーくーん、こんなジメジメした所をお前は死に場所に選ぶのか?」
「僕はあんたの為を思って言ってやってるんですよ。大体なんですかアレ、手を握ってただけじゃないですか!日常会話の一つでもしてみたらどうなんです!?」
「好きな女に何から聞けばいいか分からないから何も話せないんだろうがー!!!」
「うるせぇ!坑道なんだから静かにして下さいよ!」
二人共自分が声を荒げている事に気づき、静かになる。
「アスクさん、何で竜王さんの事を好きなのかは知りませんがアプローチが足りませんよあれじゃあ」
「あれ以上俺に何か出来る事があるとでも?好感度-から始まった竜王と?っは、無理だな」
「アスクさん、コレは教えようかどうしようか迷っていたんですが、良い事を教えて差し上げましょう」
「なんだよ・・・」
「女にはギャップ萌えというのがあるんですよ」
「ギャップ萌え・・・・だと?」
竜海によれば、それはヤンキーが雨の中段ボールに入った捨て猫に傘をさしてやると言った行動に萌えるという物らしい。要は悪い奴が良い事をすると目立って良いように見えるという物。
「それって結局今までしてきたことを見ればぷらまいゼロだろ」
「それがプラスになるらしいです、ギャルゲーで勉強しました」
「なんだそのギャグゲー、今度俺にPCごと貸してくれ」
「はい、ですがこれには注意点があるんですよ・・・」
「なんだ」
「アスクさんの好感度ダウンが少し足りない気がするんです」
「というと・・・」
竜海はこれ以上に竜王に色々しろという。そんな事ではますます嫌われてしまいそうだが、竜海には逆にこの中途半端さが良くないとの事。今の俺ではこの問題に対して余りにも無力なので、ここは頼りになる竜海を信じて竜王との接触をもう少し増やす事に決めた。
「アスクさん、それともう少しで多分汚染源ですよ」
「だな、臭ってくる。まさかファンタジー世界に来て科学工場を潰す事になるとは思いもしなかった」
「同感です・・・見えてきましたよ・・・」
坑道から、広い空間に出るとそこには巨大な建物が健在していた。複数の魔導人形らしきものが、せっせと木箱をあちらこちらへと運んでいるのが遠目から分かる。
「アスクさん、あっちを見て下さい」
「アレは・・・なんだ?」
建物から魔導人形が運びだしているのは、二メートルあるか無いかというぐらいの大きな杭。あんなものを何の為に使うのだろうか。
「笑っちゃいますよ、鑑定してみて下さい」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
■ パイルスキルブレイカー 精霊級
効果:打ち込むことによって対象者のスキルを消滅させる事が出来る。
説明:対吸血鬼用にジャマッパによって考案された新世代兵器。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ははは・・・・・嘘だろ」
「向こうに見える大砲は、魔法を増強させてとばすモノのようです。外部に特殊な加工をすれば、スキルブレイカーの効果を調節する事も可能になんでしょう」
「アレを纏めて国に落とされてでもすれば魔法で防ぎようの無い徹甲弾の完成ってわけだ。あー怖い怖い」




