魔族地域 獣人国編(猫)その13 このメンツで観光旅行だと、行ってやろうじゃねえか。
「失礼いたします」
「よい、入れ」
扉の向こうから女王の声が聞こえ、それに連動するかのように軽そうな扉が開く。部屋の中には朝という事もあり、ラスクのような物にこれは・・・ラズベリーかなにかの香りのするジャムがあったりと、朝から食べやすい物であり、栄養価の高そうな物が人数分机に並べられている。
「みんなよく眠れたかな?」
「えぇ、お気遣い感謝します」
「さぁ、席に座って一緒に食べようではないか。ほれ、はよはよ」
俺の中でこの国の女王は自国の王と同じく軽い奴だという認識になっているが、今日の朝から軽いオーラが滲みでておりその認識は間違っていなかったことを彼女自身で分からせてくれる。
俺達が席につき各自食事を始めると、女王様が話を振ってきた。こういう場合は女王様に気を使わせたと思った方が良いのだろうか、ただ二人は緊張し、二人は人間に出された物と言うだけで警戒しているだけなんだが。
「そういえばアスきゅん、見回りの兵士から例の件は聞いた?」
「アスきゅん?」
「別に呼び名ぐらい良いだろ?僕が君を呼ぶときはアスきゅん。分かった?一々アスクレオス・ワイズバッシュ君なんて呼ぶの長くて面倒くさいだろ?」
「それならアスクと・・・」
「そんでアスきゅん、聞いた?」
「・・・・恐怖のティア・ゼパルについてですか?」
近くの席でメロエがむせる、笑いを堪えようとしたのだろう、その気持ちは分かる。アイツが勇者を串刺しにして喜ぶ快楽殺人をする奴と言われているのだから、もう笑う他に無いだろう。
「そうそう、そのティアっていう少年。国中では結構な騒ぎとなっているらしい、私が乱心したとか無謀とか。はっきり言って酷くない?これでもちゃんと国の未来を考えてのことだよ?ソレを皆たばになって色々言いやがって~皆まとめて不敬罪にしてやろうか」
「はははは、冗談でも貴方の立場なら冗談になりませんよ。それに私達は今回の会談は成功すると思っています」
「・・・・もしかしてアスきゅんは何か知ってるのかな~?知ってる事ならはなしちゃおうぜ~?」
「さあ?しかしもう一度今までのことを見返してみてもいいかも知れません。ティア・ゼパルという少年のことや、今までの獣人と吸血鬼の歴史のこと、そして次のステップに進むにはどうする事が大切かという事を」
「見返す・・・・ねぇ・・・。先進国の次代を担うアスきゅんが言うんだから、その助言は大事にさせてもらうよー。それにしてもこの頃の魔族地域はどうなってるだろうねぇ~王とか王女とか未成年ばっかり、血ってのはそんなに大事なものなのかね~?」
「大事なものだから残っているのであって、無駄な事ではないと思いますよ。まだこの国には統治する旗頭が必要ですから」
「旗頭ってアスきゅん・・・」
言うべきことは言った。後はティアと合って本当は何が真実で何が嘘なのかを王女が知いい。
俺達は食事を続けながら今後の予定を聞いた。食事をとった後は外に馬車が置いてあるらしく、外の国を楽しんで帰れるスケジュールらしい。はっきり言って今すぐにでも家に帰っていつも通りの生活に戻りたいが、公務なので帰ろうにも帰れない。
しっかしなにをして楽しめばいいのやら。上手い物もここら辺ではまだ未発達だろう、食べ歩きにも向かないとなればいよいよ景色を見るぐらいしか出来ないぞ?そしてなによりこのパーティーメンバーで景色を見るというのがな・・・ちょっとした家族旅行の気分だ。本当に勘弁してもらいたい。
俺と一緒にいるだけで不機嫌になってしまう見た目20代後半で、実年齢推定千歳を過ぎている女性に、これまた20歳には見えず、高校生の時から変化が一切ない青年に一番しっかりしている未だ二桁にもなっていない8歳の少女。挙句の果てに身長ではなく、体長と表記されるようにそろそろなる不安を抱える、三メートル越えの8歳の怪物。
「・・・どんな家族構成だ・・・全く」
「どうかしたの?アスきゅん」
「いえ、観光が楽しみで・・・・本当に」
ここで一発竜王に良い所でも見せれたら最高なんだが・・・吊り橋効果とか俺達には無縁だし、どっちかというと怖がられる方だし・・・。カッコいい所とか竜王の方が強いから中々困る事にはならないだろうし。なったらなったで俺が対処できるかどうか。
他に何かあるとすれば・・・スポーツでカッコイイ所を見せようとしても竜王は興味が無さそうだし・・・。そうだ考える事を止めれば万事解決だ。保留だ保留、大事な事だから慎重に考えていけばいいよな。決して深く考える事が嫌になった分けでは無いのだ。
「へへへ、とびっきりのスポットを用意させてもらってるから。楽しみにしててよ」
「楽しみにしています・・・・そうだ、コレを貰ってくれますか」
「何これ?」
モクリトスが中に割って女王の代わりに受け取る。彼女(王女)に最新の注意を払っている事がモクリトスの行動から良くわかる。確かにそりゃ今の状況ならピリピリもするだろう、例え知り合いの甥だとしても他国からきた危険人物には違いない。しかし説明を聞けばちゃんと受け取って貰えるはずだ。
「ピンチに使うとあら不思議、助かっちゃうという魔法の粒です。使い方は簡単、指でこの粒を潰すだけ。潰したいと思った時にしか潰せないようになっているので、それ以外になら例え間違えて踏み潰そうとしても潰れる事はありません」
モクリトスが俺の渡した怪しげな薬を凝視して確かめている。ちゃんと王女以外にしか作用しないから一切問題ないのだけど・・・まあ信じられないだろう。
「アスきゅんからのプレゼントだから何となく中身は分かっちゃったけど・・・ありがとね。というかコレ使って僕が死ぬ事ないよね?」
「それに関しては御心配なく、実験は何度もしていますし、それにこの間も大群相手に中々の効果を発揮しましたから」
「さんきゅーアスきゅん、とりあえず貰えるものは貰っとくぜぃ!」
渡したいものも渡せた、後は王女様とティアが無事に出会えるかどうかだ。そればっかりは運だからどうしようも無いが・・・出会えたらまあ大丈夫だろう。
アスクは何かを知っている様子。




