番外編 伝説の冒険 第漆話
一応番外編は主人公がアスクじゃないっていう意味でつけているんですがね、それって別に番外編ってわざわざ書かなくても良いんじゃないかなぁ~と最近思い始めた訳なんです。まぁ、これからも番外編は分かりやすさ重視で付けていきますが。
それと、アスクの話と上手く合わせるためにも、急いで番外編は書いていくつもりですが・・・まだまだ番外編は続きそうです。
~連合王国ミズガルズ 執務室~
「冒険家イザヴァルとモクリトス・・・そして謎の仮面の女・・・・彼らは一体何者なのだ」
「王よ、例の冒険家が既に城の中に入り案内を受けております。失礼ながら申し上げます、早く人前に出るしたくをして下さい。さ、早くメイドの方へ」
「ね、ねぇ。ウルズちゃん、君がそういう性格なの知ってて僕は選んだんだけどさ。もうちょっと空気読んでシリアスに出来ないの?僕今とっても彼らについて悩んでるのわかんない?」
「今はシリアスになる時ではありませんし、今悩んだ所でもうなるようにしかなりません。だからはよ着替えろ」
「ウ、ウルズちゃん、ちょっと口悪くない?僕王様、君秘書でしょ。立場的になんかおかしくない?」
「は?つべこべ言ってないで早く着替えて下さいませ連合王国レギウス・・・・王」
「ちゃんと最後まで王をつけて言おうね!?そこ大事だからね!?分かってる!?」
「ハイハイ分かっております。ですから早くこちらに」
「ほんとに?分かってる!?なら靴でも舐めてもら・・・・」
秘書のウルズから放たれた回し蹴りは、レギウスの腹に突き刺すように飛び、レギウスは執務室から円を描くように廊下へと跳んだ。そこに待ち構えていた王様直属のメイド隊が網でレギウス王を受け取る。
「速く王を着替えさせて謁見の間に座らせなさい」
「了解しました!後は私達にお任せを!」
「お任せなのだ!」
「任せて下さい!」
「ちょちょちょ、僕の扱いが毎度のことながら雑だと思うんだー!絶対にそうだー!ワーワーワー!」
廊下から王の喚く声がだんだんと遠のいていく、ウルズはその声を掻き消すかのようにバタンと扉を閉めると、机の上や床に散らばった冒険家イザヴァルについての資料に目を通すのだった。
「これがレギウスの恐れている冒険家の資料・・・・。噂や伝説などで確かな情報が欠如していて確定した情報の量が余りにも少ない。ハァ・・・全く、うちの暗部はポンコツばっかりですか?私の友人のシンリーなら冒険者の情報など直ぐにでも引っ張って持ち帰って来るのに」
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極秘資料
BランクとCランクを始まりとした彼らの活躍は、直ぐにギルド内で大きな旋風を巻き起こした。受けた依頼は百パーセント完遂する、国始まって以来の最強のパーティと言われ、様々な秘境や危険地域を歩いた彼らのことをいつの日か冒険者達は、尊敬の意を込めて冒険家とよんでいた。
近接戦闘になれば右に出る者はいないと噂の最強の獣人族と呼ばれる、数日前に昇進を受けSSランクになったモクリトス。薬草関係の依頼には彼女の名前が必ず上がり、ギルド内ではいつも仮面をつけ、素顔を見せないというアルアーナという謎の人物。
そしてその二人のリーダーといわれる、イザヴァルというSSSランクの冒険者。彼に関してもアルアーナと同様に殆ど情報が無く、他のSSSランク冒険者が口を揃えて最強と言う男であり、あらゆることを知っている事から、神と崇める集団まで存在する。
戦闘スタイルはモクリトスのみ双剣で戦う事が分かっており、アルアーナは武器らしきものは所持しておらず、イザヴァルも腰にさした細剣が抜かれた所を見た者はいないという。
モクリトスの攻撃パターンは身体能力を生かした双剣での連続攻撃、強靭な顎による食い千切り、そして炎魔法を得意とする。現在炎魔法しか目撃されておらず、噂の中には炎魔法しか使えないのではという物がある。
彼らの今までの総依頼達成数は三百を超え、年間トップの達成率持つ。地域ごとにあるSランクの依頼などが少ないため、各地を転々と渡り歩いてはSランク依頼を虱潰しに完遂していく。
多量な報酬を受け取った後、そのほとんどを町の市民の為に使用するため、英雄などと呼ばれる事もしばしばある。
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「はぁ・・・コレはあってみないと分かりませんね。私も少し支度をして彼らと会ってみないと」
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「イザヴァル様、今日はウチの王との面会に時間をいただき感謝する!王はもう少し行くとある謁見の間に座っていらっしゃる。そこまでこの国の騎士団長をしているグリフレッドが案内をしよう」
「よろしく頼む。そういえばここら辺の地理に詳しい人物に会いたいのだが、そういった人物はいるだろうか?」
グリフレッドとイザヴァル一行は謁見の間へと続く道を歩きながら、話が続く。モクリトスもアルーナもいるが、モクリトスは普段からこういった社交的な会話にはかかわらず、アルーナもアルアーナという偽名と仮面を使い始めてから、三人の時以外は男か女か判断をさせないために口を開かない。
「それなら書庫にいるばあさん・・・いえ、マモン様が詳しいかと。謁見後にお会いになりますか?」
「助かる。早くこの土地のことを知りたくてね」
イザヴァルのユニークスキル、【なぜ?】は、対象者の記憶や感じた事を全て知る事が出来るスキル。ただ鑑定の効果もあるが、本質は別に合った。それは先ほどの記憶や感じた事を『全て』知ることが出来るという事だ。
つまり、格闘家の記憶を手に入れると彼の攻撃や回避の経験というのがイザヴァルの物になる。しかもそれはステータスには表れる事はない。
ステータスはあくまで自分がしてきた経験を元にレベルが上がり、ステータスが上がり、スキルが上がるのであって、他人の体験したことをただ見聞きしたりしてもレベルが上がらないのは、当然と言えば当然なのだ。
イザヴァルはこの一年の間に賢者やドラゴン、それに魔物といったありとあらゆる生命体の記憶を手に入れ、一度訪れた所の記憶は全て保管するといったスキル効果もイザヴァルの意思に沿ってか、『なぜ?』がレベルアップし手に入れた。
ここ一帯の地理を知りたがったのも、早くこの土地のことを知り、安全にこの土地に眠る数多の知識をむさぼるためだった。
「流石冒険家といった所ですか、知らない場所は知りたいというその知識欲。感服です、モクリトス様やアルアーナ様もご要望があれば私にお願いします。出来る限りのものは用意させますので」
「いや、別に」
「・・・・」
「す、済まないね。今は余り気乗りしないようだ、気を悪くしないでくれグリフレッド殿。彼らも王様に会うという事で少しばかり緊張をしているのだ」
(あぁ、早く新しい知識が欲しい。まだ私の知らない、知識を・・・いずれそれが私の求めた答えに繋がると信じて。私は知る、何もかもを・・・!)
イザヴァルの荒れる頭の中をグリフレッドは知る由もなく、ただSSSランク冒険者の頂点と言われる彼と話をしている自分が幸せに思えて仕方が無かったのだった。
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「ここが、謁見の間です。いやぁーもう、終わりですか、もう少しお話がしたかった。また今度飲みにでも行きませんか。冒険の話しでも聞かせて下さいよ」
「あぁ、その時はパァーっと楽しく行こうじゃないか」
「では、・・・・コホン。SSS冒険者イザヴァル様がお見えになりました!」
「入れ」
謁見の間から聞こえる少し高めの声を合図に、ギギィーっと重たい両開きのドアが開く。部屋の中は数多の装飾品で飾られた豪華な部屋、そこに座りコチラを見る今年で18になる若々しい国王。
「よくきてくれた、我が連合国代表 レギウス・ミズガルズである。まずは長旅ご苦労だったと言わせて貰おう」
「お心遣痛み入ります」
「我が国からの依頼というのは、聞いておるな?」
「はっ、何やら大型の魔物が出たとか」
「その通りだ、その討伐依頼を受けて貰いたい。承諾するかどうかは相手の情報を知ってから決めて欲しい。しかし公にこの事は話すのではないぞ。国民が混乱してはこちらも動きにくい」
「分かっております、その例の大型の魔物とは一体どういった物なのでしょう」
王の話は今までイザヴァルが戦ってきた相手とは比較にならない、Z級の魔物の存在だった。これは後に人類史初のZ級として歴史に残る事になる。名はヨルムンガンド、今回討伐するのはそのZ級の魔物の残した破片で突然変異した、推定数十万を超える海洋生物の大群。
魔物のレベルは平均300と少し、中にはレベルが500を超えるSSSランク級の魔物の存在も確認されていた。対するミズガルズの戦力は王国騎士団が二百万、魔法士団が百万で計三百万人、世界中から募ったSSSランク冒険者が十人。SSランクが二十三人。それにイザヴァルとモクリトスを足した、冒険者数三十五人。
この冒険者の数の少なさは、戦争に巻き込まれたくないというのが殆どで、今集まったSSSランクの冒険者とSSランクの冒険者は祖国の為に戦おうという変わり者と、報酬に出された莫大な大金目当てに戦う者達だった。
「どうだ、引き受けてくれるか。勿論報酬は弾ませて貰う・・・いや、お主に報酬の話しは必要無かったか。聞いておるぞ、受けた依頼の報酬をその土地の為に使っていくと」
「それは課題評価でございます。私はただやりたいようにやっているだけですから」
「それだけのことでお主は亡国の移民に畑を貸し与え、周辺一帯の魔物を駆逐し、その挙句にその移民たちの仮の宿まで作ったというのか?はっ、笑わせる。何の得があるというのだ」
以前イザヴァル達は亡国の移民が泥棒を働くので捕まえて欲しいという依頼があり、確かにそういった事をしたことがあった。
しかしそれはイザヴァルにとって、亡国を逃れてきた移民の記憶を手に入れる機会であり、モクリトスにとっては魔物という金がそこら辺をうろついていたので狩っただけのことであり、アルーナにとってはそんな二人が何かをしているのを遠目で見ているのが恥ずかしかっただけなのだ。
つまり彼らは偽善活動が大好きなのである。達成した瞬間の自己満足に浸る事を目的として、困っている人がいればそれとなく助け、盗賊がいれば道を正し、魔物がいて危険だという噂が立てば、その危険地帯に喜んで飛び込み、魔物の死骸を持って帰って来る。
「彼らの笑顔は見ていて気持ちの良いものです。戯言抜きで彼らのような純粋な感謝というのは受け取って気持ちがいいものであり、人間としての強さを育てる肥料になります」
「そ、そういう物なのか」
「王という貴方の立場なら良くお分かりになると思います。裏のある笑みや感謝と、そうではない純粋に相手に感謝している時の笑顔の違いという物が」
「生憎そういう物とは無縁の中で生きてきたものでな、いつか我もお主のように言える人間になってみたいものよ」
「様々な人(記憶)を見てきましたが、そういった物を得るというのは中々に難しいのですよ。というよりも努力しなければ一生手に入るモノでは無い」
「そうか・・・」
「だからと言って、チャンスが無いというわけではありません。今回のこの魔物の大群討伐を気に国民の表情を一つずつみてみてはいかがかと・・・・差し出がましいとは思いますが」
「そうか・・・・・うむ、合格だ。貴様になら、この王家に眠る伝説の剣を託してもイイかも知れんな」
「どういう事でしょうか」
イザヴァルが聞くと、レギウスは一つ咳払いをした。それを聞き、扉からグリフレッドとウルズが部屋の中に入り、他の使用人達や大臣は席を外す。
「さてと・・・もう臭い芝居はいっかな~・・・・あー疲れた。ウルズちゃん、水、水頂戴」
「ハイ、どうぞ」
ウルズは手から圧縮された水をレギウスの鼻めがけて打ち込む。
「ガホッ・・・・ウルズちゃん、お客様来てるから一応おふざけのレベルは下げとこうね」
「すいません、イザヴァル様。うちの王と秘書はいつもこんな感じで・・」
「グリフレッドくん!?何僕がこんな仕打ちを毎回されてるみたいに言ってるんだい!?」
「レギウス王はお黙り下さいませ。申し訳ございません、うちの王ごときが試すような事をして」
突然の茶番にうろたえるイザヴァル、クスクスと笑いを堪えるモクリトスとアルーナ。完全に空気は張り詰めたシリアスからギャグに変わったのだった。
「コ・・・コホン。では話そう、伝説の剣とは・・・」
「もう伝説の剣とか良いから速くお話下さいませレギウス王。私が口を滑らせて全て話してしまう前に」
「えっとね、えっと・・何から言えばいいだろう」
「聖剣の名はヴェズルフェルニル、風を止めるという意味を持つ、連合国が成立する前からあった我が国の聖剣です。聖剣に認められない者は、握った瞬間に歳をとる速度が増し、数分もすれば若々しい若者が枯れ木のようになって死んだという話を聞きます」
「あ!全部言いやがったよ。僕がせっかくためにためて話そうと思ってた聖剣の説明を!!!」
楽しそうに和気あいあいと言った感じだが、話している内容は物騒その物。間違った者が手にすれば拒絶の域を越えて、命まで奪うという魔剣のような聖剣。今イザヴァルはそれに挑戦するかと聞かれている、その事がどれほどの緊張をイザヴァルに与えているかは想像に難く無かった。
「それでどうでしょう、聖剣に挑戦致しますか?」
「さらっと流しやがった!この秘書僕が王様ってこと忘れてないかな!?」
「楽しそうだ、ぜひやらせて貰おう」
「あ、アレ、お主も僕のこといない子扱いするのか?、ちょっと酷いよ。ねえグリフレッド君!」
「イザヴァル様、では聖剣のある部屋まで私がお連れ致します」
「もーーーー!!!!皆僕のこと無視かよ!!いいもん、法律で人の話しを無視する奴は全員牢屋行きに
してやるぅううう!!!」
この後、あっさりと聖剣を手に入れたイザヴァル達は、海洋生物の群れと戦うのだった。
レギウス、個人的には結構好きなキャラです。




