番外編 伝説の冒険 第肆話
今回もイザヴァルは頑張る、アルーナはやらかす。
イザヴァルが村に到着する頃には既に日の出が上がり、イザヴァル達の拠点にしている宿屋がある町の人たちも仕事の準備を始めていた。
しかしそんな町の人々もイザヴァルがかえって来ると、目を丸くしてイザヴァルから目をはなす事が出来なくなっていた。イザヴァルが背負っているのは、彼自身の背丈の二倍はあろうかという黒毛の虎、それを四頭背負って帰って来たのだ。
「薬草を届けに来てくれたあんちゃんがまさかここまで強かったなんてねぇ・・・」
「こりゃあたまげたな、にいちゃんには子供のお守りを依頼で頼んだ事もあるがまさか虎の相手も出来るなんてなぁ、こりゃもう子供のお守りなんて恥ずかしくて兄ちゃんには頼めねえな、わっはっはっはっは」
町を早朝に帰って来たのにはイザヴァル本人が余り目立った行動は避けるべきだと考えた結果だったがそれが裏目に出たようだ。町の住人達はたくましく、早朝には既に店の準備を初めて早い所だともう品物を店に出している所もある。
「見られてしまったか・・・なるべくこの荷物だから通行の邪魔にはなりたくなかったのだが」
「わっはっはっは、冒険者のくせに威張り散らさない謙虚なその姿勢、気に入ったぜ。兄ちゃんに今度指名依頼してもいいか?」
「ちょっと、今度は私がイザヴァルさんに指名依頼しようと思ってたのよ」
イザヴァルの他の冒険者とは違う威張り散らさない態度に町の住人は心を打たれ、頑張る新米冒険者として多くの依頼を指名で受ける事になるイザヴァル。しかし彼は急に仕事が増えた事に疑問を抱くばかりだった。
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~ミトレス王国 とある町 とあるギルド~
「Eランク冒険者のイザヴァルだが、素材の解体と素材の買い取りを頼みたい」
受付にはまだ小さな女の子が立っており、イザヴァルがきたことに少し驚いている様だった。年中無休で朝から晩まで24時間やっているギルドとはいえ、早朝の誰も来ないような時間に無駄な人員を回すほど人では足りてはいなかった。
「君は・・・新しい子か」
「はい、早朝担当のコフィルと申しましゅ。解体と買い取りでしゅね、分かりました。解体にはまだ少し時間がかかるのであちらの机でお待ちくだしゃい」
(まだこんなに小さい子までギルドで働いているのか、弟とまだそこまで歳も離れていないように思える。一人で荷台に虎を一匹ずつ置いて持って行ったがちゃんと持って行けているだろうか)
心配になったイザヴァルは椅子を立ち、まだコフィルしかいないであろうギルドの内部に入ると四頭いる虎の一匹目をまだ荷台に乗せて頑張って押しているコフィルが目に入る。
「私も荷台を押すのを手伝おう」
「いいえ、これはわたしの仕事でしゅので、私一人で頑張りましゅ」
そういって顔面を赤く染めながら必死に荷台を押していくコフィル。そんな小さなギルド嬢を可愛い動物を見て癒されるような気分にさせられたイザヴァルは彼女に何かしらか手助けは出来ないかと考え、魔法で虎をコフィルに分からない程度に少しだけ持ち上げる。
急に軽くなったと思われないよう慎重に少しずつ軽くしていく、二匹目からはその軽さからまた少しずつ軽くしていく。四頭目になると半分よりも少し重めと言ったぐらいの重さになっていた。半分と言ってもその重さは200キロほどになる、そんなものをコフィルが運べたのもギルドにおいてある荷台のおかげだろう。
対大物ように使われる荷台には重さを軽くする魔法が施してあるため、簡単には持ち上がらない猛獣も、子供が押す事が可能になる。
それから三十分ほど荷台をギルドと解体室の間を行き来し、四頭全ての虎を全て解体室に置くとコフィルは汗をぬぐい清々しい顔をイザヴァルに見せる。
「全ての素材はしゅべて解体室に入れましゅた。後は解体しぇんもんの人がいらっしゃるのでお待ちくだしゃい」
どうやら早朝に仕事を終わらせてくる冒険者は少なく、遅くても深夜には仕事を切り上げかえって来る冒険者が多い。つまりコフィルにとってこれは初めての大物の出会いであり、一仕事終えたコフィルには底知れぬ満足感と充実感が体を満たしていた。
「よく頑張ったな、お勤めご苦労様」
「あ、ありがとうございましゅ」
「私は一度宿に帰ってからまた来るよ、いつ頃にここに帰ってくれば大丈夫かな?」
「お昼頃になれば全て終わっていると思いましゅ、またのご利用お待ちしておりましゅ。イザヴァルさん」
「ああ、お疲れ様」
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~町の宿 安眠のウサギ亭~
イザヴァルはそっと部屋の扉をノックすると扉は開かず、辺りには静寂が流れるのみ。ギルドを出て部屋に変えるとまだ寝ているのか、アルーナが部屋を気配すらない。
「さて、どうしたものかなこのお寝坊さんは・・・」
「契約者よ、魔法を使いましょう」
「メフィストか、魔法と言っても鍵のついた部屋に入る魔法か・・・」
「鍵穴に土魔法を使用し鍵をつくればいい、魔法でも鍵がかかっているようなら魔力で消滅させてしまえばよろしい」
メフィストの考え方はイザヴァルには考えてもたどり着きそうにない真逆と言っていいほどの考え方だったが、納得してしまったイザヴァルは鍵を開けて中に入る事に。
中に入るとスヤスヤと眠っているアルーナと隣には少し痩せた自分と同じくらいの青年、イザヴァルは少し考えるとため息を一つ。掛け布団を少しめくると血が少量付着している事を確認するとまた一つため息。最終確認として彼女たちが服を着ているか確認すると、服は着ており大きなため息を一つ。
「まさか仕事を終えてかえって来るとアルーナが他の獣人の青年と一緒に寝ているとは・・・いやはや人生何が起こるかどうか分からないな。アルーナと彼との間に一体何があったのか、聞くのはやぼかもしれないが一応聞く権利くらいはあるんじゃないだろうか。それにしても服を着てか・・・」
言葉では冷静になっているであろうイザヴァルは、室内で独り言をブツブツとつぶやくほど実は今起こっている事案について動揺しているのであった。




