魔族地域 獣人国編(猫) ジャマッパの野望 & 観光地ハバラ
ジャマッパの過去とアスク達の観光旅行。
~ 猫の国 宰相室 ~
温かい日差しが指す部屋の中で資料を読む男がいた。彼が半日前からずっと休まず眼を細めてみているモノがある。
それはこの国の国家機密、国の一部にしか知られていないその情報は、一つ漏れれば国が傾くやも知れない闇の部分。それを閲覧する事は現王女にも許されておらず、実質この全ての内容を知るのは現在閲覧中のこの男。宰相のジャマッパだけとなっていた。
このジャマッパという男、初めは何も持たず、また、知る権利さえも与えられていない一匹の平民の獣人に過ぎなかった。
しかしある時彼の人生に転機が訪れた。
イザヴァルと言う名の冒険者が国にやってきた。一国を救った事のある英雄の中の英雄、伝説の規模がそこらへんの勇者とは格の違う伝説の中の伝説。そんな有名人が猫の国というまだ発展の予兆すら見せなかった場所に来たのだ。
国にいる猫たちは皆、イザヴァルを歓迎した。イザヴァルの歩くところはマタタビと花が舞い、猫たちは踊った。彼に気に入られ連れて行って貰えれば、イザヴァルの加護下にある塔の住人になれるという情報が世界中に流れていたからだ。
ジャマッパも何か出来ないかと、必死になって何か考えた末にたどり着いたのが、自分の唯一の取柄だったちょっと良い気持ちになれる場所ランキングだった。猫の獣人の中でもとびきりジャマッパはのんびりできる他の猫の少ない場所を知っていた。
それを彼に伝えようと、魔物の皮にマップを書き、そこに良い気持ちになれる場所ランキングの場所を表記すると、必死になってソレをイザヴァルに知らせようとした。
そして彼のアピールは偶然にもイザヴァルの眼にとまる事になる。
いや、偶然ではなくイザヴァル本人が求めていた情報をジャマッパが掲示したという方が正しい。イザヴァルは新しい土地に来るとまずその土地の理解から始める癖があった。
その事は勿論ジャマッパは知らず、偶々自分の知っていた情報のみを全て書き込んだマップを広げてぴょんぴょんと人だかりの中を跳ねていただけなのだが。
「少年、名は何というのかな?」
「は、ハイ!ジャマッパと言います!今年で15になります!」
「ではジャマッパ青年、君のマップを買わせてほしい。私はこの国の事をもっと知りたくてね」
「よ、よよよよ喜んで!」
彼は歓喜を噛み締めるようにしてお金を受け取り、そして告げた。自分のお願いごとを。
「僕を・・・いえ、わたくしめをどうかあなたの塔に連れてっていただけませんか!」
「私の塔の住人に・・・?まあ良いが・・・」
「ちょっとイザヴァル、この子まだ右も左も分かって無い平民の子ですよの?人選はしっかりしていただかないと、後で私達が困りますわ」
仮面をつけているアルーナがイザヴァルを止めた。ジャマッパはその時はアルアーナを誰かも知らず憎んだ、自分の幸せを邪魔する悪い奴だと思った。しかしあの時の事を今資料に目を通している彼に話せば、確かに無謀だったと笑う事だろう。
ジャマッパにイザヴァルはある条件を追加した。それがジャマッパをあらゆる手段を使う残虐非道の冷血猫とまで言われるようにした元凶とも知らず。
「ジャマッパ青年、君に私の右腕であるモクリトス君を貸してあげよう、ついでにここにいるオハギも。私が見た所君はもっと高みに上る素質がある、君の記憶にある見た物や聞いて印象に残っているものはどれも面白い物ばかりだ」
その時のイザヴァルの言葉をその時のジャマッパは理解出来なかった。勿論モクリトスやアルーナにもほとんど分からない事ばかりだが。しかしジャマッパにも理解出来る事があった。自分は褒められた、そして気に入られた、それだけ彼は天にも昇る気持ちだった。
「コチラに来るのはまだ早い、君はこの国をもっと大きくするべきだ。それをなしえた時、私は再びこの地を訪れ、君を迎えに行くとしよう。約束だ」
その時からジャマッパの意志は一つとなった。イザヴァルという伝説から自分は高みに上ると言われたその自信、並大抵のことで崩れる事は無く、三年という短い期間を経て、ジャマッパは平民から猫の国の大臣となり、そして数年の時を費やし彼は大臣の中でのトップである宰相という高みにまで登りつめた。
しかし、彼の欲望はとどまる所を知らなかった。彼のやるべき事は高みに上る事ともう一つ、国を大きくすることがあった。その欲望の実現の為には、もはや宰相という立場では小さすぎた。
「絶対的権力、絶対的な支配の力だ・・・それがあればこの国を動かせる・・・大きくさせられる!」
彼の欲望はその一点に研ぎ澄まされていた。歳は既に二十歳後半、眼光はあの日誓った日から鋭さを増すばかり。彼の計画は刻一刻と、着実に進んでいた。おのが欲望の赴くままに、悲願成就の為、若い体に相当な負担をかけながら、天才とは違い、凡人ながらも、一つの野望をもって突き進む秀才。
「楽しみだ・・・目標は女王とティア・ゼパル両者の殺害、及び情報操作による吸血鬼族との戦争。勝ち札・・・不死身スキル完全無効化のスキルブレイカー兵器も極秘裏に完成した。後は時を待つのみ・・・イザヴァル様、どうかこのわたくしめを見守っていて下さい。必ずやこの計画、成功させてみせます」
油断を一切感じさせないその眼、硬くなってしまった肉球の手には自然と力が入り紙を握りしめる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
~猫の国 観光地名所 ハバラ ~
「安いよ安いよ~!そこの巨大な兄ちゃん、一つどうだい?上手いぞ~」
現在、ハバラという森の中にある猫の国には珍しい泉の畔を歩いている。小さい湖だが、いろんな獣人が観光に来るほどに綺麗な場所で、無害な魚が泳いでいる。
「うわ~無害な魚ですよアスクさん!」
「アスク、無害な魚・・・可愛いわね」
「おぬしら無害無害と煩いぞ。魚なんぞどれも無害じゃろう、そこまではしゃぐことでもあるまい」
最強生物の一匹であらせられる竜王はこういっているが、十分にこの世界の魚は危険なものが多い。前の世界の海洋生物も危険な生物は多くいたが、コチラのそうでは無いのだ。何というか・・・分かりやすい危険・・・とでもいうのだろうか。
例えば秋刀魚、コチラの市場に出回っている秋刀魚はサタン様の所で養殖が進んでいる、異世界産の物とこの世界の物がある。コチラの世界の秋刀魚は骨が武器になる、と言ったら分かって貰えるだろうか。骨が口の中に刺さった~なんて冗談をいえば本気で心配されるレベルで凶器になる骨なのだ。
そう、この世界の海洋生物、グレードアップされ過ぎなのだ。ヒョウモンダコの巨大化したような奴はSSランクの化け物となり、なぜかヒョウモンダコの癖にスミも吐く、挙句の果てにスミの中に麻痺成分のある毒まで追加された厄介極まり無い生物になっていたりする。
「ちっちゃい魚って久しぶりに見た気がしますよ~あはははは」
「癒しね・・・うふふ」
コイツらがここまで言うのにもちゃんとした理由があったわけだ。竜王はわから無さそうに首をかしげている。それを見て癒される俺。ハバラは良い所だ、観光旅行客も家族連れが多いがちゃんとゴミなども持ち帰るか、ちゃんと指定されたゴミ箱に皆が捨てている。
全員がここを綺麗なままで残したいと思っているからこその行動だろう。今度ティアにも連れて来てやりたいものだ。
「ハバラ名物、この湖でとれる希少なハバラサバを使った我が家秘伝のタレで作った煮つけだよ!現在出来立てほやほや!湖の畔で食べるとおいしさ二倍!さぁーかったかった!」
遠くで売り子のお姉さんが声を張り上げて客を呼んでいる。
「五つ頼む」
「竜王が瞬間移動した・・・!」
実際には猛スピードで出店の前に飛んで行ったのだろうが、まさか風一つ立てずにあそこまで飛ぶとは。・・・・いや、そんな事より今サバの煮つけといったか?竜王はサバの煮つけが好きなのか。そうか・・・なら屋台ごと買うべきか?
「アスクさん、あんた今屋台ごとアレ買い占めようとしていませんか?」
「お前はテレパシーの魔法でも手に入れたのか?・・・・いや、そんな事はどうでもいい。よくわかったな」
「分かったというか・・・アスクさんガン見してるじゃないですか。アスクさんも食べたいなら普通に買ってくればいいじゃないですか。今買い占めたとしても竜王さんに決して良い印象は与える事は出来ませんよ?」
「そうか・・・ならいっその事一家全員俺の専属料理人に・・・」
背後から竜海に頭をしばかれる。・・・コイツさっきのハンドクローからまだ分かって無いみたいだな。
「おっと、ハンドクローはもう一度見ましたからね。僕には効きません・・・よ痛いだいだいだい、痛いですよ!あんたのハンドクローは弾きスクリューかなんかか!?何でそんな掴めるのって痛い痛い・・・」
「まあ良いだろう、確かに竜海の言う通りだ。買い占めても良いビジョンが見えない。ここは竜海のいうようにサバの煮つけを買うだけにしよう」
サバの煮つけは予想以上に人気らしく、既に五人ほどの列が出来ていた。そういえば・・・何気に律儀に列を守るというのも初めの事だな。基本的に呼んだら出て来るし・・。数分もしないうちに順番が回り、俺の番になった。
「三つくれ」
「あ!さっきコッチ見てたイケメン!ようやく買う気になったのねぇ?さっきまでずっとコッチ見て来るから気になって作業に身が入らなかったのよ?」
「そうか、すまなかった。友人とこの屋台を買うかどうかで揉めてな」
「へ?・・・屋台?」
「気にするな、それでいくらだ?」
「600ジェルになりまーす」
困った・・・困ったぞ。屋台が買えてもサバの煮込みが買えないかもしれない!財布に金貨と白金貨しか入って無い。誰だこんな使いづらい財布をよこしたのは・・・全く財布を使わない俺だ。クソ、いざという時の為に持っていた大金がまさか役に立たないとは、アスクレオス・ワイズバッシュ一生の不覚。
「どうかなされました?」
「いや、今金貨しか手持ちに無かった。釣りはいいから買わせてもらえるか?」
「さっきの女性のお客様も似たような事を言って金貨で払っていきましたが・・・あの方はお連れ様で?」
「・・・・・あぁ、少し国を見て来た次いでに観光だ。良い所だな、ここは」
竜王も手持ちに小銭は無かったか。なんか同じな感じでコレはコレで良い気分だ。
「そう、良かった。なら姉があっちで話をしてるから良かったら聞きに行ってくれない?」
「何かしているのか?」
「最近この国で問題になってる、地下から漏れ出ている謎の液体が森や湖を汚してるって話。前の王様が始めた事なんだけどね、王女の様の代になってもソレは変わってないのよ」
発展途上国が一度は通る、公害やらの問題か・・・急速に発展する国っていうのはそれだけ工場を動かすってことだからなぁ・・・汚れて当然と言えば当然なんだよな。
「汚れの酷い所は森が枯れてしまって、変な魔物まで生まれてくるし。それも範囲は今も拡大中ってわけ。そんなのダメでしょ?だから私達でお金を貯めて、SSSランク冒険者に依頼しようと思っているの」
なるほど・・・いち早く気付いたこの姉妹は、手遅れになる前に自然を守ろうという事にしたと。成程よくわかった、ティアも今頑張っている事だろうし、俺達だけずっと観光して楽しむってのも暇だし、一つ、俺はこっちで自然を工場の有害物質から守るとするか。
「その依頼、俺達が受けようか?」




