魔族地域 獣人国編(猫)その11 一息
「コレって今何個作って持ってるの?」
女王の言葉で部屋に緊張が走る。実はこの試作段階の毒はいまだ量産するにはコストが高すぎるために多くは作れないが、作ろうと思えば一か月に一つの速さで作る事が可能になる。
「これの他に後四つほど、ありますね」
勿論はったりなわけであって、本当は亜空間から出した一つと邸に保存している一つのみだ。
「五つか、全く・・・いつから君たちの国はそんな危ない物を持つようになってしまったんだい?、まったく・・・」
女王が丸椅子に顔を突っ伏してうなだれている、威厳もなにもそこからは感じられはしないがそうしたい気持ちもわかる。いつの間にか他国が大量殺人兵器を持っていてそれに対処するすべを、自国が全く持ち合わせていないというのだから一国の王としては身を引き裂かれる程に今の状況は辛いものだろう。
「あ、そういえば今話している事他の国にも教えるけど問題無いよね?」
「それについては全く問題はありません」
話をしたところでどうにか出来る問題じゃない事は良く分かっているだろう。こういうモノがありますよ、という宣伝を代わりにしてくれるなら俺の持っているコレは、存在そのものが抑止力になる。
「ん~そうか、分かったよ。よし、じゃあお話しはこれで終わり!今日はもう暗いからこのお城に客人用の部屋が何個かあるからそこに泊まってってね」
俺達はここからすぐにでもワープして帰れるがそれは今後の事を考えると良く思えない、なにより目の前に座る女王の目が絶対に返さないというような顔でこちらを見ている。笑顔というのは恐いものがある、自分が幸せだったりするとそれが良い物に見え、こんな話をした後だと変な威圧のように今は感じられるからだ。
「お言葉に甘えさせていただきます」
応接間からでた俺達は、女王とモクリトスにメイドを一人と共に、客人用の部屋へと移動する。
「それにしても今回の会談ほど短く話が済んだのは君が初めてだよ、アスクレオス君」
「すいません、長話は苦手で・・・」
切実に話を長引かせる能力が欲しいと思う、それほどまでに俺の会話は端的で明確だと自分で思っている。それと能力で思い出したが、スキルレベルのアップが百倍というのは生活スキルには適応されないという説明の追加が必要だろう、もしくは昔コマーシャルでよく見た『効果には個人差があります』というのを付け加えておいて欲しい。自分は百倍でこれなのかと悲しくなる人が出てしまうからな。
「いやいやそういうつもりで行ったんじゃないんだよ?、なんせ君はまだ人間の歳じゃ成人していないらしいじゃないか。モクリトス君から聞いたよ、しっかりしてるね」
女王様はやけに俺をよいしょするじゃないか、顔には出さないがいい気分だ。人におだてられるというのは分かっていても嬉しいし、俺のような少し慢心気味な性格の人間には回りくどい褒められかたよりもシンプルに伝えた方が素直に受けとられやすいのは確か何だろうな。
「そうですか?ただ僕はませているだけだと思いますが」
「そこまで考えが回っているならもう十分なんじゃないかな、それ以上は考えても分からないもさ」
「そういうモノですかね・・・・」
「そういうモノさ」
部屋の前に着くと女王は好きに部屋は使っていいからと、メイドとモクリトスを連れて廊下の向こうへと消えていった。そして部屋に入るなり俺以外の三人から大きなため息が漏れる。
「はぁ・・・アスクさん、今回の仕事僕達必要でした?僕今からでも帰ってゲームのサイドストーリーコンプして来たいんですけど・・」
「妾も知り合いのせいでまともに寝ることも出来んかったわ。もう眠い、妾は寝る」
「疲れたね~みんな。持ってきたものですぐご飯作るから起きて待っててね」
三人とも少しとは言え緊張した空気だったし、俺も油断の出来ない相手と会話していたわけで合って一仕事終えた気分だ。
最近体重がまた増えて、座った椅子がつぶれるという事が時々あるので物を固めるようなイメージの魔法を椅子に掛けてから最近は座るようになった。座り心地は石の上と変わらないが、ものを壊すよりも気持ちてきには楽で良い。
「やっと一息だな」




