魔族地域 獣人国編(猫)その9 猫の国
森の中を進んで行くと大きな土色の壁、国の周りを囲う大きな正方形の壁にたどり着いた。そこにあった壁には傷一つ無いが多くの黒い血やまだ新しい血が付着し、この国周辺にいかに気性の荒い魔物が住んでいるかを示す良いシンボルになっている。
当然その魔物の血を壁につけたであろう門番達の目は、客人が来たにも関わらず、愛想の一つも出来ない熟練の狩人の様に鋭く隙の無い眼光をしているわけであって。
「アスクさん・・・ほんとにここの国で合ってるんですか?、全然歓迎ムードって雰囲気じゃないんですけど」
「まあ、歓迎ではないだろ。最悪俺達がこの国で殺されるって考えてても別に良いと思うぞ」
「僕達殺されちゃうんですか、あははは、マジですか」
「妾でも勝てんかった奴がおるからのぉ」
「わははぁ・・・ほんとにそういう情報聞きたくなかったなぁ~」
「私達の国よりも警備に力を入れているみたいね、奥にももう二人警備で立ってるわ」
前と外、二人ずつで計四人の警備というのは別に普通だと思ったがそうではないらしい。ステータスを見なくても百を超えている事が何となくわかる、十分警備は厳重だった。
乗っていた動物を森へ返し、マイペットは亜空間へと戻すと、門番の片方に笑顔で話しかける。
「今日この国に来ることになっていたアスクレオス・ワイズバッシュだが」
「ようこそおいで下さいました、アスクレオス・ワイズバッシュ様。国王がお待ちです、中で案内の者が控えております。どうぞなかへ」
何やら随分と警戒心むき出しだな、言葉には出していないが顔には汗が滲み出ているし、猫のように毛が立っている。身長二倍の俺からの笑顔はそんなに応えたかな?、自覚はあるがこれも威厳を保つためだ。今からお前達の王様に会いに行く人間なんだ、それくらいの風格が無いとそれこそ君らに失礼だからな。
「ああ、よろしく頼むよ」
竜海と竜王は笑いを堪えるのに必死の様だ、頼むから今は笑わないでほしい。俺も笑ってしまいそうで怖い。
門を抜け、案内人について行きながら城への道のりを進んで行くと様々な景色が見れた。簡単に言うとこの国は日本の昭和時代を感じさせる、なので日本の田舎に行けば猫の国と同じようなものが見れると思う。
田んぼで米らしきものを作って額に汗する猫や、瓦屋根の家にお茶を飲みながら日向ぼっこをしている猫。昭和に人間がやっていた事を猫の獣人が変わってやっているような風景。唯一違うのが中心部の発展状況、家電のようなものの発展はまだ進んでいないようで、今でも手回し式洗濯機で洗濯物を洗っている様だ。
そう言ってもこの国は発展の兆しがあり、ほぼ、と言うか絶対の確率で科学の発展をする。ワイズバッシュ領とはまた違った半分化学半分魔法というふうな国になっていくだろう。うちの領地、というか俺達の国ミトレス自体が魔法に片寄った文明に発展しているから、洗濯機とかも普通に魔法で何とかなってしまうのが違う所だな。
「どうですか、僕達の国は。良い所でしょう」
「ああ、とても平和で良い国だと思ったよ。何より国民の顔が穏やかだ」
「ははは、その事をウチの王にも言って貰えると喜ぶと思います」
「君、名前は?」
「オハギ・トンキニーズと言います、騎士団総長の右腕・・・とでも言いましょうか」
「おはぎ・・・良い名前だ」
「実はオハギ・トンキーズと言う名前は、僕の上司の騎士団総長と冒険王イザヴァル様が孤児だった僕に、時間をかけて考え下さった名前なんです。ヨメナと言う名前とどちらにしようか迷ったとも行っていました」
「そうか・・・」
(あの二人、子猫におはぎって・・・・また無難な名前を付けやがる。多分呼びやすさとか可愛さ重視でそこまで慎重に考えてつけられて無いんじゃないか?)
「美味しそうな名前ですね」
「・・・?、龍族にはそのような食べ物があったりするのですか?」
コイツお萩がこの世界にまだ無い事分かってて言っているのか?・・・知らないはずが無いだろうし。ならこの馬鹿は彼女の名前がただ安直につけられたモノだと馬鹿正直に言うのか?・・・・対して考えて無さそうなコイツならいいかね無いな・・・
「申し訳ない、私の連れはどうも思った事を直ぐに口に出してしまう性格で。気にしないで下さい」
「あ、あははは、気にしないでくださいね」
コイツなにをへらへらしているんだ?焦って汗をかくぐらいなら、別の話題でも用意しておけばいいだろうに。・・・竜海のせいで空気が少し変になってしまったじゃないか・・・竜海にビンタがアイアンクローの選択をさせなければ。竜海に耳打ちをするように選択を迫る。
「竜海、ビンタとアイアンクロー・・・どちらが好きだ?」
「え・・・それ喰らわないとダメなやつですか」
「別に選択するだけで良いぞ、出来るだけ避けれそうな奴にしとけよ」
「ならアイアンクロー・・・・で、痛だだだいだいだい!」
抉りこむように滑りこんだ左手は竜海の顔面をがっちりと掴み、握り潰さんとして締め上げる。ふふっ・・・イケメンをアイアンクローするのがここまで気分が良いとは。当分の間は竜海はアイアンクローの刑に処するとする。
オハギも竜海の姿が滑稽なのか、笑っているので場の空気自体はリセットされたわけだが・・・この俺の手を必死に振りほどこうとしているコイツをどうしたらいいものか。竜海にはワープの魔法を教えたような気がする。それがあれば抜け出せるだろうが、教えて無かったら城につくまでしばしの間苦痛を味わって貰うとしよう。
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「お城へ到着しました。ここで私の案内は此処までとさせていただきます。少しの間でしたが、皆さんと楽しい時間を過ごす事が出来ました、ありがとうございます。ここからは別の案内役が客間へと案内いたします」
真っ白な灰となっている竜海を叩き起こしてから、身だしなみを改めて整え城の前に立つ。
「そうですか、ここまでの案内とても良いものでした。お礼を言います」
城の扉を開け、こちらへと歩いて来たのは黄色と青色のオッドアイが特徴的な細身で長身の猫。
「お前がイザヴァルの甥か、フン、どんなのが来るかと思えば、想像以上に見た目から分かりやすい奴だな」
ついでに失礼なやつがきた。コイツが騎士団総長か。
おはぎは自分の事を僕と言っていますが、彼女は女性です。




